瀬戸 俊介* Shunsuke SETO
平田 甲介* Kosuke HIRATA
青山 淳* Jun AOYAMA
*
荏原冷熱システム㈱
新型吸収冷温水機RHD型を開発し販売を開始した。当社の吸収冷温水機として9年ぶりの新製品となる。本機は,液管高温再生器,新型プレート熱交換器,溶液循環量の最適制御を採用し,COPc1.37(省エネ率40 %)を達成するとともに,冷水・冷却水変流量制御,省エネ運転モード,始動時間短縮制御などの機能を標準搭載し,熱源システム全体の省エネルギー化も図れる製品となっている。
また,従来どおりの冷水・冷却水仕様である標準型に加え,冷却水流量を標準型の70 %とし冷却水ポンプの動力を大幅に削減した節電型,コジェネレーションのエンジン廃熱などを投入して燃料消費量を削減するジェネリンク型の3仕様の製品をラインナップしている。
Ebara has developed and launched the model RHD, a new absorption chiller heater. The new model, newly released after nine years interval as the company’s absorption chiller heater, adopt a liquid tube high-temperature regenerator, a new-type plate heat exchanger and optimum control of solution circulation to achieve COPc1.37 (with an energy saving ratio of 40 %). It also features standard functions, such as variable flow control of chilled water and cooling water, an energy saving operation mode, a control for reduction of start-up time, which help to save energy for the entire heat source of cooling/heating system.
In addition to the standard type using the conventional chilled and cooling water design, the other two types are now available: Secondly, the power saving type to significantly reduce the power of the cooling water pump with the cooling water flow reduced to 70 % of the standard type; Thirdly the Genelink type, which reduces fuel consumption by using engine waste heat recovered from a cogeneration system.
Keywords: Absorption chiller heater, Genelink, Model RHD, System efficiency
駆動源として,燃焼ガス,蒸気,温水などの熱を使用し,冷水を製造する吸収式冷凍機は,冷凍機本体の消費電力が非常に少ないため,電力負荷平準化,エネルギーのベストミックスといった観点から,ビル空調,工場空調,地域冷暖房などの空調施設に多く用いられている。
従来,吸収式冷凍機の開発では,定格条件及び部分負荷条件における効率の向上を主眼として行ってきたが,近年は,冷水を製造する吸収式冷凍機単独の効率向上に加え,熱源システム全体の省エネルギー化への顧客要望が高まってきている。
このような背景において,今回,従来機種RGD型の後継機として,9年ぶりに新型吸収冷温水機RHD型(図1)を開発し,販売を開始したので,その概要を紹介する。
