中務 幸正
藤沢工場の操業開始から50周年を機に主要製品として製造・販売をしてきた標準ポンプ系製品の歴史を振り返る※。標準ポンプは創業以来,1980年代初頭まで「商品」という名で呼ばれ組織名にもその名が冠されてきた。
その後,「汎用ポンプ」(社内組織図では1984年から)と呼び,「Standard Pump」の代名詞として長く使用されてきた。近年,グローバル化対応を推進する中で,過去の日本的な汎用ポンプ,カスタムポンプの業容の境目が海外市場とでは異なる部分もあることから,より広い業務範囲をカバーする業態へ転換する意味も込めて「標準ポンプ」と呼ぶようになった。
建築設備用,工場ユーティリティ用などに採用される標準ポンプ系の製品群は次のとおり大別される(工場設備用及び産業用ポンプは別記)。
・陸上ポンプ
・水中ポンプ
・給水ポンプユニット及び消火ポンプ(ユニット)
本稿ではそれぞれの主だった製品群を次の時代区分に切り分けて,その時期の市場背景と投入製品群の概要を振り返る(年表を文末に掲載)。
区分する時代は,①藤沢工場の誕生前後から成長軌道への黎明期(1960年代から1970年代前半),②経済が伸び悩む中で苦労しながらもアクセス市場を拡大し着実な成長を維持した成長期(1970年代中盤から1990年代初頭),③バブル崩壊後,暗転した国内不況とリーマンショックによる世界的不況からグローバル化の再構築へ事業転換を図り徐々に復活しつつある現在に至る期間(1990年代以降)である。
以下,製品紹介部分は既発行のエバラ時報から多くを引用している。
ここで特筆すべきは標準ポンプの礎を築いた製品群であろう。S型(単段遠心渦巻),MS型(多段ダブルボリュート式渦巻),LPD型(単段インライン式渦巻)は当社の標準ポンプの中でも一時代を築き上げその影響力はいまだ衰えていない。
S型は1957年にリミットロード特性に配慮したシリーズを川崎工場で標準化した後,1965年,画期的量産方式の藤沢工場が誕生したのを機に全面的なモデルチェンジを実施した(写真1,図)。
1960年代から1970年代前半に至る経済好況によって標準ポンプの需要は目覚ましいものがあり,その主流をなすS型渦巻ポンプの用途は急速に拡大した。従来のS型渦巻ポンプをいわゆる商業的な合否の判定評価試験だけでなく,詳細に実験を行ってポンプ特性や使い勝手を解析し,更に改良を加えて性能・機能の向上を図った。特に鋳造に関しては,性能に影響を与える揚液の通路になる部分などの精度を従来品に比べ一段と厳しく指定し,生産(鋳造)技術の努力でそれを達成した。
意匠においても新しいアイデアを打ち出した。主要点はエリプチカル・スクェア(Elliptical square)である。軸受ケースの取付けフランジに全円周いんろう形を採用したので,ケーシング,軸受ケースともそのフランジ外周をエリプチカル・スクェアとし,軸受ケース部分の断面形状並びに外観にそれを取り入れ,脚及びフランジとのつながりもそれを強調する造形とした。
写真1 S型(1965年当時)
図 S型選定チャート(1965年当時)
MS型多段ポンプ(写真2)は藤沢工場操業開始時から生産を開始したが,60年代末に増産対応に伴う大幅な設備増強がなされ,強力な加工・組立ラインが形成された。当時からS型,LPD型と合わせ標準ポンプの代表機種と言われてきた。
従来の多段高揚程ポンプはボリュート形では通路が複雑になるので,ほとんどのメーカがガイドベーンを用いたディフューザ形ポンプ(旧名称タービンポンプ)として製作していた。ラジアルスラストを軽減するために,単段高揚程のポンプではダブルボリュート形式がしばしば使われているが,多段ポンプにこのダブルボリュートを採用し,しかも輪切り形の標準ポンプとして部品の単純化に成功したことは評価に値する。さらに100mまでの揚程を1口径1サイズの羽根車で計画し,段数の変更だけで出力基準の選定表を構成することは標準ポンプとしては画期的であった。
