金田 一宏* Kazuhiro KANEDA
野間 仁之** Hitoshi NOMA
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風水力機械カンパニー 標準ポンプ事業部 企画管理部
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風水力機械カンパニー 標準ポンプ事業部 開発設計部
2017年8月より販売を開始したNFC通信機能搭載の新型増圧給水ポンプユニットを紹介する。NFC通信機能の搭載によって,スマホと専用アプリを使うことで,給水ポンプユニットの運転状態をスマホ画面に表示することができる。さらに,取得したデータの送信ができるため,情報共有ツールとしても活用可能である。また,本機能の搭載に合わせ,デザイン性や作業性の向上を図り,キャビネットデザインを一新している。そして,近年増加している直列多段型には低層階用ユニットと高層階用ユニットを通信線でつなぎ,連携運転を行う信頼性の高い方式を継続採用している。また,停電からの復帰始動時に給水管や接続機器を保護する復電時昇圧速度抑制機能を搭載している。なお,NFC通信機能と復電時昇圧速度抑制機能は当社のインバータ付給水ポンプユニット全てに標準搭載している。
This report will outline the new booster pump unit with an NFC (Near Field Communication) device released in August 2017. This function can display the operating status of the pump unit on a smartphone screen using the dedicated mobile application. Since the application is capable of transmitting the collected data, it can also be used as an information sharing tool. When this device was added, its cabinet was also changed to improve its design and ease of operation. For series multi-stage type pump units which have been widely used in recent years, the pump units continuously uses the reliable cooperative operation system that connects low-rise floor pump units and high-rise floor pump units with communications lines. The pump unit also has a pressure rising speed control function in power recovery to protect the feed water pipes and connected devices during recovery from a power failure. As standard, every Ebara booster pump unit with inverter has the NFC device and the pressure rising speed control function in power recovery.
Keywords: Near field communication, NFC device, Booster pump unit, Inverter, Smartphone, Application, Series multi-stage type, Pressure rising speed control function in power recovery, IoT
給水ポンプユニットは,ビル・マンションなどの建築設備において,水の供給というライフラインを担う設備の一つである。一般的に給水方式は大きく直結給水方式と受水槽方式に分類される。直結給水方式のうち,近年,都市部を中心として各水道事業体で採用されている増圧給水方式は,水道本管から分岐した給水管に,給水ポンプユニットを直接接続し,給水管の圧力を給水ポンプユニットによって更に増圧する給水方式である。図1に増圧給水ポンプユニットの主要製品であるPNAGM型を示す。増圧給水ポンプユニットは屋外に設置されることが多いため,PNAGM型ではキャビネット内に2台のポンプとインバータを搭載し,1台が故障しても残りのポンプで給水を可能にしている。他に,逆流防止器,制御盤,圧力タンク等を配置している。一方,受水槽方式は水道本管から給水される水を一旦受水槽に貯水し,受水槽内の水を給水ポンプユニットで加圧し給水する方式である。図2に当社の加圧給水ポンプユニットの主要製品であるフレッシャー3100型を示す。加圧給水ポンプユニットは水道本管と直接接続しないため,ポンプ室への設置が多くキャビネットや逆流防止器を持たないが,基本的にPNAGM型と同じ構成である。また,近年は省エネルギー化の要望も強く,高効率モータやインバータを搭載した製品が主流となっている。
