野口 学* Manabu NOGUCHI
八鍬 浩** Hiroshi YAKUWA
*
技術・研究開発統括部 製品コア技術研究部
**
技術・研究開発統括部 基盤技術研究部
燃料中に塩素を含む焼却プラントにおいて,塩素による腐食は避けて通れない課題である。高温腐食防止の最大のポイントは,保護的な腐食生成物を形成させることであるが,塩化腐食の場合,生成する塩化物は緻密性に欠け保護皮膜としての機能は極めて低い。さらに塩化物は一般に融点が低くまた蒸気圧が高いなどの特徴があり,それによって様々な特徴的な腐食を引き起こす。本報では,超高温での塩化物の揮発,鋳物での粒界腐食,摩耗が関与する場合など,これまでにボイラ以外で経験した様々な部位における塩化に関する高温腐食問題とその対策について解説した。また実際の焼却炉における腐食問題として避けて通れない結露による腐食についても一部述べた。
For incineration plants that use chlorine-containing fuel, chlorine-induced corrosion is an unavoidable issue. The most important key for high temperature corrosion protection is to make the formation of protective corrosion product layers; however, in the case of chlorination-induced corrosion, formed chloride is low in density, and serves poorly as a protective layer. Furthermore, chlorides generally have characteristics, such as low melting points and high vapor pressure levels, which cause various types of corrosion with different characteristics. This part discusses high temperature corrosion caused by chlorination in various sections other than boilers, including volatilization of chlorides at ultrahigh temperatures, grain boundary corrosion of cast metal, and erosion-related corrosion, as well as protective measures against such corrosion. Additionally, corrosion due to dew condensation, which is an unavoidable corrosion problem in actual incinerators, is briefly described.
Keywords: High temperature corrosion, Chlorination, Volatilization, Grain boundary corrosion, High temperature erosion-corrosion, Condensation, Void formation, Stoker, Inbed tube, Casting alloy
廃棄物及びバイオマス焼却プラントで生じる高温腐食の特徴的な原因物質は塩素である。高温腐食が問題となる臨界温度をSUS304に例に取ると,単純な酸化であれば800 ℃以上だが,硫化になると500 ℃,塩化では350 ℃という低い温度で問題が生じるとされている 1)。高温腐食防止の最大のポイントは,腐食を抑制できる保護的な腐食生成物を形成することであるが,塩化腐食の場合,生成する塩化物は緻密性に欠け保護皮膜としての機能は極めて低い。さらに酸化物や硫化物などに比べ,塩化物は一般に融点が低く,また蒸気圧が高いなどの特徴があり,それによって様々な特徴的な腐食を引き起こす。
第3報では廃棄物発電ボイラについて紹介し腐食に対する付着灰の影響を中心に解説した。本報では,廃棄物及びバイオマス焼却プラントの,それ以外の部位での高温腐食問題とその対策について解説する。
