辻󠄀村 学
取締役 執行役専務
精密・電子事業カンパニープレジデント
2015年は藤沢工場50周年,精密・電子事業30年,2012年に100周年を迎えた荏原製作所の大きな節目の年です。良い機会ですので,この間の半導体業界変遷,精密・電子事業の生い立ち,そして基幹製品がどのようにして生まれたかを簡単に振り返ってみたいと思います。もちろん激動の30年を数ページで振り返るのですから,多少の誤解を恐れずに(私の見た)エッセンスを「精密・温故知新」としてご紹介したいと思います。
精密・電子事業のビジネスは,半導体4兄弟と言われる「半導体−フラットパネル−太陽電池−LED」業界が主であり,中でも半導体業界は当事業売上の大半を占める大事なお客様です。その半導体は1947年のトランジスタ発明以来,デナードの“技術”相似則とムーアの“経験”法則通りに60年以上も奇跡的発展を続けてきました。ハイテクトップ技術であるばかりではなく市場の超拡大を実現した実績から,半導体は正に20世紀から21世紀をまたぐ世紀のイノベーションと言えます。
精密・電子事業発足の1985年というのは日本半導体が世界一(シェア)になり,日米半導体戦争勃発とまで言われた年です。半導体関連3団体であるSEAJ(日本半導体製造装置協会),JVIA(日本真空工業会),SEMIジャパンが発足したのもこの年です。正に,1985年は半導体にとっては(特に日本にとっては)激動の波襲来の年であったと理解できると思います。
そして30年後の2015年,巷間ではムーアの法則終焉というマイナスイメージと,情報爆発によるIoT拡大などのプラスイメージが錯そうしています。温故知新,30年後に2015年を振り返れば激動第二の波襲来と言われているかも知れません。
このような激動の1985年,精密・電子事業はコーポレートプロジェクトの一つとして生まれました。コーポレートプロジェクトとは「人物金の開発投資はコーポレートが持つ,だから“技術”も“市場”も開拓せよ」というものです。コンセプトは3つ。
1 成功したらかなりの規模の(1000億円程度)売上となること
2 簡単な技術では無いこと(簡単に真似されないよう)
3 荏原のDNA技術を応用できること(成功の秘訣)
です。1985年当時は,前述のように半導体業界そのものが1項と2項を満たしていましたので,後は3項です。本当に荏原のDNA技術が半導体業界に応用できるのか?半導体業界には付き合いは無いし,もちろんどんな技術が必要かもわからない。正に「技術と市場の同時開発」という離れ業に挑戦です。そこで当時のリーダは何をやったのか。毎日のように半導体業界のトップを工場(と言っても現在の精密工場ではありません。今日50周年の藤沢工場です)にお連れして,それこそ半日,時には終日かけて荏原の技術を説明して廻ります。それぞれのセクションの専門家に説明を依頼するのではありません。リーダ自ら全てを説明し続けます。時に笑い,時に鬼の形相で,相手が根負けするまで説明を続けます。最後は皆さん(お世辞も多少あったのでしょうが)「参りました。このような技術をお持ちの荏原さんには是非当社の開発をやって戴きましょう」となりました。
実際,何をお見せしたのか。先ずは風水C(風水力機械カンパニー)のDNAである“回転機械”“冷熱”“流体解析”“材料”“振動”“騒音”“構造解析”などなど全部です。更に環境C(環境事業カンパニー)の“水処理”“ごみ処理”“環境解析”などなど。そしてこれらは後年,本当に半導体製造技術として生まれ変わることになります。
正に精密C(精密・電子事業カンパニー)は,風水Cを父として,環境Cを母として生まれたのだと思います。
以降,1988年に事業部に昇格,2005年にはカンパニーに昇格して現在に至っています。これらの生い立ちは精密CのDNAとして今後も生き続けると確信しています。
本稿には8種類の製品が紹介されていますが,実は手がけた開発製品はこの10倍はあります。正に上市し基幹製品となる確率は開発の10%しかありません。多くは上市前に消えて行き,上市できても(技術は開発できても)基幹製品となりえなかったものもあります。この時に考えたのが「開発のバランスシート」です。上市されたものを資本(成功とみられているもの),上市されなかったものを負債(失敗とみられているもの)としますが,実はこの資本と負債を加えたものが技術の資産となり次の開発に活きているという考え方です。90%の負債の中から生まれた技術や後年役立ったことは数限りなくあります。そしてこの考え方はここ数年,コーポレートの研究&知財に引き継がれ,精密Cの父である風水Cの研究や知財拡充に多いに役立っています。
では,途中その負債部分も踏まえて本稿紹介の8種類の基幹製品の生い立ちを簡単に紹介しましょう。
1985年発足したコーポレーションプロジェクトのCP8501は,実は太陽電池開発だってご存知の方何人いるでしょうか?
