半田 直廉* Naoyuki HANDA
濵田 聡美* Satomi HAMADA
今井 正芳* Masayoshi IMAI
天谷 賢児** Kenji AMAGAI
*
技術・研究開発統括部 製品コア技術研究部
**
群馬大学
本研究では,半導体製造工程の一つであるCMP後のウェーハ洗浄工程について,可視化実験を通じ流体工学的な観点から,そのメカニズムを解明して,様々な条件下で最適な洗浄方法を提案できる現象のモデル化の構築を目的としている。そのため,可視化実験,流動特性,せん断流れ特性,液置換特性,液滴の蒸発・除去特性についての基礎的な研究を行っており,ここではその一部を紹介する。
In this study, focusing on the wafer cleaning which is essential for the post-CMP process in semiconductor manufacturing, through visualized experiments from the viewpoint of fluid dynamics, investigating its mechanism, we aim to construct a model that can propose an optimal cleaning method under various conditions prior to production. To achieve this goal, visualized experiments are conducted as well as fundamental studies on the characteristics of fluid-dynamics, shear flow, fluid replacement, and vaporization removal, part of which is introduced in what follows.
Keywords: CMP, Cleaning, Semiconductor, Visualization, Characteristics of fluid-dynamics, Shear flow, Fluid replacement, Droplet behavior, Droplet vaporization, Particle removal
当社主力製品のうちの一つであるCMP装置は,ナノメートルオーダーでウェーハ表面を平坦化する研磨工程で活用されている。研磨後のウェーハ表面には研磨粒子が多種多様な状態で付着している。製品の欠陥原因の要因になりうるウェーハ表面付着物は,確実に取り除く必要があり,CMP後の洗浄技術は極めて重要である。
CMP後のウェーハ表面の付着に対する基本的な洗浄工程を図1に示す。第一段階で,ブラシ洗浄,超音波洗浄等によってウェーハ表面付着物に物理的な外力を与え,リフトオフ(浮遊)させる。第二段階で,薬液の電気・化学的な作用を利用しつつ,浮遊物を液流れによってウェーハ外部へ排除する。第三段階で,薬液を純水置換し,第四段階で乾燥の工程となっている。半導体の微細化とともに,より小さな付着物を高効率かつ短時間で洗浄し,乾燥することが求められている。
そこで,流体工学を専門とされる群馬大学の天谷先生の御指導のもとミクロな半導体ウェーハ表面の洗浄について流体工学的な観点から研究を行っている。特に,図1中の第二段階から第四段階における洗浄・乾燥メカニズムの解明とモデル化に注力している。ウェーハの洗浄は,回転するウェーハに液供給し,遠心力で水を吹き飛ばすスピン洗浄方式が主流である。そこで,これまで洗浄工程では回転ウェーハ上の液流れ特性,せん断液流れにおける微粒子の除去に関する研究について,乾燥工程では液の供給を停止した後の回転ウェーハ上の液滴の動的挙動や液滴蒸発に関する研究を中心に取り組んできた。
本報では,上記について,洗浄工程の順に沿ってこれまでの研究内容と今後の成果に期待する研究内容について紹介する。
図1 CMP後洗浄工程
CMP後のウェーハ表面には,多数の砥粒が付着しているため,ブラシ洗浄等により物理的な外力を与え砥粒をリフトオフさせ液流れ(薬液)によって排出している。薬液の濡れ広がり過程が,ウェーハの膜種,ウェーハ回転数,流量等の条件によってどのような影響を受けるかこれまで確認されていなかった。そこで,回転するウェーハ上に洗浄水を供給した際の洗浄水の流動特性を可視化観察した。具体的には,白絵具を溶かした精製水を,回転するウェーハ表面に供給したときの液膜の広がり方を観察し,ウェーハの種類,回転数,供給流量によって,液膜の広がり状態がどのように変化するかを調べた。その結果の一部として,図2に疎水性膜について,図3に親水性膜について,供給液量とウェーハ回転数を変化させたときの液の濡れ広がり過程を示す。これによって,親水性膜は疎水性膜に比べて低流量でウェーハ全面を覆うことが確認できる。このことからも,疎水性膜の洗浄時には,ウェーハ全面を液が覆う液流れとするための工夫が必要であると言える。
