江口 隆弘* Takahiro EGUCHI
中嶋 敬* Takashi NAKAJIMA
石渡 守晃* Moriaki ISHIWATA
*
荏原環境プラント㈱
秋田県北秋田市向けごみ焼却施設を2018年3月末に納入した。既設の北秋田市クリーンリサイクルセンターの建て替え工事で,施設規模50 t/16 hの都市ごみと汚泥を混焼する施設であり,焼却炉には,流動床焼却炉SDP型を採用した。低空気比で高温燃焼を安定して継続し,低COと低NOxを実現できる環境負荷の低い施設となっている。また,ごみ焼却に伴って発生する熱エネルギーを回収して場内の給湯や暖房に利用するなど,衛生的,安定的かつ経済的なごみの焼却処理が期待される。
Ebara delivered a waste incineration plant to Kitaakita City, Akita Prefecture, at the end of March, 2018. The plant was constructed as rebuilding of the existing Kitaakita City Clean Recycle Center. It has a combustion capacity of 50 t/16 h for municipal solid waste and sludge, and it uses the SDP type fluidized-bed incinerator. The plant has been operated with continuing stable high-temperature and a low air ratio to successfully reduce CO and NOx emissions, and it achieved to reduce environmental impact. In addition, the plant actively utilizes thermal energy generated from waste incineration to supply hot water and heat inside the building. The plant is expected to incinerate waste sanitarily, stably and economically for a long period over the next 20 years.
Keywords: Fluidized-bed, Waste incinerator, Sludge incineration, Carbon monoxide, Nitrogen oxides
北秋田市は,1992年に稼働を開始した既存のごみ焼却施設(50 t/d)の老朽化に伴い,新たに50 t/d(25 t/16 h×2炉)処理できる流動床式ごみ焼却施設を建設した。新施設は,既存ごみ処理施設の敷地内に建て,都市ごみ及び汚泥を集約処理する施設として運用を始めた。
本施設は一日16時間運転の准連続式焼却施設であるため,起動・停止が容易で,焼却炉内の流動砂の蓄熱により,夜間停止後の再起動をホットスタートで行うことが可能な,SDP型流動床式ごみ焼却炉が選定・採用された。施設の設計には,最新の流動床焼却施設の知見を盛り込んだ。
当社の流動床焼却炉の技術は,海外より技術導入した旋回流型流動床焼却炉(SDP:Sterile Disposal Plant)から始まる。都市ごみを対象としたSDP型焼却炉は,1978年に珠洲市向けで1号機を納入し,それ以降13施設に納入している。スラッジ等の産業廃棄物処理施設を含めると,合計44基のSDP型焼却炉の納入実績がある。
通常小型の焼却炉は,炉内へのごみ供給量の変動が燃焼性能に大きく影響するが,SDP型焼却炉は,破砕したごみを圧縮して流動している砂層中に供給し,流動する砂で徐々にごみが削られることにより,安定したごみの供給を行うことができる。このことによって,小型炉においても安定した燃焼の維持を可能とした。また,本流動床焼却炉の最大の特徴であるごみと低発熱量廃棄物である汚泥を高い割合で混焼が可能なことにより,今回,北秋田市でSDP型焼却炉が採用された。
本施設は,2018年3月に北秋田市クリーンリサイクルセンターエネルギー回収推進施設として完成し,運営を開始した。北秋田市では「循環型社会形成推進地域計画」を策定しており,本施設は北秋田市が推進している循環型社会実現に寄与し,地域社会に貢献するために地域に密着した施設を目指している。
施設概観を図1に,全体配置を図2に示す。
図1 北秋田市クリーンリサイクルセンター外観
図2 北秋田市クリーンリサイクルセンター全体配置
流動床焼却炉の,多様な種類の廃棄物の焼却が可能な特徴を活かし,し尿処理施設や下水処理施設から排出される汚泥を受け入れ,安定的に都市ごみと混焼している。
余熱利用として,焼却処理に伴って発生する熱エネルギーを回収して場内の給湯や暖房に利用している。また,場内で発生するプラント排水は,全量再利用し外部へ放出しない排水クローズドシステムを採用する等,周辺環境へ配慮した地域にやさしい施設となっている。
焼却施設の設備フローを図3に示す。
収集された都市ごみは,ごみピットに一時貯留された後,ごみクレーンでごみ投入ホッパに投入され,2軸破砕機で破砕処理後,給じん装置で焼却炉内へ送られる。
汚泥は,し尿処理施設や市内3箇所の下水道処理施設から搬入され,汚泥受入ホッパにて受け入れた後にポンプにて炉内へ圧送する。図4に流動床焼却炉の断面を示す。
焼却炉内では850 ℃以上の高温焼却が行われ,不燃物は炉下から流動砂とともに排出され,砂分級器で流動砂と分離された後,鉄分を磁選機で分離して鉄分貯留バンカに,鉄分以外の不燃物は不燃物貯留バンカにそれぞれ貯留し搬出する。
