黒澤 和重* Kazushige KUROSAWA
張 志宝** Zhibao ZHANG
王 正兵** Zhengbing WANG
*
荏原環境プラント㈱
**
青島荏原環境設備有限公司
中国江蘇省南京(ナンジン)市に処理規模2000 t/d(500 t/24 h×4基)のストーカ式焼却炉を納入し,2016年3月に性能試験を完了した。荏原環境プラント㈱及び青島荏原環境設備有限公司は,現在までに中国大陸において,既に流動床式焼却施設2件,ストーカ式焼却炉5件の合計7件の納入実績があり,その内3件についてエバラ時報で報告した。本焼却炉はそれらに続く8件目であり,施設規模が最大のプラントとなる。
中国で求められるごみ焼却技術は年々高度化し,2014年には中国の国家基準が改定され,ごみ焼却施設の排ガス規制値が強化された。本稿では,厳しい排ガス規制値に対応するため採用した高度な排ガス処理設備の運転状況,性能試験結果等について報告する。
Ebara’s grate-type incinerators with a treatment capacity of 2000 t/d (500 t/24 h × 4 lines) were delivered to Nanjing City, Jiangsu, China, and their performance test was completed in March 2016. Ebara Environmental Plant Co., Ltd. and Ebara Qingdao Co., Ltd. have already delivered incinerators to seven facilities in China: fluidized-bed incinerators to two facilities and grate-type incinerators to five. Three of them have been reported in past issues of the Ebara Engineering Review. This paper reports on the delivery of incinerators to the eighth facility in China, the plant capacity of which is the largest among the eight facilities.
In China, there is a need for ever-more-sophisticated waste incineration technology; in 2014, the relevant national standard of China was revised, and more stringent emission regulation of waste incineration plants were imposed. This paper reports the operating conditions, performance test results, etc., of the sophisticated flue gas treatment facility to meet the more stringent emission regulation.
Keywords: China, Nanjing, Municipal solid waste, Grate-type incinerator, EGR, SCR, Sodium bicarbonate injection
2016年3月に,中国江蘇省南京市にストーカ式焼却設備を納入し,性能試験を実施,引渡しを完了した(図1)。
本施設は,南京市で二番目の都市ごみ焼却施設であり,施設建設は南京市から事業権を取得した上海環境集団が設立した南京再生能源有限公司(SPC:Special Purpose Company)が行い,荏原グループはごみ焼却関連設備(ごみピット~煙突)全体の基本設計を行うとともに,焼却炉,及びその周りの主要機器類を納入したものである。焼却炉設計に際しては,これまでの中国での経験を活かし,高含水率かつ灰分が非常に多いという中国特有のごみ組成に対応した設計としている。
