天野 俊輔 Shunsuke AMANO
荏原冷熱システム㈱ 工学博士
現代の生活に不可欠な冷凍空調機器で使用されているHFC冷媒は,地球温暖化を防止するため,グローバルで総量規制が始まっており,冷凍空調機器に使用される冷媒は低GWP冷媒へ転換していく必要がある。当社はターボ冷凍機用の冷媒に,低GWPでありながらこれまで同様の安全・安心を両立でき,冷媒に対する本質的ニーズを全て満足するR1224yd(Z)(AMOLEA® 1224yd)を採用し,ターボ冷凍機RTBA型を開発し,2018年4月に発売した。RTBA型は低GWPだけでなく高効率であり信頼性も高いため,環境負荷を低減し,かつ安全・安心で使いやすい冷凍機を求めるお客様に最適な製品である。また,既納入ターボ冷凍機の一部の部品を交換することによって,冷媒をR1224yd(Z)に変更できるサービスを開発している。
Refrigeration and air-conditioning equipment are essential for modern life. HFC refrigerants used in such equipment are already subject to production regulation to reduce global warming. Therefore, it is necessary to replace HFC refrigerants with low GWP refrigerants. EBARA Refrigeration Equipment & Systems developed the new centrifugal chiller model RTBA and released it in April 2018. This model uses R1224yd (Z) (AMOLEA® 1224yd), a low GWP refrigerant for centifugal chillers, which ensures both safety and security to the same level as conventional refrigerants and satisfies all the essential needs for refrigerants. Since the model RTBA not only uses a low GWP refrigerant but is also highly efficient and reliable, it is an ideal product for customers seeking a safe, reliable, and easy-to-use chiller that reduces environmental impact. In addition, we are developing a retrofit service to allow the use of R1224yd (Z) in previously delivered centrifugal chillers by replacing some parts.
Keywords: Centrifugal chiller, Model RTBA, Low GWP refrigerant, HFO, R1224yd (Z), Non-flammable, Toxicity, Kigari amendment, Retrofit
※「AMOLEA」はAGC㈱の登録商標です。
地球温暖化の防止は人類に共通の課題である。CO2をはじめとする温室効果ガスの排出量削減について,歴史上初めてパリ協定としてグローバルで制定し,採択された。これに関連して現代の都市生活に欠かせない冷凍空調機器に使用される冷媒を転換することが求められている。冷媒は機器の中で密閉して使用されるが,万一漏えいした場合には,現行冷媒であるHFC(Hydro Fluoro Carbon)冷媒は地球温暖化係数(Global Warming Potential,以下GWP)が大きいため,地球温暖化に影響を及ぼす可能性がある1)。
そのためグローバルでも日本でもHFCを新たに規制する動きが現実化し,お客様から低GWP冷媒への転換が求められている。そこで当社は,日本における新たなHFC規制に対応できる新冷媒R1224yd(Z)(AMOLEA® 1224yd)を採用したターボ冷凍機RTBA型を開発し,2018年4月に発売した。本稿では,まず開発の背景として新たな規制の経緯及び代替冷媒候補について述べ,次いで採用した新冷媒及び新冷媒ターボ冷凍機RTBA型の特長,最後にレトロフィット技術について説明する。
これまでターボ冷凍機の冷媒は数回の転換を経験している。フロンガスの発明以前の冷凍機には適切な物質が他にないために毒性の高い物質や強い燃焼性を有する物質が冷媒として使用された。1920年代に不燃性と低毒性を両立した最初のフロンCFC-12(CFC:Chloro Fluoro Carbon)が発明されたのを皮切りに安全・安心な物質を冷媒として使用できるようになった。
