檜山 浩國
技術・研究開発統括部
2009年,エバラはそれまで55年間にわたり続いてきた研究体制を一旦解消し,新しい時代に向けた新たな研究方式への模索を開始しました。新研究方式の第一弾は2010年から開始したEOI(エバラ・オープン・イノベーション),その後「産業機械メーカとしてのCore Competence(技術力)の継続的強化」という中期経営計画(E-Plan2016)に掲げた方針のもとに,2014年に新研究方式の第二弾であるEOL(エバラ・オープン・ラボラトリー)を発足させました。
今後エバラでは,EOIとEOLを両輪とした研究体制のもと,大学などの外部研究機関との連携をより一層広げていくとともに,カンパニーなど事業部門の開発組織と協調して,エバラの内部でしかできない独自の研究開発を推進します。EOLは,技術と人材のインキュベーションセンターとして,エバラの次の100年を生み出す技術の原動力となるべく進化していきます。
本稿では,エバラの新しい研究体制について紹介します。
エバラは,畠山一清によって1912年に創業され社歴は100年を越えますが,その初期には明確な研究組織がない時代が42年間続き1954年になって初めて技術部研究開発課が発足してエバラの研究の歴史が始まりました(図1)。その時期は社業が順調に発展し,資本金を4億円に倍増した時期と重なっています。
その後,1971年に創業60周年記念事業の一環として,中央研究所が発足しました。1970年代といえば,まだまだ日本の高度経済成長期で,米国では自前主義で独自技術や製品を生み出す中央研究所方式や,図2の様に研究から販売までを同一企業内で集中して進めるリニア・モデルといった研究開発方式が全盛の時代でもあり,日本でも多くの会社が中央研究所方式を採用しました。
1984年には,(株)荏原製作所と荏原インフィルコ(株)(現 水ing(株))の両中央研究所を統合し,(株)荏原総合研究所が発足しました。当時の設立の趣旨は,「荏原関連企業の英知を結集し,『水と空気と環境』の理念の下に,荏原関連企業の業務のより一層の拡大のために緊密に協力しつつ,差別化技術の探求,技術の複合化と応用,特殊技術の開発を目的として設立する」というものでした。総合研究所は1991年に人員が最大となり250名を数えるに至りました。
米国では1980年代になるとベンチャー企業が台頭し,オープンイノベーションによる外部連携方式が盛んになって次第に集中方式のリニア・モデルや中央研究所方式は衰退していきました。一方,日本では1990年代のバブル崩壊から失われた20年とも言われる経済低迷の中で,国内企業の中央研究所方式が見直されるようになりました。これは,事業環境が大きく変化したことに起因して,自前主義への反省,企業内の選択と集中,コア技術への集中により研究開発の効率化が追求されるようになったことが原因です。背景には,技術革新のスピードアップや異分野技術の融合といった産業技術の変化があります。
このような事業環境や産業技術の変化の中で,エバラも2009年に従来の研究組織を解散し,次の100年を拓く新しい研究方式の模索を始めました。それが,ここで紹介する2010年のEOI,2014年のEOLの発足へとつながっています。
図1 エバラの研究体制の歴史
図2 リニア・モデル
次の100年を拓く新たな研究方式の第一弾は,2010年度から開始したEOIという方式です。EOIは,スピーディーかつ臨機応変に基礎技術開発を進めることが可能な方式として導入しました(図3)。
EOIは,各カンパニー間で共通の基盤技術,カンパニー内で共通の基盤技術,及び製品のコア技術といった基礎技術開発をカンパニーの研究開発担当者と外部研究機関とが共同で実施し,コーポレートが研究費用を出し研究の実施をサポートする仕組みです。コーポレートが研究費を出す背景には,基礎技術開発は中長期的視点も必要であること,グループ全体のリスク管理や効率的実施,成果の全社的リソースとしての活用があります。
この仕組みによって,カンパニー担当者は契約などの事務的手続きに時間を取られず,共同研究に集中できるようになり,効率的に研究を進めることを可能にしました。
EOIの目的は二つあり,一つ目は研究所を解散し研究員が少なくなり基礎技術開発ができにくくなった状況をフォローすることです。二つ目は,これまでの研究組織の中で長年培った研究実績をエバラ側から積極的に発信することでエバラならではの独自技術を積極的に広め,その領域での研究を活性化して社外の研究者を支援し,荏原グループの事業領域の,社外(特に大学)の専門家を増やしその研究領域を維持発展させることです。
