川﨑 裕之* Hiroyuki KAWASAKI
黒岩 聡** So KUROIWA
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風水力機械カンパニー 標準ポンプ事業統括 開発設計統括部 標準ポンプ開発設計第二室
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同 同 企画管理統括部 事業企画室
グローバル市場向け基幹製品として,新型ステンレス鋼製立形多段ポンプEVMS型を発売した。工業用水,冷温水循環,ボイラ給水,建築設備向けの飲料水給水,及び純水製造装置などの幅広い用途に使用されている。羽根車の主板形状を独自の形状にすることで,アキシアルスラスト力を大幅に低減させ,高アキシアルスラスト力対応の専用軸受を用いない標準電動機の選定を可能とした。また,配管バリエーションを充実させ,各種配管接続への適用を可能とした。
As key products for the global market, new model EVMS stainless vertical multi-stage pumps have been released. This model can be used in a wide range of applications including industrial water, cold and hot water circulation, boiler feed, drinking water feed for building facilities, and water purification equipment. Thanks to the unique shape of its impeller main shroud, the model greatly reduces the axial thrust force and can be used with standard motors, which have no special bearings for high axial thrust force. In addition, the model offers increased compatibility with a variety of pipes so that it can be connected to a various kinds of piping.
Keywords: Vertical, Multistage, Stainless, Impeller, Thrust force, Axial force, Bearing, Motor, Efficiency, Connection, Unique shape
立形多段ポンプは,インライン構造でコンパクトかつ軽量性を実現しており,据付面積が小さい利点を生かし,工業用水,冷温水循環,ボイラ給水,建築設備向けの飲料水給水,及び純水製造装置などの幅広い用途に使用されている。当社は立形多段ポンプの先駆けとしてVDP型を1998年から国内市場向けに製造,販売を開始しており,またそれを,グローバル対応機種EVM型へモデルチェンジし,2003年から国内外へ展開している。
この度開発したEVMS型は,イタリアのEBARA PUMPS EUROPE S.p.A.社と当社が共同開発を行ったもので,従来のステンレス鋼製立形多段ポンプEVM型のフルモデルチェンジである。このモデルチェンジでは,羽根車のデザインを一新し,羽根車の多段化に伴い発生する多大なアキシアルスラスト力の抑制と,ポンプ性能向上を同時に図っている。また配管接続のバリエーションを増やし,主にセット機器メーカの要求に対応可能とした。
本稿では,グローバル市場向け立形多段ポンプEVMS型の製品概要及び特長について紹介する。
立形多段ポンプEVMS型の外観の一例を図1に,製品仕様を表に,性能範囲を図2,3に,構造を図4に示す。
図1 グローバル立形多段ポンプEVMS型外観
項目 | EVMSG型 | EVMS型 | EVMSL型 | |
用途 | ボイラ給水,クーラント | 飲料水給水,給湯 | 純水製造装置 | |
取扱液 | 液質 | 工業用水 | 清水 | 純水 |
温度 | −30 ℃~140 ℃[−15~120 ℃] | |||
口径(mm) | 25,32,40,50 | |||
吸込全揚程 | −6 m(20 ℃) : 25S/25/32/40 | |||
−5 m(20 ℃) : 50/50 L | ||||
最高使用圧力 | 1.4/2.5 MPa | |||
標準許容押込圧力 | 最高使用圧力−締切圧力 | |||
構造 | 羽根車 | クローズド,片ライナ | ||
中間ケーシング | 戻し羽根方式,輪切型 | |||
ライナーリング | フローティング型 | |||
下部ケーシング | インライン型 | |||
メカニカルシール | カートリッジメカニカルシール | |||
玉軸受 | 密封玉軸受(電動機内) | |||
すべり軸受 | 水中スリーブ軸受 | |||
配管接続 | Oval/DIN/ANSI | Oval/DIN/ANSI/JIS/ハウジング形管継手 | ||
材料 | 羽根車 | SUS304 | SUS316 | |
中間ケーシング | SUS304 | SUS316 | ||
ライナーリング | SUS304+PPS | |||
下部ケーシング | FC250 | SUS304 | SUS316 | |
すべり軸受 | タングステンカーバイド | |||
主軸 | SUS304/SUS329 | SUS316/SUS329 | ||
軸スリーブ | SUS304 | SUS316 | ||
メカニカルシール | SiC/カーボン/FPM | |||
Oリング | EPDM:standard,FPM:optional[FPM] |
出力範囲 | 0.37~18.5 kW | |||
相・極数 | 3相・2極 | |||
電圧 | 200 V・50 Hz | |||
200/220 V・60 Hz | ||||
形式・保護方式 | 全閉外扇形・IP55 | |||
効率レベル※※ | IE3 プレミアム効率 | |||
設置場所 | 屋内,屋外 |
図2 性能範囲(50 Hz)
図3 性能範囲(60 Hz)
図4 EVMS型代表機種構造図
