柴山 輝* Hikaru SHIBAYAMA
長田 幸子* Sachiko OSADA
*
中部リサイクル㈱
中部リサイクル㈱の「還元製練方式」は焼却残渣等を還元雰囲気で溶融することによって100 %再資源化する方式である。国内の都市ごみ焼却事業において発生する焼却残渣等は埋め立てによる最終処分のほか,溶融,セメント原料化及び焙焼によって再資源化されている。最終処分場の逼迫に加え,近年,災害廃棄物の仮置き場への対応等,循環型社会の継続に関わる課題が顕著化し,残渣処理の状況に変化が生じつつある。本稿では,都市ごみ焼却事業のうち,灰資源化の現状と課題について言及した上で,当社の還元製錬方式とその再生製品の特徴を紹介する。さらに焼却灰の安全かつ安定的な資源化のため還元製錬方式が果たす役割について述べる。
Chubu Recycle Co., Ltd.’s reduction smelting system recycles 100 % of incineration residue and waste by melting it in a reducing atmosphere. In Japan, the incineration residue and waste generated in the municipal refuse incineration business is recycled through melting, reuse for cement raw materials, and calcination, in addition to final disposal in landfills. There is a serious shortage of final disposal sites, but beyond that, the situation of residue treatment is changing, with recent years seeing more pronounced issues related to the continuity of a recycling-based society, such as the handling of disaster waste with temporary storage sites. Here, we cover the current situation and issues related to ash resource recovery in the municipal refuse incineration business, and introduce our reduction smelting system and features of recycled products by the system. We also describe the role of the reduction smelting system in the safe and stable recycling of incinerated ash.
Keywords: Incinerated ash, Recycling, Molten slag, Molten metal, Bottom ash, Fly ash, Melting furnace, Dechlorination
都市ごみ焼却事業において発生する焼却灰の最終処分及び資源化に当たって,自治体や関係する企業は様々な課題を抱えている。本稿では,それらの課題や社会的需要について言及した上で,中部リサイクル㈱が有する還元製錬方式の有用性について述べる。
還元製錬方式とは一般廃棄物・産業廃棄物の焼却施設から発生する焼却残渣を,電気抵抗炉に分類されるサブマージドアーク炉にて炉内の強還元雰囲気中で溶融し,再資源化する方式である。この方式は焼却残渣の資源化が果たす社会的役割の重要度が増している中で,焼却残渣を単に「溶融」するだけではなく,「製錬」し,資源を取り出すことができる技術として近年注目されている。
都市ごみ焼却炉から発生する焼却灰は,埋め立てによる最終処分の他,還元製錬方式やセメント原料化及び焙焼によって再資源化されている。焼却灰の発生量(市場規模)は,一般廃棄物排出量が4811万t(2008年)から4289万t(2017年)に漸減し,直接焼却量も同様に減少している中で(図1)焼却灰を直接焼却量の約10 % 1)と仮定した場合,357万t(2008年)から327万t(2017年)で推移していることになる 2)。直接焼却量は住民による分別や,焼却工場での前処理が限界に近づき漸減傾向がなくなると推察される。
