山本 充利* Mitsutoshi YAMAMOTO
佐藤 二三男* Fumio SATO
宮坂 崇* Takashi MIYASAKA
佐藤 浩一* Koichi SATO
江澤 正晃* Masaaki EZAWA
小林 裕樹* Yuki KOBAYASHI
*
荏原環境プラント(株)
武蔵野市向けごみ処理施設の建設工事を行い,2017年3月末に完成,納入した。施設はごみ焼却施設としての基本的な機能に加えて,市のコンセプトに基づく災害時を含めた周辺施設への熱電供給,景観に配慮した建築デザイン,見学者サービスの充実などの多彩な機能を備えたものとなっている。また,プラントの高い性能を確保しつつ,これらの機能を両立させ,さらに既設に隣接した狭小な敷地への建設を行うため,高度な排ガス基準値にも対応したシンプルなプロセスの採用や焼却炉,プラットホームなどの地下化によって,施設をコンパクト化している。重曹を使用した乾式排ガス処理では,従来は湿式処理の適用範囲である塩化水素8 ppm以下での運転を実現した。
EBARA constructed and completed a municipal waste treatment plant for Musashino City at the end of March 2017. The plant combines the basic functions of a waste incineration plant with a diverse variety of other functions, including, under a concept designated by the city, heat and electric power supply to nearby facilities both under normal circumstances and in the event of a disaster. In addition to all of these functions, its architectural design is harmonious with the surrounding scenery and it offers further hospitable services for visitors. Because the plant had to be constructed on a small site adjacent to existing facilities, another feature it offers is its compact size, which was achieved by adopting processes that are simple but able to meet very strict exhaust control values, by installing the incinerator, platform, and other facilities underground. The dry exhaust treatment process using sodium bicarbonate has achieved operation with 8 ppm or less of hydrogen chloride, which was the range previously covered by wet exhaust treatment processes.
Keywords: Waste incineration, Disaster prevention, Seismic design, Cogeneration system, Energy supply, Low air ratio combustion, Sodium bicarbonate, High efficiency power generation
近年,ごみ処理施設に対しては,廃棄物の衛生的,効率的な処理に加え,廃棄物の資源化,焼却廃熱の有効利用,地域への貢献など幅広いニーズへの対応が求められている。さらに東日本大震災以降,災害時のごみ処理の継続や地域の防災対策への貢献も重要な役割の一つとなってきている。
武蔵野市は,新武蔵野クリーンセンター(仮称)整備運営事業において,「景観及び建築デザイン等に配慮した施設づくり」,「地域社会と暮らしに配慮した施設づくり」,「災害に強い施設づくり」,「環境の保全に配慮した安全・安心な施設づくり」を重点項目とし,事業者の提案を求めた。当社は,市の方針に基づく具体的な提案を行い,施設建設の請負及び20年間の運営業務を受託し,2017年3月に工場棟を完成させ,武蔵野クリーンセンターの運営を開始した。以下に本施設の概要と特長を紹介する。
