齋藤 透
藤沢工場における送風機事業の位置づけは,主に汎用品で建築設備市場等をターゲットとする製品群「汎用送風機」であった。現在の製品開発は,主要生産工場である(株)大岩マシナリー国見事業所で行っているが,本稿では汎用送風機の製品変遷を振り返りながら市場の移り変わりを考察する。
機種展開の変遷を図1に,主な機種の写真を図2に示す。
図1 汎用送風機 機種型式変遷
図2 汎用送風機 主な機種(2007年ハンドブックから抜粋)
現在の主力機種である小型ラインファン(斜流形直動式),多翼・ターボ形ベルト駆動式ファンのもととなる機種(LFM型・SMS型・SRS型・DRS型・SRP30型・DRP30型),及び排煙ファンの基本機種構成が確立された時代である。特に,ターボ形ベルト駆動式ファン(SRP30型・DRP30型)は,時代とともに改善・改良を行ってきたが,大きな変更もなく現存している機種であり,当時既に完成度の高い製品だったと言える。また,小型ラインファンのLFM型も,小型・低騒音・高効率を製品の特長とし,その後の個別換気方式用途の製品展開になくてはならない機種であった。
1970年後半には,多翼形ベルト駆動式のモデルチェンジを行いSRM型・DRM型として,選定表を一新した(図3)。モータの出力一つに対して,ファン回転速度のバリエーションを増やし,風量増加とともに出力が増加する多翼形の特性を利用して,同一の回転速度でも搭載するモータの出力を細分化した。このようにして,要求要項に対し,最適選定を実現する方法を確立したのもこの時代である。
図3 SRS型→SRM型 選定表の構成変更
この時代は,新たな機種展開の製品群の基礎が確立した時代である。従来機種のモデルチェンジに加え,新たに,低騒音対応による消音ボックス付ファン,高温対応の片持ち形ファン,風量制御機能付のVAV(Variable Air Volume)ファンなど,市場の様々なニーズに対応するための送風機を次々と製品化していった。この消音ボックス付ファンやその後の小型ファンの開発には,中央研究所(当時)の無響音室が大きく貢献している。主力機種の多翼ファンSRM型は,ハイドロの見直しに加え,No.1~3の小型の範囲をプレス部品の構成へ積極的に切り替え,ファン構造を一新して新たにSRM2型へとモデルチェンジを行った。また,ステンレス製・樹脂製ファン・高温対応のターボファンなど空調設備だけでなく多用途へも対応できるような製品群も構築していった。風量制御機能付のVAVファンは,特に工場設備など省エネルギーを要求される市場の対応として用いられた。ECモータによる回転速度制御,吸込ベーン/スクロールダンパをコントロールモータで駆動する機械的な制御,極数変換モータによる段階回転速度制御,軸流ファンの翼角度変更による可変ピッチ制御と次々にラインアップされた。現在のインバータ制御が主流になるまで,当社の機種構成に加えられていった(図4)。
また,製品の特殊仕様としては,防振スプリング付・耐震ストッパーボルト付・かご形天井吊り架台付など,防振・耐震に対応した仕様を追加し,特殊仕様の要求都度対応から,あらかじめ図面化・仕様書化によって標準化を図ることで,特殊仕様に対し迅速な生産対応ができるよう整備も行われた(表1)。
図4 VAV(可)変風量ファン(風量制御) 1980年代~
1970年代 | 1980年代 | 1990年代 | 2000年代 | 現在 | |
ドレン抜き(水抜き穴) | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
マンホール(点検口) | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
キャンバス穴加工(相フランジ部) | 〇 | 標準仕様 | 標準仕様 | 標準仕様 | 標準仕様 |
Vベルトガード回転測定孔 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
ケーシング上下2分割 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