図1 吸収冷温水機RHD型
RHD型の本体缶胴は,蒸発器・吸収器から成る下部低温胴,低温再生器・凝縮器から成る上部低温胴,高温再生器の3缶胴から構成しており,昨今多いリプレイス現場の搬入経路に合わせた種々の分割搬入が可能である。これらの本体缶胴に加え,溶液熱交換器,キャンドポンプ,燃焼装置,抽気装置,制御盤などの主要機器から構成される。
RHD型のラインナップは,以下のとおりである。
①標準型(RHD型)
冷水温度12 ℃→7 ℃,冷却水入口温度32 ℃
冷却水流量(0.284 m3/h/kW)
②節電型(RHD-T型)
冷水温度15 ℃→7 ℃,冷却水入口温度32 ℃
冷却水流量 標準型の30 %削減(0.199 m3/h/kW)
③ジェネリンク型(RHD-J型)
冷水温度12 ℃→7 ℃,冷却水入口温度32 ℃
冷却水流量(0.284 m3/h/kW)
廃温水温度90 ℃→80 ℃(88 ℃→83 ℃)
コジェネレーション等の廃温水投入による燃料消費削減型
3型式とも加熱源はガスと油(灯油,A重油)に対応している。
第1ステップとして,それぞれ冷凍能力527 kW~879 kWの4機種をシリーズ化した。表に,それぞれの仕様を示す。
ガス焚き | 油焚き | ||||||
RHDG型 標準型 |
RHDG-T型 節電型 |
RHDG-J型 ジェネリンク型 |
RHD(K/A)型 標準型 |
RHD(K/A)-T型 節電型 |
RHD(K/A)-J型 ジェネリンク型 |
||
冷凍能力 | kW | 527,633,738,879 | |||||
加熱能力 | kW | 398,478,557,664 | |||||
定格冷房COPc | - | 1.37 | 1.35 | 1.37(1.94) | 1.31 | 1.31 | 1.31(1.85) |
冷房省エネ率 | % | 40% | 40 % (58 %) |
38% | 38 % (56 %) |
||
冷水温度 | ℃ | 12→7 | 15→7 | 12→7 | 12→7 | 15→7 | 12→7 |
温水温度 | ℃ | 56.2→60 | 54→60 | 56.2→60 | 56.2→60 | 54→60 | 56.2→60 |
冷温水流量 | m3/h/kW | 0.172 | 0.108 | 0.172 | 0.172 | 0.108 | 0.172 |
冷却水温度 | ℃ | 32→37.0 | 32→39.2 | 32→37.6 | 32→37.1 | 32→39.2 | 32→37.6 |
冷却水流量 | m3/h/kW | 0.284 | 0.199 | 0.284 | 0.284 | 0.199 | 0.284 |
冷却水系圧力損失 | kPa | 61~68 | 37~40 | 61~68 | 61~68 | 37~40 | 61~68 |
廃温水温度 | ℃ | - | - | 90→80 (88→83) |
- | - | 90→80 (88→83) |
注:表中の括弧内の数値は,廃熱投入時の値
図2にRHD型の冷房時サイクルフローを示す。蒸発温度約5 ℃の蒸発器内に散布された冷媒(H2O)は,蒸発潜熱によって蒸発器伝熱管内を流れる冷水を冷却し,7 ℃の冷水を製造する。蒸発器で蒸発した低圧の冷媒蒸気は,吸収器伝熱管上に散布されたLiBr溶液に連続的に吸収され,蒸発器内の圧力を高真空状態に維持する。
吸収器にて冷媒蒸気を吸収して濃度が薄くなったLiBr水溶液(希溶液)は,溶液ポンプ1によって昇圧され,低温熱交換器及び冷媒ドレン熱回収器で濃溶液及び冷媒ドレンによって加熱された後,低温再生器に供給される。低温再生器では,高温再生器で発生した高温の冷媒蒸気によって希溶液が加熱・濃縮され,中間濃溶液となる。
低温再生器で加熱・濃縮された中間濃溶液は,溶液ポンプ2によって昇圧された後,高温熱交換器で濃溶液により加熱され,高温再生器に送られる。高温再生器では,中間濃溶液が加熱源(ガス又は油の燃焼ガス)によって加熱・濃縮され濃溶液となり,低温再生器の加熱源となる高温の冷媒蒸気を発生する。
