臼井 克明
駒井 哲夫
曽布川 拓司
横山 俊夫
小澤 卓
田中 潔
中田 勉
中西 正行
寺尾 健二
ウェーハやガラスを基板とする半導体及び液晶製造工程には,真空中で基板に加工を行う成膜装置やエッチング装置が使用されている。その真空環境をつくるため真空ポンプが用いられているが,1980年代までは油回転ポンプが主流であった。しかし,半導体の高集積化に伴い,製造装置での真空の質が問われるようになり,1980年代後半からドライ真空ポンプが使用されてきた。
ドライ真空ポンプは,主に2軸が反転同期回転する容積式真空ポンプであり,接ガス部にシール用の液体を使わず,清浄な真空を得ることができるため,現在半導体・液晶製造の真空ポンプとしてなくてはならないものとなっている。また,最近は太陽電池,LED,リチウム2次電池などの産業にも使われるようになり市場が拡大している。さらに,各種分析機器,及び金属産業,バイオ産業などの一般産業分野でも,従来油回転ポンプが主流であったが,半導体同様真空中のコンタミネーション低減及びメンテナンス頻度低減の要求から真空ポンプのドライ化が徐々に進んでいる。
当社では,ルーツ型ドライ真空ポンプ及びスクリュー型ドライ真空ポンプを製造/販売している。ルーツ型ドライ真空ポンプの排気原理を図1に示す。
図1 ドライ真空ポンプの構造と排気原理
長円形のケーシング内に1対のまゆ形のロータが配置され,それぞれのロータは互いに同期して,ケーシング内面及びロータ同士の間に微小な隙間を保ちながら非接触で逆方向に回転する。ロータが回転することによって吸気口部の気体をロータの谷部とケーシング内面に閉じ込め,排気口側へと移送する。高真空を得るために同軸上に複数のロータを直列に接続した多段構造とし,ポンプロータの軸端にモータロータを組み込んだ一体型としている。また,水冷キャンドモータを採用することによって大気との軸封機構がない構造としている。
当社ドライ真空ポンプは,1986年に1号機を出荷以来,精密・電子事業を支える基幹製品となり,日本,米国,台湾及び韓国で生産を行い,2015年7月までの累計出荷台数は約140000台となっている(図2)。なお,マスター工場である藤沢工場の累積出荷台数は2011年5月に10万台を達成した。
当初出荷したドライ真空ポンプERD型/UERR型(写真1)は,当社の半導体市場に対する足掛かりとなった製品である。このポンプは,専用水冷キャンドモータを採用することによって,クリーンルームでのパーティクル発生・増加への対応をするとともに,真空ポンプの内部と外部を完全にシールする構造を実現した。また,顧客の要求を受けその都度製作する受注生産方式をとったため,使用先・使用装置別に,100種類以上の仕様が存在した。
図2 ドライ真空ポンプの累積出荷台数
写真1 ドライ真空ポンプERD型/UERR型
生産性の向上・納期短縮を主目的として,1991年にA型を市場投入した。ポンプ本体は冷却方式を改善してパッケージング可能なコンパクト構造とし,かつ,マイコン化した保護システムを採り入れた標準化を行い,カタログ販売できる製品とした。顧客の個別要求に対しては,ポンプユニットの外にオプションを取り付ける形状とした。
当時,ドライ真空ポンプの電力は半導体製造工場全体の約15%を占めていた。これを改善するために,省エネルギー・小型化を主目的として,1995年からAA型を市場投入した。このドライ真空ポンプは,真空ポンプの圧縮動力の最適化及び2軸駆動ブラシレス直流モータの採用による効率改善によって従来のポンプに対し,最大60%の消費電力削減を実現した。これは,半導体製造工場全体では約7%の電力削減に相当する。
その後も,省エネルギー化及び小型化で業界をリードし続け,2003年にESR型,2009年にEV-S型と,省エネルギー型ドライ真空ポンプの性能を,継続的に改善している(図3)。EV-S型は,AA型に比べて消費電力で最大76%,フットプリントで最大66%,冷却水量で最大57%を削減した。さらに,軸シール用の窒素パージを不要としたモデルをラインアップに加え,ユーザの利便性を高めた。EV-S型は,主に空気や不活性ガスを排気する軽負荷用途において業界標準となりつつある。