図1 南京市ごみ焼却施設
南京市は,中国江蘇省の省都であり,江蘇省の政治,経済,文化の中心で交通の要衝であり,面積6597 km2,人口818万人の都市である。また,古くから長江流域・華南の中心地であり,六朝古都とも言われ,2600年以上の歴史ある都市である。
南京市は,温暖湿潤気候に属し,夏は非常に蒸し暑く,重慶市,武漢市と並び,中国で三本の指に入る暑い都市(三大火炉)としても知られている。
図2に,中国大陸における南京市の位置を示す。
図2 中国大陸における江蘇省南京市の位置
南京市のごみ低位発熱量・ごみ組成を表1に,設備フローを図3,設備仕様を表2に示す。
公害防止基準値を表3に示す。O211%換算値は煙突出口排ガス基準値であり,O212%換算値は,日本で使用される単位,標準酸素濃度に変換した値である。
項目 | 低質ごみ | 設計ごみ | 高質ごみ |
低位発熱量 | 4187 kJ/kg | 6699 kJ/kg | 8374 kJ/kg |
水分 | 56.1% | 48.4% | 43.2% |
可燃分 | 25.2% | 33.4% | 38.9% |
灰分 | 18.5% | 18.1% | 17.8% |
図3 設備フロー図
項目 | 形式・仕様 |
焼却炉 | エバラHPCC型※1 ストーカ式焼却炉 |
処理量:2000 t/d(500 t/24 h×4基) | |
ボイラ※3 | 過熱器付自然循環式水管ボイラ |
蒸発量:47.0 t/h(最大51.7 t/h)×4缶 | |
蒸気条件:400 ℃×4.0 MPa(ゲージ圧,過熱器出口) | |
蒸気タービン 発電設備※4 |
蒸気タービン(復水式)+発電機 |
タービン定格:18 MW ×2基 | |
発電機定格:20 MW×2基 | |
排ガス処理 設備※3 |
集じん方式:バグフィルタ |
HCl・SOx除去方式:半乾式有害ガス除去(消石灰スラリ噴霧),乾式有害ガス除去(重曹噴霧) | |
脱硝方式:無触媒脱硝(SNCR)※2,触媒脱硝(SCR)※2 | |
ダイオキシン類・水銀対策:活性炭噴霧方式 | |
煙突※3 | 外筒:鉄筋コンクリート造,内筒:鋼製 |
高さ:80 m |
HPCC:High Pressure Combustion Control
S N C R:Selective Non Catalytic Reduction S C R :Selective Catalytic Reduction
荏原グループ所掌:基本設計 SPC所掌:購入
SPC所掌:基本設計,購入
項目 | O211%換算値 | O212%換算値 |
ばいじん | ≦8.0 mg/m3(NTP) | ≦7.2 mg/m3(NTP) |
硫黄酸化物 | ≦50 mg/m3(NTP) | ≦15.8 ppm |
窒素酸化物 | ≦80 mg/m3(NTP) | ≦35.1 ppm |
塩化水素 | ≦10 mg/m3(NTP) | ≦5.5 ppm |
一酸化炭素 | ≦50 mg/m3(NTP) | ≦36.0 ppm |
フッ化水素 | ≦1 mg/m3(NTP) | ≦1.0 ppm |
ダイオキシン類 | ≦0.1 ng-TEQ/m3(NTP) | ≦0.09 ng-TEQ/m3(NTP) |
中国におけるごみ焼却施設の建設は日本国内向け施設と異なり,ごみ処理事業を請け負ったSPCが自ら行うため,当グループはごみ焼却関連設備(ごみピット~煙突まで)の基本設計(一部詳細設計を含む),焼却炉周りの主要機器(ストーカ,油圧装置,バーナ,自動燃焼制御装置,ごみホッパレベル計)の納入,さらにスーパーバイザの派遣を担当した。保証事項を表4に示す。
建設スケジュールを表5に示す。契約から引渡しまで3年2箇月であった。
項目 | 保証事項 |
年間累計運転時間 | 8000時間以上 |
運転範囲(焼却量負荷) | 60~110% ただし,110%負荷は2 h/d以内 |
炉出口温度 | 850 ℃以上,2秒間以上 |
灰の熱灼減量 | 3%以下 |
ボイラ効率 | 80%以上 |
火格子交換率 | 運転時間 8000 h 4%未満 16000 h 11%未満 24000 h 15%未満 32000 h 18%未満 |
