清水 勇樹 Yuki SHIMIZU
風水力機械カンパニー 事業開発統括部 製品開発部
2019年12月より販売を開始した新型給水ユニットを紹介する。当社の標準ポンプ事業が長年培ってきた高度な独自技術を融合させ,「eDYNAMiQ※1」のコンセプトに沿って開発したインバータ内蔵PMモータ搭載の次世代型給水ユニットとなっている。開発するにあたり,数多くの現場を訪問し,様々なお客様への徹底的なヒアリングを行って一つの製品コンセプトを創出した。要望を最大限に具現化し,従来型(F3100BN型)の省エネルギー性・メンテナンス性・安全性は維持しつつ圧倒的なダウンサイジング(業界最小クラス1.5 ~ 3.7 kW)やライトウエイト,また設置自由度の向上を実現した。あらゆるお客様に,様々な設置環境で最適化を提供できる製品となっている。
※1「eDYNAMiQ」:「Eco, Dynamic and Integrated Quality」の略であり,標準ポンプ技術の特徴を組み合わせた造語
This paper introduces a new water supply unit launched in December, 2019. The next generation water supply unit, equipped with a PM motor with built-in inverter, was developed based on the concept of “eDYNAMiQ” by fusing the advanced original technologies that have been cultivated by Ebara’s standard pump business over many years. To develop the product, we visited many scenes and thoroughly interviewed various customers to create the product concept. We incorporated their demands into the product to the maximum by realizing overwhelming downsizing (industry’s smallest class 1.5 to 3.7 kW) and lightweight, and by improving installation flexibility while maintaining conventional energy saving, maintenance, and safety features. The product can provide every customer with optimization in various installation environments.
Keywords: Water supply unit, PM Motor, Inverter, Downsizing, Light weight, Improved installation flexibility, Near Field Communication,
eDYNAMiQ, Super Save Energy Pump, Water hammer
当社は,ランニングコストとCO2削減を実現するため,省エネルギーを主コンセプトとした製品群「Save Energy Pumpシリーズ(以下SEシリーズ)」を展開している。その中でも特に,PMモータとポンプコントローラを採用し業界最高水準の省エネルギーを実現した製品を「Super Save Energy Pumpシリーズ(以下SSEシリーズ)」と呼んでいる。
本製品F3100NEOは,浅井戸用インバータポンプHPE型,直結給水ブースタポンプウォールキャビネットタイプPNAGM型に続く「SSEシリーズ」の給水ユニット第三弾として市場投入した。
給水ユニットは,ビルやマンションなどの建築設備や工場設備などにおいて,安定した水の供給を担う重要な給水設備の一つである。そのため,断水を生じさせない高い信頼性と飲料水としての安全性の確保が必須である。それに加えて近年では,省エネルギー化はもちろんのこと,建物スペースを有効利用するため,設備環境の省スペース対応に配慮した製品や,施工時間・メンテナンス時間を短縮できる,取扱いの容易な製品など,様々なニーズが求められている。
本製品を開発するにあたり,数多くの現場を訪問し,様々なお客様と対話を重ね,ニーズ及び市場調査を行った。ヒアリング結果から生まれた,「スペースをもっと有効に,施工をもっと快適に」を製品コンセプトに掲げ, 「eDYNAMiQ※1Technology」を最大限に生かし,①ダウンサイジング,②ライトウエイト,③設置自由度の向上の3つの新機軸を打ち出した,新型給水ユニットF3100NEO(図1)を開発した。本稿では,F3100NEOの製品概要と特長を紹介する。
※1「eDYNAMiQ」:「Eco, Dynamic and Integrated Quality」の略であり,標準ポンプ技術の特徴を組み合わせた造語
図1 F3100NEO BN-MG型
一般的に,給水方式は大きく直結給水方式と受水槽方式に分けられ,本製品は受水槽方式である。受水槽方式とは,水道本管から給水される水を一旦受水槽に貯水し,受水槽内の水を給水ユニットで加圧して給水する方式である。
