能見 基彦* Motohiko NOHMI
山﨑 賢** Satoshi YAMAZAKI
香川 修作*** Shusaku KAGAWA
安 炳辰* Byungjin AN
姜 東赫**** Donghyuk KANG
横田 和彦***** Kazuhiko YOKOTA
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技術・研究開発統括部 基盤技術研究部
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風水力機械カンパニー 標準ポンプ事業部 開発設計部
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技術・研究開発統括部 製品コア技術研究部
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青山学院大学(現 埼玉大学)
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青山学院大学
ポンプのキャビテーションサージは,流体機械内部の流動と,流体機械上流下流の管路系システム挙動との連成問題である。本研究では,キャビテーションサージ解析技術構築の基礎的な検討として,管路系システムにおいて,圧縮性を考慮すべき周波数の範囲を示唆する大橋-秋元クライテリアの妥当性を,集中定数系解析と分布定数系解析との比較から評価した。解析対象はキャビテーションの生じない,単純な流体加振系とした。分布定数系解析では,特性曲線法による1次元解析を実施した。その結果,管摩擦によって初期条件の影響が十分消散する場合は,両者のクライテリアは妥当な指標であることか明らかとなった。
The cavitation surge of a hydraulic pump is characterized by the interaction of unsteady cavitation inside the pump and the piping system surrounding the pump. For computation of the cavitation surge, it is mandatory to consider piping system dynamics. There are two methods for calculating piping system dynamics with low computing costs. One is lumped parameter system calculation that assumes the incompressibility of fluid. The other is a one dimensional distributed parameter system calculation that takes into consideration wave propagation around the piping system. Ohashi and Akimoto individually suggest criteria for choosing calculation methods for the objective piping system. This study evaluates Ohashi and Akimoto’s criteria. In preliminary research, the dynamics of simple hydraulic oscillation system without cavitation are calculated using both the lumped parameter system method and the distributed parameter system method. From the quantitative comparison of the results of two methods, it was clear that Ohashi and Akimoto’s criteria are reasonable, after the residue of initial condition is totally dissipated by the pipe friction.
Keywords: Surging, Cavitation Surge, Lumped Parameter System, Distributed Parameter System, Method of Characteristics, Resonator