写真2 MS型(1968年当時)
LPD型インラインポンプ(写真3)は1964年に開発され,新設の藤沢工場で開花した。
3種類の口径40,50,65mmにそれぞれ1個ずつのケーシングをもち,その中に大中小3種類の羽根車が入るように構成し,3段階の揚程を1種のボリュートケーシングで賄った。そのために生産・在庫・部品補給に大きなメリットをもつことになった。このポンプはモノブロック構造,インライン形式,メカニカルシールの汎用化,2極電動機直動という新しいポンプ技術を取り入れた画期的なものであると言えよう。以降,生産・販売量は着実に増加し,その後,更に機種を増し,口径25~100 mmまでの30を超える機種の開発を行うと同時に,内容を一新して標準ポンプの大きな支柱になった。
写真3 LPD型(1968年当時)
自吸式ポンプの標準シリーズは1955年に完成した後,さらに自吸機構の研究によって,性能の改善と小形軽量化が進められ,新SQ型(写真4)が開発され藤沢工場で量産化された。
自吸循環補給機構とポンプ効率の改善,自吸性能と気水分離室の大きさの関係を突き詰め,従来機より小形軽量化に成功した。電動機と一体形のSQD型も引き続き開発・発売され,1966年にはエンジンと一体形の可搬式SQE型が開発された。SQE型用のメカニカルシールは汎用量産形シールとして初めて超硬合金を使用し,摺動部材の摩耗を抑え大幅に寿命を延ばすことに成功した。農事用ポンプシリーズとしてSQPB型も加え需要に応えた(SQPB型は現在では国内需要は少なくなったが,インドネシアのPTEI社では今も主力製品として製造・販売している)。
写真4 SQ型(1968年当時)
汚水用及び工事用の排水用水中モータポンプは,乾式水中モータ方式の出現によって低価格化が実現され,広範囲に適用されるようになった。乾式モータの技術は確立された技術となっているが,乾式水中モータの信頼性は,ポンプ部の揚水がモータ部に浸入するのを防ぐメカニカルシール技術と,水中ケーブルからの浸水防止技術に依存している。メカニカルシール摺動材としてシリコンカーバイド(SiC)を採用したこと,及びケーブル内部の水切り処理技術によって,乾式水中モータポンプの信頼性を大きく向上させた。
乾式モータを使用した汚水用水中モータポンプはDSW型(写真5),DSS型,DSK型(写真6)から市場投入された。
写真5 DSW型
写真6 DSK型
1970年代に入るとオイルショックの影響等で低成長の時代へ突入するが,ポンプ業界は成長の歯車を止めることなく前進した。GDPの伸び率は鈍化したが標準ポンプの生産・販売は1990年代初期まで拡大を続けた。当社においても現在までの販売台数では1992年の数字が最大となっている。その最も大きな理由は,アクセス可能な市場への喚起と活性化を続けるために新製品を連続的に投入したことと,従来にないユニークな販売施策[本稿では詳述しないが全国移動展示会(1977年),1箇月以上にわたる洋上展示会(1978年),海外セミナー(1979年),ローラ作戦(1983年)など]にあった。物造りの観点でも標準ポンプの新生産方式[TP(天ぷら)生産]の採用によって製造納期の短縮,生産性の向上が図られた。また,川崎工場との統合(1986年)による陣容の集中拡大もあり大いに活性化した。現在から振り返れば標準ポンプ群の拡大・安定基調にあった時代と言える。