表1に事業の概要を示す。建設工事は,武蔵野市の唯一のごみ処理施設である既設クリーンセンターの建替え工事として,既設の隣接地に新たな施設を建設するものである。建替えにあたり,用地選定や基本計画が市民参加によって行われ,施設のコンセプトなどが決定されている。また,事業方式は,設計(Design),建設(Build), 運営(Operate)を一括で発注するDBO方式が採用されている。
事業名 | 新武蔵野クリーンセンター(仮称)整備運営事業 |
事業手法 | DBO方式(設計,建設,運営20年間の包括) |
施設整備期間 | 2013年7月~2019年6月 工場棟:2017年3月完成 管理棟:2019年6月完成予定 |
発注者 | 武蔵野市 |
建設事業者 | 【代表企業】荏原環境プラント(株) 【構成企業】鹿島建設(株) |
運営事業者 | (株)むさしのEサービス(特別目的会社) |
表2に施設の主要な設備概要を示す。また,図1に焼却施設の概略設備フローを示す。
施設に搬入されたごみは,プラットホームからごみピットへ投入され,ごみピット内で貯留,撹拌された後,ごみクレーンで焼却炉へ投入される。投入されたごみは,焼却炉内で燃焼される。
ごみの燃焼によって発生した排ガスは,ボイラで熱回収されたのち,エコノマイザにて更に低温化され,集じん装置によって,ばいじん,塩化水素,硫黄酸化物,ダイオキシン類等を除去する。本施設では,有害物質を除去した排ガスの一部を分岐し,焼却炉へ戻す排ガス再循環ラインを設けている。
焼却炉から排出される焼却灰は,灰選別設備で鉄や非鉄等を除去した後に,加湿し,灰ピットに貯留後,エコセメント化施設へ搬出し,利用される。
一方,飛灰は,集じん装置にて捕集され,空気輸送によって飛灰貯留槽へ輸送,貯留され,エコセメント化施設へ搬出し,利用される。
図2に建設用地及び周辺の配置を示す。建設用地は,市役所,総合体育館他スポーツ施設,コミュニティセンターに隣接しており,その周辺は住宅地となっている。そのため,施設の性能はもとより,周辺環境に配慮した建物のデザインや災害時を含めた周辺施設への熱電供給など行い,地域に馴染み,地域に役立つ施設を目指した。
受入供給設備 | |
ごみクレーン | 全自動クレーン×2基 |
燃焼設備 | |
焼却炉 | 全連続燃焼式ストーカ炉 |
処理量:60 t/d×2炉 | |
燃焼ガス冷却設備 | |
ボイラ | 自然循環式水管ボイラ |
蒸発量:10.8 t/h×2缶 | |
蒸気条件:4 MPaG×400 ℃ | |
排ガス処理設備 | |
集じん方式 | ろ過式集じん器 |
脱硝方式 | 無触媒脱硝 |
HCl・SOx除去方式 | 乾式(重曹噴霧) |
ダイオキシン類及び水銀対策 | 活性炭吹込式 |
通風設備 | |
煙突 | 外筒鉄筋コンクリート(既設再利用) 内筒鋼板製 高さ:59 m |
余熱利用設備 | |
蒸気タービン | 抽気復水式 |
発電機 | 三相交流同期発電機 2650 kW |
場外電力供給 | 供給先:周辺施設 (市役所,総合体育館,コミュニティセンター) |
場外蒸気供給 | 供給先:周辺施設(市役所,総合体育館) |
灰出し設備 | |
焼却灰 | 磁選,粒度選別後加湿処理 |
焼却飛灰 | ジェットパッカー車への乾灰積込 |
排水処理設備 | |
プラント排水 | 凝集沈殿+砂ろ過+活性炭吸着 場内再利用および余剰水下水道放流 |
生活排水 | 下水道放流 |
コジェネレーション設備 | |
ガスタービン発電装置 | 発電出力 1500 kW |
排熱ボイラ | 蒸気条件:0.75 MPaG飽和, 蒸発量:4.56 t/h |
不燃・粗大ごみ処理設備 | |
破砕 | 一次:二軸式低速回転破砕機 |
二次:竪型高速回転破砕機 | |
選別機 | 磁力選機,アルミ選別機,ふるい選別機 |
図1 設備フロー
図2 施設及び周辺施設配置
本施設は,図2に示すように既設クリーンセンターに隣接して建設された。建設工事は,新工場棟の建設を行い,新工場の稼動後,既設クリーンセンターの解体工事(別途工事)を行い,解体後の敷地に新管理棟を建設する工程となっている。図3に概略の工事工程を示す。煙突については,既設外筒を再利用した。本施設は武蔵野市唯一のごみ焼却施設であり,市のごみ処理を停滞させないために,既設を運転しながら煙突内筒入替工事や既設から本施設への切替工事を行い,ごみの受入,焼却処理の空白期間がないように工事を遂行した。なお,既設クリーンセンターの事務所棟他は,リノベーションし,環境啓発施設として利用する計画となっている。
図3 工事工程
