吉川 成 Shigeru YOSHIKAWA
風水力機械カンパニー カスタムポンプ事業統括 企画管理統括部
ボイラ給水ポンプ(BFP)は,火力発電所の心臓部に相当する極めて重要な補機の一つであり,事業用火力発電設備の大容量化,高温高圧化,運用方法の変化,と歩調を合せて,改良・進歩の歴史を歩んでいる。BFPの大型化・高圧化の変遷と主な仕様,従来型超臨界圧火力及びコンバインドサイクル火力それぞれの発電所向けBFPの代表的な構造,材料,軸封及び軸受の特徴,BFPの大容量・高性能化開発や100%容量BFP開発と納入実績,再生可能エネルギー導入に伴う火力発電所運用方法の過酷化に適応するBFPの耐力向上のための構造設計改良,並びに原価低減や省スペース化のためのBFP設計合理化への取組み事例について解説する。
In a thermal power plant, the boiler feed pump (BFP) is one of the critical auxiliary machines that are equivalent to the heart of the plant. In pace with the increases in the capacity of equipment for thermal power generation, improvements to adapt to higher temperatures and pressures, and changes in operation method, BFPs have been improving and advancing. This paper explains how BFPs have been upsized and made compatible to higher pressures; main specifications of BFPs; structures and materials of typical BFPs for conventional supercritical thermal power plants and for combined-cycle thermal power plants; characteristics of the shaft seal and bearing; technological development for higher capacities and performance; actual development and delivery of 100%-capacity BFPs; improvements to the structure design for increasing the stress resistance of BFPs so that they can adapt to more severe conditions in the operation of thermal power plants associated with the spread of renewable energy; and examples of efforts to streamline the BFP design for manufacturing cost reduction and space saving.
Keywords: Feed water pump, High pressure, Efficiency, Super critical thermal power, Combined cycle thermal power, Reliability, Specific speed, Shaft strength, Bearing, Double casing
本稿では,高圧ポンプの主用途である火力発電用ボイラ給水ポンプ(以下BFPと呼ぶ)について,その変遷や構造・技術上の特徴について概説する。