一方,エッチングやCVD(Chemical Vaper Deposition)などの重負荷用途向けドライ真空ポンプは,様々な反応副生成物を含むガスや腐食性ガスを排気しなければならない。これらに対しては,ポンプへの耐食材料の採用及びポンプ内部温度の最適化を行ったドライ真空ポンプAAS型を1997年に市場投入した。さらに,半導体ウェーハの300 mm化及び液晶基板の大型化に伴うプロセスガス量増大に対応するため,2004年からEST型を市場投入した。EST型には,当社特許技術である2段ブースタポンプを採用することによって,コンパクトパッケージで最大排気速度50000 L/minを実現した大容量ドライ真空ポンプEST500WN型がある。また,2011年に販売を開始したEV-M型(写真2)は,重負荷用途でありながら,対プロセス性能と省エネルギー性能を両立させた新世代ドライ真空ポンプであり,最大排気速度120000 L/minの大容量型もラインアップしている。
図3 ドライ真空ポンプの消費電力の推移
写真2 ドライ真空ポンプ EV-M型
一般産業分野では,これまで油回転ポンプの使用が一般的であったが,近年は電源をつなぐだけで手軽に運転できる小容量の空冷式ドライ真空ポンプが代替ポンプとして注目されている。2009年に販売開始したPDV型はユニークな2軸同期反転モータを採用したアルミニウム合金製の小型軽量の空冷式ドライ真空ポンプである。また,2012年6月に販売を開始したEV-A型は,電源供給だけで運転でき,かつ大きな排気速度を有しているため,ロードロック室排気や分析機器向けはもとより,真空乾燥・脱気,プラズマクリーニング,各種コーティング等,様々なアプリケーションに適用可能な機種である。
また,半導体製造工場等のように,多くのドライ真空ポンプを使用している顧客向けに集中監視システムを用意している。広範囲に分散している機器の運転状況を,集中監視室等の遠隔の場所からリアルタイムに監視することができ,日常点検の簡素化が可能となる。また,蓄積された運転データを用いることによって,故障要因解析ができ,ポンプの長寿命化の対策立案に有効である。将来的にはリアルタイムの故障予知によって,ポンプ故障に対するリスク削減につなげていく。
[臼井 克明]
半導体製造工程や液晶製造工程では有害ガス,爆発危険性ガス,腐食性ガスが使用されることが多い。これらの工程では,有害ガスを排気する真空ポンプの後流に,ガスを無害化する排ガス処理装置を設置する必要がある。
当社は1986年にドライ真空ポンプの販売を始めたが,この頃は半導体製造工程における真空の質が重要視され始めた時期であり,当時半導体製造工程で最も多く使用されていた油回転ポンプは油による汚染が嫌われ,急速にドライ真空ポンプに置き換えられていった。すると,それまで油回転ポンプのオイルに溶け込むことでポンプ内にトラップされていた有害ガス成分が,ドライ真空ポンプをそのまま通過して高濃度で排出されるようになり,当時使用されていた大型の集合湿式スクラバでは処理できなくなってきた。そのため,各ポンプの出口においてそれぞれの排出ガスに見合った排ガス処理が求められるようになった。
そこで,当社は環境技術で培った大気汚染関連のガス分析技術を発展させて,処理剤との吸着又は化学反応で処理することによって排ガスを簡便かつ確実に処理できる乾式排ガス処理装置GT型を開発し,1987年に販売を開始した。これが当社の排ガス処理装置の始まりである。GT型はまずエッチング工程用で採用され,続いてCVD工程用,イオン注入工程用へと適用範囲を拡大していった。
その後,ウェーハ径の拡大によるガス使用量の増加,特にCVD工程での可燃性ガスの使用量増加に伴い,ランニングコストが重要視されるようになった。そこで,ヒータ加熱で排ガスを直接酸化分解することによって薬剤交換を不要にした加熱酸化分解式排ガス処理装置CDO型を開発し,1989年に市場投入した。
また,エッチング工程でも同様に半導体の生産量の増加によって酸性ガスの使用量が増加したため,ランニングコストが低く,薬剤交換作業の手間やロス時間がない湿式排ガス処理装置GSR型(水又はアルカリ液によって排ガスを溶解処理するタイプ)を開発し1999年に販売を開始した。
1997年12月に京都市の国立京都国際会館で開かれた第3回気候変動枠組条約締約国会議(地球温暖化防止京都会議,COP3)等の国際会議を契機に,これまで未処理のまま大気に放出されていた地球温暖化係数の高い難分解性の地球温暖化ガスであるPFCsガス(Perfluoro compounds:NF3,ClF3,SF6,CHF3,C2F6,CF4等)の処理が重要視されるようになった。
