田中 瑛智* Eichi TANAKA
工藤 翔* Sho KUDO
河岸 孝昌* Takayoshi KAWAGISHI
*
荏原環境プラント㈱
再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT制度)の導入以降,バイオマス発電の認定容量が増加傾向にあるため,木質系燃料調達の安定性,持続可能性の確保が課題になっている。燃料の単価が上昇を続ける状況においてもバイオマス発電施設の市場競争力を維持するためには,発電効率の向上及びバイオマス発電施設のLCC低減を図る必要がある。荏原環境プラント㈱では,バイオマス発電施設の中核機器であるICFB®の発電効率の向上及びLCC低減のために新技術の開発・導入を行っている。近年開発を進めている新技術を導入することによって木質系燃料以外の多種多様な燃料が使用可能となり,燃料調達においても優位性を発揮可能となる。
Since the introduction of the feed-in tariff (FIT system) for renewable energy, the certified capacity of biomass electric power generation has been on the rise, so to handle this, we must ensure the stable and sustainable procurement of woody biomass fuels. In order to maintain the market competitiveness of biomass electric power generation facilities despite the rising unit price of fuel, it is necessary to improve electric power generation efficiency and to reduce the LCC of biomass electric power generation facilities. Ebara Environmental Plant Co., Ltd. is striving to develop and introduce new technologies to improve and reduce the LCC of the electric power generation efficiency of ICFB®, which is core equipment for biomass electric power generation facilities. The introduction of new technologies under development in recent years will make various types of fuels available in addition to woody biomass fuels and achieve superiority in fuel procurement.
Keywords: Wood biomass electric power generation, ICFB, State of the art technology
再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT制度)が2012年7月に施行されてから,バイオマス発電の認定容量は大きく増加している。現状のFIT制度において,バイオマス燃料は,
・メタン発酵ガス
・未利用木質バイオマス
・一般木材等
・バイオマス液体燃料
・建設資材廃棄物
・一般廃棄物,その他バイオマス
に大きく区分される。バイオマス発電用燃料の中でも,認定容量が最も大きな「一般木材等」に注目すると,FIT制度施行から2015年度末までに約295万kW(2016.3)だった認定容量が,他の燃料区分が微増にとどまる中,2017,2018年に急増し,2019年4月時点で約3倍の約873万kWに達している1),2)。これはFIT法が改正され,大型バイオマス発電施設における電力買取単価が固定制から入札制3),4)に変更される前の駆け込み認定による急増と考えられ,今後このような形での急増はないと考えられる。
しかし,政府がFIT制度からの中長期的な自立化を再生可能エネルギーの将来的な目標としている以上,発電事業者にとって常に問題になるのが燃料調達及び発電コストである。認定容量が急増する前から認定容量を満たすために必要な燃料量は国内木質系燃料産出量を大きく超えていることは問題視されており,近年では輸入燃料を用いるケースが急増している。安定的かつ発電事業を持続可能なコストで燃料を調達することが年々困難になってきている5)。