ポンプ内にキャビテーションが初生し,NPSHの低下に伴って増大する際に,旋回キャビテーションやキャビテーションサージなどの不安定現象が発生することは広く知られている。従来,サージングは,コンプレッサなどの気体機械系に広く観察,研究されてきた自励振動現象である。振動の持続には容量要素(バネ効果)が不可欠であり,気体機械系では圧縮性のある気体が,その役割を果たしている。ポンプ系に関しては,液体の圧縮性が小さいため,気体機械系と比べるとサージングは発生しにくいが,タンクのような容量要素がある場合,あるいはポンプ中にキャビテーションが発生している場合には,キャビテーションそのものが容量要素となり振動状態となる。後者のケースをポンプのキャビテーションサージと呼ぶ。キャビテーションサージが発生する際,原理的には幅広い周波数帯を取りうるが,人間が認識しやすいのは,10 Hz以下の低い周波数の変動が生じる場合である。その際に生じる特徴的な騒音は汽車音と呼ばれ,この汽車音抑制はポンプ設計上,重要な課題である1)。サージングは,ポンプやコンプレッサなどの流体機械本体のみならず,周辺の配管,弁,タンク等の送液管路を構成する全ての要素が関連してくるため,これらを含むシステム全体の挙動を解析する必要がある。
近年は,このような流体機械システム全体の解析にCFDを適用した事例も報告されているが,問題となるのは,羽根車回転数と比較して低周波数の現象であるため計算時間が長大となること,また配管等を含むため計算領域が大きくなり解析格子規模が巨大となることである。これらの問題を解決するため,流体機械近傍は三次元流体解析を実施し,それ以外の要素は単純化した一次元分布定数系モデル,あるいは集中定数系流体モデルで解析し,両者を連成する方法が提案されている2)~6)。一次元分布定数系モデルは流体の圧縮性を考慮し,配管内の圧力波の伝播を解析する。一方,集中定数系流体モデル(いわゆる剛体近似理論)は流体の圧縮性を無視し,配管内の流体柱の運動方程式を解析する。管路システムを過不足ない精度で効率よく解析するには,集中定数系解析か分布定数系解析を適切に選択する必要がある。これに関しては,以下の大橋のクライテリアが知られている7),8)。
L>c/8f 圧縮性を要考慮
L<c/8f 非圧縮性で取り扱える
ここで,Lは配管長,cは管路系を伝播する波動の音速,fは問題となる現象の周波数である。秋元も同様の指標を提唱しており,そこでは係数を1/8ではなく1/10としているが,オーダーは近い9)。本稿では,これらを合わせて大橋−秋元クライテリアと呼ぶこととする。しかしながら,この大橋-秋元クライテリア自体に関しては,その妥当性や適用範囲は十分に明らかではない。 そこで本研究では,ポンプ送水管路システム全体を含むキャビテーションサージ解析技術開発の準備段階として,キャビテーションを含まない単純な一次元流体加振系を対象に,集中定数系解析と分布定数系解析を実施し,両者の比較から大橋-秋元クライテリアの有効性を検証する。
図1の単純な送水系に対し,集中定数系解析と分布定数系解析を実施する。
図1の系は断面積一定の直円管の入口端に圧力加振源,出口端に静圧一定のタンクを有する。圧力加振源から正弦波状の圧力変動を印加した場合の非定常流動を数値解析で評価する。図1の集中定数系運動方程式は
ここでPは静圧,Uは管内断面平均流速,Lは配管長,Dは配管直径,ρは水の密度,λはDarcyの管摩擦係数,tは時間,添え字のEは上流の加振源,Tは下流のタンクである。管断面積一定であり,水の非圧縮性を仮定しているため,U(t)は管内のどこでも一定で,時間のみの関数となる。
次に水の密度変化は微小と仮定した場合,図1の分布定数系質量保存則と運動量保存則は
ここでxは管の軸方向の位置座標,cは音速,p,uは,それぞれ管の静圧と管内断面平均流速分布である。水の圧縮性を考慮しているため,p(x,t),u(x,t)は,位置xと時間tの関数となる。なおU(t)とu(x,t)は定常流の場合は一致する。管内一次元非定常流れの管摩擦に関しては幾つかのモデルが提唱されているが,本研究では最も単純に定常流の管摩擦式を式(1),(3)で用いている。
境界条件は,圧力加振源とタンクで
ここでωは角周波数であり,変動周波数f=ω/2πとなる。添え字のAE,CE,CTは,それぞれ加振源の静圧変動の振幅,加振源の静圧の定常成分,タンク静圧の定常成分である。
初期条件は,一定流速の定常流として,集中定数系では
ここで添え字のi は初期条件を表す。式(10)は,いわゆる動水勾配を示している。この定常状態に対し,圧力加振源から正弦波状の圧力変動を印加開始し,それ以降の過渡変化を数値解析で評価する。