当社は,これに伴いPFCsガスの使用量の多いCVD工程系に対して,プロセスガスとクリーニングガス(主にPFCsガス)の同時処理が可能な燃焼によるガス処理技術の開発に取り組み,1999年に燃焼式排ガス処理装置GDC型(最大処理流量250 L/min)を製品化した。GDC型の燃焼部は,旋回火炎を形成する独自のバーナ構造とあらかじめ燃料と酸素を混合する予混合方式によって,高温火炎の中に流入ガスを効率良く通過させることができるため,低燃料流量で高いガス分解率が得られる(写真3)。
その後当社はGDC型のバーナ技術を基に,燃焼による排ガス処理の更なる効率化に取り組み,GDC型に比較し,定期消耗品も含めたランニングコストを40%低減するとともに,定期メンテナンスによるダウンタイムを1/3以下に削減した燃焼式排ガス処理装置G5型(最大処理流量350 L/min)を2008年に開発し販売を開始した(写真4)。
半導体工程と比較して,大流量のガスを使用する液晶製造工程や太陽電池製造工程に対応するため,G5型を基に,処理可能流量を大幅に拡大(最大処理流量1200 L/min)した燃焼式排ガス処理装置G6型を2011年に開発し販売を開始した。
2013年には,G5型の排ガス処理機構を2系統搭載して1つにパッケージングしたG5-Dual型を製品化した。この装置は,2系統の排ガス処理機構を相互にバックアップする運転によって,排ガス処理装置をシャットダウンすることなくメンテナンスが可能である。また2系統同時運転により,2倍の排ガス処理(最大処理流量700 L/min)も可能である。
大流量のPFCsガス対応の燃焼式排ガス装置とは別に,エッチング工程からの比較的少量のPFCsガス及び酸性ガス処理用としてエネルギー効率の高い触媒式排ガス処理装置GCR型(最大処理流量250 L/min)を開発し,2003年に販売を開始した。
PFCsガスの処理方法は,燃料やヒータを使用して高温で分解する方法,触媒を用いて分解する方法,及びプラズマによる分解処理があるが,これらのPFCs排ガス処理装置は,いずれの方法も分解後のふっ素成分を水に溶解して排水する処理方法をとっている。そのため半導体製造工場の水処理設備への負荷が増大し,工場によっては当該地域の排水量制限から水の使用量の増加に対応できない場合もある。そこで,PFCsガスの高効率処理を行うと共に,分解したふっ素成分を排水系に放出せず,処理剤に固定する完全ドライ式のF固定式排ガス処理装置FDS型(最大処理流量250 L/min)を2008年に開発し,販売を開始した。
排ガス処理装置はドライ真空ポンプの後流で使用されるが,顧客はこれらを個別に購入し,配管施工や機器ごとのユーティリティ工事を顧客自身が実施してきた。当社は,両機器のメーカであるという特長を活かし,2007年にドライ真空ポンプ一体型の燃焼式排ガス処理装置を製品化した。このシステムは,ユーティリティなどの配管設備施工時間の短縮化,危険ガスの漏れに対する安全性向上,ドライポンプと排ガス処理装置間の配管の最短化による生成物の堆積軽減など高い信頼性が確保できる。このメリットが顧客に受け入れられ,近年注目度を増している。
このように,当社は半導体製造工程の様々なニーズに適合した排ガス処理装置を開発し顧客に提供してきた(図4)。
今後も顧客の要求に密着した製品を提供し,一層の信頼を獲得していく。
[駒井 哲夫]
写真3 燃焼バーナ火炎形成状況
写真4 燃焼式排ガス処理装置(G5型)
図4 プロセスガスと荏原の排ガス処理装置
ターボ分子ポンプは,スパッタリングやエッチングなどの半導体製造装置,電子顕微鏡やHeリークディテクタなどの計測・分析機器など,高真空から超高真空を必要とする各種の装置や機器に広く使用されている真空ポンプである。
ターボ分子ポンプは,タービン状の翼を多段に形成した羽根車を1分間に数万回転という高速で回転させ,回転するタービン翼(動翼)に衝突する気体分子に運動量を与えて下流側にはじき飛ばし,動翼の間に配置された静止した翼(静翼)が気体分子の逆流を妨げるという作用を各段ごとに繰り返して気体分子を下流に移送して超高真空を作り出す(図5)。この排気原理は圧力が高くなると有効に作用しなくなるため大気圧まで圧縮することはできない。そのため補助ポンプと組み合わせて使用する。
回転体を支持する軸受には,従来,油潤滑の転がり軸受が用いられていたが,当社がターボ分子ポンプの開発を始めた1980年代半ばは,磁気軸受を用いて回転体を非接触支持するターボ分子ポンプが市場に現れ始めた頃であった。この頃半導体製造プロセスにおいては,微細化の進展に伴って真空の質に対する要求が厳しさを増していた時期であり,潤滑油を使用しない完全クリーンな磁気軸受型ターボ分子ポンプは,このニーズに合致し成長が期待されるポンプであった。