図1 都市ごみ焼却灰の市場規模 <sup>2)</sup>
一般廃棄物最終処分場の残余年数は2008年から2017年の間で18.0年から21.8年へと伸びている(図2)。一方で一般廃棄物最終処分場の残余容量は,122百万m3から103百万m3へと減少している。これらは,新たな最終処分場の確保が困難な一方で焼却灰資源化市場の拡大によって焼却残渣類の最終処分量が減少したことによると推測される。
また近年自然災害が多発しており,被災地で発生する廃棄物の再資源化や焼却が困難な災害廃棄物(以下,災害ごみ)の仮置き又は埋め立て用地の確保が問題となっている 3)。近年の傾向を見ると災害ごみを最終処分場へ一時的に仮置し,焼却施設の復旧に従い焼却処理する傾向が見られる。これらの状況から最終処分場の残余容量を残すため,焼却灰の資源化に移行する自治体が現れてきた。上記傾向から,当社が受託している自治体でもセメント,焙焼,埋め立て(自処分場含)に加えて還元製錬への分散発注する動きがみられる。
図2 一般廃棄物最終処分場の残余容量と残余年数 <sup>2)</sup>
国内の焼却灰の再資源化処理別の内訳を示す 4),5)(図3)。セメント原料化,山元還元は環境省出典データに基づくが他は設備能力を処理量とした。焼却灰の発生量329万t(2016年度)の内,約34 %が資源化されていると推定される。還元製錬8 %,その他の溶融9 %,焙焼5 %,セメント原料化11 %,山元還元1 %である。
資源化処理方式としてはセメント原料化が最も多い。セメント業界は,焼却灰の他にも様々な廃棄物を受入れている。これら廃棄物等のセメント原料中に占める割合は2010年から2016年の間,47 %前後で一定推移を示しており,2012年以降は横ばい傾向である 6)。このうち焼却灰を含む「燃えがら他」の割合は約5%程度である(図4)。そのため焼却灰の受入量を増加するには,他の廃棄物の受入れを減らす必要があり,セメント工場によっては長期契約に応じられない事例も発生している。またセメント生産量は年間6000万~6500万tで推移しており,今後の国内インフラ整備事業量に大きく影響を受ける。
図3 焼却灰資源化市場(2016年)<sup>4),5)</sup>
図4 セメント生産量と廃棄物原料等使用率<sup>6</sup>
近年,都市ごみ焼却施設の建設・運営事業を公設民営方式(Design Build Operate方式,以下DBO)で発注する自治体が増えている。DBOは公共が資金調達を行って施設を建設・所有し,民間事業者が長期間にわたり運営を行う方式である。DBOの利点は,廃棄物の処理及び清掃に関する法律上の処理責任を果しながら,施設の効率的な建設・運営を図れることである。
都市ごみ焼却事業では,焼却により発生する焼却灰の処理や資源化が円滑に遂行される(出口問題)ことで事業の継続性が担保される。灰資源化等事業者が1事業者の場合,操業困難な事態が発生するとごみ処理事業継続に支障をきたすことも起こりうる。
これらの事から,資源化先を複数の処理方式かつ複数事業者へ委託する例が増えている。具体的には,出口問題に対し分散発注(リスク分散)の観点から還元製錬方式・セメント原料化・焙焼を資源化の委託先とし,地域特性や再生される資源の特長を考慮した焼却灰資源化計画が推奨される。加えて,同資源化費用やCO2排出量削減を達成するため,都市ごみ焼却施設から資源化事業者までの輸送距離・輸送手段への配慮や事業者の立地条件が重要となる。
溶融処理とは廃棄物を高温で加熱し,溶融スラグ化する技術であり,焼却灰等を減容化・無害化できることが特長である。還元製錬方式は焼却灰を還元雰囲気中で溶融処理することにより100 %再資源化できる処理方式である。図5に再資源化プロセスを示す。自治体や民間の焼却施設から発生した焼却灰は,磁選等により鉄分を除去し乾燥工程を経て強還元型溶融炉内へ装入される。塩濃度が高い灰は水で洗い流す脱塩工程を経た後に,造粒,乾燥を行い炉内へ送られる。溶融後は溶融スラグ,溶融メタル,及び溶融飛灰(亜鉛・鉛原料)を生成する。溶融スラグは約2日間かけて徐冷して溶融還元石(商品名「CRストーン」図6)とし,ガラス質スラグの生成を抑制している。当社ではこの徐冷したスラグを溶融還元石と称して鉄鋼スラグと区別している。その後,移動型打撃削岩機により粗破砕し,直径150~50 mm,200~150 mm等の石材に加工する。40 mm以下の路盤材や単粒度骨材(20~13 mm,13~5 mm,5~0 mm等)として利用する場合は,さらに破砕・分級することで目的の粒度を得る。
溶融メタルは鉄が主成分であり,金・銀・銅などの有用金属を含有し合金として販売される。溶融飛灰には亜鉛・鉛や塩類が濃縮され,脱塩工程を経て販売される。