ポンプに使用する材料別に,主に工業用水等に用いられるSUS304(AISI304)/鋳鉄仕様であるEVMSG型,飲料水給水用等に用いられるSUS304(AISI304)仕様であるEVMS型,及び純水製造装置用等に用いられるSUS316(AISI316)仕様であるEVMSL型をそれぞれラインナップした。
機種構成は,従来EVM型の4機種(EVM3,5,10,18型)に対し,低水量側のEVMS1型及び大水量側のEVMS20型を増やし,6機種(EVMS1,3,5,10,15,20型)とした。なお機名に付与されている数字(例えば3)は,単位時間当たりの呼び吐出し量(m3/h)を表している。
揚程は,各機種200 mクラスまで取りそろえており,電動機は,最大18.5 kWまで使用する。
口 径:25,32,40,50 mm
流量範囲:0.012~0.48 m3/min(50 Hz)
0.013~0.56 m3/min(60 Hz)
構造は立形で,下からインライン形下部ケーシング,羽根車・中間ケーシング類及び外ケーシング,モータブラケット・カートリッジメカニカルシール,カップリング,電動機で構成している。
下部ケーシングは,ステンレスプレス製と鋳鉄製がある。ブラケット部は内圧や運転トルク,モータ自重を支えるモータブラケットと,接液部の防せいのためステンレスプレスで成形したケーシングカバーで構成されている。またこのケーシングカバー部に,従来の呼び水栓に加え,空気抜き栓を取り付け,確実な空気抜きを可能としている。
羽根車はすべてステンレスプレス製クローズド羽根車を使用している。また,中間ケーシングには羽根車から出た流体を次段に導く戻し羽根が配置されている。
電動機のトルクはカップリングを介して主軸に伝達される。主軸はスプライン軸で各羽根車にトルク伝達している。ポンプ部内部には必要に応じて超硬合金(タングステンカーバイド)製水中軸受を配置して,軸の振れを抑制している。ポンプ運転中に主軸に加わるアキシアルスラスト力は,電動機内部の密封玉軸受で受けている。アキシアルスラスト力の低減方法については次項の特長で詳しく述べる。
遠心羽根車を液中で回転させると,その遠心作用によって吐出し圧力が発生する。その吐出し圧力と吸込圧力の圧力差によって羽根車にアキシアルスラスト力が作用する。羽根車が多段に配置される場合,そのアキシアルスラスト力は段数に比例し増大する。従来EVM型は,多大なアキシアルスラスト力を受けるポンプ側軸受と,それを支えるポンプ側軸受ハウジングを用意するか,または電動機内蔵の軸受に高アキシアルスラスト力対応の専用軸受を用いて対応していた。図5にアキシアルスラスト力の作用方向と,その対策であるポンプ側軸受の配置状態を示す。
図5 従来EVM型アキシアルスラスト対策
羽根車に作用するアキシアルスラスト力を説明するために,まず従来EVM型羽根車の主板側から見たものを図6に,羽根車に作用するアキシアルスラスト力の状態を図7に示す。また主板側に作用する圧力分布を図8に示す。図8に示すとおり圧力は主板外周側で最も高くなっていることが分かる。
図6 従来EVM型羽根車(主板側から)
図7 従来EVM型羽根車アキシアルスラスト力
図8 従来EVM型羽根車主板部圧力分布
今回開発した新型羽根車は,圧力の最も高い主板の一部を削除し,羽根車主板形状を独自の形状にすることで,運転時羽根車に作用するアキシアルスラスト力を低減させたものである。図中の青線が,新型羽根車主板の独自形状である。新型羽根車の主板側から見たものを図9に,新型羽根車に作用するアキシアルスラスト力の状態を図10に示す。
図9 新型羽根車(主板側から)
図10 新型羽根車アキシアルスラスト力
実測の結果,アキシアルスラスト力は従来EVM型に比べ大幅に低減しており,その結果を図11に示す。図中の斜線が新EVMS型のアキシアルスラスト力の目標値であり,この値以下であれば,ポンプ側軸受が不要となり,さらに高アキシアルスラスト力対応の専用軸受を用いない標準電動機の選定を可能とするなど,電動機選定の自由度が高まる。
次に新規羽根車の性能改善の一例を,図12,13に示す。従来EVM型に比べ,QH性能,及び効率が大幅に改善しているのが分かる。
図11 従来EVM型と新EVMS型のアキシアルスラスト力比較
図12 従来EVM型と新EVMS型の性能比較(50 Hz)
図13 従来EVM型と新EVMS型の性能比較(60 Hz)
ブラケット部は基本構造部を鋳鉄製とし,その内部に別体のステンレスプレス製(SUS304若しくはSUS316)のケーシングカバーを設けている。鋳鉄製のモータブラケットは耐圧設計とし,内部のケーシングカバーは鋳鉄部と密着させることで,その変形を抑制している。図14にモータブラケットを,図15にケーシングカバーを示す。また図16にモータブラケット構造図を示す。呼び水栓と空気抜き栓の水平位置を,メカニカルシール摺動面よりも軸方向上側に配置することで,確実な空気抜きと万一のメカニカルシール部への空気混入の場合でも,呼び水栓部に空気抜きラインを配備することで,メカニカルシールのドライ摺動による破損を防止している。
図14 モータブラケット
図15 ケーシングカバー(薄板ステンレス鋼)
図16 モータブラケット構造図
配管接続は,従来EVM型のDIN,ANSI,JIS規格フランジに加え,ハウジング形管継手も追加した。図17にDIN,ANSI,JIS規格フランジの外観を,図18にハウジング形管継手の外観を示す。従来フランジ形の接続に対し配管接続スペースを取らない本方式は,特に省スペース化を求めるセットメーカ装置内の配管接続として広く採用されている。
図17 DIN/ANSI/JISフランジ接続
図18 ハウジング形管継手
当社はステンレス鋼製立形多段ポンプをグローバル基幹機種と位置付け,初代VDP/EVM型から製造・販売を長年にわたって継続してきた。多段ポンプ特有のアキシアルスラスト力に対し,最新のハイドロ設計技術,プレス/溶接技術を取り入れながら,試行錯誤を繰り返し,アキシアルスラスト力を大幅に低減できる羽根車の開発に成功した。
また,基本設計段階から生販一体となり開発を進めることで,開発開始から市場導入までの期間を短縮することができた。今後は,新EVMS型のさらなる機種拡充を進め,グローバル市場に対し,高品質な製品の供給を続けていく所存である。
最後に,本開発に協力頂いたすべての関係者方々に,深く感謝の意を表する。
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