そのような中,当社は磁気軸受を自社開発し,磁気軸受型ターボ分子ポンプを1989年に製品化した。
しかし,当社のターボ分子ポンプが事業の礎を築けたのは,磁気軸受型ターボ分子ポンプと水分子を凍結捕集するコールドトラップを一体化したハイブリッド型ターボ分子ポンプ(クライオターボ)を開発し,それが大手半導体メーカのスパッタリングプロセスに採用されたからである。
当時スパッタリングプロセスでは,極低温の冷却面に気体を凍結捕集するクライオポンプが主流であった。クライオポンプは口径当たりの排気速度が大きいため短時間で所定真空度まで排気できるものの,凍結捕集した氷を除去して排気可能な状態に再生する定期メンテナンスが必要であった。このため,連続排気式のターボ分子ポンプに置き換えたいという潜在的ニーズがあったが,排気時間でクライオポンプに劣るため採用されていなかった。
これに対して,「ターボ分子ポンプの連続排気」と「コールドトラップの水分子に対する大排気速度」という両者の良いとこ取りをしたハイブリッド型ポンプのアイデアを半導体メーカから頂き,当社が冷凍機の技術とターボ分子ポンプを組み合わせて製品化した。さらに,半導体メーカの強力な指導の下,装置メーカにも全面的に協力頂いてポンプの性能評価を行った結果,実際のプロセスで採用されるに至ったのである(図6)。
そしてスパッタリングに少し遅れてエッチングプロセス用ポンプの開発に取り組んだ。
エッチングプロセスでは,スパッタリングの数倍以上の流量のプロセスガスを流したいという要求があった。しかし,プロセスガス量が多いため,後段のタービン翼では圧力が上昇し過ぎて効率的な排気ができなくなるという問題があった。これに応えるため,タービン翼の段数を減らし,より圧力が高い領域で排気性能を発揮するねじ溝型ロータをタービン翼の後段に配置した。さらに,エッチングガスからポンプを保護するため,高速回転による高応力下でも十分な耐食性能を有する多層の無電解ニッケルめっき膜をポンプの接ガス面に形成した。こうしてエッチングプロセス対応の広域型ターボ分子ポンプ(図7)を1992年に開発し,装置メーカの厳しい評価を経てエッチング装置に標準採用された。これによってターボ分子ポンプは事業としてのベースを確立することができた。
その後,コントローラのコンパクト化,モータの回生電力を用いることで磁気軸受のバックアップ用バッテリを不要化するバッテリフリー技術の開発,ポンプとコントローラを自由に組み合わせできるチューニングフリー技術の開発など,顧客のニーズに応える性能や機能を製品に反映してきた。
広域型ターボ分子ポンプは,200 mmから300 mmへのウェーハ大径化に伴うプロセスガス量の増大によって,大排気速度が要求されるようになり,現在は2000 L/sから4000 L/sクラスのポンプが主流となっている。
[曽布川 拓司]
図5 ターボ分子ポンプの翼と排気原理
図6 クライオターボ
図7 広域型ターボ分子ポンプ
オゾンは分子記号O3で表される酸素の同素体で強い酸化力があり,反応後は速やかに分解して酸素に戻ることから,2次公害のない環境負荷の小さい酸化・殺菌剤として,一般産業界に加えて半導体電子産業でも広く利用されている。
当社は,1980年代後半に一般産業向けにオゾナイザの開発を始めたが,半導体メーカから半導体の成膜工程でオゾンガスを使用したいという要望があったため,半導体産業向けのオゾナイザの開発にも着手し,1993年に製品化して販売を開始した。
オゾンの発生には,一般的に無声放電方式と沿面放電方式が採用されているが,それぞれ一長一短がある。電極間に誘電体を設け,この間に酸素ガス等を供給して放電させる無声放電では,隙間で放電するため多量のオゾンを発生できるが濃度は低い。一方,誘電体の表面に電極を配置して放電させる沿面放電では,局部的な放電によって高濃度のオゾンが得られるが発生量は少ない。そこで,当社は誘電体に対して突起部と隙間を形成した独自の複合放電方式であるトレンチ型電極を採用し,供給した酸素ガスを,高濃度で大容量のオゾンに変換している(図8)。
当社は,前述のように一般産業向けオゾナイザ(以下,汎用オゾナイザ)と半導体・電子産業向けオゾナイザ(以下,クリーンオゾナイザ)を販売している。