焼却炉においては,付着灰中に含まれる塩の溶融によって300 ℃を超えた温度域から徐々に腐食が激しくなり,500~700 ℃程度の温度域に特に激しい腐食領域が存在すると長らく言われてきた 2)。一方700 ℃以上の高温域での腐食挙動に関する知見はほとんどなく,高温域ではガス相による腐食と同程度になり腐食はむしろ軽減されると考えられていた。この付着灰による腐食域を避けた1000 ℃付近の超高温域での熱回収方法として,高温空気加熱器が考案された 3)。図4-1にプラントの概念図 4)を示す。1000 ℃付近の高温排ガス雰囲気で熱交換を行い高温の加熱空気を経て,蒸気過熱や溶融炉での燃焼空気に用いる。本システムにおける最大の課題は熱交換器材料である。伝熱管自身が1000 ℃程度に加熱されるため,高温での強度に優れる必要があり,そして何よりもこの高温域での腐食に耐える必要がある。焼却炉で用いられる熱交換器の金属表面温度は現状でも500 ℃以下であるが,本方式は従来の表面温度を一気に500 ℃近くも上昇させた極めてチャレンジングな取り組みで,焼却炉における超高温域での腐食に関する研究例である。
図4-1 高温空気加熱器を用いたガス化溶融炉プラント概念図<sup>4)</sup>
実際の高温空気加熱器を,各種市販材料を用いて遠心鋳造によって伝熱管を製造し,ガス化溶融炉実証炉を使って暴露試験を行った。代表的な結果を図4-2に示す。伝熱管の表面温度はおおむね700~1100 ℃程度に加熱され,従来言われている付着灰の加速腐食量域を超えた温度域である。ところが,腐食は軽微との当初予想とは大幅に異なり,非常に激しい減肉が生じた。直線則を仮定し1000時間後の減肉量を求めると,耐熱鋳鋼では約3 mm,Ni-Cr-Fe系鋳造合金では約2 mmの減肉が生じた。最も優れたNi-Cr-W系鋳造合金でも0.5 mm程度の減肉が見られた。またいずれも鋳造合金中に連続的に析出した炭化物相に沿った粒界腐食が進行し,Ni-Cr-Fe系鋳造合金では2 mm以上の粒界腐食が観察された。
暴露した伝熱管を大気中でしばらく放置すると,図4-3に示す伝熱管表面に液滴が形成されることが頻発した。同様に,伝熱管を切断した断面観察用試料においても,しばらく放置すると,腐食部に液滴が観察されるのを確認した。
この腐食挙動を明らかにするため,実証炉で最も優れた結果を示したNi-Cr-W系鋳造合金(Ni-33Cr-15W-0.3C:以下ベース材)を使ってラボ試験を行った 5)。試験片を,実証炉から採取した付着灰に埋没し,N2-10 %O2-1000 ppmHClガス中で200時間の腐食試験を行った(埋没試験)。試験温度は700~1200 ℃とし,いわゆる塩の溶融による腐食領域を超えた温度域である。比較試験として付着灰を用いず,ガスだけで試験を行った所,付着灰を用いた場合に比べ腐食程度は僅かであることを確認している。つまりHClガスの腐食性は限定されるが,付着灰の触媒効果によってCl2が形成され,腐食環境が厳しくなると考えられた。埋没試験によって得られた最大侵食量(=減肉量+粒界腐食量)の結果を図4-4に示す 6)。実証炉暴露試験結果でも800~900 ℃の温度域で腐食量が増加する傾向が見られたが,ラボ試験においても800~900 ℃を最大とした温度に対する凸型の依存性を示した。さらに900 ℃と1100 ℃の試験片の断面を観察すると(図4-5),双方ともCr炭化物に沿った粒界腐食が進行し,900 ℃試験片では暴露試験と同様の液滴が観察された。これらの結果から,ラボ試験は実証炉の結果を反映していると判断できた。分析の結果,この液滴はCrやNiの塩化物が潮解することによって形成されたものであることが明らかとなった。一方,腐食が軽減された1100 ℃の試験片ではこのような液滴は形成されず,代わりに合金内部に多数のボイドが形成され,断面の元素分析の結果でもClはほぼ検出されなかった。つまり合金内部のClの存在が腐食速度を大きく左右していることが分かる。