図5 再資源化プロセス
図6 溶融還元石(CRストーン)
溶融飛灰や焼却飛灰は高濃度の塩類を含んでいるため,工水とともに攪拌して塩類を溶解し,圧搾型脱水機で塩類と水分を除去してケーキ化する(図7)。溶融飛灰を脱塩し,所定の濃度まで亜鉛が濃縮されたケーキを製錬会社で山元還元する。焼却飛灰は,脱塩後のケーキを造粒,乾燥し強還元型溶融炉に供給する。この脱塩工程と還元溶融処理を組み合わせて行うのが,当社の残渣類完全再資源化プロセスの特長の一つである。
図7 脱塩プロセス
選別・乾燥工程,脱塩工程を経た焼却灰(以下,原料)は,原料中のSiO2とCaOの割合(塩基度)を調整した上で溶融する(図8)。塩基度を調整する目的はスラグの融点を適度に保ちつつ,安定的に結晶化を促進することである。溶融炉では間欠出湯をし,溶融炉の底部の高沸点金属(溶融メタル)を排出する。有用金属(Cu,Au,Pt等)の濃度を高め,溶融メタルの売却時品位を上げるため,焼却灰中の鉄等の磁着物を磁選機により可能な限り取り除く。低沸点の重金属(Zn,Pb等)は強還元雰囲気での高温溶融によって蒸発し,バグフィルタで溶融飛灰として捕捉されるため,溶融還元石や,溶融メタルにはほとんど残留しない。炉内には絶えず多量の原料が装入されており,スラグ表面を覆って保温状態となっていることから熱損失の低減に繋がっている。
現在の設備では電力を多量に消費し埋め立て処分に比べCO2などのGHG排出量も多い。一方で山口 7)らによるライフサイクルCO2の解析によると,還元溶融に使用する電力を全て自然エネルギーに置き換えた場合,埋め立て処分に比べGHG排出量は低くなる試験結果であり,温暖化抑制に貢献する可能性を秘めている。SDGsのテーマとして2030年に向け,太陽光パネルの導入やJ-クレジットまたは非化石証書の購入も視野に入れ検討を始めている。
図8 強還元型溶融炉
当社の溶融メタル生産量は合金鉄として年間約1千tであり,その主成分は銅130 kg/t,金70 g/t,銀900 g/t程度である(図9)。これらは製錬会社へ販売し動脈産業に還元されている。また,回収される金などについて,TMR(関与物質総量)係数を算出した(表1)。
TMRとは獲得する資源そのもののほか,採取,採掘される際に廃棄されたりする鉱石や土砂などを含めて,資源獲得に費やした物質の総量を表す。ここでは有用金属を1 t取り出すのに必要な鉱石量を算出した。この結果,焼却灰から金属回収をすることは,天然資源の消費抑制に貢献していると言える。
図9 溶融メタル
関与物質総量(TMR) | |||
成分 | 各成分を1 t採取するための必要鉱石量 | 中部リサイクルでの各成分回収量 | 必要鉱石換算量 |
Cu | 360 t | 125.8 t | 45290 t |
Ag | 4800 t | 800 kg | 3850 t |
Au | 1100000 t | 56 kg | 61600 t |
自治体が設置する一般廃棄物処理施設では設備費や処理の容易さから,水砕スラグを生産しているケースが多い。水砕スラグは細骨材相当の粒度となっており一般的には天然砂の代替材として利用される。それに対し当社の溶融還元石は徐冷スラグであり,天然の石材の硬石相当の品質を有している。さらに,溶融還元石の割ぐり石は愛知県のリサイクル資材認定制度である通称「あいくる」の認定を受けており,その生産量は年間約1.5万tである。溶融還元石成分の安全性,及びこれを粗骨材に用いたアスファルト混合物舗装試験の結果について以下に述べる。
電気炉内での原料中の有害金属類(鉛,カドミウム,クロム)は強還元されて,溶融飛灰及び溶融メタルに移行する。溶融スラグに残留する量は非常に少なく,有害金属の含有量・溶出量はJIS基準値をはるかに下回る数値となり,環境安全性に優れている。表2に含有量,溶出量試験の実績値を示す。
Pb | Cd | Cr6+ | T-Hg | As | Se | F | B | |
含有量基準値 (mg/㎏) |
<150 | <150 | <250 | <15 | <150 | <150 | <4000 | <4000 |
含有量実績値 (mg/㎏) |
1.0 | <0.5 | <1.0 | <0.01 | <1.0 | <1.0 | 1900 | 340 |
溶出量基準値 (mg/ℓ) |
<0.01 | <0.01 | <0.05 | <0.0005 | <0.01 | <0.01 | <0.8 | <1.0 |
溶出量実績値 (mg/ℓ) |
<0.005 | <0.001 | <0.04 | <0.0005 | <0.005 | <0.002 | 0.1 | 0.2 |