給水ポンプユニット等の設備の管理業務は,機器の日常点検によって安定運転の維持に努め,万一の故障時には復旧に向けた迅速な対応が求められる重要度の高いものと言える。今回,このような設備上の特徴に着目し,設備管理業務の効率化・質の向上に寄与する新機能を搭載した製品を発売した。今回はデザインを含め,大幅な変更を行った増圧給水ポンプユニットを中心にその特徴を紹介する。
図1 新型増圧給水ポンプユニットPNAGM型
図2 新型加圧給水ポンプユニット フレッシャー3100型
従来,給水ポンプユニットの運転状態の確認は表示操作パネルから行っていた。一般的に表示操作パネルは操作頻度やコスト面からLEDランプや7セグメントLEDで構成され,簡単な情報は見やすいものの一度に表示可能な情報量は少なく,設備点検時のような,より詳しい情報を確認するためにはボタン操作が必要で,作業従事者はある程度のスキルを必要としていた。
今回,当社の給水ポンプユニットにおいて主力であるインバータ付き給水ポンプユニット全てにNFC通信機能を標準搭載した。これによって,表示操作パネルを操作せずに,アプリをインストールしたスマホを表示操作パネルに「タッチ」するだけで運転情報を簡単に取得し,スマホ画面に分かりやすく表示することが可能となる。この機能によって,操作に不慣れな作業従事者でも,簡単かつ正確に給水ポンプユニットの状態を一瞬で把握できるので,設備管理や点検作業の均質化並びに効率化を図ることができる。
ここで,NFC通信について簡単に説明する。NFCとは,Near Field Communicationの略称であり,国際標準規格(ISO/IEC 18092)で定められている近距離無線通信技術である。機器を近づけることで通信を行うため,「タッチ」動作をきっかけにした,分かりやすい通信手段として,Suica※1や,おサイフケータイ※2等に幅広く利用されている。
※1「Suica」は,東日本旅客鉄道㈱の登録商標です。
※2「おサイフケータイ」は,㈱NTTドコモの登録商標です。
本機能は,NFC通信に対応したAndroid※3 OSのスマホに,Google Play※3から専用アプリ「フレッシャーLINK」をインストールし,アプリを起動するだけで利用できる(図3)。給水ポンプユニットは,オーナ・設備施工者・管理人・点検作業者など様々な人が操作する設備である。このため,専用端末とはせずに,市販のスマホにアプリをインストールするだけで本機能の利便性を無償で享受してもらえるようにしている点が大きな特長である。
図3 NFC通信機能の利用方法
※3 「Android」,「Google Play」は,Google LLCの商標または登録商標です。
専用アプリ「フレッシャーLINK」で表示可能な情報は以下である。
・機器情報(機名・製造番号)
・運転状況(運転停止・圧力・周波数・電流・温度)
・故障情報(故障履歴)
・設定値
設備管理者は,この見える化によって,これまで以上に質の高い日常点検作業を効率良く,短時間で行うことができる。さらに,迅速な対応が求められる故障発生時は,機器情報や故障情報をスマホの表示を確認することで関係者に正確かつスムーズに伝達・展開できるので,従来に比べて早期の復旧が期待できる。
アプリ「フレッシャーLINK」はスマホで読み取った情報を分かりやすく表示するだけでなく,添付ファイルとしてメール送信したり,当社への問合せ時にデータを送信したりするなど,情報共有ツールとして活用可能である(図4)。
①メール送信
読み取った情報は,テキストファイルに変換して,メールに添付できる機能を備えている。これを利用して,読み取った情報を電子データとして,以下のような様々なシーンに活用できる。
・点検報告書作成
・運転記録の管理
・関係者との情報共有
②問合せアップロード
故障時など,問題を迅速に解決する目的で,「NFC番号」(4桁)をキーとして,スマホで読み取った給水ポンプユニットの運転情報を,当社のサービス窓口に送信(アップロード)できる機能を備えている。お客様は電話では説明が煩雑になりがちな警報内容や運転状況を,このデータ送信を用いることで簡単かつ正確に伝達することができる。当社は,この情報から機器状態に合わせた的確な対応が取れるため,問題を一早く解決することができる。
図4 NFC通信機能のデータ活用
新型増圧給水ポンプユニットはNFC通信機能搭載に合わせてキャビネットデザインを一新し,デザイン性や作業性の向上も図っている。
この増圧給水ポンプユニットは,屋外の設置が可能で,建物の脇など人目に触れる場所に設置されることが比較的多い製品であることから,意匠性の高いキャビネットを採用した。また,デザイン面だけでなく,以下のような機能面も向上している(図5)。
図5 キャビネットデザインの特長
雨水が背面側に流れ落ちるように,キャビネットの天井部に勾配をつけている。細かい部分ではあるが,ライフラインを担う機器であるため,内部への浸水が原因で電気部品が故障して断水に至るリスクを極力排除している。
カバーの中央は凹形状として,そこにグラフィックデザインを施し,前面はテーパ形状としている。これによって,立体的な造形による高級感と,すっきりと引き締まった印象を与えるとともに,補強リブの効果による強度アップを実現している。
