久保 勝弘*
福島 学*
門脇 大介*
*
荏原冷熱システム(株)
駅ビルや百貨店に入ると快適な空気に包まれます。これは,空調システムが建物内の空気の温度・湿度などを所定の条件に調整しているからです。冷凍機は1850年代に実用化され,当社は1930年に国産第一号のターボ冷凍機を生産開始しました。大型ビルや工場の空調,工場プロセスの冷却などに幅広く使用されています。以下に冷凍機の種類と原理について説明し,当社のメンテナンス技術を紹介します。
文字どおり,ものを冷やす機械が冷凍機です。アルコールを皮膚に塗布するときに冷たく感じます。これはアルコールが蒸発して皮膚から熱を奪うからです(図1)。この蒸発によって熱を奪う現象を利用して冷却する機械が冷凍機です。冷凍機では,アルコールの代わりに,水やフロン等の冷媒を使って,大量の気化熱を生み出します。
図1 蒸発による冷却のイメージ
当社[荏原冷熱システム(株)]では,冷水や不凍液(ブライン)を冷却する機器を製造しています。主な用途には,ビル等の大型施設の空調に使われる冷水の冷却があります(後述)。例えば,東京・銀座の複合施設「GINZA KABUKIZA(歌舞伎座)」(図2)の空調システムにおいて,当社の冷凍機(図3)が,省エネルギーと快適な空間作りに貢献しています。
大規模な事例として地域冷暖房システムがあります。地域冷暖房とは,同じ地域にあるいくつかの建物に対して,一箇所の設備から空調の熱源となる冷水や温水を供給するシステムです。地域一帯で共通の熱源システムをもつことは,冷暖房の省エネルギー効率を高める効果があり,環境に優しい空調として普及が進んでいます。このような取組においても,当社の冷凍機が最前線で活躍しています。
図2 GINZA KABUKIZA外観
図3 GINZA KABUKIZAのターボ冷凍機
機器 | 納入型式 | 能力 |
ターボ冷凍機 | RTBF060 | 580冷凍トン×2基 |
インバータターボ冷凍機 | RTBF060V | 580冷凍トン×1基 |
ブラインターボ冷凍機 | RTBF050B | 396冷凍トン×1基 |
冷凍機にはいくつかの種類がありますが,蒸発を促進する方式や動力源の違いによって,次の大きな分類に分けることができます。
・圧縮式(電気が主エネルギー)
・吸収式(熱が主エネルギー)
圧縮式冷凍機は,気圧の変化を利用して冷媒の蒸発を促す冷凍機です。図4に示すように,①蒸発器,②圧縮機,③凝縮器,④減圧機構から構成されています。
①蒸発器内では冷媒が蒸発し,冷水から熱を奪い冷却します。蒸発した冷媒(冷媒ガス)が蒸発器内にたまると蒸発が継続できなくなるため,②圧縮機が掃除機のように冷媒ガスを0.9気圧程度の大気圧を若干下回る圧力まで吸い出して,蒸発を促進します。冷媒は圧力を高くすると高い温度でも凝縮(液化)する性質があるため,圧縮機内では,吸い込んだ冷媒を凝縮器内で凝縮できる圧力(おおむね1.3気圧程度)まで昇圧します。
圧縮機から出た冷媒ガスは③凝縮器に入ります。凝縮器内では昇圧された冷媒ガスが冷却水によって冷却され凝縮して,熱を冷却水に放出します。
凝縮器で液体になった冷媒は④減圧機構を介して蒸発器に戻り,再び蒸発して冷水を冷却するというサイクルを繰り返しています。
図4 圧縮式冷凍機サイクル
吸収式冷凍機は,液体のもつ吸収力を利用して水を冷却する冷凍機です。図5 1)に示すように,①蒸発器,②吸収器,③再生器,④凝縮器から構成され,圧縮式冷凍機とは異なり圧縮機がなくなり吸収器と再生器が追加されています。
①
蒸発器では冷媒(純水)が蒸発し,冷水から熱を奪います。水は大気圧(1気圧)では約100 ℃で蒸発しますが,圧力を100分の1気圧程度まで高真空にすると冷水よりも低い温度で蒸発する現象を利用して,冷水を冷却しています。
②
吸収器には高濃度だと水蒸気を吸収する能力が高くなる性質がある臭化リチウム水溶液(以下溶液)の濃い溶液が入っています。冷媒ガス(水蒸気)は吸収器内で濃い溶液に吸収され,溶液は薄くなります。薄い溶液はポンプによって再生器に送られ,再生器内では,薄い溶液が加熱濃縮され濃い溶液となって吸収器に送られます。
③
再生器で発生した水蒸気は④凝縮器で冷却液化され,蒸発器に供給されます。
なぜ,水蒸気を吸収液に吸収させて,再生器で再び水蒸気にするのでしょうか? それは蒸発器を高真空に保ちたいからです。吸収液に水蒸気を吸収させることで,蒸発器内が高真空に保たれ,蒸発器内での水(冷媒)の蒸発も継続させているのです。
吸収式冷凍機の面白いところは,ガスの燃焼熱を利用して,間接的に冷水を冷やしているところです。冷たい水を作り出すのに高温の火を使っているのです。
図5 吸収式冷凍機サイクル<sup>1)</sup>
圧縮式冷凍機の製品には,(1)ターボ冷凍機,(2)スクリュー冷凍機があり,吸収式冷凍機の製品には,(3)蒸気吸収冷凍機,(4)吸収冷温水機があります。これらの製品には,次のような特徴・用途があります。
高効率な性能を活かし,省エネルギーに貢献する冷凍機として,工場空調や工場プロセス冷却などの中大容量域で多く採用されています。一方,空調用途として大規模な病院や駅ビルなど,空調負荷の高い施設にも採用されています。