各数値は,管長L=10 m,管直径D=0.1 m,水の密度はρ=1000 kg/m3,管路系内の音速は管の弾性変形も加味してc=1000 m/sとする。管摩擦係数はλ=0.01とする。タンクの静圧はPCT
=0Paとする。本研究では,管路内の静圧値によらず,圧力加振源にキャビテーションが発生したり,管路中において水柱分離が生じたりすることはないと考える。初期条件は,集中定数系でUi
=1 m/s,分布定数系ではui
=1 m/sである。加振源の圧力振幅PAE
=250 Paとする。これは,上記の寸法値を与えた管路に1 m/sの水を流す際の管摩擦損失である500 Paの半分の値である。
以上の諸数値から,大橋のクライテリアで決定される周波数は以下のようになる。
本研究では,集中定数系は二次精度の陽的Runge-Kutta法で,分布定数系は特性曲線法で数値解析する。分定数系の計算において,管摩擦は半陰解法で離散化する。分布定数系では,解の格子依存性を評価するため,管路を25及び250に分割する二種類の格子を用いたが,両者はよく一致したため,本研究では25分割の結果を示す。
図1 解析対象の流体加振系
大橋のクライテリアの周波数f0
=12.5 Hzに対し,1/10の1.25 Hz,1倍の12.5 Hz,2倍の25 Hz,4倍の50 Hz,5倍の62.5 Hzの解を求める。1.25 Hz及び12.5 Hzの場合に対し,加振開始直後の集中定数系と分布定数系の解析結果を図2に示す。図2は管の軸方向中心位置の静圧PH
と流速UH
を示している。それぞれ加振開始直後からの2.5周期程度の変化を示す。図2に示すように,1.25 Hzの場合は集中定数系と分布定数系が圧力波形でも流速波形でもよく一致し,集中定数系はよい近似となっていることがわかる。12.5 Hzの場合,流速は比較的よく一致しているが,分布定数系の圧力波形には,管路を往復する波動が鋸歯状の高周波成分の形で,集中定数系の解である正弦波に重畳され,両者はよく一致しているとは言い難い。
この管路を往復する波動は,初期の定常状態の流れに対し,加振を始めたことによる過渡現象であり,圧力波の複数回の往復で管摩擦により減衰することが予想される。そこで12.5 Hzの場合100秒分の長時間分の解析を実施した。
図3は,12.5 Hzの場合の管の軸方向中心位置における静圧と流速の100秒間の長時間の時間変化である。図3は12.5 Hzの変動を含むが,横軸が100秒と長時間のため,変動曲線ではなく,塗りつぶされたように見える点に注意されたい。
図3に示すように,変動を開始してから安定な周期的変動状態に遷移するまで,約50秒の時間を要することが分かる。
図4は,最終状態の99.8から100秒までの変化を示している。図2(b)に見られた鋸歯状の成分は,図4のように管摩擦によって減衰,消散することが分かり,99.8から100秒の間では,集中定数系と分布定数系の解はよく一致している。
次に周波数をf0
の2倍,4倍,5倍に上げた結果を図5に示す。いずれも加振開始後100秒を経て,過渡期を過ぎた段階での波形である。周波数2倍の場合,流速に関しては,集中定数系と分布定数系はよい一致を示しているが,圧力に関しては振幅に顕著な差異が認められる。これは,液体の圧縮性の影響が無視できなくなってきていることを示す。周波数4倍の場合,依然,流速に関しては,集中定数系と分布定数系はよい一致を示しているが,圧力に関し,分布定数系では振幅が500 kPaにも及び極めて大となっている。集中定数系の管軸方向中心位置での圧力の振幅は125 Paのままであるので,図5(b)では直線状に見える。周波数5倍では,集中定数系と分布定数系の圧力波形は位相が反転し,速度波形に関しては,位相差はないが振幅は顕著に異なっている。周波数4倍の場合,その周波数はc/2Lとなる。これは,広く知られている両側自由端の共振器の一次共振周波数である。
このため,この系は共振状態となり,圧力振幅が過大となったことは明確である。図5(b)において,速度波形はよく一致しているように見えるが,実際は管の軸方向中心位置は速度変動の節となっているため,この点から外れた箇所で比較すると,集中定数系と分布定数系の差異は大きい。周波数5倍の場合,いわゆる共振周波数を越した点であるため,加振入力に対し,位相遅れが生じている。