小形の遠心式渦巻ポンプは建築設備,工場設備をはじめとして多くの用途に使用される標準ポンプの代表である。片吸込単段遠心ポンプの国際規格(ISO 2858)を受けて我が国においても電源周波数の特殊性(50 Hz,60 Hzの共存)を考慮した規格制定の機運が高まった。当社は先導的な役割を果たし,業界規格(日本産業機械工業会規格:JIMS)が制定され,その後日本工業規格(JIS B 8313)が改正された。従来規格は水量範囲とポンプ効率の規定はあるが,形式別の寸法規定がなく,同等性能であっても寸法はメーカに委ねられていた。改正された規格では,呼び要目(ポンプ性能)によって主要寸法が規定される国際規格との整合が図られ,従来規格との整合性にも配慮し,使用者側の選択肢が広がると同時に,メーカにとってはより一層の性能・コストの競争が求められることとなった。
当社はこれらの動きを積極的に捉え,FS型ポンプ(写真7)の2極機と4極機をシリーズ化するためハイドロ部品(ケーシング,羽根車等)及び軸系列部品(主軸,軸受胴体等)の標準化を図った。ハイドロ部品設計においては従来の木型図に替わって三次元寸法を数値化する手法を採用し,数値制御の加工機械への展開を容易にし,金型製作における製作効率と寸法精度を向上させ,生産リードタイム短縮と品質の安定化に貢献した。
その後,これらの標準化された部品群(ハイドロ部品と軸系列部品など)を応用展開した関連製品[直動式のFSD型(写真8),インラインタイプのLPD型(写真9),自吸式直結のFQ型(写真10),自吸式直動式のFQD型など]の開発・発売が相次ぎ,FS型シリーズの鋳物製標準ポンプの品ぞろえが完了した。商品化後も生産性向上,性能改善に取り組み,現在においても標準ポンプの基幹製品群となっている。1960年代のS型,MS型,LPD型,SQ型に次ぐ標準ポンプ,第2世代製品群と言える。
1980年代に入り標準ポンプは新しいニーズに対応した製品群の開発が求められた。代表的なものとしては赤水対策ナイロンコーティング製ポンプFSN型,FSDN型,MSN型(写真11)が誕生した。クリーンな水を望む社会的要求が高まり,従来の鋳物製の問題点を克服したものである。製造技法としては配管部材では確立されていたが,複雑な形状のポンプへの応用は,適切な膜厚管理と高温加熱する製法の特殊性から,寸法精度を要する部分の適正化には多くの実験を要した。
写真7 FS型
写真8 FSD型
写真9 LPD型
写真10 FQ型
写真11 MSN型
当社のステンレスプレス製ポンプは,製造業態の変化(鋳物業界の縮小,海外移転),赤水防止及びグローバル化によって急速な展開をみせた。
鋳物製ポンプ全盛時期のステンレスプレス製ポンプの開発は,次の二つの方向性をもって推進された。
①従来製品の主要部品をプレス化すること
例えば片吸込単段遠心ポンプの羽根車を対象とし,鋳物製からステンレスプレス製へ切り替えたのを初めとして,主力製品であるS型片吸込遠心ポンプとMS型多段渦巻ポンプの羽根車,LPD型とLPS型インラインポンプ(写真12)の羽根車,メカニカルシールカバー等をプレス化し生産性向上と品質安定に貢献した。
②ステンレスプレス技術・材料の特性を生かす製品開発を行うこと
ポンプ主要部品において,加工を前提としていた鋳物の従来形状からプレス成形独自の設計形状への取組が本格化した。羽根車ボスと主軸の締結にはキー方式に取って代わる2面取りボス方式が開発され,プロジェクション溶接に関する技術も多く研究され,多数の製造方法確立と特許を取得してきた。
この時期にLPS型インラインポンプが開発・発売され温水・給湯用途を中心に大きな市場評価を獲得した。
次に自動給水装置へ搭載するポンプとしてMDP型多段プレス製ポンプが開発され,陸上ポンプとしてはLPD型インラインポンプをしのぐ生産台数に成長した。
