村越 将哉* Masaya MURAKOSHI
井上 大輔* Taisuke INOUE
和田 慎平* Shimpei WADA
須﨑 映太* Terutaka SUZAKI
*
荏原冷熱システム(株)
−20℃程度のブラインと呼ばれる不凍液が,プロセス負荷冷却のため,化学プラントなどで使用されている。当社では,このようなブラインを冷却するターボ冷凍機を製造・販売していたが,更なる高効率化が求められるようになり,新機種のニーズが高まっていた。そこで,2009年から市場投入し,ユーザから高い信頼をいただいているターボ冷凍機RTBF型の技術をベースとした超低温ブラインターボ冷凍機RTSF型を開発・製品化し,2016年4月から販売開始した。
An antifreeze called brine, whose temperature is approximately -20 °C, is used by facilities such as chemical plants to cool process loads. While EBARA has manufactured and sold centrifugal chillers for cooling this brine, needs for a new model have risen in response to demand for higher efficiency. Under these circumstances, EBARA developed and commercialized a centrifugal chiller model RTSF, for low-temperature brine based on the technology of the centrifugal chiller model RTBF, which has been on the market since 2009 and has earned a great deal of trust from users. EBARA began selling model RTSF in April 2016.
Keywords: Centrifugal chiller, Low-temperature brine, Refrigerant, High pressure gas safety act, High reliability
ブラインターボ冷凍機とは,ブラインと呼ばれる不凍液を0 ℃以下まで冷却するターボ冷凍機である。一般空調用のターボ冷凍機は冷水を5~7 ℃程度まで冷却する装置であり,装置の機能としてはブラインの使用と冷却温度が主な違いである。なお,冷却するブラインの温度が−5 ℃程度のものを低温,−20 ℃程度まで冷却する装置を超低温と区別し,本稿で紹介するRTSF型は,超低温ブラインターボ冷凍機である。
当社の現行主力機種であるターボ冷凍機RTBF型は2009年から市場投入し,ユーザから高い信頼をいただいている。超低温(約−20 ℃)にブラインを冷却するターボ冷凍機の更なる高効率化が求められており,RTBF型の技術をベースにした従来機種からの置き換えが可能な超低温ブラインターボ冷凍機RTSF型の開発・製品化を行い,2016年4月から販売を開始した(図1)。
本機では,低圧冷媒HFC245faを使用している。採用する冷媒によっては高圧ガス保安法が適用され,導入や運用において諸届けや検査が必要になる場合があるが,HFC245faは高圧ガス保安法の適用を受けない。また,本冷媒はRTBF型でも使用実績があり,安定供給が可能である。
図1 超低温ブラインターボ冷凍機RTSF型
従来機種は化学プラントなどで使用されている。産業用途の冷凍機は,停止するとユーザの生産ラインに直接多大な影響を及ぼすため,RTSF型を開発するに当たり,従来機種の運転状況と発生したトラブル事例を調査し,リスク分析を行った。その結果を仕様に反映するとともに,現行主力機種のターボ冷凍機RTBF型で実績を積んだ構造を取り入れた。さらに,従来機種よりも高効率・省エネルギーを目標とした。
RTSF型は低圧冷媒のHFC245faを採用し,当社で実績のある技術を活用することで,早期製品化を目指した。
ブラインは冷凍機で冷却され,ユーザのプラントにおけるプロセス熱負荷の冷却に供する不凍液である。使用温度に対して凍結点が十分低いこと,比熱が大きいこと,粘度が低いこと,熱伝導がよいこと,機器に対して腐食性がないこと,安価で入手しやすいことなどが望まれる。
RTSF型では,使用条件によってブラインにエチレングリコール水溶液,メタノール水溶液,塩化カルシウム水溶液を使用することが可能である。
表1にターボ冷凍機で広く使われている冷媒の特性比較を示す。代替フロンガスであるHFC245faは,現時点で生産規制はなく,安定した供給が可能である。