以上の結果,本環境でのNi基鋳造合金の腐食機構を考察すると図4-6 5)となる。まず付着灰の触媒作用によってHClから腐食性の強いCl2が形成される(反応式(1))。このCl2及びO2がCr炭化物相と基材の界面を通り合金内部に侵入し,粒界腐食が進行する。雰囲気はO2が10 %存在する酸化物安定領域なため,塩化物はO2分圧が十分に低下した合金内部(腐食の先端部)で生成する。時間が経過しO2の侵入量が増えることによって内部のO2分圧が上昇する。その結果,塩化物安定雰囲気が酸化物安定雰囲気に変化することによって,塩化物が酸化物に変化する(反応(2)及び(3))。このとき塩化物からCl2が生成し,反応式(4)及び(5)で示されるとおり,生成したCl2が再び合金内部での腐食に関与する。このような合金内部でのCl2のリサイクル反応によって腐食が加速されると考えられる。700 ℃から800 ℃に温度が上昇することで飛躍的に腐食速度が上昇したが,CrCl2の融点は815 ℃でありNiCl2との混合塩となり塩化物の融点が低下することによって塩化物が溶融し,リサイクル反応が促進され腐食速度が急増したと考えられる。800 ℃以上に試験温度を上げると腐食速度は減少に転じるが,これは温度上昇によって塩化物が揮発し合金内部の存在量が減少するため,リサイクル反応が抑制され,結果として腐食速度が低下したと考えられる。このとき揮発の跡として,1100 ℃の試験片内部に見られた多数のボイドが形成されたと考えられる。
以上のように,塩化物は総じて融点が低くかつ揮発性が高いため,温度に対して複雑な挙動を示し,その結果腐食に対して大きな影響を及ぼすことが確認された。なお同様な塩素挙動は佐藤らの研究でも確認されている 7)。
図4-2 各種市販材料のガス化溶融実証炉における暴露試験結果
図4-3 暴露試験後の伝熱管外観写真
図4-4 Ni-Cr-W系鋳造合金の埋没試験結果<sup>6)</sup>
図4-5 埋没試験後のNi-33Cr-15W-0.1C合金の断面光顕写真
図4-6 Ni基鋳造合金の腐食機構<sup>5)</sup>
実証炉暴露試験結果によると,既存の合金では高温空気加熱器として十分な寿命は得られず,最も暴露試験結果が優れたNi-33Cr-15W-0.3C合金(ベース材)の耐食性改善に着手した 6)。2-2節で述べた合金内部でのClの蓄積が腐食を促進させるため,Clを積極的に合金内部から追い出すために,揮発性の高いAlCl3を形成するAlを合金中に添加し,耐食性改善を試みた。AlCl3は200 ℃以下で昇華するため,合金内部に侵入したClと反応・揮発することで,Clのリサイクル反応を抑制できると考えた。上述した埋没試験によって耐食性の評価を行った結果を図4-4に併せて示した。比較のため代表的な高温耐食性向上元素であるSi添加合金も併せて試作,評価を行った。Si添加合金についてはベース材とほぼ同様の腐食挙動を示したが,Al添加合金はベース材で見られた800 ℃以上での腐食ピークが大幅に抑制され,耐食性が大幅に改善することを確認した。さらにSiとAlを同時添加すると更に耐食性が向上した。AlがClを除去することによってSiが効果的に働いたと考えられる。図4-7にSi-Al添加合金の900 ℃試験片の断面写真を示す。ベース合金の900 ℃で見られた液滴は観察されず,代わりにボイドが観察され,断面観察からもAlのCl蓄積防止効果が確認できた。
遠心鋳造合金の腐食の特徴として,連続したCr炭化物に沿った粒界腐食であることは既に述べた。そこで更なる耐食性改善を狙いこの粒界腐食を抑制するために,合金中にCrよりも炭素との親和性の強いNbを添加し,Cr炭化物の連続性を断ち切ることを検討した。図4-8に腐食量のNb含有量依存性を示す。Nb添加によって腐食量は低減し,1.5 %添加で最小値を示した。
これら開発合金について,実機ガス化溶融炉で,テストピースを使った暴露試験によって効果を検証した。排ガス上流,中流,下流の3箇所で,図4-1に示す高温空気加熱器の先端に試験片を設置した。それぞれの部位のガス温度は約1000 ℃,900 ℃,800 ℃と想定される。ただし試験片温度は高温空気加熱器からの冷却によってガス温度に比べ下がっていると考えられる。約1年間暴露した後,各試験片の最大侵食量を評価した。結果を図4-9に示す。ベース材においては,上流及び中流で肉厚7 mmの試験片の下半分が消失していたため,残部で評価を行った。開発材については外観上の変化はほとんどなく,いずれもベース材に比べ大幅に耐食性が向上していることが分かる。
以上のとおり,塩化腐食は酸化や硫化などと比べ保護的な腐食生成物が形成されにくく,条件によって腐食生成物が起因した激しい加速腐食を引き起こす。ここではAlを使って塩化物を積極的に揮発させることによって,Clの影響を最小化し腐食速度の上昇を抑制させた。開発した本合金はガス化溶融炉の高温空気加熱器材料として実用化した。
