齋藤 政伸* Masanobu SAITO
河嶌 浩康* Hiroyasu KAWASHIMA
*
精密・電子事業カンパニー 精密機器事業部 精密機器技術室
半導体製造工程の各工程で真空ポンプが排気するガスの物性は様々であり,ポンプ内部の腐食やポンプ内部での反応副生成物の固形化が懸念される工程もある。当社では,ドライ真空ポンプの耐プロセス性能と省エネルギー化を追求してきており,軽負荷工程向けのEV-S 型,中~重負荷工程向けのEV-M 型をリリースしてきたが,環境性能への要求は年々増しており,中~重負荷工程においても更なる省エネルギー化が要求されている。そこで当社はユーザの要求に応えるために,中負荷工程を重点とした耐プロセス性能と,更なる省エネルギー化の両立を実現する新型ポンプ EV-L 型を開発した。本稿ではEV-L 型の仕様,特長,性能について述べていく。
Vacuum pumps exhaust gases with various chemical properties at each stage of semiconductor production. Some production process- es may cause corrosion inside the pump, or solidification of reaction by-products. Focusing on the process durability and higher energy efficiency of dry vacuum pumps, we released models EV-S and EV-M for light-load processes and for medium-to-heavy load process- es, respectively. However, as the demand for environmentally friendly performance is increasing, further energy efficiency is required also for medium-to-heavy load processes. To meet the demands of users, we developed the new model EV-L, which has both process durability against medium-to-heavy load processes particularly, and higher energy efficiency. This paper describes the specifications, features, and performance of the model EV-L.
Keywords: Dry vacuum pump, Semiconductor, Energy conservation, By-product, Corrosive gas
半導体をはじめとした電子部品の製造では,シリコンウェーハやガラス基板に対し,成膜(CVD,PVD),露光,エッチング等の様々な工程を実施している。これらの工程の多くでは,クリーンな真空環境を実現するため,ドライ真空ポンプを使用する。ここで,各工程でドライ真空ポンプが排気するガスの物性は異なり,ロードロック室排気など不活性なガスだけを排気する用途もあれば, エッチング工程,CVD 工程のように反応性の高いガスを排気する用途もある。図1 は半導体製造工程におけるドライ真空ポンプの用途を,主にポンプに対する反応副生 成物の析出しやすさを基準に分類したものである。軽負 荷側(Light process)ではウェーハを大気中と真空中との受け渡しをするロードロック室排気が代表的であり, 重負荷側(Harsh process)ではCVD工程が代表的である。軽負荷と重負荷の中間(中負荷)は,エッチング工程が代表的である。
当社では,軽負荷用途向けに小型かつ業界最高水準の省エネルギー性能を示すEV-S型 1)を2009年にリリースし,一方,中~重負荷に対して耐プロセス性能と省エネルギー 性能を両立したEV-M型 2)を2011年にリリースしている。
しかしながら,環境性能への要求は年々増しており,当社ではユーザの要求に応えるために,中負荷工程における耐プロセス性能と省エネルギー性能を両立する新型ポンプEV-L型を開発した。EV-S型,EV-M型に加えてEV-L型をラインナップすることによって,軽負荷から重負荷までの全ての領域で最適なドライ真空ポンプを提供できるようになった。以下にEV-L型の詳細を説明する。
図1 EV-L型の適用範囲
製品仕様を表1 に示す。図2 にEV-L100N 型の外観を示す。また,各ポンプの排気性能曲線を図3 に示す。本シリーズは大気圧から排気可能なメインポンプだけで構成したEV-L20N型と,メインポンプにブースタポンプを組み合わせたEV-L100N,EV-L200N型の3機種からなる。排気速度は2000L/min~18000L/minまで用意されており,今後排気速度のラインナップを拡充していく予定である。
