布施 智久*
岡部 隆*
小森 伸輔*
秋山 雄平*
雨海 大樹*
大川 祐輔*
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荏原冷熱システム(株)
エバラの製品のなかでも,冷却塔(クーリングタワー)は,みなさんに「見たことがある」と言ってもらえるものだと思います。エバラは,冷却塔のトップメーカーでもあるのです。ここでは冷却塔の基本の動作原理や活用例,省エネルギーを目指したフリークーリングなどをご紹介します。冷却塔を見かけたとき,こんなふうになっているんだなと,さらに身近なものに感じていただければ幸いです。
みなさんはビルやデパートの屋上で,上部にファンが付いて内部に水が流れている箱形状やボトル形状の装置を目にしたことがあると思います。あの装置が冷却塔で,ビルの空調システムでは重要な役割を担っています。
当社[荏原冷熱システム(株)]が作る冷却塔は,一般のオフィスビルから大規模なイベント施設まで,様々な場面で活躍しています。例えば,歴史のある観光名所「横浜赤レンガ倉庫」においても,当社の冷却塔が,心地よい空間作りに役立っています(図1)。
また,複数のオフィスビルや商業施設に冷温水を供給して,地域全体の空調熱源管理を行う地域熱供給サービスでも冷却塔は活躍しています(図2)。
空調以外の使い方では,工業用のエンジン発電機や電気炉の冷却,スキー場のスノーマシーンが散布する水の冷却(図3)など,今,幅広い産業分野で冷却塔が必要とされています。
冷却塔は一言でいうと,「水の蒸発を利用して水を冷却する装置」です。日常,ぬるま湯やアルコールを手の甲に浸けて息を吹きかけるととても冷たく感じることがあります。風を当てるのは,蒸発を盛んにするためで,冷えるのは液体が蒸発するときに周りの熱を奪うという性質があるためです。
この熱を気化熱と言いますが,同様に夏の暑い日に庭や道路に水を撒くと涼しくなるのも,地面が水によって冷やされることもありますが,大部分は地面から水分が蒸発する際の気化熱によるものなのです(図4)。
図1 空調用冷却塔
図2 地域熱供給用冷却塔
図3 スノーマシーン用冷却塔
図4 気化熱例
冷却塔はその使用目的により,空調用と工業用(産業用)に分類されます。これらに加え,近年ではフリークーリング等のシステムでの省エネルギーを目的とした利用も増えています。どの用途においても,冷却塔は単体で使われることは少なく,冷凍機や放熱を必要とする熱源機器と組み合わせて用いるのが一般的です。
ビルの空調設備において,中央空調システムでは一般的に冷却水が用いられます。この冷却水の温度調整のために,冷却塔が使われます。空調用の冷却塔は,空調機や冷凍機とともに中央空調システムの一部を構成します。
室内を冷房するための冷風は,空調機内で冷水と熱交換される(空気が冷える代わりに冷水の温度があがる) ことにより得られます。温められた冷水は,冷凍機に送られた後,蒸発器内で冷媒の蒸発により冷媒に吸熱され,吸熱した熱を凝縮器で冷却水あるいは外気に放熱します。冷却塔は冷凍機の凝縮器で,冷却水に放熱された熱を外気に捨てるという働きを担っているのです。
大きな建物の各室の空気調和(冷暖房)には,ほとんどの場合,図5のような中央空調システムが採用されます。中央空調システムでは,各機器を一個所で集中管理することができるので,単一用途の事務所ビルや,デパート,劇場,ホテル,銀行などに多く納入されています。
図5 冷房設備使用例
製鉄・化学・石油精製・発電・製紙・セメント・繊維・食品・薬品・排水・ごみ焼却等のあらゆる産業分野で使用される冷却塔を言います。産業用途に使用される冷却塔は,空調用とは異なり,様々な機械の冷却を目的としています。使用例としては,エンジン発電機の冷却・電気炉の冷却・プラスチック等の射出成形機の冷却などがあげられます。
産業用途に冷却塔を使用するメリットは「節水」と「環境への配慮」です。産業用途では,地下水や河川水を冷却水として使用し,使用後は排水される場合が多いのですが,冷却塔を使用することにより,廃棄される水を減らすことができ(節水),水の再循環が可能となり,自然環境への負荷を低減することができるのです。
その他の冷却塔使用方法として,下記にあげたような利用法もあります。
・冬期に冷凍機の代わりに冷却塔で循環水(冷水等)を冷却する(フリークーリング)
・スキー場のスノーマシーンで散布する水の冷却
・高温の工場排水を低温にして排水する
・夏は空気を冷やし,冬は空気を温める
・業務用ドライクリーニング機械の冷却用
このように,冷却塔は様々な方法で利用されており,冷却水を効率よく循環利用するためになくてはならない装置として用いられています。その代表例として,フリークーリングについて説明しましょう。
近年,病院やデータセンターの空調設備,各種冷却用の循環水が必要な産業設備では,年間を通じて冷凍機を運転して低温の循環水を発生させています。
