近藤 忠
風水力機械カンパニー カスタム事業統括
図1は,火力発電プラント用ボイラ給水ポンプ(BFP)です。このポンプは背面合わせ羽根車配列で軸方向スラストのバランスを取り,高圧対応として二重胴を採用しています。図2では水の流れを説明しています。
高圧ポンプの構造は,多段ポンプであるが故の技術“軸方向スラストのバランス”と,より高圧に対する対応技術“二重胴”が基本となります。ここでは,その技術を少し詳しく説明します。
羽根車が液中で回転すると遠心力によって羽根車出口圧力(揚程)が高くなりますが,この圧力によって羽根車形状寸法に見合った軸方向スラスト(軸方向荷重)が発生します。
多段ではそれぞれの羽根車に同様のスラストが発生するため,羽根車が同一方向配列の場合,スラスト軸受に非常に大きな荷重が作用します。そのため特殊なスラストバランス装置を装備するか,羽根車の配列を背面合わせにして羽根車同士でスラストを相殺する方法が採用されます(詳細後述)。前者がSS型(横形輪切り多段タービンポンプ),後者がSP型(水平割多段渦巻ポンプ)です。加えて,SS型は案内羽根(ガイドベーン)付き輪切りケーシング,SP型は水平割渦巻ケーシング構造です。これらをより高圧対応とするため二重胴としたものがそれぞれDC型,及び図1・2に示すHD(S)B型(HDB:初段両吸込,HSB:初段片吸込,以後まとめてHDBと記載)であり,これら代表4種類がエバラ高圧ポンプの基本形となります。大まかな比較を表に示します。なお,応用型でSSP型,SPR型,SPRB型,SPL型,及び原子力発電用給水ポンプ(RFP)に特化した両吸込単段二重胴渦巻ポンプ(HDR型)や,BFP用ブースタポンプとして使用する場合の単段一重胴渦巻のKS型なども高圧ポンプの仲間として扱います。
図1 ボイラ給水ポンプの構造(HDB型)
図2 ボイラ給水ポンプの水の流れ(HDB型)
※1)初段片吸込:SP型,HSB型,SS型,DC型,初段両吸込:SPD型,HDB型,SSD型,DCD型
※2)上限目安値であり,一部上記数値を超えた実績あり
※3)大型はピストンだけ及びスラスト軸受容量アップ
図3,4それぞれに両吸込及び片吸込羽根車とそれらに作用する圧力分布(青色及び緑色矢印)と軸方向スラストの方向及び定性的大きさ(朱色矢印)を示します。
仕事中の羽根車には,吸込圧力が作用する部分と,吐出し圧力が作用する部分があり,この境界は狭い隙間を有する摺動部によって仕切られます。両吸込(図3)では,右側の摺動径を左側のそれより小さくして,吐出し圧力の作用する範囲を広くすることによって,羽根車全体を左側に押すスラストを発生させています。一般的な単段両吸込ポンプは摺動径を左右対称として,理論的スラストをゼロとしますが,軸を安定させるため,あえてスラストをかける場合があります。多段の高圧ポンプでは,必ず左右径を変えて主軸に対して決まった方向にスラストをかけて主軸に固定しています。
片吸込(図4)の場合は,羽根車吸込側と反対側に吐出し圧(次の段の吸込圧となる)が作用するため,大きなスラストが左側(吸込側)に向かって作用します。
図3 両吸込羽根車
図4 片吸込羽根車
輪切り多段タービンポンプの羽根車は図5に示すように全段同一方向に配列されるため,羽根車による合計スラストは非常に大きくなります。
このスラストを特殊で大掛かりなバランス装置で相殺する方法が採用されます。この装置はバランスピストンとバランスディスクというもので構成されており,理論的に理想的なバランス方法と考えられています。
図6-1はバランス装置と終段羽根車部の部分構造を示しています,図6-2グラフ上の曲線はバランスディスクと,それに対向するバランスシートとの隙間変化に対するバランスピストン+ディスクの合計荷重変化を示しています。羽根車全段の合計荷重は水平線で示され,羽根車荷重は左向き,バランスピストン+ディスク荷重は右向きで,両者の交点が回転体のスラストが釣り合う位置になります。羽根車の荷重(水平線)は運転中の流量変動によってグラフ上を上下に変化します。