汎用オゾナイザは,PSA(Pressure Swing Adsorption)酸素富化器を装備することによってNOxフリーの高濃度オゾンが生成可能であり,衣類のドライクリーニングや栽培漁業向けを初めとして,水処理や各種酸化殺菌などに広く使用されている。当社は,大手クリーニング企業と協力して,石油系ドライクリーニング機械にオゾナイザを組み合わせ,常に清浄な溶剤でクリーニングを行うことで,汚れ落ちが良くなる,風合いが良くなる,臭気がとれるなど数々の効果をもつプロセスを開発した。こうした特長が認められ,全国のクリーニング工場に数百台のオゾナイザを納入している(写真5 a)。
一方,半導体・電子産業用のクリーンオゾナイザには,金属汚染やパーティクルの発生を抑えた,更に高濃度なオゾンガスが要求される。これに対して,誘電板に単結晶サファイア基板を採用し,両極を水冷するなどによって,不純物を含まないクリーンなオゾンガスの高効率生成を可能にしている(写真5 b)。
当社のクリーンオゾナイザの用途は半導体・液晶産業におけるドライ及びウェットでの洗浄,レジスト剥離,CVDの酸化処理ガス供給等であり,1990年代は常圧TEOS/CVD用途として,また2000年代に入ってからは酸化膜用ALD装置やドライ洗浄用途に実績がある。最近では洗浄用のオゾン水への使用に加えて,各種プロセスへの適用が急速に広まっている。
図8 トレンチ型放電体構造図
写真5 a 汎用オゾナイザ b クリーンオゾナイザ
従来,半導体ウェーハや液晶基板の洗浄には,高濃度かつ高温の薬剤を使用する洗浄方法が用いられてきたが,デバイスパターンの微細化に伴う薬剤によるダメージリスクの高まり,省エネルギー化,環境への配慮などの理由によって,オゾン水を含む機能水による常温洗浄方式の適用が広まってきている。
当社は,クリーンオゾナイザで発生させたオゾンガスを超純水に溶解させてクリーンなオゾン水を生成するオゾン水製造装置を1995年に製品化した(写真6 a)。
オゾンガスを気泡の混入やコンタミネーションなく純水に溶解させる方法としては中空糸膜を用いてきた。ガス透過性中空糸膜におけるオゾンのガス圧力を常に水圧より低く保つことで,水への気泡の混入を防ぎながら拡散作用だけでオゾンを水中に溶解させるため,気泡のないオゾン水が生成可能であり,被洗浄物への気泡の付着がなく均一な洗浄効果を得ることができる(図9)。
当社はノズルによる直接溶解方式のオゾン水製造装置も開発し,2015年10月に販売を開始した(写真6 b)。これは,ポリテトラフルオロエチレン製ノズルで水流を起こして渦を発生させ,渦に気体を巻き込み,渦が崩壊したときに気泡が細分化する現象を利用してオゾンガスを溶解する方式である。
この方式はオゾンを直接純水に溶解させるため,効率よくオゾン水を生成することが可能であり,中空糸膜等の定期交換の必要もない。このため,中空糸膜方式に対して,O2ガス消費量の50%削減,メンテナンスコストの50%削減,濃度立上り時間の30%短縮が可能となり,ランニングコストを大幅に低減することができる。これは,オゾン水のニーズの高まりに伴ってオゾン水製造装置のランニングコスト低減要求が強まる中,顧客に強くアピールできる特長である。
今後は,顧客ニーズである超高濃度や液晶基板向けの大流量に対応可能な装置の開発を推進していく。
[横山 俊夫,小澤 卓]
写真6 オゾン水製造装置
図9 中空糸膜によるオゾン水の生成
半導体デバイスは高速化と高集積化を実現するため,微細な配線を多段に積層した構造になっている。この多層な配線を形成する工程において,各層をナノメートルレベルで平坦化加工する役割を担うのがCMP(Chemical Mechanical Polishing)装置である。
1980年代後半に米国で開発されたCMPは,発表された当時,半導体製造方法の常識を覆すものであった。従来の製造方法はガス反応を応用した,いわゆるドライプロセスが主流であり,微細化に大敵なごみをいかに発生させないかに注力していたのに対して,CMPはプロセスに砥液(スラリー)を使用し研磨かすなどのパーティクル(ごみ)を発生させ,数万から数十万個レベルのごみがウェーハ上に残留するからである。そのため米国では,CMP装置を他のドライプロセス装置とは別の「CMP室」に隔離して設置し,CMP装置で研磨したウェーハをウェット状態のまま搬出して(ウェットアウト),洗浄機で粗洗浄することによって,半導体製造工程に適用するのが一般的であった。
当社は,ある大手半導体メーカの勧めと指導によって1991年にCMPの開発をスタートし,1992年には量産用第1号機を顧客に納入した。以来,20年以上にわたって最先端デバイスのプロセス要求に応えつつ,トップメーカとして全世界に約2000台の納入実績を記している。
