伊藤 和也* Kazuya ITO
梅澤 俊之* Toshiyuki UMEZAWA
横山 亜希子* Akiko YOKOYAMA
*
荏原環境プラント㈱
2019年2月,船橋市北部清掃工場にて,ごみ識別AIを搭載した自動クレーンシステムの運用を開始した。このシステムは,焼却炉の安定操業を維持しながら,これまで運転員の経験や判断に依存していたごみクレーンの操作をAIの活用によって自動化するものである。6日間の実証実験では,ごみの燃焼に悪影響を及ぼすことなく,また運転員によるピットの常時監視を必要とせずに,約90 %の自動運転率を達成した。この結果を受けて運用に移行し,本システムは既に半年以上にわたって実証実験時と同等の自動運転率を実現している。
In February 2019, an automatic crane system outfitted with waste identification AI started operation at the Funabashi Hokubu Incineration Plant. Previously, waste crane operation was dependent on the experience and judgment of operators, but this system automates it by utilizing AI while maintaining stable incinerator operation. In a six-day demonstration experiment, we achieved an automatic operation rate of about 90 % without adversely affecting waste combustion or requiring constant monitoring of the pit by an operator. Based on these results, the system was put into practical operation. It has maintained an automatic operation rate equivalent to the value achieved in the demonstration experiment for more than half a year.
Keywords: Incineration Plant, Automation, Crane Operation, Deep Learning, AI
我が国では,労働人口減少に伴う慢性的な人材不足や地方財政のひっ迫により,公共事業への民間活用等による効率化が求められている。これは廃棄物処理事業においても同様で,近年DBO(Design Build Operate)といった包括契約が増加しており,熟練人材が不足するなか長期運営を見据えた,より高度な施設管理を行うための工夫が求められている。
ごみ焼却施設の運営には多くの人材が必要であるが,ごみの燃焼を安定させるため,ごみピット(以下,ピット)内のごみ性状を均質化するための撹拌等のクレーン操作は,依然として完全な自動化が達成できていない。この操作では,運転員は視覚的にごみ性状を認識して,均質化されたごみを選択的に手動操作あるいは半自動にて焼却炉に投入している。そこで当社ではまず,「運転員の眼」を代替することを目的として,ディープラーニングを用いたごみ性状を把握するAIを開発した。さらに,AIの出力をクレーン制御へ組み込むことで,自動クレーンシステムを構築した。これにより,図1に示すように一連の動作が自動化され,人材の熟練度によらない安定した高度な判断が可能となる。
本稿ではこの「ごみ識別AI搭載自動クレーンシステム」(以下,「本システム」)について紹介する。
図1 本システムのコンセプト
初めに本システムの核となる「ごみ識別AI」(以下,「AI」)について説明する。AIは実際のごみピットの画像を教師データとしたディープラーニングによりごみの特徴を学習しており,以下が可能である。
①剪定枝,汚泥等まとまって焼却炉へ投入すると燃焼や機器に影響を与えるごみ(以下,特殊ごみ)を識別
②焼却炉への投入に適したごみの状態を識別
③袋の破れていないごみを識別
図2にAIによるごみ識別例を示す。ピットの撮影画像からAIが識別したごみの種類を色分けして表示させると,AIが的確にごみを識別していることが分かった。また,熟練運転員による各ごみ種の判断結果と比較して,AIが推定したごみ種の識別精度をF1スコア(注)を用いて評価した結果を表1に示す。これらの数値は,システムとして機能するのに十分であることを定量的に確認した。
また,開発したAIを本システムに実装するにあたり,ピット内の各エリアに割り当てた各番地にあるごみについて,運転員が見て経験から判断される投入可否と,AIが推定するごみ袋の破れ具合(以下,「破袋度」)を比較した結果を図3に示す。この結果より,ごみ投入可否の境界となる破袋度の値が明確になり,閾値を本システムに組み込むことで,運転員が投入するごみと同等の状態のごみを投入することが可能となった。
(注)F1スコア : 再現率(例えば実際に剪定枝であるものを,AIが剪定枝だと推定できた割合)と適合率(AIが剪定枝であると推定したものが,実際に剪定枝である割合)の二つの割合を考慮した指標。
図2 AIによるごみ識別結果
ごみ種 | F1スコア(中央値) |
未破袋ごみ袋 | 0.66 |
汚泥 | 0.94 |
剪定枝 | 0.74 |
布団 | 0.73 |
図3 熟練運転員の投入基準とAIによる破袋度の関係
次に本システムの構成について説明する。図4に示すように,本システムは大きく4つの要素に分類される。
