金 會川* Hoechun KIM
加藤 吾郎** Goro KATO
川畑 潤也*** Junya KAWABATA
村田 晶規* Akinori MURATA
山﨑 賢* Satoshi YAMAZAKI
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風水力機械カンパニー 事業開発統括部 新事業開発部
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風水力機械カンパニー 事業開発統括部
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風水力機械カンパニー 事業開発統括部 製品開発部
世界市場向けの産業用途の基幹製品として,片吸込単段渦巻ポンプGSO型を開発した。本製品は,ISO 5199,ISO 2858を含め様々な規格に準拠することで,より汎用性や信頼性を確保している。更には,清浄な用途はもちろん,ライトスラリーを含むプロセス液や幅広いサービス向けにも対応ができるようにするために,独自形状の羽根車(主板オープン形)を採用した。開発・設計の手法として,流体・構造・振動解析と実験を活用し,羽根車の形状やグランドカバーの厚み形状等の最適化を図るとともに,製品としての高効率・高品質・利便性向上を達成した。
Model GSO, classified as a single-stage end-top centrifugal pump, was developed as a core product for various industrial fields in the global market. This product ensures more versatility and reliability by complying with international standards including ISO 5199 and ISO 2858. Furthermore, for covering a wide range of services, it is designed to use a uniquely shaped impeller (reverse-open impeller. the impeller’s hub plate is open) to handle not only clean applications but also process liquids containing light slurries. High efficiency, high quality, and enhanced usability have been achieved using fluid, structural, vibration analysis and experiments as development and design techniques.
Keywords: Single-stage end-top centrifugal pump, Industrial pump, Reverse-opened impeller, ISO 5199, ISO 2858
国際規格ISO 5199,ISO 2858に準拠することで汎用性や信頼性を確保した,海外向け産業用途の基幹製品となる片吸込単段渦巻ポンプGSO 型(図1)を開発した。
GSO型ポンプは,国内の産業市場から蓄積した経験や当社の開発技術を通じて製品を設計し,海外製造拠点と連携して現地サプライチェーンを強化したことで,顧客のニーズを満たす基幹製品である。
本稿では,世界市場向けのGSO型ポンプの特徴及び製品概要について紹介する。
図1 片吸込単段渦巻ポンプGSO型
本ポンプの羽根車は,産業分野での多用途の取扱液に対応するために,多少のスラリーであれば排出可能となる,バランスホールを設けない主板オープン形を採用した。独自の羽根車設計により,軸封部のボックス内圧力を低減させるとともに,クローズ形羽根車のポンプと同等の性能を実現した。羽根車側板及び主板の形状は,羽根車に掛かる軸スラストをバランスさせるためにいくつかのパターンを設計開発した。その形状の一例を図2に示す。
図2 羽根車形状
軸封部は,特殊なプロセス液に対応するため,グランドパッキンの他に多種多様に対応できるメカニカルシールを揃えている。運転中に結晶化する取扱液や低温の取扱液などではメカニカルシールの破損や漏れが生じないようにクエンチを採用している。さらに,バリア液を使うダブルシール,カートリッジ式シールや特殊構造シールにも幅広く対応できる。
世界市場の化学プラント及び各種産業用途における様々な取扱液に対応するため,GSO型ポンプの技術仕様はISO 5199,フランジ取り合い及び主要寸法はISO 2858に準拠し,シールボックスの寸法はISO 3069を参考とした。
本ポンプの特徴である主板オープン形羽根車の開発にあたり,CFD解析(CFD:Computational Fluid Dynamics 数値流体力学)を実施している。各種羽根車形状による性能影響や軸スラストの計算結果からスラスト低減度やスラリー排出性を確認し,軸スラスト調整のため,主側板を最適な独自形状に設計した。実際に性能と軸スラストを計測し,所定の性能と機能を満たしていることを確認した。図3にそのCFD解析結果の例を示す。流線は,剥離渦がなく翼形状に沿っており,望ましい羽根車の負荷分布が得られている。
図3 流体解析の例
本開発の主板オープン形羽根車は,低軸スラスト・高効率だけでなく,強度も確保できている。まず,CFD解析によって得られた応力を用いて羽根車の強度をFEM解析(FEM:Finite Element Method有限要素法)した結果を図4に示す。最小値を青,最大値を赤で表示している。キー溝,羽根車のシュラウド側及びボス側に若干の応力集中がみられたが,その応力値は疲労限度を下回っていることを確認した。