冷媒 | HCFC123 | HFC134a | HFC245fa |
分子式 | CHCl2CF3 | CF3CH2F | CF3CH2CHF2 |
オゾン破壊係数 (ODP)1) |
0.02-0.06 | 0 | 0 |
地球温暖化係数 (GWP)2) |
79 | 1300 | 858 |
凝縮圧力MPa(G)3)
(at 38 ℃) |
0.0432 低圧冷媒 |
0.862 高圧冷媒 |
0.133 低圧冷媒 |
可燃性 | 不燃 | 不燃 | 不燃 |
本機のフロー概要と冷凍サイクルを図2,図3に示す。フロー概要に代表的な冷媒流体のポイントに番号を記載し,冷凍サイクルにもそのポイントに対応する箇所に同じ番号を記載した。また冷凍サイクルの縦軸には運転圧力に相当する飽和温度を付記した。圧縮機の圧力ヘッドを温度ヘッドに読み替えて以下の説明を行う。
一般空調用のターボ冷凍機は,蒸発器で冷水を冷却することにより蒸発した約5 ℃の冷媒ガスは圧縮機で昇圧され,凝縮器に吐き出され冷却水に熱を奪われて約40 ℃の冷媒液となり,減圧機構を通して蒸発器に戻ることにより冷凍サイクルを形成している。温度ヘッドは約35 ℃となる。超低温ブラインターボ冷凍機は蒸発器で超低温のブラインを冷却するため約−25 ℃で冷媒が蒸発し,凝縮器では一般空調用と同じ約40 ℃で液化する。温度ヘッドは約65 ℃となる。本機では一般空調用のRTBF型圧縮機を使用しているため,圧縮機1台では温度ヘッド約65 ℃まで昇圧できない。そのため主圧縮機で昇圧した後,エコノマイザを経由してブースター圧縮機でさらに昇圧している。主圧縮機,ブースタ圧縮機はそれぞれ羽根車を2枚搭載した2段圧縮機で,中間にエコノマイザを配置しているため4段圧縮1段エコノマイザサイクルと呼んでいる。
凝縮器からの冷媒液を減圧機構で膨張させ,温度が低下した冷媒液だけを蒸発器に送って冷凍効果の増大→冷媒循環量の削減→圧縮動力の節約を図り,COP向上に寄与している。減圧機構には信頼性を優先してオリフィスを採用した。表2に本機の仕様一例を示す。
図2 RTSF型のフロー概要
図3 RTSF型の冷凍サイクル
冷凍機型式 | − | RTSF053B | |
冷凍能力 | kW(USRt) | 386.8(110) | |
ブライン | 種類 | − | 35 wt% メタノール水溶液 |
入出口温度 | ℃ | −20.8→−23 | |
流量 | L/min | 3000 | |
パス×ノズル方向 | − | 4パス×入口右側 | |
冷却水 | 入出口温度 | ℃ | 32→37 |
流量 | L/min | 1700 | |
パス×ノズル方向 | − | 2パス×入口右側 | |
電動機 | 電圧 | V | 3300 |
周波数 | Hz | 50 |
図4にRTSF053型の外形図を示す。RTSF型の主要構成機器は,主圧縮機,ブースタ圧縮機,蒸発器,エコノマイザ,凝縮器であり,冷凍機を操作するための制御盤を備えている。以下にこれらについて述べる。
図4 RTSF053型の外形図
圧縮機の構造は,一般空調条件で使用されるターボ冷凍機用のものと同様で,胴体,インレットガイドベーン,軸,増速器,羽根車,軸封装置,潤滑装置などからなる。主圧縮機もブースタ圧縮機も,主要な構造は同じである。RTSF型では従来機種よりも高効率なRTBF型の圧縮機をRTSF型用にカスタマイズして使用している。
圧縮機用モータの電源電圧は,400 V級,3000 V級,6000 V級に対応している。
蒸発器にはシェルアンドチューブ式の満液型熱交換器を採用している。低温ブライン冷却の場合は一般空調用途に比べ,蒸発圧力が非常に低くなる。このため,満液型ではチューブから液面までの高さに相当する分,圧力が作用しチューブ表面の冷媒飽和温度が上がってしまう。すると,冷媒が蒸発し難くなるため,運転中,蒸発器の冷媒液面高さの管理が重要である。そこで,液面調整用の手動弁を設けている。
RTSF型で最も温度の低い部分となる蒸発器は,低温における脆性破壊が生じない材料を選定している。チューブ,チューブ板,水室なども温度,ブラインの性質を考慮して使用材料を選定している。
エコノマイザは蒸発器と凝縮器の中間圧で冷媒の一部を蒸発させ,残りの液冷媒の温度を下げる役割のため設けている。エコノマイザは蒸発器ほど低温にならないので,一般空調用と同様の材料を使用できる。
凝縮器はシェルアンドチューブ式で一般空調用のものと同様である。冷却水として冷却塔循環水はもちろん,腐食性が強い海水を使用する場合にも対応している。チューブ,チューブ板,水室の使用材料のほか,冷却水系統に設ける計装品にも耐海水仕様のものを提供することができる。