溶融還元石の有効利用を図るため,2006年に粗骨材として用いたアスファルト混合物試験施工を行った。
アスファルト混合物の骨材配合率を表3に示す。評価は道路舗装面のひび割れ率,わだち掘れ量及び平坦性を測定することにより路面の状態を評価する指標である舗装維持管理指数(MCI:Maintenance Control Index),舗装面とタイヤの摩擦係数を示すすべり抵抗値,及び路面の粗さを示すきめ深さの3種類を測定することで行った。
[試験概要]
施 工 場 所:中部リサイクル㈱本社工場構内
施工年月日:2006年9月12日
施 工 工 区:溶融還元石含有工区,溶融還元石非含有工区(表層厚み各50 mm)
交 通 量:大型車40~100台/日,N3(L交通)相当
評 価 期 間:2年間
[結果]
MCIの経時変化を図10に示す。溶融還元石の有無で比較するとMCIは同程度であった。また,経年による変化はいずれの工区も小さく,ほぼ施工直後と同程度の良好な路面状態を示している。
すべり抵抗値の結果を図11に示す。2年経過後の値は,両工区とも施工直後より若干低下する傾向が見られたが,施工直後の基準値である60以上を十分に保持していた。
さらにミニテクスチャメータを使用した路面の粗さ測定を行った結果を図12に示す。両工区ともその変化はわずかであり,路面の損耗もほとんど進んでいない。
以上より施工後2年が経過した時点では,溶融還元石含有工区と溶融還元石非含有工区には特に差がなく,同等と評価できる。今後,再生品である溶融還元石の粗骨材としての有効利用が望まれる。
工 区 | 溶融還元石 非含有区 |
溶融還元石 含有区 |
製造者または岩種など | |
混合物種類 | 再生密粒 (13) 標準配合 |
再生密粒 (13) (溶融還元石配合) |
- | |
使用アスファルト | ストレートアスファルト80/100 | - | ||
アスファルト量 | 5.7 % | 5.3 % | - | |
骨材配合率(%) | 再生骨材 | 47.8 | 48.3 | 大有建設㈱ |
6号砕石 | 21.6 | - | 砂質砂岩 | |
7号砕石 | 11.7 | 7.5 | かんらん岩 | |
溶融還元石13~5 | - | 18.8 | 中部リサイクル㈱ | |
溶融還元石5~0 | - | 16.2 | 中部リサイクル㈱ | |
粗砂 | 9.0 | 7.7 | 川砂 | |
細砂 | 8.4 | - | 製鉄スラグ | |
石粉 | 1.5 | 1.5 | 石灰岩粉末 |
図10 MCIの経時変化
図11 すべり抵抗値の経時変化
図12 きめ深さ(MTM)の経時変化
脱塩プロセスによって得られる当社の亜鉛・鉛原料の生産量は年間約600 tであり,その成分は亜鉛40~60 %,鉛7~12 %程度である(図13)。売却先である製錬会社は,鉱山から採掘された鉱石を選鉱して得られる精鉱から亜鉛を精錬しているが,当社が製造した亜鉛・鉛原料はその精鉱の品位レベルに相当し,天然の資源と同様に精錬される。一般的に溶融飛灰は自治体が処理費を負担して処理しているが,当社では脱塩・溶融プロセスにより有価販売している。
図13 亜鉛・鉛原料
還元製錬方式は,焼却残渣類を「都市鉱山」と位置づけ,焼却灰から有用金属資源の回収,土木資材としての石材(溶融還元石)を製造することで100 %再資源化可能である。また,都市ごみ焼却事業の事業継続性に関わる課題解決において,安全かつ安定的な委託先としての役割を果たすことができると考えられる。当社は,今後一層の省エネルギー・省資源化社会の到来に向け,ゼロエミッションを継続して達成しつつ,循環型社会を促進するため,信頼される資源化企業として環境行政へ貢献していく所存である。
1) 東京二十三区清掃一部事務組合,一般廃棄物処理基本計画,p43,(2010).
2) 環境省,一般廃棄物の排出及び処理状況等(平成29年度)について,p4-5,16,(2019).
3) 環境省,災害廃棄物対策指針(改訂版),p2-14,(2018).
4) 環境省,一般廃棄物の排出及び処理状況等(平成27年度)について,p7,(2017).
5) 環境省,一般廃棄物の排出及び処理状況等(平成28年度)について,p7,(2018).
6) 一般社団法人セメント協会,セメントハンドブック2019,p6,(2019).
7) 山口直久ほか:集約型還元溶融施設による焼却残渣再資源化事業のマテリアルフロー解析による資源代替性及びLCCO2評価,廃棄物資源循環学会論文誌,Vol29,pp191-205,2018.
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