その後,グローバル化対応のプレスポンプ生産拠点としてEBARA ITALIA S.p.A.(現在のEBARA PUMPS EUROPE S.p.A.:以下EPE社)が設立された。この設立に合わせ日本のJIS規格と欧州のDIN規格に対応するステンレスプレス製の片吸込単段遠心ポンプ[FDP型(写真13),EPE社の型式3M型]が開発された。この開発に際しては,構造解析を導入して構造設計に応用し,従来のプレス製ポンプ技術の常識を覆す渦巻室一体のケーシングをバルジ成形技術で可能にした。
写真12 LPS型
写真13 FDP型
この時代に入り汚水・汚物水中ポンプはその用途展開,機種展開共に大きな広がりを見せた。1960年代終盤に投入されたDシリーズ(DSW型,DSS型)はDS型(写真14),DN型へモデルチェンジされた。
汚水用水中モータポンプは汚水に含まれる繊維質あるいは固形異物を閉塞することなく排出しなければならない。この面では,ボルテックスポンプがこの分野で広く使用されるようになったことは特筆に値する。当時の異物通過径を確保した一枚羽根車は形状的にバランスが取りにくい上に,流体力のアンバランスがあり,振動が大きかった。ボルテックスポンプは羽根車とケーシングの間に大きな隙間を構成し,異物が羽根車と干渉することなく,ケーシング内の渦流れに乗って排出されるよう構成されたものである。一般の羽根車と比較して若干効率が低いものの,異物排出に対する信頼性から汚水ポンプ全般に広く使用されるようになった。4極機のDV型と2極・小出力機のDVS型(写真15)を製品化し,その後口径の100%通過径をもつ2極DV2型を製品化し,汚水用ボルテックスポンプシリーズを完成させた。
一方,プレス化の推進プロジェクトからそのトップを切って登場した「ポントスシリーズ:P717型(写真16)」は,業界に先駆けてステンレスプレス製排水用水中ポンプの市場創生の一翼を担い,標準ポンプとして初めてグッドデザイン(Gマーク)を取得し,市場確保を不動のものとし,ステンレスプレス製ポンプ製品の普及に対し大いに貢献した。技術的にも当時としては高級材のシリコンカーバイト製メカニカルシールの採用や,ばらつきが少なく広範囲でポンプ効率が高い羽根車の設計手法は現在においても評価に値する技術である。
引き続き,従来の鋳物製のBMS型水中ポンプとBHS型深井戸水中ポンプについてもステンレスプレス化を展開し,ステンレスプレス製のBMSP型水中ポンプ(写真17)とBHSP型深井戸水中ポンプ(写真18)を開発・販売した。これらの水中ポンプのうち特に,多段ポンプにおいては部品点数が多い中間ケーシング部をロボットによって自動生産することで生産性向上に寄与した。
写真14 DS型
写真15 DVS型
写真16 P717型
写真17 BMSP型
写真18 BHSP型
工事用水中モータポンプの分野は,軽量,持ち運びが容易で,土砂混じりの湧水を揚水できる頑強さを備え,工事現場では欠かせない機材である。ES型,ENZ型,EU型,EV型,EX型(写真19),EA型,EB型,EBQ型(写真20),EQS型等の機種を製品化し現在に至っている。
工事用水中モータポンプは軽量化と耐摩耗性が重要であり,モータフレーム等の主要部品にアルミニウムを使用することで軽量化し,ポンプケーシング部にはゴムを多用することで耐摩耗性を確保している。羽根車にはダクタイル鋳鉄等の比較的耐摩耗性に優れた材料を使用するほか,一部の製品ではウレタンゴム製の羽根車も使用している。
写真19 EX型
写真20 EBQ型
給水ユニットは次のような過程をたどってきた。
1960年代に入り都市部での高層建築ビルの屋上に給水槽を設置する給水方式(高置水槽方式)が普及した。その後,この方式の受水槽,高置水槽の衛生面,耐震強度面の問題が顕在化し,その対策のため大形の圧力タンク方式による給水ユニットが開発され高置水槽問題に対処したが場所の制約,受水槽の衛生面では課題があった。1970年代に入り小形の隔膜式圧力タンクが開発され,給水ユニットが格段に小形化され,受水槽の点検スペースも確保できる受水槽付き給水ユニットがマンション等の集合住宅,小規模ビルへ普及した。