図4-7 900 ℃におけるSi-Al添加合金の断面光顕写真
図4-8 Si-Al添加合金における最大侵食量に対するNb添加量の依存性
図4-9 実機におけるNi基鋳造合金の暴露試験結果
火格子の模式図を図4-10に示す。このように,火格子は,ストーカ炉内に可動火格子と固定火格子が段々に配置される。ストーカ炉内に投入されたごみは火格子の下部から投入される空気によって燃えながら火格子上を移動し,焼却灰となり炉外へ排出される。その際,燃焼熱による火格子の加熱を抑制するため,燃焼用空気で火格子の裏面を空冷することによって高温腐食環境を緩和している。ごみは可動火格子が前後運動をすることによって移動するが,燃えているごみを押す前進運動とごみとの接触が緩和される後退運動時に,火格子の温度が変動する。火格子材料としては耐熱鋳鋼が使われることが一般的である。本件は耐熱鋳鋼が腐食と共に熱変動を受け減肉が進展した事例である。
図4-10 火格子模式図
火格子は燃焼熱による高温場に曝されることによって高温腐食が生じ,また前後運動する際に表面温度の変動を受ける。実機火格子(材質SCH2:Fe-26Cr-0.3C)の損傷形態を図4-11に示す。ごみを押す火格子の前面が激しく減肉し,特に前面の中央部から下部で顕著な減肉が進行した。減肉が比較的マイルドな上部と,激しい中央部の断面観察の結果を図4-11中に併せて示した。両者とも粒界腐食が進展しており,特に上部で激しい腐食が観察された。また腐食した粒界部は所々にクラックが入っていることが確認された。当該環境での耐熱鋳鋼における粒界腐食は,結晶粒界近傍に析出したCr炭化物が選択的に腐食するためであることが,高橋らによって明らかにされている 8)~10)。2章でも述べたとおり,Cr炭化物の選択腐食は焼却環境での鋳造合金の大きな特徴と言える。
以上,火格子の減肉機構をまとめると図4-12となる。結晶粒界に析出したCr炭化物が選択的に腐食される。火格子の前後運動に伴い表面温度が変動するが,火格子前面の上部に比べ肉厚が薄い中央部から下部は,裏面からの空冷の影響を受けやすく,温度変動が激しいと考えられる。そのため,温度変動に起因する熱応力によって腐食部でクラックが進展し,結晶粒が脱落する。その結果,減肉が進行すると考えられる。減肉がマイルドな上部では,温度変動が緩やかで結晶粒の脱落も少なかったため減肉は抑えられたが,その分粒界腐食が進展した。一方,中央部より下部では温度変動が激しく結晶粒の脱落が頻繁に生じたため,激しい減肉に至ったと考えられる。
図4-11 実機火格子外観及び断面観察結果
図4-12 火格子減肉の模式図
減肉の主要因である選択腐食を抑制するため,Cr炭化物相の改善を検討し,SHC2にNb添加を試みた。作製した合金の組織観察結果を図4-13に示す。Nbを含まないSCH2では網目状にCr炭化物が析出しているが,Nb添加によって一部がNb炭化物に置き換わり,連続的なCr炭化物相が切断されていることが分かる。このNb添加合金でサイドシール鋳物を製造し,実機で約6箇月間暴露した結果を図4-14に示す 11)。サイドシールとは,火格子の横方向の熱膨張を緩和するなどの目的で,ストーカ炉の側壁部に設置されている。そのため腐食環境などは火格子とほぼ同様であるが,冷却されていないため,火格子に比べ温度が高いことが特徴である。従来材のSCH2は鋳物の角が丸く減肉していることが分かる。断面の対角長さを測定し,減肉量を求めると,SCH2では5 mm程度の減肉が生じているのに対し,Nb添加合金においては大幅に減肉が抑制され,0.5 %Nbにおいては1 mm以下に抑えられていた。以上のとおり,Nb添加によるCr炭化物のネットワークの切断が,粒界腐食抑制に有効であることが証明された。
ただし実機火格子にNb添加合金を採用した結果,サイドシールとは異なり従来材であるSCH2に対し十分な優位性が確認できなかった。火格子本体は底部からの冷却によってサイドシールに比べ温度が低く,2-1節で述べたいわゆる付着灰に含まれる塩の溶融による腐食も関与しており,粒界腐食に加え耐全面腐食性を向上させることが必要であると考えられた。そこで,Nbの他に都市ごみ環境での耐食性向上に有効な元素であるMoを添加した合金開発に取り組んだ 12)。ラボ試験で最適組成を検討し,開発した合金によって火格子を製造し,実機での実証試験を行った。約4000時間運転後に炉内で火格子を撮影した結果を図4-15に示す。比較のため,高コストではあるが耐食性に優れるNi基自溶合金を表面に溶射した火格子も試作し評価した。前面の減肉量は,Ni基溶射と開発合金(1 mass%Nb+5 mass%Mo添加)でほぼ同程度で,SCH2に対し明らかな優位性を示した。火格子の質量減少量も併せて測定したが,SCH2(1.2 %)の半分程度(0.63 %)の減少量で,質量減少の観点からも従来材に対し優位性があることが実証された。