しかし1970年代からCFCが成層圏でオゾン層を破壊することが議論され,1987年のモントリオール議定書により1996年までの特定フロンCFCの廃止と代替フロンHCFC(Hydro Chloro Fluoro Carbon)の長期段階的廃止が決定された。そしてHCFCを代替するためにオゾン層を破壊しないHFCが開発され,日本はCFCからHCFCへ,更にHFCへと,モントリオール議定書の規制スケジュールよりも早い時期に,世界に先んじて環境に配慮して冷媒を転換してきた。
HFCはオゾン層を破壊せず,不燃性で毒性が低い,安全・安心な冷媒である。しかしGWPは高い。ゆえにHFCに対する法的規制が動き始めた。2006年に欧州でFガス規制が制定されたことに始まり,米国を中心とする国々によるモントリオール議定書におけるHFC規制の提案(通称北米提案)を経て,日本においてはフロン回収・破壊法が改正され,「フロン類の使用の合理化及び管理の適正化に関する法律」(通称「フロン排出抑制法」)が制定された(2015年4月施行)。グローバルでは2016年10月,ルワンダのキガリにおけるモントリオール議定書第28回締約国会合(MOP28)において締約国はHFC総量規制に合意した(キガリ改正)2)。具体的には図1に示すように,先進国はHFCの生産量及び消費量をCO2換算で2019年に10 %,2024年に40 %,2029年に70 %と段階的に削減し,最終的に2036年に85 %削減する。途上国は約10~13年の時間遅れを以て削減し,全体としては約30年かけて削減するという,過去の代替フロンHCFCの削減と似た仕組みである。キガリ改正の合意によって日本のフロン排出抑制法による規制も順次強化され3),機器メーカに対して低GWP冷媒への転換を求める「指定製品制度」にターボ冷凍機を追加し2025年以降GWPを100以下に規制する案が行政から2017年12月に公表され4),最終的に2019年1月に告示された。
このように近年グローバルでも日本でも現行冷媒HFCを新たに規制する動きが現実化し,お客様から低GWP冷媒への転換が求められている。
図1 グローバルHFC規制(キガリ改正)
低GWPを実現するために冷媒のもつ性質は変わってくる。自然冷媒と呼ばれるものはGWPが低いが,炭化水素には強い燃焼性,アンモニアには燃焼性と毒性などの課題がある。そこで近年,他の低GWP冷媒候補物質として炭素-炭素の二重結合を有するHFO(Hydro Fluoro Olefin)系の物質が開発されてきた。大気中では紫外線によって分解し,寿命が短いためにGWPが低い。しかし速やかに分解するために分子の安定性を下げていることから,本質的なトレードオフとして,GWPを下げるためには燃焼性を有する傾向がある。様々な冷凍空調機器に対して異なる低GWP冷媒が開発されている5),6)が,低GWPのためには不燃性は必ずしも守れない条件になったと言うことができる。
ターボ冷凍機に適する低GWP冷媒候補となるHFO系物質をまとめたのが表1である。GWP,大気寿命,沸点,分子量,燃焼性と毒性のランクそして冷媒限界濃度(RCL)と職業暴露限界(OEL),圧縮機吸込体積あたりの冷凍能力(以下体積能力。現行冷媒に対する相対値。)を示す。R134a(GWP:1430)の代替となるR1234yfやR1234ze(E)はGWPが1以下と低いが僅かな燃焼性(以下微燃性)がある。R513Aは不燃性の共沸混合冷媒であるがGWPは573と高い。R134a以上の圧力では不燃性と低GWPの両立は困難との研究もある7)。一方R123(GWP:77)の代替としては不燃性のR1336mzz(Z)があるが体積能力が低い。共沸混合冷媒のR514Aは不燃性でR123に近い体積能力であるが高毒性に分類される。最後にR245fa(GWP:1030)の代替としてはR1233zd(E)とR1224yd(Z)が,単一物質であってGWPは1以下と低く,不燃性かつ低毒性である。中でもR1224yd(Z)は,物質としての安定性も現行のHFC冷媒並みに高い8)。
代替冷媒 | R1336mzz(Z) | R514A | R1233zd(E) | R1224yd(Z) | R1234ze(E) | R1234yf | R513A |
現行冷媒(GWP) | R123 (77) |
R245fa (1030) |
R134a (1430) |
||||
単一/混合 | 単一 | 共沸混合 | 単一 | 単一 | 単一 | 単一 | 共沸混合 |
GWP | 2 | 2 | 1 | <1 | <1 | <1 | 573 |
大気寿命 | 22日 | - | 26日 | 21日 | 18日 | 11日 | - |
標準沸点 ℃ | 33.4 | 29.1 | 18.3 | 14.0 | -19.0 | -29.6 | -29.2 |
分子量 | 164.1 | - | 130.5 | 148.5 | 114.0 | 114.0 | - |
ASHRAE Std34 分類 | A1 | B1 | A1 | A1 | A2L | A2L | A1 |