図2 可視化画像(疎水性膜)
図3 可視化画像(親水性膜)
ウェーハ表面に付着した微粒子をウェーハの回転によるせん断液流れで除去できる微粒子直径を見積もることとした。まず,図4に液膜内の速度分布の定義及びウェーハ上の微粒子に作用する力の模式図を示す 1)。ウェーハ上に供給されている液体流量Qは(1)式で表される。
ここで,速度分布を2次式に仮定して次の境界条件の下で求めると,
z=0のとき:vz
=0よりC=0
z=δ(r)のとき:vz
=V(表面速度),dvz
/dz=0
であり,これを(1)式に代入し,Zについて0からδ(r)まで積分すると表面流速Vと流量Q,膜厚δ(r)の関係は次式で表される。
(3)式を用いて,液膜厚さの測定値と流量から液膜速度の推定を行った。その推定値と洗浄時の液膜流の表面速度測定値と比較を行った結果,液膜表面速度の大きさは,(3)式を用いた液膜厚さと供給流量から推定される表面速度の値とよく一致することが確認できた(図5)。また,衝突液体噴流によって形成される跳水現象に対応して発生する液膜の厚い部分も観察された。また,回転数が大きな場合は,液膜流れは周方向成分をもつことがわかった。これらのデータをもとに,液膜流の表面速度から液膜内部の速度分布を求め,ウェーハ表面に作用する,せん断層の速度分布を求めた。さらに,このせん断流によって除去可能な微粒子の大きさを推定し,それに与えるウェーハ回転数や供給流量の影響を明らかにした。
次に,除去可能微粒子直径の推定において,富樫らの研究を参考にすると,微粒子の付着力Fad
はVan del waals力によってウェーハに対して垂直方向に作用しており,分離力Fdet
はストークスの法則より,ウェーハに対して水平に作用している。微粒子径が数100μm以下の場合,微粒子は質点として扱えるので垂直に作用する付着力と,水平に作用する分離力を静止摩擦係数μst
を用いて以下の釣り合いがとれる。
μstFad=Fdet ………………………………………………(4)
(4)式を微粒子直径dで整理すると,ウェーハから分離できる微粒子の直径が以下の式で求められる。
ここで,d:微粒子直径,μst
:静止摩擦係数,H:Hamaker係数,β:分離距離,c:補正係数,η:液体の粘性係数,du/dz:速度勾配である。Hamaker定数Hは微粒子とウェーハの材質に起因する物性値であり,分離距離βはウェーハ表面の凹凸度合いで,一般に4Å=4×10−10 mと言われている。補正係数cは速度勾配がある場での補正係数であり,Goldman,O’Neilらの理論的解析によってc=1.7が提唱されている。
図6にSi3N4粒子の除去可能微粒子直径の推定結果を示す1)。図6に示すようにウェーハ回転数が増加するにつれ除去可能となる微粒子直径が小さくなることが確認できる。特に回転数500 rpmにおいて,Si3N4粒子は平均して0.15μmまで除去可能であるという結果となった。これは回転数の増加によって液膜速度が速くなるため,粒子に対し強い分離力が働いたためであると考えられる。しかし,半径50~60 mm付近では除去可能微粒子直径が増加していることが確認できる。これも跳水によるものと考えられ,跳水中では流速が急激に失われることで粒子に働く分離力も失われたためであると考えられる。
図4 液膜内の速度分布の定義及びウェーハ上の微粒子に作用する力の模式図<sup>1)</sup>
図5 液膜表面流速の測定値と液膜厚みからの推定値との比較
図6 ウェーハ回転数と除去可能微粒子直径の関係<sup>1)</sup>
ここでは,実際に使用しているノズルや液置換特性のよい条件にするため,時間変化に対する液置換率を定量化する計測技術を確立する。リンス最適化モデルに有効な手段になることが期待される。
まず,薬液を純水に置換する過程を可視化観察し,液置換特性を定量化する実験装置を整えることからスタートし,実際に使用する薬液の代わりに特殊な液を用い,ウェーハ上全面にその液をコーティングし,様々な条件で純水によるリンスを行い,この過程を特殊な観察方式で数値化に成功した。次に,ウェーハ上の液膜流を境界層流れとして,液置換の挙動を,境界層理論をもとにモデル化し,実験結果と比較した。その結果,境界層理論を用いたモデルで液置換特性をある程度評価できることが確認できた。しかしながら,より実験結果と一致させるためには境界層理論に加えて,液体の混合挙動をモデル化する必要があることが示唆され,引き続き研究を進めている。
洗浄液の供給を停止すると,回転ウェーハ上に形成されている液膜は液滴に分裂し,遠心力でウェーハ外へ除去される。しかし,分裂した液滴体積が小さくなってくると遠心力では除去できず,ウェーハ上に残留する。液滴体積,ウェーハの種類,遠心力(ウェーハ回転数)が変化したときの液滴の動的挙動及び蒸発挙動について,十分な知見は得られていない。