BFPは,火力発電所の心臓部に相当する極めて重要な補機の一つである。火力発電では,高圧蒸気でタービンに動力を与えて,タービンと直結された発電機が回転することによって発電を行う。ここで使われる蒸気は,BFPによってボイラへ高温の水を送り込むことでつくることができる。したがって,万一BFPが計画外停止すると,発電を行うことができなくなることから,BFPには極めて高い信頼性が必要である。
また,近年において,再生可能エネルギーの普及に伴い,火力発電には,発電系統安定化のための負荷調整機能,急速負荷変化対応など,過酷な運用方法への対応が求められている。BFPについても,部分負荷運転や,起動停止頻度の増大など運転条件が厳しくなり,より一層の高機能・高信頼性が要求されている。
BFPは,ボイラへ高温高圧水を送るポンプであるから,その変遷はボイラの大容量化,高温高圧化と密接な関係がある。
ボイラなど事業用火力発電設備の単機容量は,設備費率の低減(スケールメリット)を目的として大容量化が図られると同時に,熱効率の向上を目指して蒸気条件の高温高圧化が行われてきた1)。
日本国内における歴史をたどると,1955年には単機最大容量は66 MWであったが,1965年に325 MW,1969年に600 MW,1974年には1000 MW機が運転開始され,急速に大容量化の道を歩んできた。1980年以降には,単機容量600 MW以上のユニットが主流となり,1990年以降には多数の1000 MW級ユニットが建設されている。
蒸気条件の推移に関しては,1959年には我が国初の蒸気圧力16.6 MPa(タービン入口)のユニットが製作された。その後,より高い発電効率を達成するため,1967年には我が国初の超臨界圧定圧ボイラが運転開始された。さらに,超臨界圧化は急速に進行して,1974年に建設された発電ユニットにおいては82%を占めるに至った1)。
単機容量1000 MW級の超臨界圧ボイラに使用されるBFPは,その要項が流量約1700 t/h,吐出し圧力約30 MPa,軸動力約20000 kWに達する。このような高圧力を実現するため,BFPの回転速度は5000~6000 min−1の高速回転となる。BFPと駆動機の組合せは50%容量の蒸気タービン駆動(T-BFP)2台,起動及び予備用の増速ギア付電動機駆動(M-BFP)1台とするのが一般的となった。図1に,ボイラ圧力の増大とBFP吐出し圧力の関係を示す2)。
なお当社は,超臨界圧,超々臨界圧(USC注1)発電ユニットのいずれも,その国内初号機にBFPを納入している。また,1000 MW発電ユニットにも国産としては初めてとなるBFPを納入した実績を有する。
1980年代に入り,原子力発電所が多数建設されてベースロード運用を担うようになったことに伴い,事業用火力では,中間負荷運用に対応したユニットが多数となり,中間負荷域においても高効率を維持可能な超臨界圧変圧貫流ボイラが主流となった。これに伴い,電動機駆動についても可変速仕様が要求されるようになり,増速歯車内蔵の流体継手付きのものが採用されるようになった。
熱効率向上の取組みは,継続して行われており,1989年には主蒸気圧力31.1 MPa,主蒸気温度566 ℃の,700 MW超々臨界圧(USC)プラントが運転開始されている。
注1:Ultra Super Critical
表1に,このプラントにおけるBFPの仕様を示す2)。
図1 ボイラ圧力と給水ポンプ吐出し圧力
用途 | 主給水 | 起動及び予備 | |
容量 | t/h | 1200 | 730 |
吐出し圧力 | MPa | 38.05 | 37.26 |
回転速度 | min−1 | 6000 | 6300 |
水温 | ℃ | 188.4 | 184.1 |
駆動機 | 蒸気タービン | 電動機(流体継手付) | |
出力 | kW | 17500 | 12000 |
台数 | 2 | 1 |
このような従来型(コンベンショナル)火力発電システムの大容量化,高温・高圧化の動きと並行して,1980年代半ばには,より高効率な火力発電システムとして,ガスタービン燃焼サイクルとその排熱を利用した蒸気タービンサイクルを組み合わせた複合サイクル(コンバインドサイクル)発電が実用化された。