燃焼性 | 不燃性 | 不燃性 | 不燃性 | 不燃性 | 微燃性 | 微燃性 | 不燃性 |
毒性 | 低毒性 | 高毒性 | 低毒性 | 低毒性 | 低毒性 | 低毒性 | 低毒性 |
冷媒限界濃度 RCL ppm | 13000 | 2400 | 16000 | 60000 | 16000 | 16000 | 72000 |
職業暴露限界 OEL ppm | 500 | 320 | 800 | 1000 | 800 | 500 | 650 |
体積能力(現行冷媒比) | 80% | 100% | 85% | 100% | 70% | 100% | 100% |
ターボ冷凍機をお使いいただいているお客様にとって,温暖化防止という視点に立って冷媒に求める性質は何かを想定してみた。お客様ごとに答えは異なるが,本質的,理想的には下記のような性質が想定される。
○低GWP:環境負荷低減 環境規制遵守
○低毒性:万一漏洩しても安全性が高い
○不燃性:火災リスク,有毒物質発生リスクなし
○単一物質:万一漏洩しても補充可能
○高安定性:長期間使用で性能変化や腐食等問題なし
○高効率:サイクル効率高,間接的環境負荷低減
これまで述べてきた低GWP冷媒の開発状況と,上に挙げた冷媒に対する本質的ニーズの両方を考慮した結果,当社はターボ冷凍機用の低GWP新冷媒として,R1224yd(Z)(AMOLEA® 1224yd)を採用した。
R1224yd(Z)は上記の条件を全て満足し,更に以下に示す利点も有する。
○フロン排出抑制法の対象外
○生産量の多い他用途(発泡剤等)に展開されている
○取扱いの容易な低圧冷媒である
○現行冷媒と同等の能力と高いCOPが期待できる
ターボ冷凍機RTBA型(図2,図3)は,当社の主力製品であり,信頼性と実績のあるターボ冷凍機RTBF型の技術をベースに開発した。本製品の特長は次のとおりである。
○環境配慮と安全・安心を両立する新冷媒R1224yd(Z)
GWPが1以下と極めて低く,不燃性,低毒性かつ高安定性という特長がある。また,フロン排出抑制法の対象外で,冷凍機はノンフロン扱いである。
○成績係数(COP)
シリーズ最高でCOP6.4と高効率を達成した。
○高効率二段圧縮機
圧縮機はRTBF型の二段圧縮機の基本構造を引き継いでいるので信頼性が高く,新冷媒に対して最適設計したので効率が高い。
○高性能熱交換器
高性能伝熱管を採用した。
○幅広いシリーズ構成
冷凍能力範囲は220冷凍トンから1250冷凍トンと,十分に幅広い範囲をカバーしている(表2,表3)。
○各種仕様対応力
ターボ冷凍機は一般的にお客様の使い方に合わせて様々な仕様に対応することを要求される場合が多い。ターボ冷凍機RTBA型は,従来機種RTBF型から様々な仕様に対応できる柔軟性も引き継いでいる。例えば,冷水温度差,ノズル方向,各種フィルタの多重化等,使いやすさに直結する仕様に対応できる。また,一般的になりつつあるインバータ仕様にも対応できる。さらに,搬入経路が十分確保できないリニューアル時に特に重要となる分割搬入仕様や,防爆仕様にもオプションで対応できる。
すなわちRTBA型ターボ冷凍機は,低GWPと不燃性かつ低毒性の新冷媒に加えて,お客様の使い勝手も従来どおり良好であるため,低GWP冷媒に伴う欠点がなく,かつ全てのお客様にとって使いやすいターボ冷凍機であり,「環境負荷を低減したい,かつ安全・安心で使いやすい冷凍機」を求めるお客様に最適な製品である。
図2 ターボ冷凍機RTBA型
図3 ターボ冷凍機RTBA型の特長
表2 ターボ冷凍機RTBA型選定例(その1)
表3 ターボ冷凍機RTBA型選定例(その2)
注)冷水・冷却水は清水となります。
注)最高使用圧力は1.0MPaです。
注)本仕様要項は予告なく変更されることがあります。
注)本仕様要項は型式選定される場合の目安としてご利用ください。
新冷媒をターボ冷凍機に適用するための基礎技術として,材料,特に絶縁材料及びシール材料(エラストマー)の新冷媒に対する耐性の確認や,新冷媒に適合する冷凍機油の確立などが挙げられる。これら基礎技術について十分に検討し,新冷媒を使用しても高い信頼性が確保できた。
各種材料の新冷媒に対する耐性確認試験を実施し,変更が必要な材料については適合する材料に変更した。
冷凍機に使用される特殊な潤滑油である冷凍機油には,適切な粘度だけでなく,低温で流動性を維持する性質や,運転で必要な温度範囲において冷媒と適度に溶解しあう性質など,様々な性質が要求される。HFO系冷媒は現行HFC冷媒に使用されている合成油に対して溶解度が大きいことが知られている。R1224yd(Z)は合成油とも鉱物油とも溶解しあうことがわかっているため,潤滑油メーカの協力のもと幅広く検討を進め,R1224yd(Z)に対して適切な性質を有する冷凍機油を採用した。
基礎技術を確立した後,冷凍機としての性能,機能及び信頼性を十分に確認した。一例として効率を示す性能指標であるRTBA型の成績係数(COP)について図4に示す。冷凍機の基本構造は現行RTBF型から引き継いだが,内部を新冷媒に対して最適に設計し,現行RTBF型と同等のCOPを達成している.
