笹木 誠* Sei SASAKI
笠原 徹* Toru KASAHARA
大工原 靖* Yasushi DAIKUHARA
*
㈱荏原電産
松江市忌部浄水場向けに小水力発電設備を納入し,2019年3月より運転を開始した。保守・据付が容易な汎用性のある産業用ポンプや農業用ポンプを逆回転させて発電を行う水車ユニットを採用したシステムを構築した。ポンプ逆転水車を採用することによって,従来の水車発電設備と比べて抵コスト,かつ短納期で導入することができる。
本稿では,本発電システムの概要及び特徴を紹介する。
Ebara supplied the small hydroelectric power generation facility to the Imbe water purification plant in Matsue City. The facility started operation in March 2019. The system uses a pump as turbine (water turbine unit) that generates power by reversely rotating a general-purpose industrial pump or agricultural pump which is easy to maintain and install. By using the reverse running pump turbine, the facility can be installed at a lower cost and within a shorter delivery time than conventional water turbine power generation facilities. This paper introduces the outline and features of this power generation system.
Keywords: Pump as turbine, Reverse running pump turbine, Effective head, Head loss, Sustainable Development Goals
水力発電システムは,農業用水路や農業用ダム,水道施設等の未利用であった水資源を有効に活用し,CO2をほとんど排出せずクリーンで安定的に発電することが可能な発電システムである。当社製品の特徴は,保守・据付が容易な汎用性のある産業用ポンプや農業用ポンプ(以下,汎用ポンプ)を使用した水車ユニットを採用することで,低コストかつ短納期で提供できるシステムである。
ここでは,2019年3月から運転を開始した松江市忌部浄水場(図1,図2)に設置したポンプ逆転水車発電システムを紹介する。
図1 忌部浄水場の位置
図2 忌部浄水場ろ過池
本発電設備は,島根県大谷ダムから松江市忌部浄水場の着水井に至る経路に水車発電設備を設置し,水流によって最大30 kWの発電を行う設備である。発電設備を設置する以前は,導水管内の余剰圧を減圧弁で減勢した後に着水井へ導水していたが,浄水場内の減圧弁上流側で分岐して本小水力発電設備を整備した。図3に概略フローを示す。松江市忌部浄水場は約3.3 km離れた場所にある大谷ダムからφ400 mmの導水管を通じて原水を取水している。発電設備は浄水場上流の着水井近くに設置されている。ダムから浄水場には常時原水を供給しているため,発電設備は常時発電として稼働している。発電後,着水井の原水は浄水場内へ流れ浄水処理されて地域の水道水として提供される。
本発電設備で発電した電力は浄水場施設の各機器の電源として利用している。
図3 概略フロー図
(1)取水位
取水施設である大谷ダムは,自然調整方式※1のダムであり,図4に示す貯水位運用実績から平常時最高水位を維持する期間が多くなることから,取水位は平常時最高水位(EL. 137.5 m)を本発電設備の設計値としている。
※1 洪水吐きにゲートを有しておらず,自然に洪水吐きから放流する方式。放流量は洪水吐き(穴)の大きさとダムの水位によって決まる方式。
(2)放水位
ダムから送水された水は,浄水場内の減圧弁上流側に設置された分岐管から水車発電機を経て着水井へ放流される(図5)。放水位は着水井の水位EL. 43.395 mに余裕を見込み,EL. 43.5 mとした。なお,水車からの放出水流で着水井内水が攪拌されないように十分に減勢されていることを確認するために圧力センサを設置するとともに,その圧力値を水車発電機制御にも取り込むことで浄水場の運用に影響を及ぼさないように配慮している。
(3)総落差及び有効落差
総落差は取水位137.5 m(ダム水位)と放水位43.5 mの差から94.0 mと算出できる。また,図6に示すようなダム導水量の変化があるので導水管等の損失水頭も考慮する必要がある。大谷ダムから忌部浄水場までの導水管は既設管路(導水管総距離:約3.3 km)をそのまま流用していることから,今回その損失水頭を確認するため,導入管の水圧データを実測し,送水量と損失水頭の相関式をその実測データより求めた。その結果,損失水頭を差し引き水車有効落差91.5 mと算出した。この関係式をポンプ逆転水車発電機制御にも適用することで,流量変動に対して高効率運転できるようなシステムを構成している。
図4 大谷ダム貯水位運用実績
図5 浄水場着水井断面図
図6 大谷ダム導水量
図7にシステム概要図,図8に設備外観を,さらに表1に水車発電機諸元を示す。