タービン翼の冷却及び耐熱技術開発が継続して行われ,ガスタービン燃焼温度上昇によって,発電効率が更に向上し,最新のコンバインドサイクルプラント(1600 ℃級ガスタービン)では送電端効率が60%に達するようになった。
また,ガスタービン燃料に二酸化炭素排出量の少ないLNGを使用することと併せて,環境負荷の低い火力発電システムとして,近年数多く建設されるようになっている。このコンバインドサイクルプラントでは,排熱回収ボイラ(HRSG注2)へ水を送るためのBFPが必要となる。
注2:Heat Recovery Steam Generator
超臨界圧やUSCプラントのBFPに要求される吐出し圧力は,30~35 MPa程度の高圧で,給水温度も180 ℃以上の高温となる。BFPは,高圧・高温仕様に適応するように設計された二重胴バレル型多段ポンプが使用される。剛性の高い鍛造製の円筒形外胴の中に,内部ケーシングと回転体が一体となって組み込まれ,外胴の一端が,吐出しカバーとボルトによって締め付けられた構造を有する。外胴,吐出しカバー,吐出しノズルの肉厚や,カバー締付ボルトのサイズ・本数は,設計圧力(吐出し最高使用圧力)に対して十分な強度を有するよう,発電用火力技術基準などの公的規格に準拠して設計される。
外胴は単純な肉厚円筒で高圧とその変動に対して安定しており,吐出しカバーとの間に渦巻ガスケットを挿入して締付ボルトで固定することで,給水の外部への漏れを防止する。締付ボルトは,油圧式レンチ,ボルトヒータ,あるいはボルトテンショナを使用して伸び管理を行い,締付力が適正に得られるようにする。
吐出しカバー側又は必要圧力に応じて吸込側から中段抽出フランジを設けて中間圧力を取り出し,再熱器冷却スプレーなどに供することが可能である。
内部ケーシング及び羽根車などハイドロ部品の構造には,水平二つ割・羽根車背面合せ・渦巻型のものと,輪切り型・羽根車一方向配列・ディフューザ型のものがある。後者の場合はバランスデイスクなどのスラストバランスのための部品が必要となる。
耐圧部品である外胴・吐出しカバーには,鍛造炭素鋼が用いられ,ガスケット面や高流速部にオーステナイトステンレス鋼を盛金して侵食を防止する,内部ケーシングや羽根車には13Crあるいは13Cr-4Niのマルテンサイト系ステンレス鋳鋼が用いられる。
国内事業用火力においては高速・高圧条件に対して摩耗が少なく連続運転に適する非接触型のスロットルブッシュやフローティングリングが用いられることが多かったが,近年,特に海外プラントでは,メカニカルシールが採用されることが多い。軸受に関しては,強制給油方式が採用される。
図2にコンベンショナル火力向けBFP構造図の代表例を示す。
図2 超臨界圧火力向け二重胴バレル型BFP構造(例)
コンバインドサイクル火力向けのBFPは,廃熱回収ボイラへ水を送る。要求される吐出し圧力は15~20 MPa程度で,給水温度も150 ℃程度と,超臨界圧火力プラントに比較するとかなり低い。このため,ケーシング構造は,一重胴輪切り型多段ポンプが多く使用される。ただし,プラント急速起動や給水温度急変への追従性が要求されるため,熱応力・変形解析評価が必須の技術となる。輪切り型ケーシングは,吸込ケーシング・吐出しケーシング・中胴・中間抽出ケーシングがケーシングボルトで締め付けられ,各ケーシング間の接合部は,メタルタッチでボルトの締付け面圧によってシールするのが基本構造である。しかしながら,熱変形解析結果によっては,必要に応じOリングを装着することで熱過渡時にも給水の外部への漏れを完全に防止する構造を採用する。
コンバインドサイクルプラントの排熱回収ボイラは,高圧・中圧・低圧ドラムの3段構造が多く,BFPの途中段から中間圧の給水を抽出して,中圧ドラムへ給水する構造とする。つまり1台のBFPで中圧・高圧給水を賄うことができる。吸込ケーシングから中圧・高圧給水の合計流量を吸い込み,抽出段から中圧ドラムへの給水量を抽出した後の段においては,高圧ドラムへの給水量だけを昇圧する。このため,抽出前後段で異なるNs(比速度)の羽根車及びディフューザを適用することが多い。