フレッシャーF1000型(写真21)シリーズは水道本管から受水槽に一旦水を蓄え,集合住宅や小規模事務所ビル内の給水栓の使用状況によって自動始動停止する自動給水装置である。
この市場ニーズは,設備費とスペースの有効利用という観点から,専用のポンプ室に設置するのではなく,受水槽下部の狭いスペースに設置でき,かつ住居と本装置との距離は非常に近くなるので低騒音で,高寿命であることである。このニーズと赤水対策に応えるために,本製品は低騒音の多段ステンレスプレス製ポンプの採用と配管類にもステンレスプレスを採用し,コンパクトで軽量化を実現した。
さらにポンプ発停時の電磁接触器の不快な衝撃音をなくすためにSSC(ソリッドステートコンタクタ)を採用し,併せて制御機器の長寿命化と信頼性向上を図った。
本シリーズの誕生によって給水装置のイメージが大きく変わったのはいうまでもない。その後も市場ニーズに応えられるように数回の大幅な改善改良を行い,現在に至っている。
写真21 F1000型
家庭用給水ポンプの「フレッシャーミニ」シリーズは,HP型浅井戸用ポンプ(写真22)を筆頭に,HPJ型深井戸用ジェットポンプ(写真23),HPT型受水槽付給水加圧装置(写真24),深井戸水中ポンプユニットをラインナップに加え,本格的な市場への参入を果たしてきた。フレッシャーミニシリーズは,一般のユーザが多いことから,その市場ニーズは長寿命,コンパクト,定圧給水,赤水対策,低価格など多岐にわたり,更に近年では,“省エネ・静音”である。
制御面では,駆動回路,制御回路に電子部品を使用し,従来の電磁接触器を無接点化することで長寿命・低騒音化を図った。浅井戸用ポンプは,自吸性能の優れた渦流ポンプを採用しているが,渦流ポンプ特有の高周波音を発生する。ポンプ部の騒音低減対策及びユニット内部への吸音材・防振パッドの使用で,耳障りな高周波音を抑えて体感騒音値の低減化を図るとともに,赤水対策として接液部材料に銅合金・樹脂を採用するなど,市場ニーズに即応した製品改良,製品開発を進めてきた。
写真22 HP型
写真23 HPJ型
写真24 HPT型
消火ポンプは通常運転されないが,火災発生時には確実に運転されなければならない。そのため消防法などで詳細な基準が定められている。1980年6月2日付「消防予第111号 加圧送水装置等の構造及び性能の基準の細目について」が出され,翌1981年に業界初の認定品として,ポンプ・電動機の基本形と消防法に定められた全ての周辺機器をセットにしたユニット形の陸上・水中ポンプをシリーズ化し発売した(写真25,26)。
写真25 FSFP型
写真26 MSFP型
1990年代以降,バブル経済がはじけあらゆる産業界は極めて苦しい時代となった。各産業,企業で生き残るための戦術が取られた。グローバルでの競争が激しくなる一方,様々な基準の整備と規制が相次いで実施され,顧客要求はますます細分化されその内容も厳しくなってきた。標準ポンプ事業としてはグローバル化対応と相まって,国内市場への新製品投入は2000年前後からしばらく遠ざかったが,2010年代に入り省エネルギー製品[SE(Save Energy Pump)シリーズ]の投入を契機に国内外の主要基幹製品群の見直しが続いている。
Hz freeポンプ(写真27,28)は,1990年代,混沌とした市場環境の中で他社との優位性・差別化及び将来の標準ポンプ像を表す製品として開発された。省エネルギー(低ランニングコスト)化を実現させる最も有効な手段のひとつであるインバータを実装した,高速可変速ポンプである。