本製品の機器構成を図2に示す。PMモータとインバータを一体化したインバータ内蔵PMモータを搭載した2台のポンプを共通のユニットベースに設置し,その上に制御盤と圧力タンクを配置している。ポンプの吐出しは,集合配管によって,吐出し口を1方向にまとめている。その他機器・機能・性能は,従来型(F3100BN型)を踏襲しつつ,よりスペースの有効利用と施工者が快適に作業できる構造となっている。
図2 機器構成
ポンプを駆動するモータにおいて,モータ効率クラスIE5相当のPMモータと,当社で開発したインバータを一体化した「インバータ内蔵PMモータ」を新たに開発した。インバータはモータの反負荷側に搭載されているが,当社独自の技術によって,インバータを含んだモータ全長及び直径寸法は,従来型(F3100BN型)とほぼ同サイズを維持している。
また,一般的なインバータはファンモータによって冷却しているが,これが故障するとインバータ過熱によってポンプが停止するため,定期的な交換が必要となる。しかし,インバータ内蔵PMモータの冷却構造(図3)は,モータ軸端の冷却ファンが,モータ軸の回転に伴ってインバータとモータを同時冷却するため,ファンモータの寿命による故障リスクがなく,定期交換も不要となるので,安定した給水が可能となっている。
図3 インバータ内蔵PMモータの構成
図4に制御盤の内部構成を示す。従来,制御盤の中に搭載されていたインバータをインバータ内蔵PMモータに代えることで, 制御盤の小型化及び軽量化を図り,ユニット全体のコンパクト化も実現している。制御盤内部品は,従来型(F3100BN型)と同等品を使用し,品質及び機能は同等を維持しつつも,内部配置及び筐体形状の最適化を行うことで,メンテナンス性の向上にも配慮している。
また,配線穴の最適位置や配線穴サイズ拡張など,お客様からヒアリングした改善要望も随所に取り入れ,コンセプトに沿った製品開発を行った。
図4 制御盤内部構成
インバータ内蔵PMモータの搭載によって,従来型(F3100BN-ME型)からポンプ間距離を500 mmから250 mmに短縮している。これによって,ユニットベースの設置面積は,従来型(F3100BN-ME型)と比較すると約32 %削減(図5)し,業界最小クラスを達成している。また,奥行き方向・高さ方向に関しても従来型(F3100BN-ME型)同等以下に抑えたことによって,省スペース対応及び施工性向上が可能となり,建物スペースの更なる有効利用が可能となる。
図5 業界最小クラスの設置面積
給水ユニットは,極小スペースや搬入経路の狭い環境に設置されることが多くある。この場合,分解搬入をしているケースもあり,ヒアリングの結果から部品ごとの軽量化ニーズがとても高いことが明らかとなった。そこで,コンパクト化をしつつ,部品を細部まで見直すことで,従来型(F3100BN-ME型)比15~44 kgの質量削減を行い,全ての機種で軽量化を達成している。
設置環境は現場によって様々であり,施工性とメンテナンス性の両立が求められている。従来型(F3100BN型)では,そのニーズに応えるために特殊仕様で対応しているものもあったが,本製品は標準品で対応できる範囲を拡大した。
従来型(F3100BN型)では,吐出し方向は1箇所のみであったが,本製品では現場で吐出し相フランジと閉止フランジを付け替えるだけで,左右2箇所から選択できる仕様(図6)となっており,無駄のない配管レイアウトの実現を可能としている。従来型の台数制御形でも採用されており,好評なことから本製品にも踏襲する形で採用した。
図6 吐出し方向が選べる構造
改修時に既存設備のレイアウトによっては,制御盤の表示部が見にくい位置に配置されメンテナンス性に欠けてしまう現場があった。従来型(F3100BN型)では,制御盤の向きを180度反転させる特殊仕様で対応していたが,本製品は部品を追加することなく,標準で3方向から選択可能な仕様(図7)としている。これによって,設置する設備環境の条件が厳しくても,その場で制御盤を変更できるので,メンテナンス性に配慮した方向に設置することが可能となる。
図7 制御盤の向き変更
受水槽の下や狭いポンプ室等,厳しい環境に設置する場合に,最適なオプションとして制御盤の別置き及び壁掛け仕様を設けた(図8)。制御盤固定用ステーと最大8 mまで延長可能なモータとセンサケーブルによって,制御盤を見やすく操作しやすい任意の位置に設置できるので,管理や日常点検の負担を軽減できるようにした。
図8 制御盤の別置き仕様
モータ効率クラスIE5相当のPMモータと長年培った給水ユニットの最適運転制御技術,また当社独自のEモード運転機能によって,従来型(F3100BN-MD型)と比較して年間消費電力量を約19 %削減し,省エネルギーを実現している。
比較機種:口径50 mm,呼び出力3.7 kW,
単独交互運転方式
計算条件:給水戸数113戸
使用給水量の給水パターンは,一般財団法人ベターリビングの算定式による。
Eモード運転機能は,運転状態を監視しながら省エネルギーに貢献する「最低圧力可変制御」と「新小水量停止制御」に自動で切り替わる機能である。従来の推定末端圧力一定制御に加え,更なる省エネルギー効果が期待できる制御となっている。煩雑な設定は不要であり,操作パネルのEボタン(図9)を押すだけで,本機能が有効となる。
図9 操作パネル
本製品は,従来型(F3100BN型)から引続き標準で下記の有効機能を搭載している。
