宮本 考之* Takayuki MIYAMOTO
小川 宗一郎* Soichiro OGAWA
*
風水力機械カンパニー 標準ポンプ事業部 開発設計部
グローバル市場向け基幹製品として,両吸込み渦巻ポンプCB型を発売した。両吸込み渦巻ポンプは,上水道,一般給水・送水,冷温水循環,建築設備,一般工業,発電所,石油・ガスプラントなど幅広い業界で使用されている。本製品は,実験計画法と感度解析によって開発した新型高効率流路を採用することで,中国国家標準規格の省エネ評価値η
3を達成した。さらに,ケーシング及び回転体部品の最適設計によって,軽量化を達成した。
As key products for the global market, Ebara has released model CB double suction pumps. This model can be used in a wide variety of industries, such as public water supply, general water supply and conveyance, cold/hot water circulation, building facilities, general industries, power plants, petroleum plants, and gas plants. Thanks to the new, high-efficiency flow passage, which Ebara developed through DOE (design of experiments) and sensitivity analyses, the pumps meet an energy efficiency value of η
3 in China’s GB standards. In addition, the optimal design of their casing and rotor parts has reduced their pump weights.
Keywords: Double suction, Centrifugal pump, High efficiency, Weight saving, GB standards, Energy saving, Stress analysis, Contact analysis, Through bore, Shortening bearing span
市場では省エネルギーに関する規制が世界的に拡大している。特に,現在も市場の拡大傾向が続く中国では,ポンプの効率規制が中国国家標準規格(以下,GB規格)で定められている1)。GB規格は,法律などにより強制執行を定められている強制規格(GB)とそれ以外の任意規格(GB/T)に分かれる。陸上用清水遠心ポンプに関しては「清水遠心ポンプのエネルギー効率規定値及び省エネルギー評価値」(GB19762-2007)により,製造会社に規定効率の製品生産を要求すると同時に,更なる省エネルギー基準値を満足する製品を生産することを奨励している。
陸上ポンプでは取扱液を清水に限定し,3種類の遠心ポンプ(単段片吸込み,単段両吸込み,多段)について,流量・比速度別に形式分類し,更に補正係数を加味して各ポンプ形式の要求効率を決定する。要求効率には効率限定値η
1,目標効率限定値η
2,省エネ評価値η
3の3段階がある。η
1は,2011年6月末までの要求効率であり,2011年7月1日からはη
2が要求効率である。
η
3は,最も高い効率値であり,η
3を達成することで,中国の省エネルギー製品の認証取得が可能になり,ユーザが高効率製品を選定しやすくなる。
しかしながら,中国国内で販売している従来モデルCNC型は,η
3を達成しておらず,η
3を達成するため,更なる高効率化が大きな課題であった。
この度,当社と中国のEbara Machinery(China)Co., Ltd.(以下,EMC社)は,従来モデルをフルモデルチェンジしてCB型を共同開発した(図1)。流路部には新型高効率タイプの流路を採用する2)ことで,全ての機種においてη
3を達成した。さらに,ケーシング及び回転体部品の最適設計によって,軽量化を達成した。
本稿では,グローバル市場向け両吸込み渦巻ポンプCB型の特長及び製品概要について紹介する。
図1 両吸込みポンプCB型
両吸込み渦巻ポンプCB型を図1に示す。
本章で,従来モデルCNC型と新モデルCB型の特徴を比較する。
省エネ評価値η
3を達成するため,新型高効率流路を採用した。流路部である羽根車・吐出しボリュート・吸込み流路は,実験計画法と感度解析によって,設計パラメータ最適値を求めることで,高いポンプ効率を達成した。
例として,吐出しボリュートの定常流れ解析結果を図2に示す。図2のコンターは,吐出しボリュートの全圧損失分布を示し,赤が多いと損失が大きく,青が多いと損失が小さいことを表す。従来モデルと最適化形状モデルを比較すると,最適化形状モデルの吐出しボリュート内では青が多いため,損失が減少していることが分かる。
三次元の流線(図2の実線)は,矢印部断面の損失が大きい部分から描いたものである。最適化形状モデルの方が,流線の偏りが緩和されている。また,二次流れが,従来モデルのA矢印部断面と比較して縮小されているため,損失が減少している。