ポンプ分類は,輪切り構造ディフューザポンプである。全ての羽根車が一方向に配列されるためスラストバランス部品が必要となる。バランス部品には,バランスディスク型とバランスドラム型の2種類がある。バランス部品から漏れた水は,通常吸込側に戻す。バランス部品では圧力が低下することで水の温度上昇が起る。温度上昇を加味した水の飽和蒸気圧力が吸込圧を上回ると,水がフラッシュしてそのままポンプ吸込みへ戻るとポンプの健全な運転に支障を来たす。その場合は,バランス配管を脱気器へ戻すように配管する。
両吸込として流量を半分にすることで,必要NPSHを小さくすることができるので,初段だけを両吸込とした構造のものが多く使用される。
耐圧部品である吸込・吐出しケーシング及び抽出ケーシングには,13Cr-4Niステンレス鋳鋼が,中胴には13Cr-4Niステンレス鋼が用いられる。
軸封装置には,超臨界圧プラント向けBFPと比較すると,若干圧力や周速条件が緩やかなことから漏れ量の少ないメカニカルシールが採用される。軸受に関しては,強制給油方式が採用されるが,超臨界圧コンベンショナル火力向けに比較すると周速条件が緩やかであることから,後述するように自己潤滑方式の採用もある程度まで可能である。図3にコンバインドサイクル向けBFP構造図例を示す。
図3 コンバインドサイクルプラント向けBFP構造(例)
火力発電設備の大容量化・高圧化に伴い,BFPも大型化・高圧化の歴史を歩んできた。BFPは,ボイラに要求される高圧力を作り出すため,火力発電所で使用されるポンプの中でも,最も消費動力が大きくなる。このため,BFPの効率向上は環境負荷軽減のためにも欠かせない命題といえる。BFPに使用される羽根車は,その比速度Nsがおおよそ120~250(m3/min,m,min−1)の範囲の遠心ポンプである。一般的に,この範囲においての比速度は大きいほうが,また同一比速度においては流量の多いほうが,ポンプ効率は高くなる。50%容量の主給水ポンプとしてBFP2台が通常採用されるBFP構成であるが,これを100%容量1台とすることで,大容量化・高比速度による効率向上を図るとともに,省スペース・省資源化に寄与することも可能となる4)。
国内では,500 MW及び600 MW超臨界圧火力向け主給水ポンプを100%容量1台の仕様で設計製作納入した実績があり,順調に運転されている。また,一部の国・地域においては,1000 MWプラントで100%容量主給水ポンプ1台での仕様が実用化されており,当社も最近この仕様に対応した大型BFPを製作納入した。このBFPの概略仕様を下記に示す。また,このBFPの出荷前の写真を図4に示す。
容量3200 t/h×全揚程3800 m×軸動力37700 kW×回転速度5000 min−1
比速度 約250(m3/min,m,min−1)
大容量・高比速度化は,一般的にポンプ効率にとって有利である。一方,大容量化に伴う軸動力の増大に伴い,回転速度が50%容量BFPと同じである場合,トルクが大きくなる分,必要な強度を維持するための主軸直径は従来に比較して太くなる。同一回転速度で同一揚程とすれば羽根車の直径は変わらないので,主軸が太くなる分,羽根車子午面流路が邪魔された形となる。このため,主軸の流路表面や羽根車から出た水の流れを減速して圧力に変換するボリュート及び段間流路を含めたハイドロ形状について,非定常流れ解析を含むCFD注3を駆使して,高効率を達成するための最適形状を求めた。
また,主軸径に関しても,主軸強度解析によって50%容量(従来実績設計)からの軸径増大が最小限となる最適径を求めた。100%容量BFPの場合は,1台仕様であるので,万一BFPが計画外停止すると,プラント発電容量を100%喪失するので,主軸各部が十分な強度を保持できるように考慮したことは言うまでもない。
注3:Computational Fluid Dynamics