前述のように様々な種類のバイオマス燃料が存在し,またエネルギーとしての利用方法については「熱化学的変換」,「生物化学的変換」が,発電方式については「ボイラ,蒸気タービン」,「ガスエンジン」,「ガスタービン」,「燃料電池」などがある。バイオマス発電技術は燃料+エネルギー利用方法+発電方式の組合せで構成されるため,その組合せは多岐にわたる。
荏原環境プラント㈱(以下,当社と記す)が提供しているICFB®内部循環流動床ボイラは,木質系燃料を用いたバイオマス発電システムとして一般に採用されている燃焼発電(熱化学的変換+ボイラ・蒸気タービン)プラントの中核技術として適用可能な流動床ボイラである。本稿ではICFB及びICFBにおける発電効率の向上及びLCC低減のための新技術について紹介する。
※ICFBは,荏原環境プラント㈱の日本における登録商標です。
ICFBは火炉内部が燃焼室と左右の熱回収室に仕切られており,燃焼室内での活発な旋回流動の動きによって飛び出した流動媒体(砂)の一部が熱回収室に入り,そこで砂は下部に移動しながら層内伝熱管と熱交換し,最終的にディフレクタ下部から燃焼室に戻る(図1)。
燃焼室内では砂は活発な旋回流動を行うことによって局部高温又は局部低温になることがなく多品種の燃料を使用することが可能であり,また大きな不燃物も容易に排出することができる。そのため燃料を幅広く調達可能となる。
図1 ICFB<sup>®</sup>概略構造
バイオマス発電市場において,燃料の安定調達及び燃焼価格の上昇が課題である。バイオマス発電施設の市場競争力を維持するためには,燃料あたりの発電量を増やす,すなわち,発電効率の向上を図ることが有効である。蒸気温度は発電効率に直結し,高温であるほど発電効率は高くなるため,1章で述べた燃焼発電プラントでは発電効率向上のために主蒸気温度の高温化を進める傾向にある。
当社の提供するICFBは主蒸気温度の高温化のため,大きく二通りの手法を施設の仕様に合わせて用いている。一つは層内過熱器の設置,もう一つは燃焼排ガス中過熱器の設置である。
①層内過熱器
層内過熱器は流動層内に設置されるものであり,流動層の熱を用いて蒸気温度を高温化する仕様である。層内過熱器は過酷な腐食・摩耗環境にさらされるが,層内の温度は一定に保たれているため,ボイラの負荷変動によらず必要な蒸気温度の確保が容易である。夜間に低負荷で発電を継続する場合等,負荷変動が大きい場合は層内過熱器による高温化が適している。また使用する燃料を変更する場合等,燃焼排ガス量やその温度の変動が激しい場合も同様に層内過熱器が適している。
②燃焼排ガス中の過熱器
燃焼排ガス中の過熱器は燃焼排ガスの熱を用いて蒸気温度を上昇させる設備である。燃焼排ガスの温度は運転負荷によって変動し,過熱器の収熱量に大きく影響を与えるが,民間事業者のように常に高負荷で変動が少ない運転を行う場合は摩耗が生じない燃焼排ガス中過熱器による高温化が適している。
当社では施設の仕様に適合した手法によって主蒸気温度の高温化を行うことで,蒸気温度の高温化によって発電効率の向上を図るだけなく,各バイオマス発電事業者に最適なLCCの発電施設を提供している。
ICFBの流動媒体は砂であるが,粒径などの性状が流動化に必要な風量に影響するため,粒度の調整された砂を使用している。しかしバイオマスやその他の燃料には砂よりもサイズの大きい砂利や不燃物が含まれる。これらの混入物が層内に多く滞留すると流動化を維持するために風量を増加させる必要があり,多量の流動化空気によって粒径の小さい流動媒体が飛散して結果的に流動媒体の平均粒子径が大きくなり流動化しにくくなる。また流動化空気量の増加は流速の増加とそれに伴う層内伝熱管をはじめとする層内設備の摩耗量の増加につながるため,流動媒体の平均粒径の維持は層内設備の寿命向上,メンテンナンス費用削減に寄与する。また,運転中に継続的に砂の粒径を調整することができれば砂の入れ替えに伴うメンテナンス期間も縮小が可能になり,層内設備の長寿命化も図れるため大幅なメンテナンスコストの削減が期待できる。
当社が新たに開発した粒度調整器は,既存の振動篩では分級することが困難な, ICFBの運転に最適な砂の粒径よりもわずかに粒径の大きい物質(砂利等)を風力選別により分級する装置である。