現状では,これらの開発合金に加え,強制空冷や水冷火格子など火格子温度の低温化対策によって火格子延命化を図っている。
図4-13 SCH2及びNb添加合金の組織観察結果
図4-14 Nb添加合金のサイドシール鋳物実証試験結果<sup>11)</sup>
図4-15 Nb+Mo添加合金の火格子実証試験結果
バイオマス燃料をはじめとする様々な燃料に対応した内部循環流動床ボイラ(Internally Circulating Fluidized bed Boiler:以下ICFB)の高温腐食事例について紹介する。ICFBの概念図を図4-16に示す。ICFBの大きな特徴として,流動床内を燃焼室と熱回収室に分離し,層内伝熱管を熱回収室に設置したことが挙げられる。熱回収室は砂の流動が燃焼室に比べ穏やかで,また燃焼室と熱回収室を隔てる仕切り壁によって腐食性ガスの濃度も燃焼室に比べ1/10程度にまで低減されることを確認している。そのため摩耗及び腐食条件とも,燃焼室に比べ大幅に緩和され,層内伝熱管の耐久性向上に寄与している。ただし,バイオマスなどのClを含む原料を用いた場合,燃焼室と熱回収室を循環する流動媒体に付着する形でClが熱回収室に供給される。図4-17に実機で使用した流動媒体の断面EDS分析(エネルギー分散型X線分析)結果を示す。流動媒体の中心部はSiとOを中心とする珪砂であるが,周囲はCaとClの層が形成されており,珪砂の周囲に塩化物がコーティングされていることが分かる。同様の事例は外部循環流動床ボイラでも観察されており 13),流動媒体への塩化物の付着は流動床特有の現象と考えられる。本件は塩化腐食と摩耗が組み合わさった高温腐食摩耗による材料損傷事例である。
図4-16 ICFBの概念図
図4-17 流動媒体断面分析結果
図4-18に使用後の層内伝熱管の外観写真を示す。伝熱管の表面にNi基自溶合金を溶射している。ベンド部に白マジックで囲われた赤く錆びた部分が見られるが,溶射層が消失し,素地の炭素鋼が露出した部分である。このように外観からは,付着物や腐食生成物が見られず,一見すると摩耗による減肉と思われがちである。ただし,Clをほとんど含まない燃料を用いた場合,層内伝熱管の減肉は僅かであるのに対し,流動媒体中のCl含有量に伴い伝熱管の減肉量が増加するため,Clに起因する腐食現象が関与していることは明らかである。
図4-18 実機層内伝熱管外観写真
高温腐食摩耗現象を調査するため,珪砂の中で試験片が回転する回転型腐食摩耗装置を用いてラボ試験を実施し,腐食条件及び摩耗条件による減肉挙動を調査した 14)。雰囲気を変えることで腐食条件の,試験片の回転速度を変えることによって摩耗条件の影響を評価した。腐食条件として,珪砂に対し1 mass%の塩類(NaCl-KCl-Na2SO4-K2SO4系共晶塩:融点512 ℃)を添加しN2-10 %O2-1000 ppmHClガスを流した腐食性環境と,塩やHClガスを用いない大気だけの環境で,それぞれ回転速度を変化させ550 ℃で24時間実験を行った。
図4-19に炭素鋼と耐食合金SUS347の質量減少量の回転速度依存性を示す。腐食の影響が僅かで摩耗主体と考えられる大気環境では,減肉はほとんど進行しなかった。一方,腐食雰囲気の場合,回転速度の上昇に応じて著しい減肉増加が観察された。SUS347の場合,250 r/minまで,一方炭素鋼においては750 r/minまでは極端な減肉増加は見られないが,それぞれ所定の回転速度を超えると著しく減肉量が増加することが分かる。つまり,摩耗若しくは腐食単独に比べ,腐食と摩耗の効果が相乗することによって極めて厳しい減肉が生じることが実験的に確認された。ここで腐食環境での炭素鋼とSUS347を比較すると,摩耗がない条件(0 r/min)では耐食性に優れるSUS347の減肉量が少ない。そして,摩耗条件の穏やかな250 r/minまではSUS347の減肉量が少ないが,その後500~750 r/minでは耐食性が劣る炭素鋼の減肉量が少なくなる逆転現象が生じた。試験片の外観を見ると(図4-20),炭素鋼は250 r/min,750 r/minとも試験片全体がスケールに覆われていた。一方SUS347の250 r/minの試験片は全体がスケールに覆われているが,750 r/minは進行方向に対し45°方向が減肉し,減肉部はスケールのない非常に滑らかな金属表面が露出し,図4-18の実機層内管と同様の外観となった。つまり表面がスケールに覆われていると減肉量は抑えられているが,スケールの消失と共に非常に激しい減肉となり,摩耗によって連続的にスケールが除去されることによって腐食が加速されると考えられる。