2010年に風水力機械カンパニーの5件の研究テーマから始めたEOIは,現在では精密・電子事業カンパニー,環境事業カンパニー,コーポレートにわたる研究テーマに拡大し,30を超える大学・研究機関と共同研究を実施しており,研究成果,特許出願,社外発表,新入社員獲得,人脈形成などの具体的成果が生み出されています。
しかし,EOIには欠点もあります。EOIの発足当初から分かっていたことですが,自社研究員がいないことから自前の研究ができず,研究テーマも外部に出せるものに限定され,自社の研究データの蓄積や研究人材の育成ができないといった欠点が徐々に顕在化してきました。研究人材の枯渇は,将来的に,①技術や研究の目利きとなり,②大学の専門家と互角に渡り合い,③社内研究を実施し,④後継人材を育成し,⑤事業側の技術の受け手となる,こういった人材が枯渇することを意味します。
そこで,2014年に新しい研究方式の第二弾であるEOLを発足させました。
図3 EOI:Ebara Open Innovationの概要
EOLは,新たな研究方式の第二弾として(株)荏原総合研究所解散から5年が経過した2014年4月を機に,コーポレート技術・研究開発統括部内に新たな研究組織として設置しました(図4)。
その特徴は三つあります。
一つ目は,ほとんどの研究員はカンパニーからの兼任者であること。
二つ目は,基盤技術,製品コア技術,解析・分析の3研究室からなること。
三つ目は,カンパニー技術・開発統括者がメンターとして指導すること。
一つ目の特徴は兼任者主体であることですが,これは研究組織の愛称であるEOL(Ebara Open Laboratory)が示すとおり,人の出入りも研究テーマも社内に開かれた組織とする意味合いで,事業部からテーマを持ってEOLに参加し,成果を持って事業部に戻り事業に生かすことを念頭に置いています。兼任であることで,事業を意識して研究し成果を確実に生かせる体制としています。
二つ目の特徴である3研究室では,それぞれ以下に記述するミッションをもっています。「基盤技術研究室」は,荏原グループ製品を支える共通基盤技術を研究する,「製品コア技術研究室」は,基盤技術を融合したより実ジョブに近い製品コア技術を研究する,「解析・分析技術室」は,高度な数値解析技術と化学分析技術で研究と事業要求を支える。これらによって,効率的に基礎技術開発を実施して基盤技術の強化と技術の事業への確実な橋渡しを行うことを期しています。
三つ目の特徴であるメンター制は,カンパニーでの事業経験と研究経験のある各カンパニーの技術・開発責任者にメンターとして各研究室の指導をしてもらうというものです。研究室は様々な事業部門からの兼任者で構成されているため,出身母体の事業以外の知識や全体感が欠如する可能性があります。これを補完し,研究の方向性などについて素早く助言・修正するために導入した方法です。
このようにEOLは,EOI成果を効果的に製品領域へ展開するとともに,自前研究を実施して基盤技術の強化・製品領域への技術研究支援・技術蓄積・将来技術の創造を行うことでより強力に荏原グループの事業をバックアップすることを狙いとしています。また,これに加えて人事ローテーション等を通して,事業と研究の双方を理解する人材を育成し,基盤技術の確実な継承と事業での利用を実施する「技術と人材のインキュベーションセンター」として,次の100年を生み出す技術の原動力となるべく進化する組織を旗印に掲げています。
図4 EOL:Ebara Open Laboratoryの概要
ここで紹介したEOIとEOLでは,基盤技術では世界一を目指し,コア技術では最先端の手法を取り入れ,製品開発に応用し,そしてエバラの技術力を受け継ぎ,進化させる次代の研究者を育成していくことを目指しています。
企業を取り巻く事業環境はグローバルにめまぐるしく変化し,産業技術も複雑化,高度化が進み,その変革スピードは加速的に速くなっています。市場や技術の変化を先読みすることは,ますます困難になってきています。
このような企業環境の中にあって,エバラがその技術で社会に貢献するためには,今後も変化を恐れず新しい研究方式へのチャレンジを続け,効率よく機能する研究組織へと絶えず進化する必要があると考えています。
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