また部分負荷を含めた効率指標である期間成績係数(IPLV)についても検証を行った。図5に固定速機とインバータ機について,それぞれ現行冷媒を100 %とした相対値で示す。IPLVは固定速機においては107 %,インバータ機においては100 %と,現行冷媒と同等またはそれ以上であった。
図4 ターボ冷凍機RTBA型の性能(その1)
図5 ターボ冷凍機RTBA型の性能(その2)
実効的な温暖化影響を低減するために可能な限り早期に冷媒を転換していくことが望ましいが,メーカが冷凍機の機種ごとに指定している冷媒以外を使用することはできない。そのため低GWP冷媒を採用した新機種をいち早く採用するほど,実効的な環境負荷の低減につながる。しかしながら,ターボ冷凍機は製品寿命が非常に長い製品であるため,低GWP冷媒のターボ冷凍機が発売されても実際に導入できるのは10年や20年後になるというお客様も存在する。
今回採用した新冷媒R1224yd(Z)は,現行冷媒のR245faに圧力等の物性値が非常に近い。そこで既納入ターボ冷凍機に対してR1224yd(Z)対応化というサービスメニュー(レトロフィット)を開発している。すなわちR245faを使用する当社の冷凍機を既にご使用いただいているお客様が要望された場合,当社が確立した技術に基づいて,当社が行う定期メンテナンスの際に冷凍機の一部の部品を交換することで,低GWP冷媒R1224yd(Z)に入れ換えることが可能である。R1224yd(Z)は不燃性かつ低毒性であるため,お客様はこれまでと変わらない安全・安心を維持しながら,より早い時期から冷媒による環境負荷を低減できる。従って寿命が長く機器の入れ替わりに場合によっては数十年を必要とするターボ冷凍機であっても,より実効的な環境負荷低減に大きく寄与できる。
現代の生活に不可欠な冷凍空調機器で使用されているHFC冷媒を,地球温暖化防止のために低GWP冷媒に転換する必要があり,グローバルで長期のHFC総量規制が始まろうとしている。当社はターボ冷凍機用低GWP冷媒に,低GWPとこれまで同様の安全・安心を両立でき,冷媒に対する本質的なニーズを全て満足するR1224yd(Z)を採用した。そしてターボ冷凍機RTBA型を開発し,2018年4月に発売した。
本製品は日刊工業新聞社主催の第21回オゾン層保護・地球温暖化防止大賞において,審査委員会特別賞を受賞した9)。低GWPと安全・安心を両立する新冷媒を採用したターボ冷凍機技術をすべてのお客様に使いやすく提供することを目指した姿勢が評価されたと考えている。
環境負荷を低減しつつ安全・安心で使いやすいターボ冷凍機RTBA型は,引き合いは好調であり,既に約10台を受注,出荷している。RTBA型は,実績を積んだRTBF型の技術をベースに開発した。広く御利用いただけるように更なる開発を進め,今後ともお客様のご要望に応えていく所存である。
1) Guus J. M. Velders et al. The large contribution of projected HFC emissions to future climate forcing
2) MOP28の報告及び今後の検討方針(経済産業省)
3) キガリ改正を踏まえた新たな代替フロン規制の基本的事項等について(環境省)
4) 指定製品の目標値及び目標年度の設定について(案)平成29年12月18日(経済産業省)
5) 建築設備と配管工事,第55巻第9号(2017年8月号),PP.35-39.
6) BE建築設備,第68巻第11号(2017年11月号),PP.57-62.
7) Mark O. McLinden et al., Hitting the Bounds of Chemistry: Limits and Tradeoffs for Low-GWP Refrigerants, The 24th IIR International Congress of Refrigeration ICR2015 Yokohama,
8) AMOLEA 1224 yd 技術資料.
9) 日刊工業新聞社,第21回オゾン層保護・地球温暖化防止大賞.
荏原冷熱システム㈱
藤沢工場ものづくり50年の歴史
1966年頃の藤沢工場
縁の下の力持ち 高圧ポンプ -活躍場所編ー
100万kW火力発電所内で活躍する50%容量ボイラ給水ポンプ
RO方式海水淡水化用大容量、超高効率高圧ポンプの納入
長段間流路内の流線と後段羽根車入口の流速分布
縁の下の力持ち ドライ真空ポンプ -真空と真空技術の利用ー
真空の領域と用途例
座談会 エバラの研究体制
座談会(檜山さん、曽布川さん、後藤さん)
縁の下の力持ち 標準ポンプ -暮らしを支えるポンプー
標準ポンプの製品例
座談会 未来に向け変貌する環境事業カンパニー
座談会(三好さん、佐藤さん、石宇さん、足立さん)
世界市場向け片吸込単段渦巻ポンプGSO型
GSO型カットモデル
エバラ時報に掲載の記事に関する不明点やご相談は、下記窓口よりお問い合わせください。
お問い合わせフォーム