このポンプは,設備が必要とする流量まで流量調整バルブの代わりとして回転速度で調節できるため,動力として無駄のない効率的な運転が可能であり,簡便に省エネルギー化を図ることができる。回転速度調節はインバータ部にあるツマミ(8段階マニュアル運転)で行うほか,外部信号(4−20mA DC)入力による無段階可変速運転も可能である。また,モータとインバータを取扱液で冷却するバレルドモータの採用,インバータによる高速化で大幅なコンパクト化を実現している。さらに,軸封部をもたないキャンドモータの採用によって液漏れがなく,メンテナンスの省力化をも実現した。
当社,藤沢事業所内では,このHz freeポンプと,Hz freeコントローラ(既設ポンプに取り付ける水冷式インバータ)を設備へ導入した結果,ポンプの占める消費電力の内,加重平均で36%の省エネルギー効果が確認された。
写真27 Hz free(立形)
写真28 Hz free(横形)
EPE社では,欧州を中心にグローバルに展開するプレス製小形渦巻ポンプ,水中ポンプなどを製造・販売している。1992年の正式発足以来,1990年代後半には他社に引けを取らないラインナップを構成するに至った。イタリアで生まれた製品を日本へも導入し斬新なスタイルが注目を浴びた。プレス製ポンプの主幹製品である立形多段ポンプシリーズでは,中間ケーシングに非切削で高精度の精密成形技術を採用し,主軸の転造技術も確立してEVM型を開発・発売した。既存のプレス製ポンプでは採用されていなかった3次元翼をもつ羽根車,ボウルケーシングといった複雑な形状の部品は製品の信頼性,経済的に製作する技法,高度なプレス・溶接の生産技術力を育んだ。
更に競争力を増すため,EPE社のスタッフを主体にモデルチェンジに取り組み,マーケティング部隊と連動した新しい開発スタイルによって短期間でEVMS型(写真29)の市場投入(2015年)を果たした。さらに,EVMS型は多段ポンプの宿命であるアキシャルスラスト増加問題に対し,羽根車単段で従来より大幅にスラストを低減する形状を考案し軸受への負荷を小さくできた。その結果,標準規格モータが採用できるようになったのでグローバルでの生産に自由度が増した。
写真29 EVMS型
標準ポンプ用モータはこの20年の間で大きな節目が2回あった。一つは1997年に実施した2極直動ポンプ用モータの全閉外扇形への統合である。当時,標準ポンプ用モータの外被構造は防滴保護形が主流で全閉外扇形は特殊仕様の位置づけであった。また,電圧も輸出対応を含めると10種類以上あった。全閉外扇化することで騒音値の上昇,電圧範囲拡大のための温度上昇が大きな課題であった。モータメーカの協力も得て外扇ファンの特殊設計によって従来の全閉外扇モータより大幅に騒音値を下げた。
またモータフレームのアルミダイキャスト材の採用と電気設計の見直しによって電圧範囲を拡大させても温度上昇を規定値内に収めた。結果,従来多品種のモータ管理が必要であったが,全閉外扇に統合しかつ200V級,400V級それぞれの電圧対応範囲を拡大することで管理対象モータ種類を大幅に削減することができ,製造,在庫管理の向上に大きく貢献した。
もう一つは海外から始まったモータ効率規制である。日本は海外から数年遅れたが,2015年からトップランナー方式での高効率モータ対応がスタートした。当社の標準ポンプは2012年からいち早く高効率(JIS C 6034 IE3効率グレード)モータを確立し採用を開始している。
陸上主幹ポンプ群は1970年後半にFS型シリーズを市場投入以降,性能改善,機能向上の変更を幾度となく繰り返してきたが,フルモデルチェンジまでには至っていなかった。2013年に投入したFS2-E型(写真30)は,グローバル化を推進する基幹ポンプとして数十年振りのフルモデルチェンジ製品である。
試作段階からハイドロ部品は,3D-CADからのラピッドモデルを活用し,開発段階の期間短縮と量産時性能の再現性確度上昇に貢献した。