当社では,CMP装置が他のドライプロセス装置と同様に使用されることを考え,次の点を開発コンセプトとし装置を開発した。
(1)
ウェーハはドライの状態でCMP装置にセットし,研磨終了後も洗浄・乾燥しドライな状態で装置から出すこと(ドライイン/ドライアウト)。そのため,研磨装置と洗浄機を一体化したCMP装置とする。
(2)
他の装置と同一のクリーンルームに設置するため,CMP装置内の汚染を装置からクリーンルームに一切出さない装置であること。
(3)
ウェーハを一枚ずつ研磨する枚葉方式とし,洗浄機も同じ枚葉処理とする。
(4)
層間絶縁膜を研磨することから始まったCMPであるが,その後STI(Shallow Trench Isolation),タングステンプラグ及び配線,アルミ配線,銅配線プロセスに適用されるなど,今やFEOL(Front End Of Line:基板工程)からBEOL(Back End Of Line:配線工程)に至るまで,CMPが採用されない膜はほとんどないと言ってよいほど行きわたっている。当社はこれら研磨・洗浄対象膜の多様化や製造プロセスの装置への要求に応えるために,装置の高性能化・多機能化を進めてきた。
図10に当社のCMP装置の基本構成と研磨部の基本構成を示す。
CMPの主要な構成要素について以下に概説する。
(1)
(2)
(3)
洗浄部(クリーナー)
半導体デバイスの微細化及び新材料の採用に伴って,洗浄・乾燥プロセスに対する要求も難しさを増しており,従来よりも微小なパーティクル除去が可能な洗浄技術と,Low-k膜などの疎水膜への乾燥技術に対する要求が高まっている。
この要求に対して,従来のPVA(Poly Vinyl Alcohol)製のスポンジによるスクラブ洗浄に加えて,流体のエネルギーを利用した非接触式の洗浄方式も採用している。疎水膜の乾燥に対しては,ウォータマーク発生の抑制に有効なロタゴニ※機構の乾燥方式を標準装備している。
(※ロタゴニ:ROTAGONITMはIMEC社のトレードマーク)
図10 当社のCMP装置構成と研磨部
図11 CMP装置の変遷
写真7 300 mmCMP装置
当社のめっき装置は,ウェーハ処理の最終段階で最も重要なプロセスの一つであるバンプ形成プロセスで主に用いられている。バンプ形成プロセスは,半導体集積回路の多数の製造工程の全てに合格してきたウェーハを処理するため,極めて高い信頼性が要求される。300 mmウェーハの場合,1枚当たりに100万から200万個のバンプが形成されるが,その全てに対して無欠陥が要求され,バンプの高さや形状の均一性,金属の純度,合金組成の均一性が厳しく求められる。バンプの材料には,主に金,銀,銅,ニッケル,はんだ(半田)が用いられるが,最近は,従来多く用いられてきたはんだバンプに代わって銅バンプ(ポストやポール若しくはピラーとも呼ばれる)が多く用いられるようになっている。また,個片化した半導体チップをウェーハ上に並べて再配線を形成するFan-Outと呼ばれるプロセスにも銅めっきが用いられるようになり,めっき装置はモバイル機器など高集積度化のための3次元実装に対しても大きく貢献している。
当社は,半導体メーカから100 mmSiウェーハに対する金バンプめっき装置の要求を頂いたことがきっかけとなり,1987年にめっき装置の開発に着手した。そして,1990年にめっき装置1号機を完成させた後,1998年に200 mmウェーハ用の全自動めっき装置(UFP-200A型)を,2001年に300 mmウェーハ用装置(UFP-300A型:写真8)をそれぞれ製品化した。また,2014年にはUBM(Under Bump Metal)用無電解めっき装置を開発し市場に投入した。
当社はこれまでに累計100台を超えるめっき装置を全世界に送り出している。
当社の電解めっき装置UFP型は,写真9に示すウェーハホルダにウェーハを装着し,めっき槽内に垂直に設置してめっき処理を行う。
図12にめっき槽の基本構造を示した。めっき液は,循環ポンプで温度調節器とフィルタを経てめっき槽の底部からめっき槽に供給され,めっき槽からオーバフローした後,循環ポンプに戻る。実際のめっき装置では,めっき液はフィルタを出た後に分岐されて複数のめっき槽に供給される。
めっき処理時にはバンプパターンの表面に気泡が発生することがあるが,ウェーハを垂直に配置し,めっき液を下から上に流すことによって気泡が滞留することを防ぎ,バンプ形成における欠陥の発生を防止している。