高温再生器で加熱・濃縮された濃溶液は,高温熱交換器で中間濃溶液により冷却され,低温再生器からの中間濃溶液の一部と合流した後,低温熱交換器で希溶液により冷却され吸収器の伝熱管上へ散布される。
高温再生器で発生した冷媒蒸気は,低温再生器に供給された希溶液によって冷却され凝縮・液化し,冷媒ドレン熱回収器で希溶液と熱交換をした後,凝縮器に入る。低温再生器で発生した冷媒蒸気は,凝縮器にて冷却水によって冷却され凝縮・液化し,高温再生器からの冷媒とともに液冷媒として蒸発器に戻り,冷媒ポンプによって蒸発器伝熱管に散布される。
このようにして,吸収冷凍サイクルが形成され,連続的に冷水を製造することが可能となる。
また,暖房時は高温再生器で希溶液を加熱・濃縮する際に発生する高温の冷媒蒸気を直接蒸発器に導き,蒸発器伝熱管上に散布された濃溶液に吸収させることで蒸発器管内を流れる温水を加熱し,温水を製造することができる。
暖房時も希溶液のフローは冷房時と同じだが,高温再生器で加熱・濃縮された濃溶液は,高温熱交換器で希溶液により冷却された後,蒸発器缶胴に移動し,冷媒ポンプにより蒸発器伝熱管上に散布される。
図2 サイクルフロー図(冷房時)
吸収冷温水機を用いた熱源システムでは,図3に示すように,消費エネルギーに占める冷却水ポンプ動力の割合が非常に大きい。そのため,熱源システムの消費電力を削減する目的で,定格冷却水流量を標準型の70 %以下とした吸収冷温水機を節電型と呼称している。
節電型は冷却水流量が標準型より少ないため,高温再生器圧力が高くなり,標準型よりも厳しい条件となる。しかし,凝縮器伝熱管に高効率伝熱管を採用し,溶液循環量を標準型よりも増やすなどの対応を行い,標準型と同一の冷水出口温度で,同一の冷凍能力を確保した。
冷却水ポンプの消費電力は,ポンプ回転数の三乗に比例するため,流量の削減,流量削減に伴う機器及び配管系統の圧力損失低減を単純に試算すると,定格条件における冷却水ポンプの消費電力は標準型に比べ60 %以上削減することが可能となり,吸収冷温水機を用いた熱源システムの消費電力を30 %以上削減することができることになる。
節電型仕様に加え,冷却水変流量制御を行うことにより,図4に示すように,標準型を冷却水流量一定で運転した場合に比べ,冷却水ポンプの年間消費電力は90 %程度削減することができる計算※1となる。
また,定格冷却水流量の削減に伴い,冷却水ポンプ,変流量制御用インバータ,冷却水配管,冷却塔などもサイズダウン,小型化が可能になり,ランニングコストだけでなく冷却水系のイニシャルコストも低減することができる。
※1 空気調和・衛生工学会の負荷パターン『事務所』における試算
図3 吸収冷温水機を用いた熱源システムにおける電力消費率
図4 冷却水ポンプ年間消費電力
ジェネリンクとは,コジェネレーションシステムと接続(リンク)し,ガスや油といった加熱源の他に,廃温水を投入することが可能な吸収冷温水機のことを呼称する。
RHD-J型は,廃温水により希溶液を加熱・濃縮する廃温水再生器をRHD型の低温再生器上部に追加し,加熱源は二重効用で,廃温水は単効用で運転する。また,運転条件によっては,廃温水のみでの単独運転も可能である。
図5はRHD-J型の,冷凍能力と燃料消費率の関係を表したものである。ガスや油といった加熱源とは別に,90 ℃の廃温水を投入することで,冷凍能力100 %時に燃料消費量を30 %削減でき,冷凍能力がおおむね60 %以下の領域では廃熱だけで運転が可能になる。
なお,図5中の破線は,バーナの最小燃焼量の関係で,燃焼がON/OFFになる領域を示している。
また,廃熱を有効利用するために,燃料による燃焼を行わない“廃熱優先モード”制御機能を有しており,外部信号でのモード切り替えも可能とした。廃熱優先モードをONにした場合,負荷変動時などの一時的な負荷上昇時などにも,燃焼を行わずに廃温水のみによる運転を継続することが可能になる。
図5 冷凍能力と燃料消費率の関係
RHD型は,従来機種RGD型(COPc=1.2)をベースに,図6に示す手法で効率向上を行った。その主な手法について以下に述べる。
図6 高効率化の手法