表2は,代表的出力・規模の発電所に納入したBFPの性能比較である。BFP軸動力は,プラント出力の約3.5~4%を占めており,大容量化による効率上昇で軸動力比を低減することも可能である。500 MW仕様の場合は,100%1台とすることによって,BFP軸動力のプラント定格出力に対する比の約0.5ポイント削減を達成している。ただし,同じ出力であっても,水温(密度)や,容量,全圧力に違いがあるため,一概に軸動力比だけで比較することはできない。効率に着目すると500 MWの場合には,2台仕様の効率82%に対して1台仕様で前述のとおり86%と4ポイントの向上が達成されている 4)。
図4 1000 MW超臨界圧火力向け100%容量BFP
プラント定格出力 | 容量 | 全圧力 | 回転速度 | 軸動力 | 効率 | 台数 | 出力比 |
MW | t/h | MPa | min−1 | kW | % | 台 | % |
500 | 890 | 29.67 | 5500 | 9999 | 82 | 2 | 4.00 |
500 | 1630 | 30.1 | 5500 | 17747 | 86 | 1 | 3.55 |
600 | 1000 | 30.1 | 5500 | 11157 | 83.5 | 2 | 3.72 |
600 | 1860 | 33.2 | 5000 | 22589 | 85.3 | 1 | 3.76 |
700 | 1120 | 30.6 | 5500 | 12711.7 | 85 | 2 | 3.63 |
1000 | 1650 | 30.5 | 5500 | 18393.3 | 86 | 2 | 3.68 |
1050 | 1700 | 31.2 | 6000 | 19279.5 | 85.5 | 2 | 3.67 |
近年,太陽光,風力などの再生可能エネルギーが多く導入されるようになってきた。再生可能エネルギーは,化石燃料を使わず,発電に伴う二酸化炭素を排出しないので,地球温暖化防止対策の一つとして今後も普及が進むと考えられる。一方,太陽光・風力は天候や風況といった気象条件によって発電出力が大きく変動するので,電力系統の安定運用が困難となる短所を抱えている。これに対して,火力発電所には,より高い需給調整機能を備えた柔軟な系統運用が求められるようになってきた。具体的には,負荷変化速度の向上,最低負荷率の低減,起動時間の短縮である。
このような火力発電所の需給調整対応化に伴いBFPについても,起動停止頻度の増大,給水温度変化,小水量運転頻度の増大など運用条件が過酷化している。これに対応して,構造,材料,設計面での見直しを行い,BFPの耐力(ロバスト性)向上を図る取組みが行われてきた。図5は,上記の運転条件に適合するように構造及び設計上の対応を適用したBFP構造の一例である。また具体的な改良対策項目と,対処となる事象や原因について表3に示す(表中一部の対策は,必ずしも運転条件過酷化対応に限るものではないが,全般的なBFP機能信頼性向上の一環として導入してきたものである5))。
図5 耐力向上施策を適用したBFP構造例
No注4 | 劣化事象 | 原因 | 耐力向上策 |
① | 吐出しノズルの減肉 | 高速流,偏流による浸食 | 内面にオーステナイトステンレス鋼を盛金 |
② | 内胴高差圧部の浸食 | 起動停止頻度増大に伴うメタルタッチシール又は自緊式ガスケットのシール性低下 | 補助Oリングの併用 |
③ | 初生キャビテーション | DSS運用等に伴う小水量運転時間の増大 | 一段目羽根車入口を小水量設計のものと交換 |
④ | 小配管取付部のクラック発生 | 小水量運転時間の増大等に伴う脈動影響 | 管台を剛性の高い構造に変更 |
⑤ | 芯ずれによる振動 | 起動停止頻度増大に伴う配管荷重の変化 | 振れ止め装置の設置 |
⑥ | 軸受振動の増大 | 小水量運転時間の増大等に伴う脈動影響 | 全円型軸受胴体に変更 |
⑦ | 軸受メタルの損傷 | 潤滑油中の異物介在による13Cr鋼特有のワイヤウール損傷 | 主軸ジャーナル部に炭素鋼を盛金 |
⑧ | 突変振動発生 | ギアカップリング歯面の滑り不良によるトルクロック | フレキシブルディスクカップリングに更新 |