この現象を模式的に図4-21に示す。図4-21(a)の横軸は腐食スケールの成長速度で,同一の材料で考えると腐食環境の厳しさ,腐食環境が同一の場合は材料の耐食性に相当する。縦軸は摩耗条件の厳しさを表す。図4-21(b)には腐食だけ,腐食主体領域,腐食摩耗領域における同一材料の減肉速度を模式的に示した。腐食だけでは減肉量は放物線則に従い,時間とともに減肉速度が低下する[図4-21(b)黒線]。腐食スケールの成長速度が,摩耗速度に比べ十分に大きい場合(腐食主体領域),合金表面がスケールに覆われ,合金は腐食によって減肉し,腐食スケールが摩耗によって削られる。スケールによって腐食速度は緩和され,本連載の第1報の5-1節で記載した揮発系の腐食と同様に 15),定常的には腐食によるスケールの成長速度と摩耗による損傷速度が釣り合ったスケール厚さとなり一定速度で腐食が進行すると考えられる[図4-21(b)赤線]。一方,生成した腐食スケールが連続的に取り去られるまでに摩耗速度が上昇すると(腐食摩耗領域),スケールを維持することができず,合金表面がほぼ露出した腐食初期の速度で減肉が進行する[図4-21(b)黄線]。さらに摩耗条件を厳しくしていくと,いずれ摩耗主体の損傷となる(摩耗主体領域)。上記の腐食摩耗試験の結果では,250 r/minまではSUS347,炭素鋼とも試験片表面がスケールに覆われ腐食主体領域にあった。一方500~750 r/minでは,耐食性が劣りスケールの成長速度が大きい炭素鋼は腐食主体領域だが,SUS347はスケールの成長速度が小さいためスケールが除去されて腐食摩耗領域に有り炭素鋼以上に減肉が速かったと考えられる。
図4-19 回転型ラボ試験装置用いた腐食摩耗試験結果
図4-20 実験後の試験片外観写真
図4-21 腐食と摩耗の関係性及び減肉速度の模式図
減肉抑制には,環境及び材料の観点からの対策がある。環境対策としては,摩耗条件の緩和,腐食環境の改善として腐食性物質の濃度低下及び温度変更などが考えられる。この中で温度については,温度上昇によって腐食摩耗量が減少する場合があることが報告されている 16)。実際のプラントにおいては,環境対策については操業条件の変更が必要になる場合が多く,改善が難しい場合が少なくない。
材料対策の代表例として,プロテクターの装着が挙げられる。プロテクターを減肉部に取り付け定期的にメンテナンスをすることで,装置本体の減肉を抑制できる。ただし熱交換器の場合,プロテクター装着によって伝熱効率が低下するため,局所的な減肉への対処としては非常に有効な手段であるが,広範囲への装着は機器性能に対する影響が無視できなくなる場合がある。材料そのものによる対策としては,溶射や肉盛などの表面処理が実施される場合が多い。摩耗主体であれば硬化肉盛やクロムカーバイドを分散させた溶射など,硬い材料を用いることが減肉対策となる。一方,腐食摩耗環境においては,耐食性及び耐摩耗性に加え施工性などが非常に優れるため,Ni基自溶合金を用いた表面処理が採用される場合が多く,広く実績を挙げている。
再生可能エネルギーの促進に伴い,今後ますます様々なバイオマス燃料が用いられ,腐食環境が多様化してくることが考えられる。しかし腐食環境が変化することで環境が複雑化し,図4-21に示すとおり,腐食と摩耗の影響度によって適正材料も変化する。ただし腐食摩耗環境での減肉機構や最適材料が十分に解明されているとは言い難く,現在研究開発に取り組み,減肉対策への強化を進めている 17)。
