• 徳田廉大 選手
  • 辻雄馬 コーチ
SPORTS アスリートの挑戦も私たちの夢。 徳田廉大選手 Vol.1

世界を驚かせ! 徳田廉大選手の視線

2018全日本テニス選手権で準優勝し、ATPランキングは297位(2018.11.5現在)へ。
現在、最も注目されている若手プロテニスプレーヤー・徳田廉大は、荏原SSCジュニアアカデミーの卒業生でもあった。

テニス大好き少年が、いかにして強くなり、世界と戦うまでになったのか。
強くなるために彼がしている普段の練習、世界で戦うための課題と目標について、インタビューした。

テニスをしている徳田選手

『テニスの王子様』に憧れ、6歳でテニスをスタート

自身の少年時代を「テニス大好き少年でした」と振り返る徳田選手。テニスを始めたきっかけは、小学1年生のとき、友だちの家で見たテレビアニメの『テニスの王子様』だった。キャラクターたちが躍動する姿に感動し、「カッコいい! 自分もやりたい!」と、居ても立ってもいられなくなった。親を説得し、近所のテニスクラブに入会した。

「あのとき、友だちの家で遊ばなければ、もしテレビに別の番組が映っていたら……と考えると、運命を感じます」と、徳田選手は語る。テニスを始めてすぐ、彼はテニスの面白さに魅了された。「“スパーン”とボールを打ち返したときの爽快感や、相手との駆け引きでポイントを制したときが、やっぱり最高ですね。」

ちなみに、徳田選手は小学校4年生まで、テニスと並行してソフトボールもやっていた。テニスに集中するため、ソフトボールはやめてしまったが、その経験も無駄ではなかったという。「団体競技より個人競技が自分には合っていることがわかり、テニス一本でいこうと決心ができました。バットを振る動きと、テニスのラケットを振る動きにも通じるところがあると思います。」

恵まれない環境で全国大会優勝。そして“世界”を意識

めきめき上達していった徳田選手だが、練習環境は必ずしも恵まれていなかった。近所のテニススクールはプロを養成するコースがなく、打ち合える相手もいなければ、指導者もいない。。

「さらには、途中からスクールのテニスコートが閉鎖になってしまい、公共のレンタルコートを渡り歩くことになったんです。今日はこっちのコート、明日はあっちのコートというふうに、一般利用者の方たちに交ざって練習していました。」

ようやくスクールが確保したコートは2面のみ。練習時間はせいぜい1時間半程度だった。そんな限られた環境の中で、当時のコーチと二人三脚で手探りの練習を重ね、小学5年のとき、彼はスクール初の全国大会出場を成し遂げる。

「全国には強い人がこんなにいるのかと、カルチャーショックを受けました。」

中学2年生のときには、全国大会で優勝。アンダー14の国別対抗戦のメンバーに選ばれ、アジア予選、世界大会を経験した。

「このとき、はっきり“世界”を意識しました。それと同時に、世界で戦うには、自分には度胸も技術も足りないと痛感しました。」

どちらかというと控えめで、喜怒哀楽をあまり表に出さない徳田選手は、アジア予選・世界大会に向けての合宿“修造チャレンジ”で、松岡修造氏から「もっとファイトしろ! 闘志を出せ!」と、何度も檄を飛ばされた。「自分で試合の“勝ちのムード”を作って、自身や周りを乗せていくことが大事なのだと学びました。それ以来、試合では意識して、ガッツを表現しています!」

テニスをしている徳田選手

世界と戦うため親元を離れ、荏原SSCへ

荏原SSCアカデミーに入会したのは、高校に上がるタイミングだった。国内外に数あるテニスのプロ養成所の中で、徳田選手が荏原SSCを選んだ理由とは……。

「主に3つあります。1つは、練習環境が全国一といっていいほど整っていること。2つめは、素晴らしいコーチや指導者がいること。そして、3つめが共に競い合うライバルがいることです。世界を目指すにはベストな選択だと思いました。」

だが、荏原SSCに来ての練習は、彼の想像を超えるものだった。

「中学までは1時間半の練習をスクールでやる以外、自主練などもしていませんでした。それが普通だと思っていました。ところが荏原SSCに来てみると、放課後の5時半から8時半まで3時間みっちり練習です。しかも練習の密度が濃くて、きついんです。体力的についていけなくて、最初はつらかったですね。でも、周囲には自分より強い選手がたくさんいる。彼らを追いかける気持ちで、『強くなるためなら』と腹を括って取り組みました。」