煙突工事は,まず,後述の高い耐震基準(構造体Ⅱ類)に対応するために,煙突外筒の耐震補強工事が必要であった。この耐震補強工事を含む煙突外筒の改修工事は,工事期間の比較的初期の2014年度に実施した。続いて2016年度に内筒の入替工事を実施した。既設は3炉構成で煙突内筒が3本であり,新施設は2炉構成で内筒が2本,他に臭突が1本となっている。工事は,既設の煙突内筒3本を,新しい煙突内筒2本と臭突1本に入れ替えるものであった。運転しながらの入れ替えにあたって,既設は2炉運転で受入ごみの全量処理が可能な状況のため,1炉ごとに炉を停止して内筒を新しいものへ入替え,既設を一旦,新しい内筒へ接続し,既設2炉の運転を継続できるようにした。残る1炉は,臭突への入替えとともに停止した。次に新施設への切替工事を行った。既設の運転を継続するため,試運転時の乾燥焚などのバーナの排ガスは臭突を利用して排出した。新施設の稼動準備が整い,ごみの受入を開始するのとほぼ同時に既設を停止して,新施設への煙突内筒の切替えを行った。煙突の基礎部については,工事エリアが既設建物と干渉するため,既設解体後に耐震性を向上させる耐震工事を実施する予定である。今回の既設を稼動しながらの煙突内筒の交換は,既設隣地の狭小な敷地への建設や既設煙突外筒の流用などの難しい施設整備条件に対しての有効な工法であることを示す試みとなった。
本施設は,市役所や総合体育館他のスポーツ施設に隣接し,周囲を住宅地で囲まれた立地であることから,街並みへ配慮した景観とすることが求められた。建屋の外観は,地域の歴史と周辺環境を反映し,テラコッタルーバーと壁面緑化の組合せによって,かつての武蔵野の雑木林をイメージしたデザインとなっている。また,後述のコンパクト化によって,建屋の大きさを平面的には各辺が約55 m,高さは約15 mとし,同規模の施設と比較して非常にコンパクトなものとしている。さらに,建屋の形状をフラットな四角形とし,工場を感じさせないデザインをつくり出し,建築デザインとプラント設備の融合を実現している。図4,図5に建屋の外観を示す。
図4 施設外観(市役所から)
図5 施設外観(体育館前から)
プラントの性能及び機能,運用のしやすさやメンテナンス性を確保しつつ,以下のような方策によってコンパクト化を図った。
厳しい排ガス基準値に対応した最新技術の導入によって,処理プロセスをシンプルなものとし,プラント設備のコンパクト化を図った。低温エコノマイザ,重曹を使用した乾式排ガス処理によって減温搭を非設置とし,さらに白煙防止条件がないことや無触媒脱硝の採用によって,排ガスの再加熱器,触媒反応塔なども非設置とした。また,最新の高速燃焼型ストーカ炉の採用,排ガス再循環システムの導入によって,設計空気比を1.25~1.3の低空気比とし,空気量,排ガス量を低減し,関連各機器のコンパクト化を図った。その他にも様々な配置上の工夫を行い,コンパクトな建屋に収まるプラントを実現した。
建屋全体のコンパクト化を行うとともに,建屋を地下化することで地上部分の更なるコンパクト化を図った。図6に建屋の断面を示す。焼却炉は,地上部に設置されることが多いが,本施設では,検討,工夫を重ね,地下2階に設置した。これによって,非常に低い建屋高さを実現している。また,プラットホームも地下化しており,敷地内周回道路はプラットホーム内を通る動線とし,プラットホーム上の地上部をコミュニティスペース(24時間開放の公開空地)として利用できるようにしている。なお,プラットホーム天井を支える構造はトラス構造とし,耐震性を保った上で柱のない広い空間を確保し,地下化による使い勝手の低下のないように配慮している。
図6 施設断面
施設内には,2階のみで見学可能な周回通路(図7)を設け,プラント設備が臨場感をもって体感できる大きな窓(図8),リアルなCG映像が流れるモニターなどを設置し,ごみ処理の仕組みが分かりやすいように配慮している。さらに,見学者通路は自由見学ができ,個人での訪問者でも,ごみ処理施設についての理解を深められるようになっている。
また,上述のプラットホーム上部のコミュニティスペースは,常時,オープンスペースとなっており,環境などをテーマとしたイベントの開催にも利用されている。
図7 見学者周回通路
図8 焼却炉室見学者窓
武蔵野市が計画した本施設のコンセプトの一つである“災害に強い施設づくり”の概念や東日本大震災での経験を踏まえ,地域に密着した防災施設として貢献するため,次のような内容を設計に組み込んで実施した。
災害時に機能を維持するためには,施設の耐震性が重要となる。そのため,事業継続性の確保や施設利用者の安全性,地域住民の避難を考慮し,建築物の耐震基準は構造体Ⅱ類(重要度係数1.25)とし,非構造部材は耐震安全性「A類」に,建築設備の基準は「甲類」の設計となっている。天井の落下対策や各設備のダクトや配管等へも対策を行うことで,施設の安全性に対し,更に配慮した設計としている。
武蔵野市では,市役所等に隣接して焼却施設を建設するのに際して,焼却廃熱を利用したごみ発電に加えて,コジェネレーション設備として,常用防災兼用発電装置を備えることによって,平常時の電力供給だけでなく,災害時にも市役所などの周辺施設へ電力供給する計画をした。この計画に従い,前出の図2に示すように近隣の公共施設(市役所,総合体育館,コミュニティセンター)に対するエネルギー供給施設として,電気及び蒸気を供給している。