最後に,高温腐食からは離れるが,エコノマイザ,空気予熱器,バグフィルタなどに代表される排ガス温度が低い部位に関する腐食事例について紹介する。これらの部位で注意すべきは結露であり,排ガス中に含まれるHClによって塩酸が形成され,炭素鋼であればもちろん腐食する。これらの機器は当然結露が生じないように設計されている。しかし実プラントでは必ずしも設計どおりの条件にならないこともあり,実際に著者が日常的に相談を受ける腐食トラブルの多くは結露に関する腐食である。ここでより問題なのがSUS304やSUS316に代表されるオーステナイト系ステンレスを使用している場合である。これらの材料は汎用性,加工性・溶接性など種々の特性に優れるため非常に使いやすい材料ではあるが,50 ℃を超える温度で塩化物イオン濃度が高い溶液中で使用されると,応力腐食割れを引き起こすリスクが高いことを再認識する必要がある。図4-22にFe-Cr-Ni合金の応力腐食割れに及ぼすNi含有量の影響を示す 18)。図中の○印が応力腐食割れの発生を示す。10 %程度のNi含有量が最も割れやすく,8 %のNiを含むSUS304が応力腐食割れを発生しやすい材料であることが理解できる。Ni含有量が増えるに従い割れにくくなるが,Ni量に伴い材料コストも大幅に上昇する。一方,Niが少ない場合も割れは発生しにくくなるため,Niを含まないフェライト系ステンレス鋼は応力腐食割れが発生しにくい。
焼却プラント環境は,燃料中に塩素が含まれるため結露水中にはほぼ間違いなく高濃度で塩化物イオンが含まれ,また焼却熱によって多くの部位で50 ℃を超える。つまり応力腐食割れのリスクが非常に高い環境であり,実際に腐食トラブルの中で,応力腐食割れの占める割合は低くない。盲点になりやすいのが,かつて高温腐食が発生し,対策としてSUS304などのオーステナイト系ステンレス鋼が用いられている場合である。このような部位では高温腐食を懸念し,対策として冷却を併せて実施している場合があり,逆に冷え過ぎてしまうと結露が生じ結果として応力腐食割れが発生する。
対策としては結露が生じない設計にするのが何より重要である。材料的な対策が必要な場合は,炭素鋼を交換しながら使用するか,応力腐食割れを避けるためフェライト系ステンレス鋼などを使用するべきと考える。ただし,併せて孔食のリスクも考える必要があるため,環境に応じて式(4-1)で求められる耐孔食性指数(PRE)の高い材料,高Crフェライト系ステンレス鋼さらには二相ステンレス鋼などを使用することが求められる。
PRE=Cr+3.3(Mo+0.5 W)+16 N ・・・・・・・・(4-1)
あるいは,PRE=Cr+3.3 Mo+16 N ・・・・・・・・・(4-2)
注:Nはフェライト系には適用されない
オーステナイト系ステンレス鋼は非常に使いやすい材料ではあるが,焼却プラントで200 ℃以下になる部位では基本的に採用しない,どうしても使う場合は細心の注意が必要であることを理解されたい。
図4-22 Fe-Cr-Ni合金の応力腐食割れに対するNi含有量依存性
2回に分けて廃棄物及びバイオマス焼却プラントの高温腐食について述べたが,冒頭でも述べたとおり,実環境における腐食のポイントは塩素である。塩化は酸化などに比べ腐食性が強く挙動もはるかに複雑である。高温空気加熱器においては,塩化物のリサイクル反応と揮発が大きなポイントとなった。この揮発挙動を利用することによって,耐食材料を開発した。火格子では網目状に析出したCr炭化物の粒界腐食の抑制が最大の課題であり,添加合金によって組織改善を行った。層内伝熱管については腐食と摩耗の相乗現象の解明が鍵である。これらは同じ塩化に関連した課題ではあるが,現象は様々で,その対策も一様ではない。よって実環境での問題解決の第一歩は,実機で生じていることを十分に理解することから始めることが必須となり,それをラボ試験で検証し,結果を実機で実証するといった,地道なステップを歩むことが解決への最短の道であることは疑いがない。一方,結露下で生じる腐食については,高温腐食に比べ問題が発生する頻度は圧倒的に大きいが,現象が理解されている課題である場合が多く,教科書を十分に理解すれば対処できる場合が多い。いずれにしても塩素を扱うプロセスにおいては,高温・常温を問わず,腐食問題から目をそらすことができないことは紛れもない事実である。
本連載が同様の腐食問題への解決に対する一助になれば幸いである。
1) 根元力男:高温腐食の基礎, 日本冶金技法,No.5,62(1996).
2) V. K. Fassler, H. Leib and H. Spahn : Korrosionen an Müllverbrennungskesseln, Mitteilungen der VGB, Vol.48, pp. 126 - 139 (1968).