型式 | EV-L20N | EV-L100N | EV-L200N | ||
排気速度 | L/min | 2 000 | 10 000 | 18 000 | |
到達圧力 | Pa | 2 | 0.5 | 0.5 | |
接続 | 吸気口 | − | NW50 | NW100 | |
排気口 | − | NW40 | |||
消費電力 | kW | 0.65 | 0.9 | 1.0 | |
寸法 | L×W×H | mm | 635×280×320 | 647×380×655 | 772×380×655 |
質量 | kg | 70 | 150 | 200 |
図2 EV-L100N型ドライ真空ポンプ
図3 排気性能曲線
図4 にEV-L型ドライ真空ポンプの概略構造を示す。EV-L型の特長は以下のとおりとなる。
図4 EV-L200N型ドライ真空ポンプ構造図
半導体工場では数多くの真空ポンプが連続的に稼働している。実際に,半導体工場において真空ポンプが占める消費電力割合は約13%であるとの調査結果 3)が報告されている。そのため,ドライ真空ポンプの工場内におけるエネルギー総消費量は大きく,更なる省エネルギー化に対する要望は強い。
今回開発したEV-L型では,機械的損失の低減,及び圧縮動力の低減によって省エネルギー性能と耐プロセス性能の両立を実現している。まず機械的損失の低減については,ポンプ機構に対して軸受,及び潤滑機構を最適化することで実現している。また,圧縮動力を決めるポンプロータ(ルーツ形)については,各段の圧縮比を最適化することで,省エネルギー性能と耐プロセス性能の両立を実現している。
以上の技術によってEV-M型に比べ,2000L/minクラスで46%,10000L/minクラスで50%,20000L/minクラスで47%消費電力を低減させている。図5 にてEV-L型とEV-M型の到達運転時消費電力を比較する。
図5 消費電力比較(EV-L型 vs EV-M型)
EV-L型では耐プロセス性能を向上させるために,表2 に示す標準採用技術とオプションを用意している。以下にその詳細について述べる。
項目 | 目的 | |
標準 | MP耐食材料 | 耐食 |
オプション |
BP高温化 | 生成物発生抑制 |
MP高温化 | 生成物発生抑制 | |
MP耐食コーティング | 耐食 | |
希釈N2 増量弁 | 耐生成物/ 耐食 | |
停止シーケンス | 再起動性向上 |
※BP:ブースタポンプ,MP:メインポンプ
エッチング工程やCVD工程では,使用するガスやエッチング対象に応じてプロセスチャンバ内での化学反応の結果, 塩化アルミニウム(AlCl3)やケイフッ化アンモニウム((NH4)2SiF6)といった昇華性生成物がポンプ内部に流入する場合がある。このような生成物がポンプ内部で固形化すると,ポンプロータが固着し停止に至るおそれがある。このような昇華性生成物に対しては,ポンプ内部を高温化することで固形化を抑制することができる。
EV-L型では効率的な高温化を実現するために,ポンプ形状を工夫している。また,冷却箇所を最適化することで外部熱源に頼ることなく,ポンプ圧縮熱だけによる高温化が可能である。この高温化方式によって低消費電力でありながらも,プロセス耐性の向上を実現している。このオプションはメインポンプとブースタポンプのそれぞれに適用可能である。
また,ポンプ圧縮熱だけで昇温するより更に高温化が必要な場合のために,外部熱源を用いて強制的に昇温させるオプションも用意している。このオプションによって更に厳しいプロセス条件にも適用範囲を広げることができる。
以上で述べたポンプ高温化オプションはユーザの要望やプロセス条件に応じて選択可能である。
エッチング工程やCVD 工程中のガスクリーニング工程では,腐食性の強いハロゲン系ガス(フッ素及び塩素 など)を流す場合がある。これらのガスは,ポンプ内部を腐食し,ポンプ性能の低下やポンプ停止を引き起こす。特にメインポンプ内部の大気側は圧縮熱によって高温になるため,より厳しい腐食環境にさらされる。そこで,EV-L型のメインポンプでは高い耐食性能をもつ特殊材料を標準採用している。また,更に厳しい腐食環境に対応するために,オプションとして特殊材料表面に耐食コーティングを施した仕様を用意している。耐食試験では,特殊材料はハロゲン系ガスに対してステンレス鋼と同等の耐食性能を持つことが示されており,耐食コーティングを施すことで耐食性能は大きく向上した 2)。
半導体製造業界では,引き続きプロセスの進歩に合わせた耐プロセス性能と,省エネルギー性能の両立が求められる。今後とも,ユーザの稼働率向上と環境負荷低減に貢献するべく開発を進めていく所存である。
1) 伊東 一磨,臼井 克明,ドライ真空ポンプ EV-S型シリーズ,エバラ時報,No.227,P.13-17(2010-4).
2) 長山 真己,杉浦 哲郎,新型ドライ真空ポンプ EV-M型, エバラ時報,No.236,P.21-24(2012-7).
3) 2008 ISMI(設備エネルギー削減研究会).
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