羽根車荷重が増加すると図6-2の水平線は上方向に移動し,バランスディスク荷重曲線との交点は左へ移動します。図6-3のように羽根車荷重が増加することによって,羽根車及びバランスピストン+ディスクの取り付けられている回転体が左へ移動し,バランスディスクとケーシングに固定されたバランスシートの隙間が小さくなり,この隙間からの漏れが減少し,バランス中間室の圧力が増加して,バランスディスク荷重が増加します。反対に,図6-4は羽根車荷重が減少して交点が右に移動した場合で,バランスディスクとバランスシートの隙間が大きくなり,この隙間からの漏れも増加し,バランス中間室の圧力が下がり,バランス荷重が減少します。こうしたメカニズムによって,変動する羽根車荷重にバランス荷重が釣り合うよう,それぞれ行き過ぎを修正して常に新しい交点に戻ろうとします。この動作が理想的なバランス方法といわれるゆえんです。
一方,バランスシートの固定用土台となるケーシングが配管荷重や熱不均一によって変形した場合には,バランスシートもそれに応じて傾くことになります。
バランスディスクは,シート面に対して常に平行になろうと回転しながら働いており,しかもこのディスクは二つ割りリングを介して主軸に固定されているため,このような場合には,主軸に対してディスクの直角度が狂うことになり,主軸の荷重受け部(具体的には二つ割りリング溝コーナ部)に過大な曲げ応力が発生する可能性があります。
この可能性は,ケーシングそのものや主軸及びディスク等の加工精度(直角度,平行度)が設計許容値を外れた場合にも同様の懸念があります。
また,当該部の隙間は0.1 mm前後と非常に狭いため流体内に混在する異物を嫌います。これらに対して加工精度,組立精度,使用材料・硬度及びメンテナンスにおける当該部分の検査等にも慎重な配慮が必要となります。
図5 同一向き配列羽根車の軸方向スラストバランス
図6 バランスディスクの動作原理
水平割多段渦巻ポンプの羽根車は図7に示すように背面合わせに配列されるため,片吸込の羽根車同士は左右でスラストが相殺されます。初段両吸込の場合のスラストは前述(1)の考え方に基づいて計算,その他初段スリーブ,バランススリーブ,中央部羽根車ステージピース部(それぞれ冒頭の図1に記載)及び片吸込が奇数段で残った1段羽根車など,相殺されない部分はそれぞれ受圧面積と圧力差から計算し,回転体全体としてバランスするよう摺動直径を設計します。
主軸に作用するスラストが分散されることと,バランスディスクを装備しないことで,前述の輪切り形に対して主軸の設計は比較的単純です。
図7 背面配列羽根車の軸方向スラストバランス
SP型のようにケーシングが一重胴の場合は内部が高圧,外側大気圧のためケーシング合わせ面は開こうとします。この圧力に耐え,かつ高圧流体が外部あるいは羽根車各段間同士を仕切る面から漏れないよう,複雑な通路を避けながら周囲にボルトをまんべんなく配列します(図8)。更に高圧になるとボルトサイズや本数が増加し配列が不可能になってしまいます。
二重胴では,内部ケーシングを外胴の中に閉じ込めることによって,内部ケーシングの外側をポンプ最終段の吐出し圧力で満たして内部ケーシングに外圧を作用させ,合わせ面の密着力を高め,シールを確実なものとします。これがHDB型(図9)です。外胴に内部エレメント(内部ケーシングと回転体を組み立てたもの)を挿入後に厚いカバーと十数本の太いボルトでガスケットを締めつけますが(図10),外胴は単純な円筒形状であるため,一重胴では設計不可能な圧力に対応できるわけです。輪切り一重胴SS型を同様の原理で二重胴としたものがDC型です。
図8 SPD型下ケーシングボルト配列例(耐圧15 MPaの例)
図9 HDB型の縦断面
図10 HDB型(外胴耐圧55 MPaの例)
短い紙面でしたが,本稿前半では私たちの生活に関わる高圧ポンプを,後半では高圧ポンプ構造の基本を紹介しました。少しは理解いただけたでしょうか。
エバラの高圧ポンプは,どの分野に於いても世界トップレベルにあると筆者は自負しています。それはここに述べた基本技術だけではなく,実は細部にわたる設計・製造上の多くのきめ細かい配慮やノウハウによって構築され,その実績が顧客から評価されることによってなされてきたものと信じています。これらは長年の経験と,ときには顧客との協働によって築き上げてきた結果でもあります。
今後も現状に満足せずに,更なる高圧ポンプの発展を目指してものづくりをすることで,次の世代においてもエバラの高圧ポンプが社会を支えて活躍することを,技術の一員として願うものです。
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