また,バンプパターンの実際の寸法は,直径が20~200μm,深さが10~220μmと顧客仕様によって大きく異なる。めっき膜厚も5μmから200μmとなり,めっき膜厚が厚い場合にはめっき時間は数時間にもなる。UFP型めっき装置は,このようなめっき条件に対しても,ウェーハの垂直配置によって1台のめっき装置に多くのめっき槽(最大28槽)を搭載することで,装置を大型化せずに,高い生産性を発揮することができる。さらに,ウェーハとアノードの間に撹拌パドルと電場調整板が配置されており,撹拌パドルがめっき液を潤沢にウェーハに供給するとともに,電場調整板が電界分布を最適化することで,高電流密度条件でのめっき処理が可能になり,めっき時間の短縮による生産性の改善を達成している。
ウェーハホルダを用いた当社のめっき方式は,上述のように多くの利点を有する一方で,ウェーハをウェーハホルダに装着する時間を必要とする。これに対して,搬送系の全面的な見直しを行うとともに,28槽で行うめっき処理のスケジュールを最適管理するシミュレータの解析精度の向上を図ることで,搬送時間を1/2以下に短縮した。これによって1時間当たりのウェーハ処理枚数は100枚まで向上し,他社を凌駕する生産性を達成している。また,ウェーハホルダの改良によって,直径や厚みが異なるウェーハにも対応できるようになり,多種多様なウェーハにめっき処理を行うファウンドリから高い評価を頂いている。また,顧客からのプロセス改善要望にはめっき液が深く関わっていることが多く,その改善要望にも迅速に対応するため,めっき液メーカとの協業にも力を入れることによって,ハードだけではなくめっき液に起因するプロセス改善も迅速に対応する体制の構築を進めている。
今後も引き続き,顧客の要求を的確につかみ,生産性の高いめっき装置を提供することで,顧客からの一層の信頼を獲得していく所存である。
[中田 勉]
写真8 UFP-300型
写真9 ウェーハホルダ
図12 めっき槽の基本構造
ベベル研磨装置は,半導体ウェーハのベベル部(外周部)や裏面を研磨加工する装置である。この装置の開発は,2000年,大手半導体メーカの要望から始まった。半導体デバイス構造の微細化と多層化に伴い,それまで問題にならなかったウェーハのベベル部にある残留物,傷の破片,積層膜の剥離片などの各種異物が,ウェーハのハンドリング時や後工程のプロセスにおいて脱落してウェーハ面上に付着し,半導体デバイスの歩留まりに大きな影響を与えることが分かってきたからである(図13)。
当社はCMP装置で培った技術をベースに,研磨テープを採用したスラリーレスの研磨方式によってベベル部を清浄化する技術を完成させ,2004年に200 mmウェーハ用ベベル研磨装置を製品化し,続けて300 mmウェーハ用装置(写真10)を市場に投入した。現在では,多くの半導体製造工場において量産装置として採用されている。
ベベル研磨プロセスは,ウェーハ全面を研磨するCMPプロセスとは異なり,表面にデバイスが形成されたウェーハの外周部だけを研磨しなければならないが,従来技術であるスラリーを使用した研磨方式では,ウェーハに残るスラリー残渣やスラリー中の化学成分によるデバイスパターンの汚染が懸念される。そこで,当社は研磨テープと純水だけでウェーハのベベル部を研磨する方式を採用した。また,テープ研磨方式は,強固に付着した異物を除去することにも向いており,それを可能にする研磨機構及び研磨プロセスを開発した(図14)。
ベベル部の異物を除去する他の方法としては,ウェーハ表面を保護膜や不活性ガスで覆ってベベル部を薬品やガスでエッチングする手法があるが,保護膜の取付け・除去・洗浄の工程が増えることに加え,薬品や高純度の不活性ガスを大量に使うために環境負荷の増加を招いていた。
これに対して,当社のべベル研磨装置は,純水による機械加工のため環境負荷を抑えることができ,保護膜を扱う工程も不要である。また,当社が独自開発した研磨ヘッド機構(図15)は,ベベル部のプロファイルコントロールや平坦部を広範囲に研磨することができるよう設計されており,顧客の様々な要求に応えられることも大きな特長である。
近年この技術は,微細化の進展に伴って問題化しているリソグラフィー工程のデフォーカス(焦点が合わない不具合)の対策技術としても注目を集めている。デフォーカスが起きる原因として,ウェーハの裏面に付着した異物による焦点位置の変化が挙げられるが,既存の洗浄技術では付着した異物を除去できない場合があり,さらにウェーハ表面への薬液の回り込みなどによってウェーハ表面にダメージを与える場合があった。これに対して,当社のテープ研磨方式はウェーハ表面に触れることなくウェーハ裏面に付着している異物の除去が可能なため,デフォーカス対策として非常に有効な技術であることが認められてきており,今後ニーズが高まることが期待される。