災害時の対応として,本施設を中心とした公共施設の自立性や安全性を確保するために,常用防災兼用のガスタービン発電設備(図9)を導入し,災害時の熱電供給を可能とした。ガスタービン発電設備は,起動が早く,負荷変動への追従性が高いことから,非常用として信頼性が高いシステムであり,冷却方式が空冷のため災害時の自立性にもメリットがある。燃料の都市ガス(中圧)は,東日本大震災において,電気,上水等が不通になる中,常に安定供給されたことで,信頼性の高いユーティリィティである。本施設はエネルギー供給拠点としての役割に加え,市内唯一のごみ処理施設としての事業継続性を確実に守るため,停電時にも施設が稼働できるシステムとした。
災害による停電発生時には,ガスタービン発電設備の起動によって,施設の安全確保,停電中の焼却炉立上げ,ごみ発電の再開を行い,市役所等へのエネルギー供給を行う。これによって周辺地域の公衆衛生の確保に加え,災害時の対策拠点となる市役所等の機能をより強化できる。
図9 ガスタービン発電設備
表3に施設の排ガス保証値及び性能試験結果を示す。保証値は,要求基準値に対して,更に厳しい値に設定した自主基準値である。
塩化水素と硫黄酸化物の要求基準値は10 ppmであったが,自主基準値(保証値)は8 ppmとした。この基準値をクリアするためには,従来は湿式排ガス処理を採用する必要があったが,反応効率の高い重曹を使用することで,乾式排ガス処理の採用を可能とした。また,窒素酸化物については,自主基準値45 ppmに対して無触媒脱硝で対応している。
図10,11に排ガス処理後の塩化水素,硫黄酸化物及び窒素酸化物濃度のトレンドグラフを示す。塩化水素は,制御設定値の5 ppmに安定して制御されている。そして硫黄酸化物も,1 ppm以下の値で推移している。また,窒素酸化物は,制御設定値40 ppmに比較的安定して制御されている。
規制物質 | 保証値 | 性能試験結果 | |
ばいじん | g/m3(NTP)※1 | 0.008 | <0.0008 |
塩化水素 | ppm※1 | 8 | 5 |
硫黄酸化物 | ppm※1 | 8 | 1 |
窒素酸化物 | ppm※1 | 45 | 35 |
一酸化炭素 | ppm※1※2 | 20 | <10 |
ダイオキシン類 | ngTEQ/m3(NTP)※1 | 0.05 | 0.00012 |
図10 塩化水素・硫黄酸化物濃度トレンドグラフ
図11 窒素酸化物濃度トレンドグラフ
高効率化の技術として,低空気比燃焼によるボイラ効率の向上,ボイラの高温高圧化(4.0 MPaG×400 ℃),低温エコノマイザの採用,減温搭の非設置によるエネルギー効率の向上,実運用点で高効率な蒸気タービンの選定,蒸気タービン排気の高真空化などに加え,熱損失の少ない重曹を使用した乾式排ガス処理を採用することで,発電の高効率化を行っている。上述のように本施設の厳しい排ガス基準値においては,従来は湿式ガス処理設備を採用することが必要であった。しかしながら湿式排ガス処理は,排ガスを一旦過冷却するために熱損失が大きい。本施設では,厳しい排ガス基準値に対して重曹を使用する乾式排ガス処理を採用し,高い熱回収率を確保している。さらに無触媒脱硝を採用することでも,触媒脱硝時に必要とされる排ガス再加熱を不要として熱損失を小さくしている。なお,蒸気式等の白煙防止装置は熱の有効利用を優先し,非設置としている。これらによって,従来は本施設のような厳しい排ガス基準値のもとでは達成し得なかった20 %という発電効率を実現している。
本施設は,設計(Design),建設(Build),運営(Operate)を一括で発注するDBO方式の事業として建設されたものであり,施設の建設に続き,20年間という長期間にわたり運営を行う。建設での取組みは運営へ引き継ぎ,防災対策や周辺施設への熱電供給,さらに見学者サービス,環境学習,ワークショップなどの取組みを通じて,地域に貢献し,地域に密着した運営を行っていく所存である。また,本稿で紹介した本施設での施策が廃棄物処理施設の新たな取組みへの一助となることを期待したい。
最後に本施設の建設に当たり,多大な御指導・御協力を頂いた武蔵野市をはじめとする関係各位に深く感謝の意を表する。
1) 塚本 輝彰:都市型防災拠点機能を備えた武蔵野市のごみ焼却処理施設,エバラ時報,No.248,P19-23(2015-7).
藤沢工場ものづくり50年の歴史
1966年頃の藤沢工場
縁の下の力持ち 高圧ポンプ -活躍場所編ー
100万kW火力発電所内で活躍する50%容量ボイラ給水ポンプ
RO方式海水淡水化用大容量、超高効率高圧ポンプの納入
長段間流路内の流線と後段羽根車入口の流速分布
縁の下の力持ち ドライ真空ポンプ -真空と真空技術の利用ー
真空の領域と用途例
座談会 エバラの研究体制
座談会(檜山さん、曽布川さん、後藤さん)
縁の下の力持ち 標準ポンプ -暮らしを支えるポンプー
標準ポンプの製品例
座談会 未来に向け変貌する環境事業カンパニー
座談会(三好さん、佐藤さん、石宇さん、足立さん)
世界市場向け片吸込単段渦巻ポンプGSO型
GSO型カットモデル
エバラ時報に掲載の記事に関する不明点やご相談は、下記窓口よりお問い合わせください。
お問い合わせフォーム