一般の冷凍機では,凝縮器に冷却水を導入する前にサブクーラを設けて冷媒温度を下げているものが多い。しかし,ブライン冷凍機が主に使用される化学プラントでは,冷却水として使用する水のスケール係数が一般空調条件より大きい場合が多く,管内にスケールが付着しやすいことから,サブクーラは設けていない。RTSF型では冷凍能力に見合う凝縮器の伝熱面積を選定し,サブクーラなしでも所定の性能を発揮できる設計を行っている。
従来機種は製品受注の都度,制御盤の専用設計を行っており,ソフト面・ハード面とも設計が非効率であった。そこで従来機種の仕様調査を入念に行い,標準・オプションに分け,納入先ごとに専用設計が不要なRTSF型共通の制御盤の開発を行った。従来機種の制御盤の機能だけでなく,運転データの蓄積など,性能を向上させた。
従来機種に比べRTSF型は仕様の早期提示及び確定や設計リードタイムの短縮が期待できる。
RTSF型の容量制御は,一般空調用のターボ冷凍機と同様,サクションベーン制御が用いられている。ブライン出口温度を一定とするため,主圧縮機及びブースタ圧縮機のガイドベーンを制御する。
最近の化学プラント設備の傾向として,保安装置や計装品のデータを外部出力可能とし,運転データとして蓄積する機能の要望が増えている。このためRTSF型では,測温抵抗体,圧力センサを使用して従来機種と同様の保安機能を有する構成にした。これに伴い,制御盤ともに,保安装置や計装品を標準化した。
製作した開発機によって,当初の目標としたCOP(成績係数)を達成し,従来機種と同程度にブライン冷却性能を備えていることを確認した。
振動・騒音の評価のため,ヘッドの高低,負荷の大小が異なる4条件で測定した。騒音は冷凍機の周囲1 mの距離で,振動は冷凍機脚板及び各圧縮機,配管等を水平方向,鉛直方向及び軸方向を計測した。騒音値は最高でも87 dB(A)以下,振動振幅は15μm以下と,従来機種と比較して,振動・騒音とも小さくなった。
RTSF型だけでなく,潤滑油を使用するターボ冷凍機では,冷媒系統へ混入した潤滑油を回収するエジェクタを備えている。そのエジェクタ駆動圧の最適化や,回収口の位置の工夫,回収系統を増設する等の対策を取り,様々な条件で連続運転を行った。試験開始前と比較して油面の低下は見られず,計画通りに潤滑油の回収が行われていることを確認した。
あらかじめブラインが冷えた状況での起動,冷媒中に油が多量に混入した状況での起動等,従来機種は運転が困難になる可能性がある状況を,試験場設備で再現し,RTSF型は自動制御で継続運転が可能なことを確認した。
また,開発機を長時間運転した後,圧縮機の分解点検を行った。ボルトの緩み,軸,軸受,羽根車,増速歯車,各圧縮機用モータ等の目視,寸法点検を行ったところ,特殊状況下での運転を経ても異常な傷,変形,クリアランスの変化等は見られず,圧縮機部品の健全性が確認できた。
RTSF型のシリーズラインナップを表3に示す。一般空調用の冷凍機と異なり,表3に示した数値はあくまでも目安である。詳細な検討を希望される場合は,当社までお問い合わせいただきたい。
型式 | RTSF053 | RTSF083 | RTSF085 | RTSF135 | RTSF053B | RTSF083B | RTSF085B |
冷凍能力(kW)※1 | 598 | 914 | 985 | 1512 | 387 | 580 | 598 |
ブライン※2 | エチレングリコール・塩化カルシウム・メタノール水溶液 | ||||||
ブライン出口温度※3 | ~−15 ℃ | ~−23 ℃ | |||||
冷凍サイクル | 4段圧縮1段エコノマイザサイクル | ||||||
冷媒 | HFC245fa | ||||||
電源電圧 | 400/3000/6000 V級 | ||||||
始動方式 | 直入/スターデルタ/リアクトル/コンドルファ | ||||||
設置仕様 | 屋内/屋外共通 |
※1 ブラインを35 wt%メタノール水溶液,ブライン出口温度を−15 ℃,−23 ℃として選定する場合の目安である。
※2 上記ブラインでも対応できない濃度・温度等の条件がある。
※3 到達出口温度は,ブライン条件等によって変わる場合がある。
本稿では従来機種や一般空調用途のターボ冷凍機との比較を中心に超低温ブラインターボ冷凍機RTSF型について述べた。超低温ブラインターボ冷凍機を通じ,ユーザの要望に応えて諸工業の発展に貢献していく所存である。
現在当社では地球の温暖化改善のために,地球温暖化係数(GWP)が非常に小さい冷媒をターボ冷凍機に適用すべく研究開発を行っている。
1) 平成17年度オゾン層等の監視結果に関する年次報告書,p.145.
2) IPCC5次評価報告書.
3) NIST Refprop ver.9.0.
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