高効率プレート熱交換器を高温・低温熱交換器,冷媒冷却器,冷媒ドレン熱回収器に使用することによって,内部サイクルからの熱回収量を従来よりも増やすことで効率を向上した。特に,高温・低温熱交換器には新しく開発したプレート熱交換器を採用しており,従来と同枚数でも,高温・低温熱交換器の効率が約10 %向上した。
また,蒸発器,吸収器の伝熱面積を従来よりも増やし,溶液濃度を下げることで効率を向上させている。
高温再生器を従来の炉筒煙管式から炉筒液管式に変更した。液管式は排ガス側の伝熱面積を煙管式よりも増やしやすいため,排ガスからの熱回収量を増やせ,かつ溶液保有量を削減することが可能である。
液管式高温再生器の採用により,従来機種RGD型に比べて高温再生器の効率が約2 %向上するとともに,LiBr溶液の必要量を約15 %削減でき,効率の向上と環境負荷の低減に貢献している。
注:炉筒液管式は,ガス焚きのみ。油焚きは炉筒煙管式。
高温再生器と低温再生器の差圧に連動させて溶液ポンプの回転数を制御する方式を,RHD型用に最適設定して,負荷変動への追従性を改善するとともに,部分負荷時の効率改善を図った。
また,ジェネリンク型では,廃熱回収時に廃温水からの回収熱量が最大になるように,廃温水再生器への溶液流量を制御するように変更した。
RHD型では,冷温水機本体の省エネルギー化だけでなく,熱源システムの省エネルギー化を図る機能も標準搭載している。
冷水・冷却水変流量制御は,冷房負荷に応じて冷水と冷却水の流量を変化させる制御方法であり,図3に示すように,両者を合わせると吸収式の熱源システムで消費する電力の約80 %に達する。そのため,冷水ポンプと冷却水ポンプの回転数をインバータで制御し,適切な流量を吸収冷温水機に供給することで,電力消費量の大幅な削減が可能となり,吸収式熱源システム全体の効率は大幅に向上する。
冷却水変流量制御によって冷却水流量を減らすと吸収冷温水機自体の効率は若干低下する。しかし,効率低下に伴う燃料消費量の増加分は,冷却水ポンプの電力消費量の減少分に比べて非常に小さく,全負荷域において冷却水変流量制御を行った方が熱源システムとしての効率は高くなる。
冷却水入口温度が低いときに,冷水出口温度を適切な値に自動変更する機能である。冷却水入口温度が低い環境では冷房負荷も低いことが多く,冷水出口温度が定格条件より高くても実運用上,支障がない場合が多い。
省エネ運転モードを使用することによって,図7に示すように,冷房運転時の部分負荷効率を表す期間成績係数※2は,約3 %向上する。
※2 JIS B 8622で規定され,冷凍能力100 %,75 %,50 %,25 %時のCOPcに重み係数を乗じて加算した値
図7 期間成績係数改善効果
始動時の加熱制御と停止時の希釈制御を改良することにより,始動時間と始動に要するエネルギーを従来に比べて約半減する制御方法である。
図8に,年間の冷房運転における発停回数と,ランニングコスト削減率の関係を示す。一般空調では,冷房時の発停回数は年間300回~400回にもなり,始動に要するエネルギーを半減すると,年間のエネルギー費は約4 %削減できる。
また,吸収式と電気式の複合熱源システムにおいては,熱源の運用方法により一次エネルギー使用量,ランニングコスト,CO2削減量に大きな差が生じるが,本機能により吸収式の始動特性が改善されたため,複合熱源システムにおいて柔軟な運用がしやすくなる。
なお,本機能を搭載したRHD型は,「始動時間を短縮させた吸収冷温水機」として,平成30年度デマンドサイドマネジメント表彰において,一般財団法人ヒートポンプ・蓄熱センター振興賞を頂いた。
図8 年間発停回数とランニングコスト削減率
RHD型は,標準型をベースに,節電型,ジェネリンク型をラインナップし,定格条件及び部分負荷における効率向上とともに,熱源システム全体の省エネルギー化に貢献できる機能を搭載した吸収冷温水機となっている。
今後も,市場のニーズに対応し,社会に貢献する製品・技術・サービスの提供に努めていく所存である。
荏原冷熱システム㈱
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