①ピット撮影用カメラ
②ピット内のごみを識別するAI
③適切なクレーン操作を判断する高度制御
④高度制御からの指令を速やかに実行するクレーン制御
これらのシステムはクローズドなVPN接続などを用いてリモート接続可能な仕様にすることで,遠隔支援が可能となっている。各要素について以下に説明する。
図4 ごみ識別AI搭載自動クレーンシステムの構成
一定時間間隔でピット内のごみを産業用カメラで撮影する。カメラの台数や配置場所は,ピットの大きさや構造はもちろん,ピットレベルによって死角ができないよう考慮して決定する。
カメラで撮影した画像を読み込み,AIを用いて解析を行い,ピットの各番地に存在するごみの種毎の割合を出力する。AIの解析結果は必要に応じてその場で確認することができる。これにより,例えばクレーン操作室にてピットを直接見ながらAIの解析結果と比較することで,容易にAIの精度を確認することができる。
高度制御では,前述したAIの解析結果や,クレーン制御からのピットレベルデータ及び,ごみ投入要求信号,現在の時刻の状況(搬入車を受け入れている時刻かなど),施設内の搬入車の台数及び搬入状況,搬入扉の開閉の状態など施設運営にかかわる様々な条件を総合的に判断し,クレーンの動作と,そのつかみ番地や捨て番地,投入する炉の指示をクレーン制御に送る。運転員は表示されている高度制御画面により,本システムが安全に稼働しているかどうかや,ピット内の特殊ごみの有無等を確認することができる。また,施設の運転状況によって,本システムの設定(翌日の受入に備えて搬入扉前のピットレベルを下げる作業を行う時刻や,使用する搬入扉など)の変更も可能である。
クレーン制御では,高度制御から指令を受け取り,クレーン操作を行う。またクレーンのガーダ部にレベルセンサーを取り付けたり,ステレオカメラやToFカメラを用いたりすることでピット内のごみレベルを常時計測する。
なお本システムは,クレーン制御を全自動で行うことができ,各動作の速度が十分速ければ,既設のクレーン制御システムにも本システムを導入・運用することが可能である。
ごみ識別AIを搭載した本システムの機能は,主に以下である。
①特殊ごみを見つけて特定の場所へ退避する(その上部に普通ごみが被さっても記憶し退避可能)。
②焼却炉からの投入要求に合わせて,投入に適したごみを投入する。
③破れていないごみ袋を見つけて破袋し攪拌して,焼却炉への投入に適したごみにする。
④搬入扉前へのクレーン寄り付き起因での搬入車両渋滞を発生させることなく,扉前のごみを適時移動できる。
これらの機能を具備することで,夜間のみならず昼間においてもクレーン運転員による常時監視が不要な自動運転が可能となる。
本システムを利用することにより,クレーン業務を実用上問題なく自動化できることを確認するため,6日間昼夜連続の実証実験を船橋市北部清掃工場(127 t/d×3炉,ストーカ式)にて行った。実験では上記の①~④項が適切に行われているかに加え,手動操作時と比較し,燃焼結果に差があるかを検証した。
実証実験期間中の燃焼状態を運転員手動操作時のそれと比較した結果を表2に示す。
両者の運転性能にほとんど差異は見られず,自動燃焼制御(ACC)にて,本システムによるクレーン自動運転がごみ焼却施設の安定運転の機能を確保できることを確認した。
また,昼間のごみの受け入れはごみ収集車の渋滞を発生させることもなく円滑に行われ,ごみ処理量も定格値を維持できた。
なお,期間中の自動運転時間は全体の約90 %であったが,残りの手動操作も主に自動退避していた特殊ごみを分散させるなど緊急を要さないものであり,クレーン運転員による常時監視を必要としない昼夜自動運転が可能なことを確認した。
以上の結果より,本システムにより実用上問題なく自動運転でき省力化も実現できることを実証した。そして,2019年2月より,船橋市北部清掃工場で本システムの運用を開始した。
データ期間 | 手動操作 6日間 |
自動クレーンシステム 6日間 |
||
中央値 | 標準偏差 | 中央値 | 標準偏差 | |
蒸気量変動[%] | 0.8 | 3.8 | 0.5 | 3.9 |
CO濃度[ppm] (1時間平均) |
5.5 | 1.5 | 6.0 | 1.4 |
NOx濃度[ppm] (1時間平均) |
36.7 | 1.2 | 37.2 | 1.4 |
本システム運用開始後の自動化状況を調査した。図5に約1か月間の自動化状況を調査した結果を示す。ここでは昼夜全体の自動運転比率に加え,昼のごみ搬入時間帯,ごみ非搬入時間帯に分けて評価した。
本結果より,実証期間のみならず運用開始後も実証時と同等の高い自動運転比率を実現できていることを確認した。特に昼間のごみ搬入時間帯は,従来のごみクレーンではごみの受け入れをスムーズに行うことを優先すると自動化が困難であったが,本システムを導入することで,ごみのスムーズな受入れと自動化を定常的に両立した。昼間のごみ搬入時間帯では,クレーン運転教育のための手動操作や季節限定の特殊操作などを除き,94 %の自動化比率を達成した。
図5 ごみ識別AI搭載自動クレーンシステムの運用結果
以上のように,本システムが運用上問題なく稼働し,クレーン業務の省力化に貢献できることを確認した。
今後,本システムを他施設に展開するとともに,自動燃焼制御システムやその他制御システムと組み合わせることで,ごみ焼却施設の高度運転自動化をめざしていく所存である。
最後に本システムの開発並びに実証実験実施にあたり,多大なるご協力を頂いた船橋市と㈱Ridge-iの関係者の方々,その他ご協力頂いた関係者の方々に深く感謝申し上げる。
荏原環境プラント㈱
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