実機にて耐久試験を実施し,試験後の割れ確認検査をクリアした。
以上のように,構造解析と実験を行うことで,本羽根車は十分な強度を持っていることを確認した。
図4 有限要素解析
軸受は,羽根車に掛かる軸スラストをCFD解析,及び実測により正確に求めたうえで選定している。
標準仕様としては,頻繁なメンテナンスが不要で取り扱い容易なグリス密封単列深溝型玉軸受を採用した。長時間使用や冷却等が必要な場合は,オイルバス型の軸受にも対応可能である。また,より大きいアキシアル荷重を受けることができる背面合わせアンギュラ玉軸受(オイルバス型)にも対応可能とした。
各種軸受構造を図5に示す。いずれの構造の軸受においてもISO 5199の軸受寿命L10>17500時間を満足している。L10とは,基本定格寿命を示し,一群の同じ軸受を同一条件で個々に回転させたとき,その90 %(信頼度90 %)が転がり疲れによるフレーキングを生じることなく回転できる実質的な総回転時間(一定回転速度で回転させた場合)をいう。
図5 各種軸受構造
ISO 5199の規格には運転点における軸受周りの振動速度の上限値が規定されている。一方,国内で適応されているJIS B 8301の場合,振動を振幅で評価するが,振幅がJIS B 8301の規定値を満たしても,ISO 5199の振動速度の規定値を満たせない場合がある。そのため,GSO型の開発にあたり振動速度が大きい場合は,振動の周波数分析やモードを分析することで影響が多い特定の周波数からモードを確認し,その結果から構造体の強化や運転流量見直しなどを行い,ISO 5199の振動規定値をクリアした。
ISO 5199では,メカニカルシール摺動部での軸たわみが50μm以内であることが規定されている。これは,一般的な産業用途よりさらに厳しい設計対応が求められるAPI 610と同じ軸たわみ値である。主軸の基礎設計においては,互いにトレードオフ関係にある,軸たわみと製品コストと部品共用化のバランスを考慮しながら最適化を図った。
本ポンプの構成部品は,木型の初期投資低減,部品点数削減によるコストダウンや在庫管理等の運用の利便性を図るために大胆な部品共用化を行った。同機種内・他機種との部品共通化,標準部品採用の最大化などを開発初期からの最優先事項として掲げ,従来の同等モデルからの大幅な新設計採用や部品構成見直しを行った。その結果,58.8 %の共用化率を達成した。
フランジは欧州規格EN 1092のPN 16に対応し,最高使用圧力は1.6 MPaである。軸封はグランドパッキンとメカニカルシールに対応する。主な仕様を表に示す。
取扱液 | 液名 | 化学液 |
液温 | -30~150 ℃ | |
密度 | 0.7~1.2 kg/L | |
最高使用圧力 | 1.6 MPa | |
構造 | 羽根車 | 主板オープン形 |
軸受 | 密封玉軸受/玉軸受 | |
潤滑 | グリース潤滑/オイル潤滑 | |
軸封 | メカニカルシール | 回転形・アンバランス形 |
グランドパッキン | 炭化繊維 | |
フランジ | EN PN16 | |
材料 | ケーシング | SCS13/SCS14A |
羽根車 | SCS13/SCS14A | |
主軸 | SUS304/SUS316 |
性能範囲を下記及び図6,図7に示す。
吸込口径:50~250 mm
吐出し量:~1400 m3/h(50・60 Hz)
全 揚 程 :~150 m(50 Hz),~140 m(60 Hz)
図6 GSO型 選定チャート 2P - 50 Hz
図7 GSO型 選定チャート 4P - 50 Hz
本ポンプは,吸込・吐出し配管を外さずに分解点検ができるバックプルアウト構造を採用している。また,トップセンターライン吐出し・脚部支持構造のため,配管荷重に対する強度が十分である。軸受ハウジング及び関係する構造体に必要な剛性を持たせることで,ISO 5199で要求される振動,軸たわみ及び軸受寿命等の基準を満たしている。
軸受胴体とポンプの本体をアダプターで結合する構造により,4種類の軸受胴体で各種の潤滑方式に対応できる。羽根車とグランドカバーのクリアランス調整は,主板オープン形なので羽根車裏側の調整シムで容易に調整できる構造である。カットモデルを図8に示す。
図8 GSO型 カットモデル
当社は,世界市場において当社初のISO 5199に適合した産業分野向けGSO型ポンプを発売した。
製品化のコンセプトはユーザが使い易く,ポンプの信頼性を高いレベルで実現することを掲げた。性能や機能の卓越した点のみならず,独自の羽根車形状とポンプの形状によって,さらに信頼性の高い製品化が実現できたのは標準ポンプ,産業ポンプ及びカスタムポンプのそれぞれの優れた技術を随所にバランス良く融合させたからだと考える。
今後は,国内顧客向けで培った実績をベースとした特殊軸封構造,材料,高温・低温仕様,耐スラリー性を向上させたケーシングや羽根車の拡充などでバリエーションを増やして,世界市場の特殊な産業分野までより幅広く展開していく。
GSO型製品ページ(英)
藤沢工場ものづくり50年の歴史
1966年頃の藤沢工場
縁の下の力持ち 高圧ポンプ -活躍場所編ー
100万kW火力発電所内で活躍する50%容量ボイラ給水ポンプ
RO方式海水淡水化用大容量、超高効率高圧ポンプの納入
長段間流路内の流線と後段羽根車入口の流速分布
縁の下の力持ち ドライ真空ポンプ -真空と真空技術の利用ー
真空の領域と用途例
座談会 エバラの研究体制
座談会(檜山さん、曽布川さん、後藤さん)
縁の下の力持ち 標準ポンプ -暮らしを支えるポンプー
標準ポンプの製品例
座談会 未来に向け変貌する環境事業カンパニー
座談会(三好さん、佐藤さん、石宇さん、足立さん)
世界市場向け片吸込単段渦巻ポンプGSO型
GSO型カットモデル
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