⑨ | スラストデイスクはめあい部のフレッテイング | 軸端ナット締付力の低下。デイスク当たり面の経年変形によるデイスク固定の緩み | ロッキングスリーブ型軸端ナットの採用 つば付スラストデイスクの採用 |
⑩ | 中段抽水メカ部品の劣化 | 吸込カバー側に取り付けられ,内胴回転体取り出しに必要ないため長年未点検となる | 吐出カバー側から取り出す構造として,抽水管及び抽水メカ部品を廃止 |
注4:No.は図5中の番号が示す部分
既に述べたとおり,BFPは火力発電システムの主配管系統における心臓部の機能を担うものであるから,高度の機能・信頼性が要求される。一方で,できるだけ廉価に電力を供給することも,特に電力需要が逼迫していて新規火力発電所の建設が多く予定されている新興国にとっては重要なことである。このため,発電プラント機器構成簡素化への協力や機器の原価低減に努めることもポンプメーカに求められる課題のひとつである。
ここでは,BFPの合理化への取組みをいくつか紹介する。
超臨界圧火力向けBFPは,回転速度が5000~6000 min−1と高速であり,必要NPSH(NPSHR)は高くなる。発電容量が大きくなるほどBFPの流量も増えるので,NPSHRは更に高くなる。これに対して,BFPに与えられる有効NPSH(NPSHA)は脱気器の据付高さで決まり,通常20~25 m程度である。このため,連絡配管を介してBFPの上流側にブースタポンプを設置して,BFPのNPSHRを確保することが通常である。
これに対して,BFPの初段羽根車をインデューサ付としてNPSHRを下げ,ブースタポンプと連絡配管を廃止する設計も一部プラントの起動用M-BFPにおける実用例がある。これによって省スペース・省資源化によるプラント建設費低減につながっている。図6は,インデューサ付BFPの構造図例である 4)。
図6 インデューサ付BFP
図2,6,7に紹介するBFPは,いずれも内部ケーシング(内胴)が上下二つ割構造のものである。この構造のBFPは,図7に示すように,内胴の上半分を分解することで,主軸・羽根車を回転体として組み立てられた状態で取り出すことが可能なので,発電所現地における点検作業が容易になるという長所があり,これまで国内外の発電所に数多く採用されてきた。しかし,内胴は複雑な構造の鋳鋼であるため,製造原価が高いという短所がある。これに対して,内部ケーシング(中胴)が輪切り型のものは,高価な内胴を必要としないことと,同一性能(圧力)で比較した場合,内部ケーシング直径は若干小型にできるため,外胴の直径も小さくできるという原価面での長所がある。しかし,回転体を点検するためには,一度中胴・回転体を縦置きにした上で,一段ごとに,中胴・ガイドベーン・羽根車を主軸から抜いていくという作業が必要になり,現地での点検が困難という短所があった。これに対して,中胴・回転体に外胴カバー,軸受・軸封部品を含めた外胴以外の部品を,一体で外胴から抜き出し可能なフルカートリッジ構造とすれば,フルカートリッジ部を工場へ返送することで,現地での点検を不要とすることが可能となる。当社では,350 MW超臨界圧100%容量(700 MW超臨界圧50%容量と同一)輪切り型二重胴BFPの製造納入実績を有する。図8はフルカートリッジ型二重胴輪切り型BFPの組立時と分解時の状態を示したものである。
図2 超臨界圧火力向け二重胴バレル型BFP構造(例)
図6 インデューサ付BFP
図7 内胴分解と回転体取り出し
図8 フルカートリッジ構造,輪切り型BFP
BFPは,高回転速度・高出力であるため,軸受給油方式として強制給油潤滑を用いる。潤滑装置(潤滑ユニット)には主油ポンプ(MOP)と起動及びバックアップ用の補助油ポンプ(AOP)が設置される。基準給油圧力は0.08~0.12 MPaである。運転中油圧が低下(0.05 MPa)した場合,潤滑油給油配管に設置された圧力スイッチ又はトランスミッタによって警報を発し,同時に補助油ポンプを自動起動させる。更に油圧が低下した場合(0.03 MPa)は軸受保護安全のために給水ポンプを停止させる。潤滑装置には,潤滑油を貯蔵する油タンク,油圧調整弁,油冷却器,切替え式フィルターなどの機器類が設置される。通常の油タンクは,油ポンプ流量の3倍以上の容量を必要とする。計装品として,前述の油圧監視のほかに,フィルター差圧,油タンクの油面,油温などの監視計器が必要となる。これらの機器,計装品を備えた給油ユニットは,据付面積や製造原価の点で大きな比率を占めるので給油方式の合理化を考えることは意義がある(図9)。
