形谷 吉則 Yoshinori KATAYA
風水力機械カンパニー カスタム事業統括 富津工場
横型ポンプ設計室
地球温暖化が問題となり,CO2排出量の削減が求められる中,各種プラントで使用されるターボ機械には,いかに運転電力を削減するかの命題が課せられている。また,運転電力費用の削減は,企業経営の観点から見ても重要課題であり,運転効率の改善が求められる。これらの課題を解決する一つの手段として,ターボ機械の回転速度制御が行われるようになり,数多くのプラントにおいて流体継手が使用されている。ここでは,流体継手の動作原理,及び高圧ポンプに使用される大容量・高速型流体継手の例として,電動機駆動ボイラ給水ポンプ用流体継手の構造,特徴について,説明する。
At the time when global warming is becoming a serious issue requiring our efforts to reduce CO2 emission, various industrial plants are confronted with a challenge of how they can reduce operation power consumption of turbo machinery. Since reduction in the operation power cost itself is an important issue from the viewpoint of corporate management, those plants are required to improve the operation efficiency. As one solution to these issues, control of rotation speed of turbo machinery became popular, and now, many plants use fluid couplings. In this paper we explain working principles of fluid couplings and the structure and features of the fluid coupling for electric motor driven boiler feed pumps as an example of large capacity, high speed fluid couplings used for high pressure pumps.
Keywords: Fluid coupling, Boiler feed pump, High pressure pump, Carbon dioxide emission reduction, Rotating speed control, Impeller, Runner, Scoop tube, Electro-hydraulic servomechanism
1970年代のオイルショックに端を発した燃料費の高騰から,各種プラントの運転効率向上は,各企業の重要課題の一つとなった。これを解決する手段として,ターボ機械の回転速度制御を行うプラントが増加し,数多くの流体継手が採用されるようになった。また,近年では,地球温暖化対策への世界的な取組みが行われ,CO2排出量の削減が各企業へ求められる中,様々な分野においてターボ機械への流体継手の採用が進んでいる。
本稿では,流体継手の動作原理,並びに高圧ポンプに使用される大容量・高速型流体継手の例として,電動機駆動ボイラ給水ポンプ用流体継手の構造及び特徴について説明する。
流体継手は,駆動機(電動機等)と被動機(ターボ機械等)の間に設置され,入力回転速度を一定のまま,出力回転速度を変化させる,回転速度制御機械である。
その主な特長を,次の(1)から(3)に示す。
(1)プラント負荷に合わせて出力回転速度を制御することによって,運転電力を削減することが可能である。
(2)油を介して動力伝達を行うため,駆動機及び被動機の衝撃を吸収することが可能である。
(3)被動機を無負荷に近い状態で起動できるため,大きな慣性モーメントを有したターボ機械においても,特別な駆動機設計や電気設備を必要としない。
流体継手は,基本的にインペラとランナの2要素によって構成される。インペラは,駆動軸に連結されており,ポンプ羽根車とも呼ばれる。一方,ランナは,被動軸と連結され,タービン羽根車とも呼ばれる。
インペラ及びランナは,図1に示すとおり,放射状の直線翼をもった羽根車で,これらが互いに向かい合って構成されており,この内部に油を充填するための回転体ケーシングが設けられている。
図1 流体継手の基本構造
流体継手は,駆動軸の動力を油の速度エネルギーに変換後,その油の速度エネルギーによって被動軸に動力を伝達しており,図2に示すように,いわばポンプとタービンを効率良く,一体のケースに収めたものである。インペラは駆動軸が回転するとポンプとして働き,その中の油に遠心力を与える。この速度エネルギーをもった油がタービンとして働くランナに流れ込むことによって,回転力を伝達する。このインペラからランナへ油が流れるには,インペラとランナの間に回転速度差(スリップ)が必要である。このため出力側の回転速度は入力回転速度よりも若干遅くなる。