[中西 正行]
図13 ベベル研磨装置の構成
写真10 300 mmウェーハ用ベベル研磨装置
図14 研磨テープの構造
図15 研磨ヘッドの機構
回路パターンの微細加工技術の進展によって,半導体デバイスは著しい高性能・高機能化を遂げている。それを高歩留まりで高信頼の製品として市場に提供するためには,高感度な欠陥検査技術が不可欠である。しかし,20 nm以下の配線幅の高微細化が達成された昨今では,これまで使われてきた深紫外線を使った光学式の検査装置の解像度不足が指摘されるようになってきている。
当社は,こうした微細な欠陥を高感度で検出するために,より高分解能の電子顕微鏡を搭載した電子線式欠陥検査装置を2000年から開発してきている。当社の電子顕微鏡は,図16に示すように,撮像する領域全体を一様な電子で照明し,そこから出てくる二次電子などの電子像を拡大投影して撮像カメラで画像を取得する写像投影方式(PEM:Projection Electron Microscope)を採用している。この方式は,細く絞ったビームで領域を画素単位で走査して画像を取得する一般の走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)方式に比べて,撮像領域の画素数分だけ電子の照射時間を長くできるため,小さい電流密度の電子照明でも十分な信号強度の電子画像が取得できる特長がある。このため,SEM方式で高速化をするには,極めて大きな電流密度が必要になり,電子同士の反発作用による限界のために高速化ができなくなるのに対して,PEM式は電流密度の限界に対して十分な余裕があるため容易に高速化を図ることができる。
当社は,電子線式ウェーハ欠陥検査装置を2005年に市場投入した(表)。この装置は,当時の微細化の最先端であった配線幅70 nmの回路パターン上にある40 nm以下の微小な形状欠陥や配線の電気的欠陥(VC:Voltage Contrast)を高感度で検出することができた。2009年には,次世代の半導体デバイスの微細加工技術として期待される極端紫外線(EUV:Extreme Ultra-violet)を用いたリソグラフィ用の電子線式EUVマスク欠陥検査装置を開発した。この装置では,新設計の高引出電界電子レンズや電子画像を直接取り込む新型撮像カメラによって,電子顕微鏡の解像度を従来の約2倍に改善した。また,空気軸受の真空ステージを採用して,画像ノイズとなるスキャン時のステージ振動を従来の1/6まで低減した。これらの改善によって,EUVマスク上の20 nmの欠陥が検出できるようになった。さらに,電子源を点型電子源から面型にすることで,照明電子光学系の効率を1桁以上改善させることができた。これによって,少ない電子源の発生電流からでも十分な輝度の照明電流を得ることができるようになった。
2011年からは,更に高性能化を狙った装置の開発に着手した。EUVマスク上の11 nmの欠陥が検出できるように,30 keVの高エネルギー電子線で像観察ができる高解像度のPEM式電子顕微鏡を国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO:New Energy and Industrial Technology Development Orgnization)及び経済産業省の支援による事業で開発している。この装置では,さらに新開発の高速撮像カメラによって画像処理レートを従来の3倍に高速化し,電子顕微鏡の画素サイズを縮小してもスループットが低下しないようにしている(表)。
PEM式電子顕微鏡のもう一つの特長は,電子画像により表面電位分布情報の取得ができることである。この現象を活用すると,周期パターンのわずかな周期性の乱れや試料表面に薄くついた有機膜汚染といった,従来の検査では発見しにくい重要な欠陥を高感度で検出することができる。当社では,装置の高性能化のほかに,このようなPEM式電子顕微鏡ならではの欠陥検査技術の開発にも積極的に取り組んでいる。
当社は,10 nm以下の配線幅の半導体デバイスを実現する基幹技術として電子線式欠陥検査技術を今後も積極的に発展させていく予定である。
[寺尾 健二]
図16 電子線写像投影方式の基本構成
表 当社の電子線検査装置の変遷
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