徳田選手自身が考える“今の自分に足りない力”とは。徳田選手の持ち味は、フットワークの良さと粘り強さだ。コートの隅から隅まで走り回って、どんな球にも食らいつく。そのため、足腰の強化とスタミナの向上は、日々の練習でも重点を置いている。

「地道な反復練習で、正直つらいと思うときもあります。でも、つらくなってからが、本当の練習だと思っているので。努力の成果が本番のプレーにも出てきている手応えを感じています。」

その一方で、課題は大きく2つあると考えている。

「1つは、ボールのコントロールの精度を上げることです。狙ったポイントにベストなボールを打ち込めるようにしたい。もう1つは、相手を見て、展開に合わせたプレーを、試合中に自分で構築できるようになることです。がむしゃらにボールを追うだけではダメで、相手との駆け引きの中で勝っていかねばなりません。自分の得意な展開に持ち込んだり、相手の苦手とするプレーを仕掛けたりなど、引き出しを多く持ちたいです。今はいろんな選手のプレーを動画などで見て、研究しています。」

“雑草魂”でグランドスラムの夢をつかめ!

現在、徳田選手の国内ランキングは10位、ATPは297位だ。ATPが200位前半なら、グランドスラム予選出場の可能性が出てくる。だが、上にいけばいくほど、当然相手は強くなる。

「昨年よりランキングは大きく上がりましたが、荏原SSCだけでも僕より上位の選手が複数います。大きな大会で勝ちきれないこともあり、現状には全然満足していません。むしろ、ここからが勝負だと思っています。」

彼は自身の目標とする人物として、陸上競技短距離の山縣亮太選手を挙げる。山縣選手とは兄の同級生で、家族ぐるみの付き合いがあるという。

「山縣さんは独自で走りを研究し、結果を出してきた人です。その“雑草魂”に深く共感します。」練習場所や時間もままならないような環境から、ここまで這い上がってきた徳田選手も、まぎれもない雑草魂のひとりだ。「僕は天才でもないし、器用でもありません。地道に努力を重ねて、雑草のように逞しく、上を目指していきます!」夢はズバリ、“グランドスラム優勝”だ。

徳田選手のプロフィール画像
徳田廉大Tokuda Renta

生年月日 1998年3月29日

出  身 広島県

主な経歴
2012年 全国選抜ジュニア14歳以下・優勝
2013年 インターハイ団体及び個人シングルス・優勝
2014年 全日本ジュニア18歳以下シングルス・準優勝
2015年 プロ転向
2017年~2018年 フューチャーズ3大会・優勝
(インドネシア・タイ・愛媛)
2018年 全日本テニス選手権シングルス・準優勝

SPORTS アスリートの挑戦も私たちの夢。 辻雄馬コーチ

プレーヤーに、いかに夢を描かせられるか。それが、コーチとしての挑戦。

徳田廉大選手をはじめ日本トップクラスの選手を指導する、荏原SSCの辻雄馬コーチ。
優秀なコーチ陣が多数いることで知られる荏原SSCで、エース・コーチを務める彼に、次の3つのポイントを取材した。
・指導者として大切にしていること
・辻コーチが考える、教え子とのベストな距離感とは?
・自身の夢やチャレンジについて
その答えから見えてきたのは、選手とともに成長する“等身大の指導者”としての、ひたむきな姿だ。

辻雄馬コーチと徳田選手

荏原の実業団チームが廃部になり、コーチに専念。

辻コーチは小学生で硬式テニスを始め、学生時代はインターハイにも出場した。大学でもテニス部で汗を流し、卒業後は荏原SSCに入社。当時、荏原製作所にはテニス日本リーグの実業団チームがあり、荏原SSCから出向して、選手として活躍した時期もある。
その後、実業団が廃部になったのを機に、荏原SSCのコーチに専念することに。今年で、指導歴は16年になる。
「ただ、コート外ではデスクワークもしますし、上司・部下の関係に悩むこともありますよ(笑)」と、茶目っ気を見せる辻コーチ。
そんな彼に、選手時代の経験がコーチとしての今の仕事にどう役立っているかを尋ねた。
「自身の選手時代の経験が役に立つことは、ゼロとは言いませんが、ほとんどありません。むしろ、自分の考えや感性に頼ると、偏った指導になってしまいます。それは、相手の考えや感性を潰しかねない危険な指導です。ですから、私はできるだけ相手の考えや感性を尊重し、受け入れるように心掛けています」。