カバーの点検窓から覗ける位置にNFC通信アンテナを配置しているため,カバーを開けずにNFC通信機能を使って運転状態を把握できる。簡易的な点検や,すぐに運転状態を確認したい場合に便利である。
従来のカバーは下開き構造のため,開ける時には屈んで下部を手前に引いてロックを外した後に,カバーを高く持ち上げて上部の引掛けから外していた。これに対し,新カバーは上開き構造としている。カバーを開ける時には上部のハンドルロックを解除してから,マグネットで固定されているカバーを手前に倒すように引いて外す。従来のように,屈んだり,カバーを高く持ち上げたりする必要がなく,簡単に脱着できる構造とした。設備管理における点検作業などの負荷低減に寄与する。
これまで増圧給水ポンプユニット(以下ユニット)は日本水道協会の規格によって吐出し圧力が0.75 MPa以下と規定されており,16階程度までの建物への適用に留まっていた。しかしながら,2009年の東京都水道局を皮切りに,横浜市水道局,名古屋市上下水道局,仙台市水道局等,一部の水道事業体にて複数のユニットを直列に設置する直列多段型が認められるようになり,30階程度の高層建物についても増圧給水が対応可能となっている。建物によって高層階用ユニットが中間階に設置されるパターンと屋上に設置されるパターンがある(図6)。
図6 直列多段型増圧給水ポンプユニット
直列多段型では各階への安定した給水を実現するため主に下記の方式が採用されている。
低層階用と高層階用ユニットを通信線でつなぎ,連携運転を行う方式である。高層階用ユニットより先に低層階用ユニットを起動するように制御をする等,相互のユニットを通信によって連携させることで,圧力低下及び圧力変動を抑制する(図7)。
図7 通信方式の直列多段型増圧給水ポンプユニット
高層階用ユニットの手前に圧力タンクを増設する方式である。高層階用ユニットが起動してから低層階用ユニットが起動するまでの間,その増設した圧力タンク内の水で給水を補い,圧力低下を抑制する。
外部機関にて実環境を模して圧力変動や各種評価を実施した結果,当社は通信方式を採用している。通信方式の主なメリットとして下記3点が挙げられる。
①高信頼性
通信方式では,相互のユニットを連携させ,高層階用ユニットを単独で運転させない制御をしているため,吸排気弁から空気を吸い込むことによって発生するエアロックの危険性が極めて低く,高い信頼性を確保している。
②低コスト
複数の圧力タンク増設に比べ通信ケーブルは安価である。さらに,圧力タンクを正常に機能させるために定期的なガスの封入と交換が必要となるが,通信ケーブル方式では不要であり,設備保守費も抑えることができる。
③省スペース
圧力タンクの増設が不要となるため,通信方式の方が圧倒的に省スペースとなる。特に高層階用ユニットを中間階に設置する場合等にフロアを有効活用できる。また,当社製品では高層階用ユニットの吸込み側に逆流防止器を内蔵しており,ユニット外への設置は不要のため,更なる省スペース化が可能となっている。
停電や断水などによる流入圧力低下で給水ポンプユニットが長時間停止すると,給水管内に空気が入り込む場合がある。この状態から停止原因が排除され,給水ポンプユニットが復帰始動すると,給水管内でウォータハンマ現象が発生する恐れがある。ウォータハンマ現象は,給水管や接続機器に大きな衝撃を与え,最悪の場合には損傷して漏水事故につながる。当社の全てのインバータ付き給水ポンプユニットは,前述のような原因で長時間停止した後の復帰始動時に,通常よりもゆっくりと加速し,ウォータハンマ現象の発生を抑制する『復電時昇圧速度抑制機能』を標準搭載している。近年増加している給水設備の更新時において,長年使用した既存の給水管を継続使用する場合に特に有効な機能である(図8)。
図8 ウォータハンマ抑制機能
これまでの給水ポンプユニットは,ポンプ・モータの高効率化や,給水ポンプユニットの最適化運転制御の導入によって,省エネルギー性能を向上し,ランニングコスト低減を実現してきた。また,万一の故障時にも自動でバックアップして給水を維持する機能(制御システムバックアップ仕様)や高層階への給水に対応可能な直列多段型を特殊仕様として用意するなど,主に製品本体に関する機能向上を図ってきた。新型給水ポンプユニットは,建物等への水の安定供給を継続するために不可欠な,定期点検・メンテナンスといった機能面を担う設備管理の重要性に着目し,扱いやすさ・管理しやすさを実現する機能向上を図っている。今回は新型給水ポンプユニットに,業界初となるNFC通信機能を搭載した。設備管理にIoT技術を導入することで,現場における視認性の向上と作業の効率化を実現した。近年,スマホの業務利用も増加しており,NFC通信機能をすぐにでも活用できる環境が整ってきている。点検業務の効率向上,関係者間のコミュニケーションを向上するツールとしてご活用いただければ幸いである。
今後も給水ポンプユニットに関わる様々なお客様のご要望を叶える製品を提供し続けていきたいと考えている。
「建築設備と配管工事」(2018年1月)に掲載した内容を一部加筆・修正して転載した。
F3100BN型製品ページ
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