これまで静止ウェーハ上での液滴蒸発挙動をシミュレートする蒸発モデルを検討してきた。そこで,この式をもとに,実際の回転ウェーハ上での蒸発挙動をシミュレートするモデル式の検討を行った。
静止ウェーハ上の液滴蒸発過程の観察より,ウェーハ膜種によって液滴の蒸発形態が異なることが観察できた。ウェーハとの接触半径が一定で高さが減少することによって蒸発が進行する接触半径一定のCCR(Constant Contact Radius) 蒸発過程,ウェーハとの接触角が一定で液滴全体が縮小することで蒸発が進行する接触角一定のCCA(Constant Contact Angle)蒸発過程がある(図7 2))。Low-k膜,Th-Ox膜はCCRからCCAに遷移し,Cu膜はCCR過程のみで蒸発が進行することをこれまでの研究で明らかにした。
ここで,液滴が部分球形の場合の蒸発モデル式中身について説明する。静止ウェーハ上の液滴が図8 2)のような部分球形の場合を考え,液滴表面は蒸発によって常に水蒸気が飽和状態になっているとし,雰囲気中に水蒸気が準定常的に拡散することで液滴の蒸発が進行すると考え,拡散方程式を基に蒸発速度を求めた。
このモデル式の第一項は液滴表面全体からの蒸発を表し,第二項は液滴端部における蒸発の効果を取り入れたものとなっており,実験結果とよく一致することを示した。
図7 ウェーハ膜種による液滴蒸発過程の違い<sup>2)</sup>
図8 蒸発モデルと各変数の定義<sup>2)</sup>
液滴に遠心加速度が作用した場合の液滴の移動挙動を図9のような実験装置を用いて観察した。直径800 mmの回転テーブル上にウェーハを固定し,液滴を滴下する。回転テーブルの回転数を連続的に変化させ,回転テーブル上に設置したカメラを用いて,液滴鉛直方向及び水平方向の二方向から液滴の挙動を観察した。ウェーハの膜種によって遠心加速度場における液滴挙動の違いについて上方向からの観察結果を図10に,横方向からの観察結果を図11に示す。
液滴とウェーハ間に作用する相互作用エネルギーを定義し,遠心力で除去できる最少液滴体積を算出する式を構築した。
これまでの研究結果を組み合わせて,回転ウェーハ上に残留してしまった液滴の蒸発寿命を求める理論モデルを構築した。このモデルでは,ウェーハ上に形成される気流境界層への物質伝達の効果を取り入れた。その結果,今年度の研究で構築したモデルが,回転ウェーハ上の液滴の蒸発寿命をある程度定量的に予測できることが確認できた。
図9 液滴挙動を観察する装置の概略図<sup>3)</sup>
図10 遠心力場における各種ウェーハ上の液滴の動的挙動 (上方からの観察結果)<sup>3)</sup>
図11 遠心力場における各種ウェーハ上の液滴の動的挙動 (横方向からの観察結果)
ウェーハの端部に液滴が付着している場合に,ウェーハの回転による遠心力で液滴を除去できるかどうかの基礎研究を行った。代表的な膜種のウェーハに,様々な大きさの液滴をウェーハ端部に付着させた上で,回転数を上げながら液滴の飛散の有無を観察した。その結果,液滴体積が増加するほど低い回転数でも液滴が飛散することが確認できた。また,膜種や端部形状が飛散特性に影響を与えることも示めされた。さらに,Low-k膜の場合はほぼ全量の飛散が確認できたが,それ以外の膜種では完全な液滴の飛散除去はできず,部分的に残留してしまうことも明らかになった。
この研究テーマは,群馬大学の天谷教授の全面的な協力の下,共同研究として進めている。特に,実験で得られたデータを基に現象に寄与するパラメータを的確に抽出し,工学的な理論に基づいて構築された現象のモデル化の提案やそこから導かれるモデル式は,半導体洗浄・乾燥技術にとっても大変有意義な結果となっている。超微小(ナノメートルオーダ)ゴミを対象としている半導体洗浄は,現象を直接目で見ることのできない世界のため,現象として何が起こっているのかを理解することは非常に難しい。そのため,現象を数学モデルで表すことで,複数の技術者が現象を共有できる数少ない機会であると考えている。
マクロな視点(回転ウェーハ上の液流れといった観察対象が比較的大きいテーマ)で出発した研究も,少しずつミクロな視点(液流れによる微粒子の除去,液置換といった対象が小さいテーマ)での研究に移行しつつある。このようにマクロな視点からミクロな視点に向けて順序立てて研究を進めることで,現象が確実に整理され,着実に成果を挙げつつあると実感している。
1)小篠諒太,天谷賢児,他,半導体ウェーハの回転洗浄における流れの挙動,日本機械学会関東支部第22期総会講演会講演論文集(2016).
2)青山拓哉,天谷賢児,他,半導体ウェーハ上における微小液滴の蒸発挙動,日本機械学会関東支部第22期総会講演会講演論文集(2016).
3)関涼斗,天谷賢児,他,回転するウェーハ上の液滴蒸発に関する研究,日本機械学会関東支部第24期講演会講演論文集(2018).
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