図2 流れ解析の例
コストダウンを図るため,従来モデルに比べて,ケーシングの軽量化と回転体部品の最適化を実施した。以下に詳細を示す。
ケーシングは,ポンプ単体質量の約50 %を占めているため,肉厚最適化に取り組んだ。通常,性能試験前に水による耐圧試験を実施する。圧力容器として塑性変形せずに,無漏洩で圧力を保持しなければならない。
図3に耐圧値2.4 MPa(最高使用圧力1.6 MPaの1.5倍)の応力解析の結果を示す。ケーシングの最大主応力が降伏応力より小さくなるよう最適な肉厚を決定した。
図4に合わせ面接触解析の結果を示す。赤い箇所は接触しており,緑の箇所は上下ケーシングが離れていることを表す。離れている箇所がボルト穴まで到達していないため,漏洩が発生しないことを把握した。
実機での耐圧試験でも,塑性変形及び漏洩は生じなかった。以上により,耐圧試験時の強度不足と漏洩の懸念が解消され,従来設計と比較し,ポンプ単体で約4 %の軽量化を実現した。
図3 CB型ケーシング応力解析の例
図4 CB型ケーシング合わせ面接触解析の例
軸受・メカニカルシール・インペラナットを合わせてサイズダウンするため,主軸直径の最適化に取り組んだ。
図5に示すように,主軸にトルクが生じている状態を模擬した応力解析を実施した。軸径が細いキー挿入箇所において,高い応力が発生することが分かった。
そのため図6に示すインチング試験による強度評価を実施し,強度に問題ないことを確認した。
上述の結果を基に,主軸・軸受・メカニカルシール・インペラナットサイズの最適化を図ることで,従来設計と比較し,ポンプ単体で約3 %の軽量化を実現した。
図5 主軸応力解析の例
図6 主軸インチング試験
以下に,製品概要を示す。
CB型の主な仕様を表に示す。フランジは,JIS,GB,ASME規格に対応している。軸封は,メカニカルシールを採用した。図7に,代表モデルCNC型とCB型とのポンプ効率と省エネ評価値η 3の比較を示す。CB型のポンプ効率は,CNC型比平均4 %の効率アップを実現し,全40機種でη 3を達成した。
図7 ポンプ効率比較
CB型の性能範囲を図8,図9に示す。
吸込み口径:125~400 mm
流量:0.75~45 m3/min(50 Hz)
0.85~48 m3/min(60 Hz)
従来モデルの性能範囲をカバーしている。
図8 性能範囲(50 Hz)
図9 性能範囲(60 Hz)
構造図を図10に示す。CB型は,主に上下2つ割ケーシングとサイドカバー,両吸込み羽根車と主軸,ユニット型軸受とメカニカルシールで構成される。
図10 構造図
ケーシングは,スルーボア構造(駆動機側から反駆動機側まで同一内径寸法で加工)を採用しているため,軸受を内部に挿入でき,軸受スパンを短縮することが可能である。さらに,軸受と軸受箱が一体となったユニット型軸受は,取付け・取扱いが容易な上,高剛性かつ高強度な軸受箱によって,軸受に異常な荷重を作用させないため,軸受寿命の長期化に寄与する。また,軸受外径面と軸受箱内径面は球面接触で保持されるので,回転体の芯狂いを調整する。
羽根車は,主軸に直接挿入し,インペラナットで止めるだけのシンプルな構造で,組立性が良い。
主軸は,軸受スパンが短縮されているため,たわみを最小限に抑えることができ,羽根車とケーシングウェアリングとのクリアランスを最小限にすることで,漏れ損失を抑制し,ポンプ効率が向上する。
また,日本市場向けの従来モデルCN型3)と比較すると,スルーボア構造とユニット型軸受によって,コンパクトな構造である。
項目 | 仕様 |
取扱液 | 清水,工業用水 |
ポンプ効率 | GB規格η 3以上 |
フランジ規格 | JIS,GB,ASME |
最高使用圧力 | 16 Bar |
温度 | 0~80 ℃ |
周波数 | 50,60 Hz |
極数 | 4P |
流量 | 最大48 m3/min |
全揚程 | 最大160 m |
ケーシング材料 | FC250,FCD450 |
軸封 | メカニカルシール |
軸受 | グリース潤滑 |
グローバル市場向け両吸込み渦巻ポンプCB型の特長及び製品概要について紹介した。
実験計画法と感度解析によって得られた羽根車・吐出しボリュート・吸込み流路の最適設計パラメータ値を採用し,GB規格の省エネルギー評価値η
3を達成する高効率ポンプを開発した。
今後,CB型ポンプのモータ極数は2Pと6Pへ展開,高押込対応など仕様を拡大し,CB型ポンプの製造拠点がある中国市場を中心にアジアからグローバルに展開していく。全世界で省エネルギー化が求められており,中国だけではなく,世界共通の課題である持続可能な社会の構築に向けて貢献していく所存である。
最後に,本開発に協力頂いた全ての関係者の方々に深く感謝の意を表する。
1) 宮本辰哉,ポンプ及びモータの省エネルギーの動向,エバラ時報,No.236,p.3-9(2012-7).
2) 関野夕美子,渡邉啓悦,流れ解析を活用した両吸込ポンプの最適化設計と実験による検証,ターボ機械,44巻10号,p.581-588(2016-10).
3) 長谷山清彦,横軸両吸込うず巻ポンプの新シリーズ,エバラ時報,No.113,p.39-42(1980-7).
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