SSLD型インラインポンプ(写真31)は,商用速より高速でのポンプハイドロを開発しPMモータ(Permanent Magnetic Motor)採用によってモータ効率も改善することで最高水準の総合効率(P&M効率)を実現した。これらのシリーズをSSE(Super Save Energy Pump)シリーズと冠して製品展開している。誘導モータとしては,最高の効率(プレミアム効率=IE3グレード)のモータを搭載するSE(Save Energy Pump)シリーズも併せて投入している。
写真30 FS2-E型
写真31 SSLD型
汚水用水中ポンプでは部品の樹脂化による軽量でさびないことを特徴に,近年その生産量は鋳鉄製を上回っている。この樹脂製汚水用水中ポンプDWV型(写真32),DWS型(写真33)を開発し,現在では150Wから2.2kWまでの範囲で樹脂製汚水用水中ポンプシリーズが完成している。これらの製品は,主要材料として耐食性・機械的強度に優れたポリフェニレンサルファイド(PPS)を使用し,主軸やボルト・ナット等の金属部品にステンレス鋼を使用したもので,従来の鋳物製ポンプと同一用途で使用できる製品である。
写真32 DWV型
写真33 DWS型
フレッシャーF1000型シリーズをベースに,回転速度制御(インバータによる可変周波数運転)による圧力制御を行い,省エネルギー化を図ったのがフレッシャーF3100型(写真34)シリーズである。
使用水量に応じた最適な圧力になるように,配管抵抗までを考慮した推定末端圧力一定制御の採用による更なる省エネルギー化,ファジィ制御を採用してポンプの不要な発停を防止することによる高寿命化,自動調整の採用による試運転と調整が誰でも可能になるなど,先進技術を導入し,インバータ制御の自動給水装置をより身近なものとした。
写真34 F3100型
水道本管に給水ポンプを直結して給水する方法(直結給水方式)が各水道事業体で認められた。この給水方式は,従来の受水槽が不要になるばかりではなく,水道本管の水圧を有効利用できるので,省エネルギー化が格段に推進される。この給水方式に求められる市場ニーズは,省エネルギー運転と設置場所を選ばず,取付工事が短時間でできることである。代表製品としてはPNE型(写真35)がある。この製品には,運転制御に吸込圧力を利用した推定末端圧力一定方式とファジィ小水量停止制御方式を併用し,かつ高効率の直流電動機を採用することによって省エネルギー化を図った。またキャビネット内にポンプ,配管,制御盤等全ての機器を密閉内蔵することによって防音,内部吸音及び防振を施し,低騒音化の実現で,建築物のわずかな空間にでも設置が可能となった。
厚生省策定(1991年)の「21世紀に向けた水道整備の長期目標」で直結給水対象の拡大を挙げたこともあって,各自治体での採用が一気に進み製品バリエーションも拡充された。
写真35 PNE型
家庭用給水ポンプは,建築設備用などの標準ポンプ群に比べ耐久消費財に近いところに属するので頻繁な市場喚起が求められる。そのため新製品は,他の製品群に比べ短いサイクルで投入され,1985年にHP型で家庭用ポンプ市場に参入以来,2014年に投入したHPE型(写真36)までに浅井戸用だけでも6モデルを発売している。
従来の浅井戸用ポンプは,渦流ポンプ(誘導モータ付き)を圧力スイッチ制御するタイプが主流であった。生活用水,飲用用途にも使用され,また設備用給水ユニットの小水量タイプとしてインバータを介して一定圧力運転するニーズはあったが,性能・機能と価格帯のバランスが取れず限定的であった。