焼却炉から排出される排ガスは,ガス冷却室で水噴霧により350 ℃まで,その後,空気予熱器及び排ガス減温用空気加熱器で180 ℃まで冷却する。冷却された排ガスに消石灰及び活性炭を噴霧し,ろ過式集じん器でばいじん,酸性ガス及びダイオキシン類を吸着除去する。窒素酸化物は,焼却炉の燃焼制御で発生を抑制し薬品は使用していない。
北秋田市クリーンリサイクルセンターの主な設備仕様を表1に示す。
図3 設備フロー
図4 旋回流型流動床焼却炉(SDP型)断面
受入供給設備 | |
ごみピット | 容量:2500 m3 |
ごみピットクレーン | 半自動クレーン×1基 |
燃焼設備 | |
焼却炉 | 准連続式流動床炉(SDP型) 処理量:25 t/16 h×2炉 |
燃焼ガス冷却設備 | |
ガス冷却室 | 水噴射冷却方式 |
排ガス処理設備 | |
排ガス減温方式 | シェルアンドチューブ式空気予熱器 |
集じん方式 | ろ過式集じん器 |
脱硝方式 | 燃焼制御方式 |
HCl・SOx除去方式 | 乾式(消石灰噴霧) |
ダイオキシン類及び水銀対策 | 活性炭吹込式 |
余熱利用設備 | |
温水発生器 | 場内利用(給湯,暖房) |
灰出し設備 | |
不燃物・鉄分 | バンカによる搬出(鉄分は磁選分離) |
焼却飛灰 | 薬剤処理(キレート方式) バンカによる搬出 |
排水処理設備 | |
ごみピット汚水 | 炉内噴霧処理(無放流) |
プラント排水 | 場内循環再利用(無放流) 炉,ガス冷内噴霧処理(無放流) |
生活排水 | 合併浄化槽処理後,河川放流 場内循環再利用(無放流) |
性能試験時の各排ガス測定値を表2に示す。いずれの値も保証値を下回り,性能を十分に有していることを証明した。
本施設は,破砕ごみを流動している砂層中に供給することにより,炉内への安定したごみの給じんや,炉床の温度低温化による緩慢燃焼,炉出口に設置しているレーザ式O2計による燃焼空気量の高速制御によって,低空気比高温燃焼を実現している。性状が不均一な都市ごみを焼却する上で空気比を下げて運転すると一酸化炭素(CO)のピークが発生しやすくなる。一方,窒素酸化物(NOx)は空気比を下げることで発生を抑制することができる。COとNOx双方の濃度を低く維持するには,最適な空気比,二次燃焼室での混合攪拌,炉内温度の安定した維持が必要となる。
図5に示すように,炉出口の酸素濃度で約4.3 %-wet(空気比1.46)で運転しており,COは若干のピークは発生するものの,平均濃度で7 ppmと十分低い値に抑制できている。NOxについてはアンモニア水等の薬品を使用せずに燃焼制御のみで,保証値を満足した運転となっている。
汚泥の焼却は,試運転において焼却処理量に対する汚泥の焼却量の割合を定格値の15 %に対して,40 %まで増量しての運転が可能なことを確認し,現在汚泥の混焼率30 %で運用を行っている。
流動床焼却炉は,発熱量や性状の異なる処理物の混合処理に適しており,今後数十年にわたる運営期間において処理物の質や性状の変化があった場合においても柔軟に対応できる施設であると考える。
規制物質 | 保証値 | 性能試験結果 | ||
1号 | 2号 | |||
ばいじん | g/m3N※1 | 0.01 | <0.002 | <0.002 |
塩化水素 | ppm※1 | 200 | 5.1 | 1.2 |
硫黄酸化物 | ppm※1 | 100 | 1 | <1 |
窒素酸化物 | ppm※1 | 150 | 41 | 63 |
一酸化炭素 | ppm※1※2 | 30 | 17 | 10 |
ダイオキシン類 | ngTEQ/m3N※1 | 1 | 0.0013 | 0.00085 |
水銀 | mg/m3N※1 | 0.05 | <0.00045 | <0.00077 |
※1 乾きベースO212%換算値
※2 4時間平均値
図5 NOxとCOの経時変化(性能試験時)
秋田県では,県内の林業,木材産業の振興を図り,循環型社会を実現していくため,県産材の利用を推進している。本施設入口のごみ搬入車と来訪者との仕切りや,エントランス壁面に設置する縦格子に秋田県産の杉角材を使用し,見学者をあたたかく迎えている(図6)。
研修室(図7)の天井や壁面へも,杉板材を使用し安らぎとぬくもりのあるインテリアとし,会議室として近隣市民にも開放し,地域の活性化に貢献しうるものとなっている。
図6 エントランス
図7 研修室
本施設では,施設の設備や運転状況について,市内の小学校や近隣市民などの見学者にわかりやすく説明するために,説明調度品を設置している。見学者通路の窓から場内を見学するだけでなく,焼却不適物や焼却後に発生した飛灰や不燃物,ろ過式集じん機に使用しているろ布を施設内で展示しているので実物を見ることが可能である(図8)。
さらに,見学通路に炉内や場内各所を撮影しているテレビカメラやリアルタイムの運転データのモニタを設置しており,実際の運営状況を知ることができる(図9)。
図8 説明調度品例(展示品)
図9 説明調度品例(運転データ表示)
本施設は2018年3月に竣工し,現在順調に運転を続けており,同市の廃棄物処理事業を支える施設となった。また,長期包括運営の契約を締結し,施設の建設に続き20年間の長期間にわたり当社が運営を行うこととなった。建設における周辺環境への配慮や安全性などの考え方は,運営へ引き継ぎ,衛生的・安定的かつ経済的なごみの焼却処理に加え,見学者サービス,環境学習などの取組を通じて,地域に貢献し,密着した運営を行っていく所存である。
最後に本施設の建設において,多大な御指導・御協力を頂いた北秋田市をはじめとする関係各位に厚く御礼申し上げる。
1) 鈴木浩之ほか:船橋市向け高効率ごみ発電施設及び余熱利用施設の納入-地域に根付いた循環型社会形成への貢献-,エバラ時報,No.254,p.47-51(2017-10).
2) 松岡慶ほか:流動床焼却施設の性能とポテンシャル,エバラ時報,No.253,p.12-17(2017-4).
荏原環境プラント㈱
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