塗装変更(塩ビ塗装・エポキシ塗装) | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
電動機変更(異電圧・全閉外扇型等) | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
かご形天吊りベット (耐震ストッパーボルト付) |
〇 | 〇 | 〇 | 〇 | |
2重天吊り形 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | |
溝型鋼製防振ベット 耐震ストッパーボルト付 |
〇 | 〇 | 〇 | 〇 | |
防振スプリング付 (標準品は防振ゴム付) |
〇 | 〇 | 〇 | 〇 | |
耐震ストッパーボルト付(床置形) | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | |
Vベルトガード防雨型 | 〇 | 〇 | 〇 | ||
Vベルトガード裏カバー付 | 〇 | 〇 | 〇 | ||
上引張り(電動機位置勝手反対) | 〇 | 〇 | 〇 | ||
吐出し方向特殊(上部45°吐出し) | 〇 | 〇 | 〇 | ||
Vベルトガード ベルト張力測定孔 | 〇 | 〇 | |||
ケーシング屋外仕様 | 〇 | 〇 | |||
軸受注油配管 | 〇 | 〇 | |||
アクリル樹脂焼付け塗装 | 〇 | ||||
耐塩害塗装 | 〇 |
1980年代には,当社は多翼・ターボ形ファン,軸流ファンなど主に機械室等に設置されるファンの製品群をそろえたが,1990年代になると,市場のニーズは,空調設備を機械室等に設置する集中換気方式(大きな送風機で複数の部屋を換気する)から個別換気方式(各階ごとに比較的小型のファンを複数配置する)に変遷した。これに伴い,天井裏に小型ファンを設置する方法がよく使われるようになった。そこで,この流れを受け製品開発は,主に小型ファンをターゲットに行われ,従来機種の更なるモデルチェンジと,新製品の市場投入が行われた。
1990年代における小型ファンの主な機種展開を表2に示す。
また,1990年代後半には,主力機種の多翼形ベルト駆動式のNo.1~No.4½ SRM2型の範囲の構造を,更にプレス成形構造(ベース・ベルトガード部品のプレス化・リブ多用化,羽根車カシメ構造等)へと推し進め,軽量・小型で従来と同等の強度をもち,かつ生産性を向上させたSRM3型へ製品仕様を展開した。これに伴い,SRM2型を基幹として製品化されていた機種(SRMO2型,DRM2型,SRMU型,DRMU型)も次々とモデルチェンジ(SRMO3型,DRM3型,SRMU3型,DRMU3型)し,SRM3型との部品共用化を図った。
特殊仕様としては,ベルトガード裏カバー付,上引張り(モータ勝手反対),吐出し方向特殊(上部45°吐出し)などを追加し,特殊仕様の対応内容や対応機種範囲を拡大することで,様々な市場要求に対応できる製品体制を整えていった。
また,空調設備用・多用途用に加え,セットメーカ向け(特定顧客向けファン)も精力的に対応し,製品開発が行われたのもこの時代である。
機種 | 1990年代の展開項目 |
LFM2型 | 強弱2速化 |
LFU型 | サイレンサ構造による低騒音化及び強弱2速化 |
SMU型 | 多翼形消音ボックス付ファンの新規投入 |
SMUE型 | 多翼形消音ボックス付ファンシリーズの拡大 静音形・耐湿形・インバータ搭載・大風量インバータ搭載 |
SMUR型 | |
SMUV型 | |
DMUV型 | |
HUS型 | 全熱交換ユニットシリーズ |
HCS型 |
2000年以降の汎用送風機事業は,荏原汎用送風機(株)を経て,工場機能(開発・設計・業務・品質保証)を藤沢事業所から主要生産工場である(株)大岩マシナリー国見事業所へ移し,当社指導のもと生産を行うようになり,現在に至る。
製品開発は,1990年代から続く小型ファンへの展開を継続しているが,激化する市場状況から小型ファンの生産拠点を海外に移した。その中で,新たな小型ファンへの要求(高圧機種・大風量機種・厨房排気用途等)に対応した製品を開発している。