図2 液体継手の作動原理
前述のとおり,流体継手は油の速度エネルギーによって動力を伝達しており,インペラからランナへの循環油流が多い場合には,大きな動力伝達が行われ,その結果,出力回転速度は上昇する。逆に,循環油流が少ない場合には,伝達動力は小さくなり,出力回転速度は低下する。インペラからランナへの循環油流は,継手部内に充填されている油量によって決定される。任意の出力回転速度で運転される流体継手においては,図3に示すように,スクープチューブで継手部内の油をすくい取り,充填される油量を調整することによって,出力回転速度の制御が行われる。
スクープチューブが回転体軸心に最も近い位置において,出力回転速度は最大となり,外周方向へ移動するに従い,出力回転速度は低下する。
図3 流体継手の変速原理
火力発電所における電動機駆動ボイラ給水ポンプの駆動用として使用される,大容量・高速型流体継手(GCH型)の構造を図4に,外観写真を図5に示す。
図4 ボイラ給水ポンプ用流体継手構造
図5 ボイラ給水ポンプ用流体継手外観
ボイラ給水ポンプの回転速度は,電動機回転速度よりも速いため,増速歯車をケーシング内に内蔵している。歯車は,歯面に浸炭処理を行うとともに,高精度研削仕上げを行い,十分な負荷容量と耐久性をもたせている。また,大容量に使用される場合には,ダブルヘリカル形が採用される。
動力伝達部であるインペラ及びランナは,高速軸側に配置することによって,小型化,軽量化が図られている。大きな動力を伝達するとともに,高回転速度で使用されるため,鍛鋼材料を用い,信頼性を高めている。
流体継手の軸受には,歯車のかみ合い反力による荷重,並びに,インペラ及びランナで発生するスラスト荷重が負荷されるとともに,高回転速度で使用されるため,強制給油型のすべり軸受が採用されている。
電動機駆動ボイラ給水ポンプは,任意の出力回転速度での運転が行われるため,スクープチューブを有している。
スクープチューブ先端部は,高速回転する油をすくい取るため,特殊合金を使用し,耐浸食性を高めている。
本流体継手には,各軸受への潤滑油供給を行うための主油ポンプ及び補助油ポンプ,並びに,継手部への給油を行うための作動油ポンプの合計3台の油ポンプが設置されている。主油ポンプ及び作動油ポンプは,駆動軸と連動しており,補助油ポンプは,小型の電動機によって駆動される。安定した油の供給を行うため,それぞれのポンプには歯車ポンプが採用されている。
スクープチューブを操作する機構として,独自の技術である,エレクトロ−ハイドロサーボ機構を採用しており,これによって小型化及び高い信頼性を実現している。
エレクトロ−ハイドロサーボ機構の作動原理を,以下に示す。
アクチュエータが“X”方向に回転すると,加圧室である“A”室と“D”室が,ロータリパイロットに加工された溝“C”によってつながり,“D”室の圧力が上昇する。“D”室は,“A”室に対して内部のピストンが約2倍の受圧面積を有しているため,ピストンは本図左側に移動する。この動作に伴い,ピストンに連結されているスクープチューブは回転体外周側[図3(b)]に移動し,出力回転速度は低下する。
図6 減速動作
アクチュエータが“Y”方向に回転すると,“D”室とドレンポートが,ロータリパイロットに加工された溝“E”によってつながり,“D”室の圧力が低下する。“A”室は常に加圧されているため,ピストンは本図右側へ移動し,これに連結されているスクープチューブは回転体軸心側[図3(a)]に移動し,出力回転速度は上昇する。
図7 増速動作
継手部への油の給油は,駆動軸と連動する作動油ポンプによって行われる。作動油系統は,図8に示すように,循環閉回路を形成することで,油タンク容量の小型化,増速応答性の向上が図られている。また,スクープチューブの位置と連動した油量調整弁で回転体への給油量を調節するようにしたことによって,運転効率の向上,回転速度の安定した制御を実現している。
図8 作動油系統
図9に示すとおり,各軸受への潤滑油給油は,駆動軸と連動する主油ポンプによって行われる。始動時又は主油ポンプの故障等による給油圧力低下時には,電動機駆動の補助油ポンプによって潤滑油の供給が行われる。この潤滑油系統によって,ボイラ給水ポンプの軸受及び主電動機の軸受への潤滑油供給が行われ,別途,潤滑油装置は不要である。
図9 潤滑油系統
電動機駆動ボイラ給水ポンプ用流体継手における定格伝達動力の推移を,図10に示す。ボイラ給水ポンプの大容量化,高圧化に伴い,伝達動力は年々増加しており,この傾向は今後も継続していくものと考えられる。
一方,IPP(独立系発電事業者)事業向け発電所建設の増加によって,小容量型流体継手の需要も生まれている。
図10 定格伝達動力の推移
本稿では,火力発電に用いられる電動機駆動ボイラ給水ポンプ用流体継手について説明したが,流体継手は様々なプラントにおけるターボ機械の回転速度制御用として使用されており,運転効率の改善に寄与している。今後,更なる改良,適用範囲の拡大を行い,環境負荷の低減並びに生産性の向上に貢献していく必要がある。
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