指導がうまく行くも行かないも、自分の器の問題。

コーチになった当初は、マネジメントやコーチングの本を読んで勉強したこともあったという。しかし、すぐに読まなくなった。なぜなら、“変わるべきは、相手(選手)ではなく自分(指導者)ということがわかった”からだ。
「思い通りに選手が育たない、選手が言うことを聞かないというのは、結局、自分に相手を受け入れる余裕がない証拠です。自分の器が大きくなれば、『なぜ、できないんだ!』とストレスに感じることがなくなり、『どうしたらできるようになるか』と前向きに考えられるようになります」と辻コーチは語る。
とはいえ、今でも指導で悩むことはあるそうだ。「一番難しいと感じるのは、“伝え方”ですね。選手ひとりひとりで性格も違えば、課題も理解力も違います。その日その日でコンディションも違ってきます。同じことを同じ言葉で伝えても、受け取り方は千差万別なんです」。
つまり、言葉の選び方から声掛けのタイミングまで、きめ細かい指導力が問われるわけだ。ただし、いくらきめ細かい指導を心掛けても、指導者の努力だけでは限界がある。
「選手本人が夢を描かないかぎり、私がいくら言っても選手は変わりません。どう伝えれば選手自身が気付き、自主的に考えて動けるか。コーチになってから常にそれを意識しています」。
選手自身が夢を持てるように導くのも、指導者の大きな仕事なのだ。

教え子に対する感情は、あえてドライに。

ところで、選手たちはそれぞれ、大きな決断をして荏原SSCに入ってきている。親元を離れて単身上京した者もいれば、大切な何かを捨ててプロの険しい道を選んだ者もいる。それもこれも「荏原SSCなら夢を実現できる」と見込んでのことだ。その期待の重さに対して、辻コーチは「我々には本人やご家族の決意に応える義務がある。ここでできることは、すべてやります」と、真摯に向き合う。
その一方で、「教え子が試合に勝つと嬉しいか」との質問には、「一喜一憂はしません。個々の選手に特別な感情を持たないようにしているので」という、意外にもドライな答えが返ってきた。理由を聞くと、「ひとりの選手に感情移入してしまうと、全体が見えなくなるからです。それに、一つの試合を勝つことがゴールではありません。もっと遠くの大きなゴールを目指しているとき、目の前の小さな山を越えたからといって、喜んでいては足をすくわれます」と。

道のりは違っていい、ゴールに近づいているかが大事。

辻コーチが見据える、徳田選手のための真のゴールは、グランドスラム出場だ。最終ゴールから見て現在地は、まだ数十パーセントの地点にすぎない。「この先、どんなことが待ち受けているかわかりません。今は調子よく前進しているように思えても、どこかで停滞したり後退したりするかもしれません。選手がケガをする可能性だってあります。そういうリスクも想定しながら、その場その場で軌道修正し、ベストな選択をしていくことが大事だと思っています」。
彼の指導を受ける選手たちもみんな同じゴールを目指している。ただし、ゴールまでのアプローチは選手それぞれで異なる。「各々が違う道のりを歩いているように見えても、少しずつみんながゴールに近づいているのなら、私の今の指導は正解といえるでしょう。もしゴールに近づけていない選手がいたら、指導に改善の余地があるということです」。
辻コーチはそうやって常に俯瞰的に全体の動きを見ながら、自身の指導の在り方を省みているのだ。

ジュニアが夢を描けるような強い選手を育てたい!

最後に、「今後、コーチとしてどうなっていきたいか」と問うと、「正直、大それた夢ってないんですよね」と笑顔で謙遜しつつ、真っ直ぐな目で「いろんなタイプの選手をマネジメントできるようになりたい」と答えた。「私がやっているプロ育成コースのコーチという仕事は、荏原SSCアカデミーに通うジュニアたちに、夢を与える仕事だと思うんです。世界で活躍する選手が増えれば、『自分もああなりたい』とテニスに励む子が増えるはず。そういう意味で、ジュニアの憧れの対象になるような、強くて、人間的にも魅力的な選手をたくさん育てたいですね」。
彼にとっては、毎日が新たなチャレンジの日々だ。
「昨日のことは考えない。毎日ゼロからのスタートで、時間があっという間に過ぎていきますが、どんなに目まぐるしくても、ゴールだけは見失わずに進んで行きます!」

interview:2018.11
辻雄馬コーチのプロフィール画像
辻 雄馬Tsuji Yuma

生年月日 1979年11月5日
出  身 千葉県
小学生で硬式テニスを始め、学生時代はインターハイにも出場。大学卒業後,2002年、荏原SSCにコーチとして入社。選手も兼任し、日本リーグ優秀選手賞受賞(2003年)、国体・成年男子優勝(2008年)に輝いている。2009年からはコーチ専従。インタビューでも語っているように、「強くて、人間的にも魅力的な選手」の育成にあたっている。