若林 整
博士(工学)
東京工業大学 工学院 教授
集積回路技術の進展によりグローバル社会が大きく進展している。2016年の世界人口普及率は50%に達したとの報告もあるスマートフォンを話題にするまでもなく人と情報との関係が密接になっていて,今後のInternet of X(Things, Everything など)や人工知能(Artificial Intelligence: AI)社会の本格到来に期待が高まっている 1)。情報化社会の進展は生体物質が生存領域を拡大することに似て 2),時代とともに民族が大移動し,さらにトランスポーテーションともいえる情報の高度な流通と共有が実現されている。
ここで,情報化社会を牽引して来たトランジスタや電気回路要素(抵抗,コンデンサ,インダクタ外)の微細・集積化が,2018年には7ナノメートル技術世代にまで到達しようとしていて 3),トップダウン的構成を持つ製造装置の進化も驚嘆の域に達している。
例えば化学機械研磨(Chemical Mechanical Polishing: CMP)技術では,直径300ミリメートルのシリコンウエハ上の凸凹を3ナノメートル程度にまで平坦にすることが求められていると推測される。これを「野球グランドを1マイクロメートルのバラツキで芝を刈ることに等しい」と喩えることは容易だが,絶対値としては,基板であるシリコンの結晶単位である格子定数が約0.5ナノメートルであることを考えると原子同士の結合手を丁寧に外すことにより平坦化が実現されていて,技術的な到達点は極めて高いと理解できる。
ここで改めて,7ナノメートル技術世代のトランジスタ動作において,ゲート電極で制御するチャネル領域を流れる電子は10個程度のみのシリコン原子に散乱を受けながら走行することになることから,群電子を制御する現在のトランジスタの動作原理はやがて限界に達することは明らかである。
そのため,楽観的に技術目標を掲げてきた半導体ロードマップは在り方の再考を迫られ,業界団体であるアメリカの半導体工業会(Semiconductor Industry Association:SIA)の国際半導体技術ロードマップ(International Technology Roadmap for Semiconductors: ITRS)と日本対応組織である一般社団法人電子情報技術産業協会の半導体技術ロードマップ専門委員会(Semiconductor Technology Roadmap committee of Japan: STRJ)から,学術団体であるアメリカ電気電子技術者協会(Institute of Electrical and Electronics Engineers: IEEE)の国際デバイス&システムロードマップ(International Roadmap for Devices and Systems: IRDS) 4)と公益社団法人応用物理学会のSDRJ(The System Device Roadmap committee of Japan)委員会 5)へ衣替えしている。さらにSIAも警鐘を鳴らすなど 6),技術的確証を基礎として業界をリードすることが求められている。
ここで社会動向に視点を移しても変調の兆しが見られ,アメリカ,イギリス,欧州諸国を始め,様々な国で保護主義的な考え方への関心が広がり始めている。集積回路システムの進展も関与して社会のグローバル化が進んで情報のエントロピーが増大し,世界人口増大に伴う経済成長を世界中で分かち合う仕組みが崩壊しつつあることが根本的な課題であると考えられる。今後,多様性への理解が重要になることは明らかで,万人が納得できるグローバル社会への移行が望まれる。
ここで話題を集積回路に戻すと,微細化に代わる成長の原動力としてだけでなく,手軽で便利な機能が渇望されていることからも,集積回路の高度なシステム化が進められている 7)。例えば,様々な機能を持つ多数のチップを2および3次元に平置き・積層することによりワンモジュールで実現するスマートフォンなどが求められている。この様な技術により,最新の集積回路のモジュール当たりのトランジスタ数は,世界人口の約20倍で,小脳ニューロン数とほぼ同等の1500億(150ギガ)個程度になっているが,2050年にはその約一万倍にもなる1000兆(1ペタ)個にもなることが予想されている。これは正に集積回路システムの進化とともに多様性が急速に広がることを意味していて,IoX/AI技術活用社会の広がりと共に,今後,社会システムに大きく影響すると思われる。例えば将来,バイタルタイプおよび嗜好毎に特徴付けられた米粒よりも小さい情報エッジ端末が低コストで実現され,筆者が鎖骨側にそれを常時吸着させているかもしれない
8)。AI技術により自身の能力を補完するよう日々カスタマイズされ,クラウドと連携して類似の端末を持つ世界中の人々との協業や共感を加速することも期待される 9)。その様なシステムの実現には,巨大なシステムを操る設計技術の高度化が急務であるだけでなく,情報セキュリティの高度化や,情報に振り回されず個人が存立できる環境の保全が望まれ,社会受容性や倫理的な議論も必須である。
加えて,価値を生み出す技術(理系的な技術だけではなく,差異化手法全般を指す)に金銭的補償を与える社会が今後も維持され続けることを信じたい。
以上の様に,多様性の受容を拒む兆しのある現代社会において,多機能化(多様化)を志向する集積回路システムの成長維持の社会的役割は非常に重大で,その関連領域に従事する方々の責任も重い。心温かな幸福を万人が感じることができる社会の構築を支える超巨大集積回路システムの「進化と多様化」の将来に目が離せない。
1)シスコシステムズ合同会社IoT インキュベーションラボ著, Internet of Everything の衝撃,インプレスR&D.
2)Yuval Noah Harari 著,柴田裕之訳,サピエンス全史(上・下),河出書房新社.
3)「トランジスタ最小化に成功」朝日新聞外,「Sub-10-nmCMOS」,2003 年12 月8,9 日.
4)http://irds.ieee.org
5)https://annex.jsap.or.jp/silicon/
6)https://www.semiconductors.org/semiconductor-industry-sets-out-research-needed-to-advance-emerging-technologies-unleash-next-generation-semiconductors/
7)http://www.jst.go.jp/kisoken/crest/project/1111086/16815839.html
8)Robert A.Wilson and Frank C.Keil 編,中島秀之監訳,MIT認知科学大事典,共立出版.
9)http://www.coi.titech.ac.jp/index.html
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