当社のスクリュー冷凍機は,負荷容量に合わせた連結モジュールという形態をとっていることから,搬入性・拡張性のメリットを活かして,駅ビルや百貨店などの中容量域で多く採用されています。また産業用途では,ヒートポンプ機として単体モジュールでの採用もあります。
ボイラなどの蒸気供給設備と共に,蒸気を有効活用可能な工場や地域冷暖房設備などの大容量域で多く採用されています。
冷温水の供給が可能なことから,主に一般空調用途として,ホテルやオフィスビルなどの小中容量域で多く採用されています。また,消費電力が少ないことから,デマンド(需要電力)を抑える効果もあり,電気と熱のエネルギーをバランス良く使用するために採用されることもあります。
よく聞く「空調」という言葉は空気調和(AC:Air Conditioning)の略語で,建物内の空気の温度・湿度・清浄度などを調節し,快適な状態に保つことです。一番身近なものとしては,ルームエアコンやビル用マルチエアコンがありますが,大型の建物では熱源機(加熱又は冷却する装置全般)や空気調和機(AHU:Air Handling Unit)などを用いて建物全体を空調する中央空調システムを採用しています(図6)。冷暖房を行う冷(温)風を作り出すために,冷凍機やボイラといった熱源機で作られた冷(温)水を冷温水ポンプで送水し,AHUやファンコイルユニット(FCU:Fan Coil Unit)で空気−水の熱交換をします。また,冷凍機の排熱を大気に放出するために冷却水ポンプや冷却塔が必要となります。
この空調システムでは,一括して温度・湿度・清浄度などをコントロールするため,各機器を一箇所で集中管理することができ,単一用途の事務所ビルや,商業施設,ホテルなどに多く取り入れられています。中央空調システムは,冷水を作る冷凍機(ターボ冷凍機,スクリュー冷凍機,吸収冷凍機)と温水を作るボイラ(蒸気,温水)の組合せが多いですが,一方で冷水と温水を1台の機械で賄う吸収冷温水機も使われています。また最近では,工事やメンテナンスの容易さから,空冷式ヒートポンプ熱源が導入されるケースが増えてきています。
これに対して,フロアごとやブロックごとに冷(温)熱源を分割設置する個別空調システムもあります。こちらは,フロアごとやブロックごとに熱源機,またはパッケージ型エアコンを設置し,より細かな単位で空調管理する方式です。例えば,建物内の使用時間帯が異なるテナントビルなどで多く採用されています。
図6 ビル空調の主な構成機器
冷凍機,冷却塔は,取扱説明書に基づく日常の運転状態の確認や点検に加えて,予防保全の考えに基づき,適切なタイミングと内容でメンテナンスを行うことで,機能維持,延命,性能回復を図ることができます。メンテナンスは,大別すると「保守点検」「分解整備(図7)」「修理」からなり,当社ではユーザのニーズに合わせたメニューを展開しています。
図7 ターボ冷凍機圧縮機分解
メンテナンスの主な目的は前述のとおりですが,昨今では省エネルギー,省力化,ライフサイクルコストの低減といったことへの関心も高まっていて,「機器が正常に稼働すること」に留まらず,付加価値の高いメンテナンスメニューも提供しています。例えば,
・固有の冷凍機・冷却塔のメンテナンスのノウハウに加え,ポンプ,水処理薬品,空調機などの付帯・関連設備メンテナンスを包括した,空調設備のワンストップサービス
・建物全体の寿命・更新計画を考慮した,熱源機の延命リフレッシュ整備
・製品開発のノウハウを利用したメンテナンスメニュー展開
など,当社の特長,強みを活かしたトータルエンジニアリングによって,ユーザの機器・設備のライフサイクル全体にわたってのソリューションを提供することが,当社におけるサービス&サポートと考えています。
メンテナンス事業を営むすべてのメーカーにとっての共通課題として,技術レベルの全体的な向上・維持があげられます。この課題に対しての当社における取組について紹介します。
①WEBシステムによる情報共有
当社では,Web情報公開システムによって,メンテナンスに必要な情報の共有を図っています(図8)。このシステムは社員だけでなく,全国の協力会社も使用できます(IDカードリーダ認証)。このシステムでは,現在,以下の運用を行っています。
・技術資料の公開
・教育用コンテンツの公開
・定型報告書の公開
・注意喚起事例の案内
・部品リストの閲覧
②技術情報会議,および連絡会議の開催
Web情報公開システムによる常時の情報共有に加え,定期的に全国のメンテナンス技術担当者を対象とした技術情報会議を開催しています(2箇月に1回)。議事録,資料等はイントラにも掲載され,また各担当者は自部門で協力会社も含めた連絡会議を開催して,情報の共有と水平展開を図っています。
図8 Web情報公開システム(イメージ)
冷凍機は電気エネルギーや熱エネルギーを活用し,快適な環境を維持する装置として活躍しています。また,ターボ冷凍機は二国間クレジット制度によって,日本国の二酸化炭素排出量の確保に貢献しています。
維持管理には経験や専門知識が必要であり,当社ではサービス部門を通して安定運転のための様々なメニューを提供しています。今後は,蓄積された経験と知識を「もの作り」「ことつくり」に適用し,皆様の生活を快適にする製品やサービスを提供していきます。
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