通常,ICFBの流動床から抜き出された砂は振動篩において不燃物を除去した上で層内に循環され再利用されるが,その砂の一部を分岐して粒度調整器に投入することで,既定の粒径以下のものと粒径の大きいものに分級することができる(図2,図3)。その結果,粒径の小さい砂を炉内に再投入し,粒径の大きいものを系外に排出することで,炉内の砂の粒径をICFBの運転に最適な状態に保ち,砂利等の粒径の大きいものは取り除くことができる。
図2 分級前
図3 分級後(粒径大)
層内伝熱管はICFBの全熱回収量のうち20~30 %を担いつつ,炉床温度を適正温度に維持する役割を担うICFBの基幹技術である。流動層内に設置された層内伝熱管による熱回収量を適正に設計,制御することで,ICFBは石炭,バイオマス,都市ごみと多種の燃料に適用可能であるが,流動層内で熱交換を行う層内伝熱管は過酷な温度と腐食・摩耗環境にさらされている。
そのためICFBでは層内伝熱管表面の保護対策として溶射技術を採用しているが,定期的に減肉した溶射皮膜の補修を行う必要がある。溶射皮膜の寿命向上は層内伝熱管の寿命向上に直結するため,ICFBの安定運転及びメンテナンスコストの低減に大きく寄与する。
そこで,現在使用している溶射材料よりも耐久性の高い溶射材料の開発を北海道大学,北海道立総合研究機構,第一高周波工業株式会社と共同で行っている。
流動層内では流動媒体の砂を下部から吹き込む空気によって流動化させており,層内伝熱管は流動媒体による摩耗環境に常時さらされている。また流動媒体中の燃料由来塩素分による腐食環境にも同時にさらされている。摩耗環境と腐食環境が同時に存在する腐食摩耗による減肉は,摩耗のみあるいは腐食のみの場合とは異なる挙動を示す。効率的に寿命の向上を図るためには層内伝熱管の腐食摩耗メカニズムを理解する必要があるが,実機において運転中の内部観察は難しい。そのため実験室レベルで,より正確に層内腐食摩耗環境を把握するために,実機環境を模擬した流動層試験装置(図4,図5)を開発した。
本試験装置では,流動媒体温度,金属表面温度,塩濃度を制御した条件下で腐食試験を行うことが可能であり,試験中に内部を目視で確認することや,任意の時間に装置を停止し,サンプルの確認・分析を行うことも可能である。
本試験装置を用いて得られたこれまでにない興味深い知見を以下に示す。
酸化雰囲気における塩化腐食環境下においては,合金中にMoを添加することで耐腐食性が向上する傾向にあることが広く知られており6),本腐食試験においても同様の傾向が得られている(図6)。しかし,塩化腐食環境下であっても腐食摩耗環境である場合その傾向が逆転し,Moを合金中に添加することによって,耐腐食摩耗性が悪化することが試験装置によって確認された(図7)。
このように腐食摩耗は腐食単体とは異なる減肉挙動を示すため,腐食のみの試験では評価が難しい。
また,腐食摩耗環境を構成する摩耗環境の強弱によっても減肉傾向が変化することが予想される。そのため実機の腐食摩耗環境を正確に再現することで,ICFB向けに最適化された溶射材料の開発を行っている。
図4 流動層試験装置
図5 反応炉
図6 腐食試験におけるMoの影響
図7 腐食摩耗試験におけるMoの影響
層内伝熱管の配置を密にすることで,ICFB全体の熱回収効率が向上し,装置の縮小化による建設コストの低減が可能となる。また,流動媒体径及び流動状態,層内伝熱管の最適配置を明らかにし,流動砂層高さを低減できれば,所内動力の削減も可能となる。これらの目標達成のため,コールドモデル試験装置(図8)を用いた層内伝熱管の熱交換効率向上に関する研究を高知工業高等専門学校と共同で行っている。
図8 コールドモデル試験装置
ICFBは様々な物性の燃料を使用することが可能であるが,燃料中には燃焼物の他にも様々な性状の不燃物が混入する。バイオマス燃料においても砂利や針金などの不燃物が混入するため,安定運転を継続するためには,これらを確実に排出し続けることが必要である。したがって,今後さらなる高効率化や機能向上を目的として装置形状の最適化を図る上で,流動層内の不燃物の挙動を解明することは極めて重要である。
近年,計算機能力の増大に伴い,産業界のあらゆる分野で数値シミュレーションが活用されており,流動層技術においても多く用いられている。しかしながら現在の汎用的な数値解析ソフトウェアでは,流動層中に流動媒体粒子と比較してはるかに大きい粗大物体が存在する条件での計算を適切に行うことはできない。そのため,装置の設計過程において不燃物の堆積や滞留が生じないことを確認するためには,コールドモデルなどを用いた実験的な検証が避けられないのが現状である。
こうした背景から当社では,流動層中の粗大物体の挙動を的確に模擬できるシミュレーション手法の確立と現象の力学的解明を目指し,大阪大学・岡山理科大学・北海道大学との共同研究をEOI(Ebara Open Innovation)7)の枠組みにより行っている。