2010年代に入り各産業での省エネルギー気運が高まる中でPMモータ部材,ドライバ部材の価格が下がり,P&Mユニットとして標準化し合理的な製造をすることで市場投入できる可能性が見えてきた。HPE型はポンプだけでなくモータ,ドライバ,制御盤等全ての部材について,当社技術で設計,部品製造を行い,藤沢工場内の専用ラインで組み立てている。
写真36 HPE型
消火設備の変化や機器類の技術革新によって基準の見直しが行われ,1997年6月30日付「消防庁告示第8号 加圧送水装置の基準」が出された。改正基準対応で消火ポンプユニットに使用する,呼水槽と始動用圧力空気槽容量を従来の半分とし,使用ポンプも直動多段ポンプを採用することで,小形省スペース・軽量・高効率と安定した性能を実現した。また,ポンプ性能試験装置の流量,電流値及び電圧値を制御盤の盤面にデジタル表示し,故障時の警報内容を個別検出し盤面に警報コードで表示し,早期判断できるようにした。1998年に新形消火栓ポンプMDFU型(写真37)を他社に先がけ市場に投入した。
写真37 MDFU型
標準ポンプは,モータ直結形から直動形へ,4極誘導モータから2極モータへ,さらにはインバータ,PMモータ普及による増速化,小形・小資源・低価格化,インテリジェント化が進んできた。また水中化やユニット化による工事費の低減等,多様な市場の要望に支えられて発展してきた。
市場の声は更に多様化し,域産・域消を目指したグローバルでの生産拠点からバランスのとれた部材供給に加え,省エネルギー,ライフサイクルコストの低減が重要になっている。また給水ポンプ(装置)としての水質への配慮も極めて重要である。飲用水のほか,機能水の需要は国内だけでなく世界中のエリアにおいて顕在化しており,濃淡はあるものの継続すると推定する。
ポンプに関わる技術面では,流体解析技術が著しく進歩し,標準ポンプにおいても逆解法等の解析手法でハイドロ設計を行い,高効率のハイドロ部品の採用が確立しつつある。一方,ポンプを駆動するためのモータ技術・制御技術においても近年著しい進歩がある。特に永久磁石同期モータ(PMモータ)及びドライバ技術によるモータの高効率化・高速化がポンプの設計に大きな影響を及ぼしつつある。
標準ポンプの既存製品においては,グローバルでの競争がますます激化しているが新しい技術を取り込んだ高機能化・差異化製品開発をグループ会社も含め総力で推進し,標準ポンプ事業の拡大と発展に貢献しなければならない。
表 標準ポンプ事業の変遷
*ET…荏原テクノサーブ㈱の略称,ポンプ・送風機などの販売・メンテナンスを主事業とする。
写真38 1965年頃のS型片吸渦巻ポンプの銘板
写真39 1965年頃のMS型多段渦巻ポンプ銘板
写真40 1966年頃のLPD型ラインポンプの銘板
写真41 1978年頃のFS型片吸込渦巻ポンプ
※振り返りに当たり,主に下記を参考とした。
・エバラ時報No.59(1966-9)「新S型渦巻ポンプ」
・エバラ時報No.100(1975-4)「汎用ポンプ」
・エバラ時報No.200(2003-7)「汎用ポンプ」
標準ポンプ事業について
藤沢工場ものづくり50年の歴史
1966年頃の藤沢工場
縁の下の力持ち 高圧ポンプ -活躍場所編ー
100万kW火力発電所内で活躍する50%容量ボイラ給水ポンプ
RO方式海水淡水化用大容量、超高効率高圧ポンプの納入
長段間流路内の流線と後段羽根車入口の流速分布
縁の下の力持ち ドライ真空ポンプ -真空と真空技術の利用ー
真空の領域と用途例
座談会 エバラの研究体制
座談会(檜山さん、曽布川さん、後藤さん)
縁の下の力持ち 標準ポンプ -暮らしを支えるポンプー
標準ポンプの製品例
座談会 未来に向け変貌する環境事業カンパニー
座談会(三好さん、佐藤さん、石宇さん、足立さん)
世界市場向け片吸込単段渦巻ポンプGSO型
GSO型カットモデル
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