強制給油を必要とするのかあるいは自己潤滑方式の採用が可能なのかの選定基準は,ラジアル軸受部分の周速やスラスト軸受形式による。超臨界圧火力向けBFPの場合は,回転速度が5000 min−1級の高速であり,軸動力も大きいことから,今後も強制給油が必要であると考える。タービン駆動の場合は,タービン側から潤滑油が供給され,流体継手付き電動機駆動の場合には,流体継手から潤滑油が供給されるので,ポンプ軸受の潤滑方式が,製造原価や設置面積に影響を及ぼすことはない。
一方,コンバインドサイクルプラント向けの場合,BFPは通常,2P電動機直結駆動であり,出力も2000~2500 kW程度と,超臨界圧火力向けBFPに比較すると小さい。タービンや流体継手がないことから,別置きの給油ユニットが必要となり,軸受を自己潤滑方式とすることができれば,据付面積縮小という面での合理化を図ることも可能となる。現在は,実績選定基準に基づき,強制給油方式を採用しているが,自己潤滑機構の改良,軸受冷却構造の改良によって,自己潤滑方式適用範囲を広げていくことが可能と考える(図10)。
図9 ボイラ給水ポンプ 外形図(給油ユニット付)
図10 自己潤滑軸受
事業用火力発電に用いられるボイラ給水ポンプ(BFP)の変遷,特徴,技術改良について概説した。BFPは,事業用火力発電設備の大容量化,高温高圧化,運用方法の変化と歩調を合わせて,改良・進歩の歴史を歩んできた。電力需要増大への対応と環境負荷低減の両立を図っていく中で,火力発電は,今後ますます重要な役割を担うと考える。我が国などにおいては,再生可能エネルギーとの併用における負荷調整運用柔軟化,産油国などにおいてはCCS(二酸化炭素分離回収貯蔵)の導入による二酸化炭素排出抑制などの技術導入が進むと考えられる。このような市場環境変化に対応し,火力発電設備の心臓部ともいえるBFPについても,更なる効率向上,信頼性向上,原価低減など,その技術開発により一層努力していく必要がある。
1) 火原協会講座32 ボイラ(平成17年度版)概説1「発電用ボイラのすう勢と技術開発の現状」(平成18年6月発行,一般社団法人 火力原子力発電技術協会).
2) 火力原子力発電 入門講座 ポンプ及び配管・弁「Ⅲ ボイラ給水ポンプ」(No.595 Vol.57 平成18年4月号,一般社団法人 火力原子力発電技術協会).
3) 火力発電技術必携(第8版) 「8.ポンプ」(平成27年度改訂版,一般社団法人 火力原子力発電技術協会).
4) 吉川,「ボイラ給水ポンプ高性能化」,ターボ機械 2008年11月号.
5) 火原協会講座27 発電設備の予防保全と余寿命診断「2−3 ポンプ」(平成13年6月,一般社団法人 火力原子力発電技術協会).
藤沢工場ものづくり50年の歴史
1966年頃の藤沢工場
縁の下の力持ち 高圧ポンプ -活躍場所編ー
100万kW火力発電所内で活躍する50%容量ボイラ給水ポンプ
RO方式海水淡水化用大容量、超高効率高圧ポンプの納入
長段間流路内の流線と後段羽根車入口の流速分布
縁の下の力持ち ドライ真空ポンプ -真空と真空技術の利用ー
真空の領域と用途例
座談会 エバラの研究体制
座談会(檜山さん、曽布川さん、後藤さん)
縁の下の力持ち 標準ポンプ -暮らしを支えるポンプー
標準ポンプの製品例
座談会 未来に向け変貌する環境事業カンパニー
座談会(三好さん、佐藤さん、石宇さん、足立さん)
世界市場向け片吸込単段渦巻ポンプGSO型
GSO型カットモデル
エバラ時報に掲載の記事に関する不明点やご相談は、下記窓口よりお問い合わせください。
お問い合わせフォーム