本共同研究では,大阪大学のグループにより開発された計算手法(FPM:仮想粒子法)8)に基づく数値シミュレーションによる研究9)(図9)と,固気流動層を用いた乾式比重差分離技術の開発や粉体層中の物体浮沈現象に関する基礎的研究10)に取り組む岡山理科大学のグループによる実験的研究11),並びに北海道大学のグループにより開発されたセンサシステム12)(図10)を用いた流動層中の物体の位置・姿勢・作用力の同時非接触計測に基づく研究13)を融合させることで,計算モデルの精度検証に加えて,流動層内での物体浮沈現象を支配する力学的メカニズムを明らかにすべく多面的な研究14)(図11)を進めている。
図9 流動層中の粗大球挙動の数値解析例<sup>9)</sup>
図10 センサ<sup>12)</sup>
図11 実験装置<sup>14)</sup>
本稿では,木質バイオマス発電の現状とICFB及びICFBに関わる新技術のいくつかについて概略を紹介した。現在日本国内で計画中のバイオマス発電設備では,安定して入手可能な国内産バイオマス燃料量に応じた計画規模の縮小,若しくは海外産バイオマスを採用して安定入手可能量を増大させて計画規模を維持する傾向が見られる。またFITも開始当時の固定価格買取から入札制の導入2)へと変化しており,より発電効率の高いプラントが求められる。当社は今後とも多方面の専門機関と協同して,ICFBの更なる技術開発を進め,これらのニーズに応えていく所存である。
1)NPO法人バイオマス産業社会ネットワーク,バイオマス白書2018.
2)国内外の再生可能エネルギーの現状と今年度調達価格等算定委員会の論点案(資源エネルギー庁).
3)固定価格買取制度 情報公表用ウェブサイト(資源エネルギー庁).
4)固定価格買取制度(資源エネルギー庁).
5)平成30年度新エネルギー等の導入促進のための基礎調査(資源エネルギー庁).
6)Y. Kawahara, Y. Kaihara: Recent Trends in Corrosion-Resistant Tube Materials and Improvements of Corrosion Environments in WTE Plants, Corrosion 2001, Paper No.01173 (2001).
7)辻村 学:荏原式オープンイノベーションとは-荏原式オープンイノベーションは何故成功したのか?-,エバラ時報 No.255,4(2018).
8)Tsuji, T. et al.: Fictitious Particle Method: A Numerical Model for Flows Including Dense Solids with Large Size Difference, AIChE J., 60, 1606 (2014).
9)辻 拓也ら:高風速固気流動層内での物体沈降の不安定化~実験・無線式センサ・数値解析~(3),化学工学会 第50回秋季大会(2018).
10)Oshitani, J. et al., Anomalous Sinking of Spheres Due to Local Fluidization of Apparently Fixed Powder Beds, Physical Review Letter, 116, 068001 (2016).
11)押谷 潤ら:高風速固気流動層内での物体沈降の不安定化~実験・無線式センサ・数値解析~(1),化学工学会 第50回秋季大会(2018).
12)Harada, S. et al., Direct Measurement of Fluid Force on a Particle in Liquid by Telemetry System, Int. J. Multiphase Flow, 37, 898 (2011).
13)原田 周作ら:高風速固気流動層内での物体沈降の不安定化~実験・無線式センサ・数値解析~(2),化学工学会 第50回秋季大会(2018).
14)Yoshimori, W. et al., Non-invasive Measurement of Floating–sinking Motion of a Large Object in a Gas–solid Fluidized bed, Granular Matter, 21, 42 (2019).
荏原環境プラント㈱
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