2000年以降の小型ファンの主な機種展開を表3に示す。
小型ファン以外の機種としては,片持形ファンシリーズの番手拡大(No.7,8 SRMO2型,No.7,8 SRTE型)や小型のSRM3型の範囲をカバーする直動式多翼ファンSMM4型など,更に選定範囲を拡大する機種を市場に投入している。特に,2010年からは,ターボファンのハイドロ見直しによって更なる高効率化を図り,No.2~3½ SRP30型,SMTE2型に採用している。
また,塗装品質改善の一環として,SRM3型,SRMO3型の標準塗装をメラミン焼付塗装又は常温乾燥のフタル酸樹脂塗装から,粉体塗装に変更(2012年:No.3以下,2014年:No.3½~4½と段階的に実施)した。
特殊仕様としては,ケーシング屋外仕様・軸受注油配管・アクリル樹脂焼付塗装・耐塩害塗装等の標準化を進めている。
2015年からは,モータの高効率規制に伴い,標準仕様に搭載するモータをIE1(標準効率)からIE3(プレミアム効率)モータへ変更している。
現在は,ターボファンだけでなく,ハイドロの見直しによる高効率化・生産革新運動による生産性向上など,主要生産工場と当社との関わりを更に強化し,製品開発・製品化・生産改善を推進している段階である。
旧機種 | 機種展開とその内容 | |
LFM2型 | LFM3型 | モータ1速 |
LFU型 | LFU3型 | モータ1速 |
SMU型 | SMU2型 | 構造変更も含めたモデルチェンジ |
SMUE型 | SMUE2型 | 静音形 |
SMUR型 | SMUR2型 | 耐湿形 |
− | SMUK型 | SMU2シリーズの厨房用タイプ |
− | LFUE3型 | LFU3(消音形)の静音形タイプ |
− | LFTU型 | 高圧形(斜流ファンを直列に2台消音ボックス内に配置) |
− | SMTU型 | 高圧形(多翼ファンを直列に2台消音ボックス内に配置) |
DMU型 | SMCU型 | 大風量形(多翼ファンを並列に消音ボックス内に配置 DMU型の後継機種 |
前記に紹介した製品の中で,モデルチェンジとともに行ってきた技術革新について数点紹介する。
図5 ラインファン(斜流形 消音ボックス付ファン)の構造変遷
1980年代初期のULFM型は,角型(箱型)の消音ボックスに斜流形直動式ラインファンLFM型を内部に固定し,内部を平板上の吸音材で覆ったシンプルな構造であった。
1984年にモデルチェンジを行ったULFM2型はボックス形状を上下2分割にし,丸型形状とした斬新な構造であった。この構造は,関係各部門を交えたVE活動から生まれた構造であった。丸型にした大きな利点は,
①
部品点数が大きく削減される。
②
丸型形状によって,外板の強度が増し,薄板でも強度が確保できる。
③
丸型の水平中心線上に吊りボルト用の固定穴を配置したことで,吊り下げた際に製品が安定し,振動も発生しにくい。
など,箱型の消音ボックス形状で起こりやすい板の膜振動を押さえられ,振動発生源である内蔵ファンの軸センタと吊りボルト位置を合わせることができ,内蔵ファンを安定させたことで,振動低減を図ることが可能となった。
1993年にモデルチェンジを行ったLFU型は,内蔵ファンと消音ボックスを吸音材でサポートするだけという,更に革新的な構造であった。
通常,消音ボックス内部に内蔵ファンを固定する場合,何らかの金具等を使用し固定するのが従来の手法であった。LFU型の場合は,ファンが配置される部分の吸音材を高密度に成形し,消音ボックスが吸音材を介して,内蔵ファンを圧縮し挟み込む固定方法を考案した。さらに,吸込側の吸音材には,吸音効果(内蔵ファンから吸込側に放出される音の低減)を高めるために,厚さと適度な柔らかさが必要であるため,内部吸音材の密度を部分的に変化させる構造としている。
このようにして,内蔵ファンの振動が消音ボックス外面に伝わりにくい,低騒音の消音ボックス構造が実現化された。また,吸込側には断面を翼形状に吸音材で成形したスプリッタを内蔵し,更なる低騒音化を図った。
LFU型の生産性の改善として,吸込側のスプリッタを取り外し,同等の騒音値になるよう,吸込側吸音材の断面形状を変更し,製品化を図った。消音ボックス内部の吸音材を部分的に絞ることで,従来と同等の消音効果が得られたので,部品点数削減と組立工数削減に大きく寄与した。