項目 | スケジュール |
契約 | 2013年1月 |
機器据付け | 2013年7月~2014年9月 |
試運転(ごみ焼却) | 2015年1月~2016年3月 |
引渡し | 2016年3月 |
南京市は安徽省との省境に近く,他省への有害ガス拡散抑制のため,非常に厳しい排出基準が課せられている。本施設のように,塩化水素濃度10 mg/m3(NTP)以下の排ガス基準に対応するには,有害ガス除去性能に優れた湿式洗煙装置の採用が有効であるが,湿式洗煙装置は必要な補給水量・排水量が多く,蒸気タービンでの発電量も低下することから,SPC判断で,採用しないこととなっていた。
そこで,当グループでは南京市の厳しい排出基準に確実に対応するため,SPC指定の半乾式有害ガス除去装置に加えて乾式重曹噴霧をバックアップとして設置するように基本設計段階で提案設計し,採用されたものである。
本施設における排ガス処理設備(半乾式有害ガス除去+重曹噴霧)入口と煙突出口の HCl濃度を図4に,SOx 濃度を図5に示す。HClは保証値10 mg/m3(NTP)に対して5 mg/m3(NTP)程度を維持しており,除去率は約98.5%と非常に高い。またSOxは保証値50 mg/m3 (NTP)に対して約3 mg/m3(NTP)程度を安定的に維持しており,除去率は91%程度であった。
図4 排ガス処理設備入口と煙突出口のHCl濃度
図5 排ガス処理設備入口と煙突出口のSOx濃度
2014年に改訂された中国の国家基準「GB18485-2014 生活ごみ焼却汚染抑制基準」では,新設の都市ごみ焼却プラントのNOx排出基準値は250 mg/m3(NTP)O211%換算(約110 ppm O212%換算)と定められている。
しかしプラントの立地条件や客先の要求で,中国の国家基準よりも厳しい排出基準が求められる場合があり,排出基準値に応じて適切な脱硝技術を採用する必要がある。
本施設におけるNOx規制値は,80 mg/m3(NTP)O211%換算(約35 ppm O212%換算)以下であり,日本国内の一般的な規制値と比較しても厳しい規制値であったため,当グループではまず基本設計段階において,排ガス循環方式(EGR:Exhaust Gas Recirculation)採用による低空気比運転でNOx発生抑制を図ることを提案した。さらに無触媒脱硝方式(SNCR)に加えて触媒脱硝装置(SCR)を採用し,確実に規制値を満足するよう提案した。その結果SPCは3号炉にだけSCRを採用することを決定した。SCRは触媒を用いてNOxをアンモニアと反応させて還元除去するものであり,日本国内のごみ焼却施設では,一般的なものであるが,中国では近年導入が始まったばかりであり,本施設はSCRを採用した先進的な事例となった。
性能試験では,一部顧客事情によって検証できなかった項目を除き,全ての項目で保証値を満足することができた。性能試験の結果を表6に示す。
排ガス再循環の効果の詳細については前号 2)の記載に譲るものとし,本施設におけるSCR使用時の運転データを図6に示す。SCRは3号炉にだけ設置されているため,図6は3号炉のデータを示している。3号炉はSPC側の事情によって,排ガス再循環機能が発揮できなかったため,SCR前(ボイラ出口)のNOx濃度は100 mg/m3(NTP)程度となっているが,SCR後(煙突出口)のNOx濃度は50 mg/m3(NTP)程度まで下がっており規制値を十分に下回っている。SCRの脱硝率は50%強を示しており,今後NOx規制値が更に厳しくなった場合でもSCRの設置によって十分に対応可能であることを示すことができた。
番号 | 保証項目 | 単位 | 保証値 | 1号炉 | 2号炉 | 3号炉 | 4号炉 | 判定 | |
1 | 過熱蒸気温度 | ℃ | 400 (+5,−10) |
398.6 | 398.1 | 401.4 | 400.0 | 合格 | |
2 | ボイラ効率 | % | ≧80 | 82.56 | 81.58 | 82.88 | 81.29 | 合格 | |
3 | 排ガス850 ℃滞留時間 | s | ≧2 | 3.0 | 3.2 | 3.3 | 3.2 | 合格 | |