図7中の赤枠で囲った部分がポンプ逆転水車発電システムである。ダムからの原水がポンプ逆転水車(PAT)を通過し,着水井に流れるが,水車通過時に内部の羽根車を回転させ,回転軸が発電機(G)を回転駆動して発電を行う。本発電設備は,浄水設備に付随した設備であり,浄水場の着水井へは決められた流量を導水する必要がある。一方,ポンプ逆転水車単独の流量特性は,導水管内余剰圧が水車として利用できる有効落差の関係によってその流量が決まる。すなわち,水車の前後の圧力差によって流量が変動する特性となるため,流量調整機構が必要である。このポンプ逆転水車流量特性を補完するため,水車上流に設けた入口弁(MV),水車上流から分岐するバイパス(RV)を設けている。そして,これらの機器を制御して,表2に示すような導水量と水車発電機付属バルブを操作する運転制御システムを構成している。
まとめとして,図9に本発電設備の運転範囲及び入口弁・バイパス弁の操作関係図を示す。
項目 | 諸元 |
---|---|
水車形式 | 片吸込渦巻ポンプ 逆転水車 |
有効落差 | 91.5 m |
最大流量 | 0.063 m3/s |
回転速度 | 1450~1800 min-1 |
発電機形式 | 永久磁石式 同期発電機 |
発電機定格出力(インバータ最大出力) | 45 kW(30 kW) |
図7 システム概要図
図8 設備外観
導水量と水車発電機 運転状態 との関係 |
水車入口弁(MV) | 水車バイパス弁(RV2)(3) | 本管バイパス弁(4) |
1)着水井導水量<水 車許容水量(1) |
MVで圧力を調整して 流量制御 |
全閉 | 全閉 |
2) 発電の最大使用 水量(2)> 着水井導 水量>水車許容水量 |
全開 | 全開 | 水車流量と着水井導 水量との差分を本管 バイパス弁で手動に よる流量調整 |
3) 着水井導水量> 発電の最大使用水 量 |
全開 | 水車流量と着水井導 水量との 差分をRV2で流量調 整 |
着水井導水量が水車 流量及びRV2全開流 量より多い場合には 本管バイパス弁で手 動による流量調整 |
4)水車発電機負荷遮 断時 |
全閉 | 全閉 | 運転状態2),3)の場 合には本管バイパス 弁で手動による流量 調整 |
水車発電機回転速度は,それぞれの水車入口弁開度時の圧力を測定し,ポンプ逆転水車推奨運転範囲内に入るような値に制御される。
(注)
(1)
水車許容水量:0.063 m3/s
(2)
発電の最大使用水量:0.097 m3/s
(3)
水車バイパス回路には,バルブのキャビテーション特性に鑑み,手動バルブRV1と電動バルブRV2が設けられており二段の減圧弁構成となっている(RV1は固定開度で運用)。
また,このRV2は「着水井導水量>発電の最大使用流量」時に流量調整を行い,「着水井導水量<発電の最大使用流量」時にはキャビテーション特性のために全閉としている。
(4)
本管(既設導水管)の減圧弁と手動弁
図9 発電設備の運転範囲及び入口弁・バイパス弁の操作関係図
現在,農業農村整備事業等による小水力発電の整備事業が,農村振興局にて推進されている。今回紹介した上水道施設でダムから浄水場までの導水管内余剰圧を有効利用した小水力発電設備と類似の農業施設は数多くある。これら小規模な水力発電設備が普及するための課題の一つに,水車や発電設備等の設備費が割高であることが挙げられる。汎用ポンプを使用した可変速型ポンプ逆転水車発電ユニットの採用によって,従来の水車発電設備と比較し低コストで提供することが可能である。
本工事は2018年12月から,2019年3月運転開始と,4箇月で稼働することができた。従来の水車発電設備の場合は,通常2年程度の調達期間を要するが,汎用ポンプを用いるため短納期でシステムを導入することができる。農業用水は灌漑期と非灌漑期でその使用水量が大幅に変わることがあるが,流量制御機構を有していないポンプ逆転水車発電ユニットであっても,台数制御を行うことでこれら水量変動にも対応することが可能である。
小水力発電設備の工事施工及び保守管理に地元企業が参加しノウハウを蓄積することで,地域経済の活性化に寄与することを目指している。また,事業者を含む多数の見学者への啓発により再生可能エネルギーの導入を発展させ,更なる地元企業への経済効果に繋げている。小学校の社会科見学,地域公民館及び敬老クラブ等の研修活動で,水道水を作る過程に水車発電設備を設置することで,水のもつエネルギーで電気を起こせることを紹介し,エネルギー構造転換の理解促進を図っている(図10)。
これらは国連加盟193か国が2016年から2030年の15年間で達成するために掲げた目標であるSDGsの達成に大きく貢献し,17項目ある目標の中から特に「4. 質の高い教育をみんなに」,「7. エネルギーをみんなに そしてクリーンに」,「8. 働きがいも経済成長も」,「9. 産業と技術革新の基盤をつくろう」,「11. 住み続けられるまちづくりを」計5項目の貢献に寄与している。
図10 見学者用の表示板
当社グループは,ポンプ逆転水車が適用できる1台当たり300 kW未満の小規模な水車発電設備をターゲットとし,これまで,数多くの農業用水利用の小水力発電設備を納入実績がある。さらに,導入のし易い50 kW未満の低圧連系においては,当社は,水車発電設備だけでなく,電力系統との低圧連系が容易なパワーコンディショナを備えた可変速型小水力発電設備を提供することができる。
国内各地に未利用のクリーンエネルギーが多く存在する。当社は小水力発電システムの普及を通じ,持続可能な開発目標であるSDGsの目標の達成への貢献に寄与していく所存である。
最後に,本工事において,貴重なご意見,ご指導とともに多大なるご協力をいただいた松江市上下水道局並びに施工会社の関係各位に感謝の意を表する。
㈱荏原電産
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