3) 大下孝裕,ガス化溶融技術とリサイクル技術の展望:日本エネルギー学会誌,78[9],p.712(1999).
4) 野口学,松岡慶,藤村宏幸,ガス化溶融炉高温排ガス環境における各種鋳造合金の腐食挙動:材料と環境,51[2],p.67(2002).
5) 野口学,松岡慶,藤村宏幸,澤田義行,植田茂紀,ガス化溶融炉高温排ガス環境におけるNi基鋳造合金の腐食機構:材料と環境,51[2],p.75(2002).
6) 野口学,松岡慶,阪本英之,植田茂紀,澤田義行,高温塩素含有雰囲気におけるNi基鋳造合金の耐食性に及ぼす合金元素の影響:材料と環境,54[5],p.218(2005).
7) 佐藤芳幸,原基,品田豊,成田敏夫:ニッケル−クロム合金の高温酸化に及ぼす微量の塩化水素の影響,日本金属学会誌,61[1],p.56(1997).
8) 高橋英徳,宮越康樹,鴨田秀一,林重成,成田敏夫:耐熱鋳鋼SCH13の廃棄物焼却炉における高温腐食挙動,材料と環境,47[12],p.777(1998).
9) 高橋英徳,宮越康樹,鴨田秀一,林重成,成田敏夫,黒田和博,齊藤俊雄,鍛冶彰男:廃棄物焼却環境下における耐熱鋳鋼SCH13の粒界腐食機構,材料と環境,48[9],p.583(1999).
10) 高橋英徳,宮越康樹,鴨田秀一,林重成,成田敏夫:耐熱鋳鋼SCH2の廃棄物焼却炉内における高温腐食機構,材料と環境,49[7],p.426(2000).
11) 高橋英徳,岡武裕,浦上嘉信,神保元,八鍬浩,野口学,成田敏夫:ごみ焼却環境における耐熱鋳鋼SCH2の粒界腐食に及ぼすNb添加の影響,材料と環境,54[5],p.215(2005).
12) 高橋英徳,宮腰康樹,鴨田秀一,岡武裕,浦上嘉信,野口学,八鍬浩:ごみ焼却炉における耐熱鋳鋼SCH2の高温腐食挙動に及ぼすNb,Mo添加の影響,第53回材料と環境討論会集,A-303,105(2006).
13) 中森正治監修,ボイラ燃焼ガスによる高温腐食事例とその対策:テクノシステム,p.294(2012).
14) Manabu Noguchi, Hiroshi Yakuwa, Matsuho Miyasaka, Hideyuki Sakamoto, Shigeru Kosugi, Toshio Narita:High temperature erosion-corrosion behavior of boiler tube materials in fluidized-bed waste incinerator conditions, Proceedings of HTCP2000, 573 (2000).
15) 野口学,八鍬浩:「腐食防食講座−高温腐食の基礎と対策技術−」第1報:高温腐食の基礎Ⅰ(基礎となる理論),エバラ時報,No.252,p.31(2016-10).
16) 園家啓嗣,梶ケ谷一郎,島崎宗治:ステンレス鋼とCr-Mo鋼の流動層中の摩耗特性,鉄と鋼,84[12],p.45(1998).
17) Mohammad Emami, Shigenari Hayashi, Takashi Kogin, Manabu Noguchi : Errosion-Corrosion Behavior of Metals in Chlorine Containing Oxidative Atmospheres, 第63回材料と環境討論会講演集,A-301,65(2016).
18) 腐食防食協会編:防食技術便覧,日刊工業新聞社,p.103(1986).
藤沢工場ものづくり50年の歴史
1966年頃の藤沢工場
縁の下の力持ち 高圧ポンプ -活躍場所編ー
100万kW火力発電所内で活躍する50%容量ボイラ給水ポンプ
RO方式海水淡水化用大容量、超高効率高圧ポンプの納入
長段間流路内の流線と後段羽根車入口の流速分布
縁の下の力持ち ドライ真空ポンプ -真空と真空技術の利用ー
真空の領域と用途例
座談会 エバラの研究体制
座談会(檜山さん、曽布川さん、後藤さん)
縁の下の力持ち 標準ポンプ -暮らしを支えるポンプー
標準ポンプの製品例
座談会 未来に向け変貌する環境事業カンパニー
座談会(三好さん、佐藤さん、石宇さん、足立さん)
世界市場向け片吸込単段渦巻ポンプGSO型
GSO型カットモデル
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