1998年にモデルチェンジを行ったSRM3型は,旧機種SRM2型に対し,更に生産性を向上させた製品と言える。
①
羽根車の翼板のカシメ構造
翼板を主板・側板へ固定する際にカシメ機でロールすることで成形を行った。
②
プレス部品の範囲拡大
細かい金具類はもとより,ベルトガード部品や小型機種のファンベース類までも一体成型のプレス構造とした。
③
ケーシングのカシメ成形
従来,ケーシング背板(スパイラル部)と側板は溶接構造で固定していたが(No.1,1½は従来もケーシング中央部はカシメ構造),ケーシングカシメ機の導入によって,短時間でケーシングの成形を行うことが可能となった。
④
ファン吐出し方向の種類削減
現地で吐出し側に施工されるエルボ配管の曲がる方向によって,ファン性能の低下が大きく影響を受けることから,SRM2型ではファンの吐出し方向はエルボの方向によって複数方向対応できるように,仕様化していた(吐出し方向:6方向を標準化)。
これに対しSRM3型では,吐出し口センタを軸センタに近づけることで,吐出し口の流速分布が中央に寄り,逆向きのエルボでも性能低下がしないことが確認されたため,吐出し方向の種類削減(6→4種類)が実現できた。
このように,多量・短納期の製品受注にも対応できるよう,製品開発の段階から生産性を考慮した構造検討が行われた。
図6 SRM2型→SRM3型の主な変更部分
1990年代後半にモデルチェンジを行ったHUS2型/HCS2型は,全熱交換素子の次の点について見直しを行った。
①断面形状
正方形 → 円形
②熱交換部材質
紙 → 特殊フィルム
従来の正方形形状から円形断面形状にすることで,熱交換時の1段当たりの断面積を拡大し,従来と同等の熱交換効率で全熱交換素子の寸法の低減を図ることができた。これに伴いユニット全体の小型化が図れた。また,当時の全熱交換素子の熱交換部は特殊な紙が主流であったが,特殊フィルムを使用することで,完全な樹脂化による生産性の向上も合わせて図ることができた。
図7 全熱交換ユニット 素子断面 変遷
2003年に発売したAPM5型は,まさにエンドユーザのニーズにマッチした製品と言える。
工事現場などの局所排気に使用されるポータブルファンは,レンタル業者でも多く取り扱うことから,次の特長を前面に押し出したファンとなった。
①
外観形状を四角とした樹脂成型品。
②
羽根車・モータ・モータ固定部・金網・電装品以外は全て樹脂成型品で構成。
→
軽量化
保管時に段積みがしやすい
汚れても清掃がしやすい・さびない
このポータブルファンは,発売当初から,汎用送風機製品としては記録的な台数で市場に受け入れられていった。
図8 ポータブルファン APM5型
消音ボックス付ファンは,1980年代から始まり,多種多様な製品群を発売してきたが,小風量高圧タイプの機種は製品群にはなかった。ファンの設置場所が,天井裏に数多く配置されるようになり,高圧機種の要求も増えてきていた。
これに対応するため,消音ボックス内にファンを直列に内蔵するLFTU型・SMTU型が製品化された。送風機を直列に配置する場合,特に後段側のファンは前段ファンの後流の影響を受けるため,接近させて設置する場合は,十分な距離を取るなど注意が必要であった。
一体型製品として,前段・後段各々の特性や運転状態を分析することでコンパクトな直列型の高圧ファンとして製品化が実現した。
図9 消音ボックス付ファン 高圧形(LFTU型・SMTU型) 内蔵ファンを2段直列に配置し,小風量・高圧域に対応
今回,改めて汎用送風機の市場への製品投入を振り返ると,時代とともに様々な製品群を販売してきたことが分かる。現在,製品群は,一種の飽和状態であり,今後は,必要な機種が精査されてゆくと同時に,新たな市場ニーズに適合した製品づくりが必要となる。高効率化への継続的な製品検討はもちろん,実際のエンドユーザ・メンテナンスに携わる方々の要求を的確に捉えた製品開発が今後の課題と考えられる。
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