外気温度が低くなると,冷却塔でも循環水を低温まで冷却が可能となるため,冷凍機の運転を止めて冷却塔で低温の循環水を発生させます。これがフリークーリングです(図6)。
図6 フリークーリングシステム概略図
冷却塔には,用途の違いによる分類だけではなく,塔の形状や冷却方式による分類もあります。冷却塔は,自然の外気(空気)を冷却水(循環水)に触れさせて熱交換を行いますが,この外気と循環水の流れの関係の違い,外気と循環水の接触方法の違いによる分け方があり,主にこの2つを組み合わせて区別されます。
塔体内の熱交換器部分の外気(空気)と循環水の流れが直交する場合は直交流形(クロスフロー形)(図7),対向する場合は向流形(カウンターフロー形)(図8)と区別します。
図7 直交流形(クロスフロー形)
図8 向流形(カウンターフロー形)
循環水と空気が直接接触して熱交換を行う場合を開放式(図9),循環水を密閉配管内に通して外気(空気)と直接接触させず,外気(空気)と直接接触する散布水を別系統で供給し密閉配管に当てることで循環水の熱交換をする場合を密閉式(図10)と区別します。
密閉式冷却塔の循環水は銅管コイル内を通り,散布水によって間接冷却されるため,冷却される機器側へ水質的影響を与えません。ただし,散布水は外気と直接接触するため,散布水側の水処理は必要となります。また,間接冷却となるので,開放式と同性能の冷却塔に比べると塔体容積やモータの動力が大きくなるのが一般的です。
当社では直交流形(クロスフロー形)の密閉式冷却塔を採用しています(図11)。
図9 開放式
図10 密閉式
図11 直行流形−密閉式冷却塔の構造
冒頭でも触れたように,冷却塔は水を蒸発(気化)させ,水の蒸発潜熱 *1)によって水自身を冷却する装置です。冷凍機も同様の仕組みを持ちますが,冷凍機と異なるのは,水を大気圧の下で空気と直接接触させて蒸発させる点です。
水を蒸発させるには,水の温度が空気の湿球温度 *2)以上であることが条件となります。湿球温度が水の温度と同じ場合は,飽和状態の空気なので,同時に乾球温度 *3)も同じ温度(湿度100 %)となり,蒸発が起こらないことから冷却の限界点となります。理論的には冷却の限界点まで冷却は可能ですが,冷却塔を効率的に運用するには,冷却された水の温度(出口水温)と湿球温度の差(アプローチという)は少なくとも2 ℃以上とする必要があり,汎用機の標準設計温度仕様では5 ℃としています。
冷却塔は空気の湿球温度により水を気化させて熱を奪う現象を原理としていることから,乾球温度以下にすることが可能であり,空冷熱交 *4)より効率がよく,蒸発潜熱を利用しているので外気の温度上昇が抑えられ,暑熱感が抑制されます。
蒸発量と冷却温度差を計算すると,例えば次のようになります。
温度37 ℃の水1 kgの1 %(0.01 kg)が蒸発するとき,残りの水0.99 kgの冷却された温度を求めます。
となります。
空気の温度や湿度は常に一定ではなく,季節や時間によって変化していることから,冷却塔はその熱交換の原理により自然現象の影響を受けることになります。一般的には最も不利と考えられる外気条件で設計・選定されることから,設計仕様以外では性能的に余裕側となります。その結果より低い温度の冷却水が供給可能となり冷凍機などの対象機器側の機器効率の向上が図られるということも考えられます。
*1 水の蒸発潜熱
水が気化(蒸発)する際に周囲から消費する熱エネルギー。以下の式により求められます。
≒ 2500 − 2.34・tw〔kJ/kg〕 ※tw:水温〔℃〕
*2 湿球温度
感温球部を濡れたガーゼ等で包んだ温度計での計測値。湿度の算出に用いられます。
*3 乾球温度
外気の温度(気温)。普通の温度計で計った空気温度。
*4 空冷熱交
ラジエータなど,水の蒸発潜熱を利用しない冷却装置。循環水と外気温度の温度差による顕熱移動で冷却します。
荏原冷却塔事業(シンワクーリングタワー)は1955年(昭和30年)の角型クロスフロー冷却塔第1号機の製造販売以来62年間の技術実績があり,5冷却トンの小型冷却塔から,1セル(ファン1台当り)1000冷却トンクラスの工業用冷却塔及び地域冷暖房用冷却塔まで対応しております。
また,お客様の様々な要求に対し,片吸込み型冷却塔,横吸込み横吐出し型冷却塔,省エネルギータイプ冷却塔,騒音対策型冷却塔等々,標準型以外の特殊仕様にも対応しております。
1) 高田秋一 川原孝七:改訂クーリングタワー,⑲省エネルギーセンター.
2) 川原孝七 佐々木国興:設備機器のエネルギー効率(2)「冷却塔」,空気調和衛生工学.
3) 日本冷却塔工業会:ホームページ,トピック.
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