そうなんです。CP8501は太陽電池開発で始まり,その太陽電池製造に必要な真空技術に出会います。それから風水保有技術の応用として,磁気軸受応用の「3 ターボ分子ポンプ」と「1 ドライ真空ポンプ」に開発着手。1年鳴かず飛ばずで,某顧客指導で「2 排ガス処理装置」を一体とする所謂「ドライバキュームシステム」として開発。結果,ドライ革命が勃発。その後,湿式ポンプも各種開発,ターボ応用も種々開発しました。その中に「4 オゾナイザ及びオゾン水製造装置」成功例があります。これは当社の保有技術であるオゾナイザ(元々はクリーニング業における衣服の漂白用)を,オゾンを用いた成膜装置用として開発,その後当時開発していた(超々純水装置)の部分応用でこのオゾン水製造装置が出来上がります。正に負債応用の良い例です。これがコンポーネント系のルーツです。
装置系に関しては,もともと当社は荏原ユージライトというめっき関連子会社がありました。これを説明したところ,前工程の装置は難しいから先ずは後工程からどうだ,ということで金バンプ用「6 めっき装置」の開発をしました。それでも「汚いことで悪名高きめっき装置」をクリーンルームに入れたことを評価され,その後前工程の装置開発もいろいろ手掛けることができました。その一つが「5 CMP装置」です。めっきと研磨なんて,いかにも前時代的な装置ばかりです。「汚いことではめっきに引けを取らない研磨」ですが,これも見事にクリーンルーム仕様に換えました。ドライイン・ドライアウト特許が生まれた瞬間です。CMP装置が成功すると,研磨応用の開発話が舞い込みます。それが「7 べベル研磨装置」。方式も目的も異なりますが,研磨は研磨です。これも成功。これ以外にもそれこそ「えっ!こんな開発を」というテーマも沢山ありますが,それは「負債としての資産」として残っています。これが装置開発のルーツです。
最後に「8 電子線式欠陥検査装置」です。「何故,荏原が?」と思われる方もおられるかも知れませんが,当社は電子線に関する知識もあったんです。古くは電子線応用の排ガス処理装置,中性粒子線応用開発を始めいろいろ手掛けました。その技術を元に生まれたのがこの検査装置です。
どうです。
当社は「負債資産」が沢山引出にあったので,どんな開発依頼が来ても驚きません。「Noと言わずに,できる」と考え何でも手掛けてきました。でも最初のルールは忘れていません。「3 荏原のDNA技術を応用できること」ですね。全ての開発結果をDNA技術とし,その応用でここまできました。結果,
1 成功してかなりの規模の(800~1000億円程度)売上になりました。
2 簡単な技術では無い(簡単に真似されないよう)ため特許は業界トップレベル。
です。
最後に,未来を俯瞰して精密・電子事業Next30への期待を述べます。
精密・電子事業は半導体業界と連動しますので,先ずは半導体業界の未来から。巷間では,ムーアの法則の限界という論調で半導体業界そのものが終焉するような報道もありますが,全くの間違いです。ここで私の提唱する半導体業界の原理原則を紹介します。
1 デバイスは人間の欲求ある限り増え続ける(コンセンサス)
2 そのデバイスを応用したセットはあらゆるものが出てくる(人間の欲望)
3 そのセットやデバイスを作るには製造装置が必要(当たり前)
4 だから,セットもデバイスも装置も皆永遠に不滅です!(辻村の原理原則)
ムーアは経験則で,デナードは理論則ですが,上記は原理原則ですから,これまた永遠に不滅の考え方です。
もちろん,生き馬の目を抜くような浮き沈みの激しいこの業界で生き抜くためには,技術満足はもちろん市場満足が必須です。30周年,良い機会です。今一度1985年にCPを発足した当時を思い出し,更なる発展に向けて努力していきますので,関係各位の皆様の暖かくも厳しいご支援・ご指導を賜りたくお願い申し上げます。
最後に,Next30に掲げる3つの新コンセプトを私案として提供致します。
1 成功した(1000億円程度)規模の売上を安定に維持できること
2 更なる技術革新に挑戦すること(簡単に真似されないよう)
3 精密のDNA技術を応用すること
2045年,精密・電子事業60周年記念の際に,この新コンセプトがどのように評価されているか,楽しみです。
藤沢工場ものづくり50年の歴史
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