4 | NOx(NTP,dry,O211%) | ||||||||
SNCR使用時ボイラ出口NOx濃度 | mg/m3(NTP) | ≦80 | 78.2 | 72.5 | −※1 | −※1 | −※1 | ||
SCR出口NOx濃度 | mg/m3(NTP) | ≦80 | − | − | 46.7※2 | − | −※1 | ||
5 | 煙突出口排ガス(NTP,dry,O211%) | ||||||||
DUST | mg/m3(NTP) | ≦8 | 4.0 | 3.3 | 4.1 | 4.1 | 合格 | ||
HCl | mg/m3(NTP) | ≦10 | 7.2 | 3.6 | 7.4 | 6.5 | 合格 | ||
HF | mg/m3(NTP) | ≦1 | 0.7 | 0.6 | 0.8 | 0.7 | 合格 | ||
SOx | mg/m3(NTP) | ≦50 | 8.9 | 1.7 | 1.6 | 0.1 | 合格 | ||
CO | mg/m3(NTP) | ≦50 | 6.6 | 24.2 | 4.4 | 15.3 | 合格 | ||
TOC | mg/m3(NTP) | ≦10 | 2.0 | 1.7 | 4.4 | 1.4 | 合格 | ||
Hg及び化合物 | mg/m3(NTP) | ≦0.05 | <0.0003 | <0.0003 | <0.0003 | <0.0003 | 合格 | ||
Cd及び化合物 | mg/m3(NTP) | ≦0.05 | <0.008 | <0.008 | <0.008 | <0.008 | 合格 | ||
Pb+Crその他重金属 | mg/m3(NTP) | ≦0.5 | 0.31 | 0.1 | 0.29 | 0.18 | 合格 | ||
排ガス黒度 | リンゲルマン | ≦1 | <1 | <1 | <1 | <1 | 合格 | ||
DXN | ng-TEQ/m3(NTP) | ≦0.1 | 0.088 | 0.075 | 0.075 | 0.063 | 合格 | ||
6 | ごみ処理量 | t/d | 500 | 535.56 | 561.44 | 536.19 | 550.78 | 合格 | |
7 | 熱灼減量(湿灰) | %(重量) | ≦3 | 2.06 | 2.78 | 2.88 | 2.64 | 合格 |
SPC事情によって,3・4号炉の排ガス再循環機能が発揮されなかったため,合否判定対象外となった。
3号炉にだけSCRが設置されている。
図6 SCR前後のNOx濃度
中国の大都市部においては,近年続々と大規模なごみ焼却施設が建設されており,要求される環境性能も先進国並みかそれ以上のものとなってきている。これまで培ってきた当グループの技術が今後も中国の廃棄物処理及び環境保全に貢献できるよう,継続して技術の向上に努めていく所存である。
最後に,本プロジェクトにご協力頂いた全ての関係者の方々に深く感謝する。
1)黒澤和重,王正兵 他,中国における大型ストーカ式焼却炉の焼却処理技術の確立と安定稼働報告(第2報),第37回全国都市清掃研究·事例発表会講演論文集 (2016-1).
2)小林宏次,黒澤和重,有原元史 他,中国向け大型ストーカ式焼却炉設備の納入・運転状況−江西省南昌市−,エバラ時報,No.251,P.32-38(2016-4).
藤沢工場ものづくり50年の歴史
1966年頃の藤沢工場
縁の下の力持ち 高圧ポンプ -活躍場所編ー
100万kW火力発電所内で活躍する50%容量ボイラ給水ポンプ
RO方式海水淡水化用大容量、超高効率高圧ポンプの納入
長段間流路内の流線と後段羽根車入口の流速分布
縁の下の力持ち ドライ真空ポンプ -真空と真空技術の利用ー
真空の領域と用途例
座談会 エバラの研究体制
座談会(檜山さん、曽布川さん、後藤さん)
縁の下の力持ち 標準ポンプ -暮らしを支えるポンプー
標準ポンプの製品例
座談会 未来に向け変貌する環境事業カンパニー
座談会(三好さん、佐藤さん、石宇さん、足立さん)
世界市場向け片吸込単段渦巻ポンプGSO型
GSO型カットモデル
エバラ時報に掲載の記事に関する不明点やご相談は、下記窓口よりお問い合わせください。
お問い合わせフォーム