以上のことから,大橋と秋元の提唱する数値は,波動が往復する系において,両側自由端の系の固有周波数の,それぞれ1/4及び1/5を非圧縮性とみなせる限界としていることが明らかとなり,集中定数系の適用限界を示す指標としては,極めて妥当な数値である。なお,系が片側自由端・固定端とみなせる場合,基本周波数がc/4Lとなるので,上記クライテリアの半分にするのが推奨される。ただし,これらのクライテリアは,初期状態の影響が管摩擦によって消散していることが前提となる。本解析では,変動開始後も,約1 m/sの平均流速を維持し,管摩擦が安定に作用するため初期状態の影響が50秒ほどで消散したが,試みに管内の水が静止している状況を初期状態とし,PCE
=PCT
=0Paの条件で解析すると,流れが往復動となる。すなわち時間平均流速が,ほぼ0 m/sであるため管摩擦の効果が小さく,100秒後も初期状態の影響が,ほとんど減衰しない結果となった(図省略)。このことから過渡的な変化が繰り返されるような場合や,流速が遅く管摩擦が十分作用しない場合,集中定数系で近似できるのは,変動の代表的周波数が,大橋-秋元クライテリアで提唱される周波数の1/10程度(自由端・固定端では1/20程度)までと考えるべきであろう。また,管摩擦が十分作用していても,長大な管路で安定な周期的変動状態に至るには,管路長によっては数十秒以上の時間を要するため,解析領域を限定しても,時間領域での三次元CFDには負担が大きいことに留意しなければならない。
図2 管軸方向中心位置の圧力と流速の時間変化(加振開始直後における0.1f<sub>0</sub>,f<sub>0</sub>の場合)
図3 管軸方向中心位置の圧力と流速の100秒分の時間変化(f<sub>0</sub>の場合)
図4 安定期での管軸方向中心位置の圧力と流速の時間変化(f<sub>0</sub>の場合)
図5 安定期での管軸方向中心位置の圧力と流速の時間変化(f<sub>0</sub>より高周波数の場合)
ポンプのキャビテーションサージ等のサージング問題は,流体機械内部の流動と,流体機械上流下流の管路系システム挙動との連成問題である。本研究では,管路系システムにおいて,圧縮性を考慮すべき周波数の範囲を示唆する大橋-秋元クライテリアの妥当性を一次元数値解析から評価した。管摩擦によって初期条件の影響が十分消散する場合は,両者は妥当な指標であることか明らかとなった。流速が遅く管摩擦が十分作用しない場合,あるいは過渡的な変化が繰り返される場合では,集中定数系で近似できるのは,変動の代表的周波数が,大橋-秋元クライテリアで示される周波数の1/10程度までである。
1) 能見,ポンプキャビテーション現象の基礎知識[第2回],エバラ時報No.246,pp18-21(2015-1).
2) Nohmi, Ikohagi, Iga, On Boundary Conditions for Cavitation CFD and System Dynamics of Closed Loop Channel, ASME-JSME-KSME 2011 Joint Fluids Engineering Conference, AJK2011-33007, (2011).
3) 安,梶島,二次元翼列における流量変動モデルを用いたキャビテーションサージの数値解析,キャビテーションに関するシンポジウム(第16回),(2012).
4) Nohmi, Yamazaki, Kagawa, An, Kang, Yokota, Numerical Analyses for Cavitation Surge in a Pump with the Square Root Shaped Suction Performance Curve, ISROMAC2016, (2016).
5) A. Marie-Magdeleine, R. Fortes-Patella, N. Lemoine, N. Marchand, Unsteady flow rate evaluation methodology for identification of the dynamic transfer function of a cavitating Venturi, Proc. CAV2012, (2012).
6) 藤原,南里,吉田,PSDがポンプ上流配管の共鳴サージに与える影響,キャビテーションに関するシンポジウム(第16回),(2012).
7) 南里,谷,河南,吉田,ターボポンプの共鳴キャビテーションサージ現象,ターボ機械39巻4号,(2011),pp1-8.
8) 大橋,ポンプとそれを含む流体系の非定常問題,機械の研究,第22巻第7号,(1970),pp35-42.
9) 秋元,水撃作用と圧力脈動[改訂版]第1編 基礎式および諸定数,オンデマンド出版,(2004),p I-20(初版は,1972年に日本工業新聞社から発行).
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