停電や断水などによる流入圧力低下で給水ユニットが長時間停止すると,給水管内に空気が入り込む場合がある。この状態から停止原因が排除され,給水ユニットが復帰始動すると,給水管内でウォータハンマ現象が発生する可能性がある。ウォータハンマ現象は,給水管や接続機器に大きな衝撃を与え,最悪の場合には損傷して漏水事故につながる。当社の全てのインバータ付き給水ユニットは,前述のような原因で長時間停止した後の復帰始動時に,通常よりもゆっくりと加速し,ウォータハンマ現象の発生を抑制する「復電時昇圧速度抑制機能(特許取得)」を標準搭載している。近年増加している給水設備の更新時において,長年使用した既存の給水管を継続使用する場合に,特に有効な機能である(図10)。
図10 復電時昇圧速度抑制機能
給水ユニットは, 重要なライフラインの一つである。本製品でも,従来型(F3100BN型)から搭載している,非常時のバックアップ機能を標準で装備している。万一,1台のポンプやインバータが故障した場合は,待機中のポンプへ自動で切替えを行い運転が可能である。また,メイン基板の故障によって,ポンプが運転できなくなった場合には,操作パネルを操作しポンプを手動運転することで,一時的に断水を回避することができる。
従来型(F3100BN型)でも好評となっている,給水ユニットの運転状況(制御盤と同内容)を管理人室などの離れた場所で監視可能な警報ブザー付きの遠方監視器を,特別附属品として用意している。電源は給水ユニットから供給されるため不要であり,最大配線距離は500 mまで対応可能である。
2017年8月から採用し,お客様から好評を得ているNFC通信機能も従来どおり標準搭載している。NFCとは,Near Field Communicationの略称であり,国際規格(ISO/IEC 18092)で定められている近距離無線通信技術である。機器を近づけることで通信を行うため,「タッチ」動作をきっかけにした,分かりやすい通信手段として,Suica※2や,おサイフケータイ※3などに幅広く利用されている。
利用方法は,NFC通信に対応したAndroid※4OSのスマホに,Google Play※4から専用アプリ「フレッシャーLINK」をインストールし,アプリを起動するだけである(図11)。給水ユニットは,オーナー・設備施工者・管理人・点検作業者など様々な人が操作する給水設備である。このため,専用端末とはせずに,市販のスマホにアプリをインストールするだけで本機能の利便性を無償で享受してもらえるようにしている点が大きな特長である。
※2「Suica」は,東日本旅客鉄道㈱の登録商標です。
※3「おサイフケータイ」は,㈱NTTドコモの登録商標です。
※4「Android」,「Google Play」は,Google LLCの商標または登録商標です。
図11 NFC通信機能の利用
本機能で表示可能な情報は以下である。
・機器情報(機名・製造番号)
・運転状況(運転停止・圧力・周波数・電流・温度)
・故障情報(故障履歴)
・設定値
・積算運転時間
・積算始動回数
・警報発生からの経過時間
作業者は,スマホ画面に分かりやすく表示することによって,運転状態を素早く簡単に把握することが可能となり,これまで以上に管理や点検業務の効率化を図ることができる。また,機器操作に不慣れな方でも,故障発生時など緊急性が高い時には,スマホに表示された機器情報や故障情報を関係者に正確かつスムーズに伝達・展開が可能となるので早期の復旧につながる。なお,「積算運転時間」「積算始動回数」「警報発生からの経過時間」については,お客様からの声を反映し,アプリのバージョンアップを行って,新たに追加した項目である(図12)。
図12 新たに追加した表示項目
本アプリは,スマホで読み取った情報を分かりやすく 表示するだけでなく,データをファイルとしてメール送 信する機能,及び当社への問合せ時にデータを送信する 機能を備え,情報共有ツールとしての活用が可能である (図13)。
図13 NFC通信機能のデータ活用
読み取った情報は,テキストファイルに変換して,メールに添付できる機能を備えている。これを利用して,読み取った情報を電子データとして,以下のような様々なシーンに活用できる。
・点検報告書作成
・運転記録の管理
・関係者との情報共有
故障時など,問題を迅速に解決する目的で,スマホで読み取った給水ユニットの運転情報を,当社サービス窓口にアップロードできる機能を備えている。電話越しでは説明が難しい警報内容や運転状況を,この機能を用いることで簡単かつ正確に伝達することができる。当社は,この情報から機器状態に合わせた的確な対応が取れるため,問題を一早く解決し,お客様に安心を提供することができる。
これまでも給水ユニットは,お客様のニーズに応えるべく,ポンプ・モータの高効率化や,最適化運転制御の導入による,ランニングコスト低減を図る省エネルギー提案を行ってきた。また,多彩なバックアップ機能で万一の故障時でも安心・安全を提供する機能や,NFC通信機能を用いたメンテナンス性向上など,日々製品改良を行ってきた。昨今の給水ユニット市場は,更新需要が約7割を占めており,既存環境をなるべく流用して断水時間を短くすることが求められる。そのため,配管部の取合い寸法変更など,モデルを一新することが難しかった。しかし,今回数多くの現場を訪問して,お客様の生の声を聞くことで新しいコンセプト「スペースをもっと有効に,施工をもっと快適に」を導きだし,今まで以上にお客様の声を実直に反映させた製品開発が実現した。
今後も継続的にお客様の要望を取り入れ,最適な給水設備の実現をお手伝いするとともに,様々な用途とシーンに「最適“快”※5」を届ける,当社標準ポンプの技術ブランド「eDYNAMiQ※1」のコンセプトに沿った製品を提供していく所存である。
※1「eDYNAMiQ」:「Eco, Dynamic and Integrated Quality」の略であり,標準ポンプ技術の特徴を組み合わせた造語
※5「最適“快”」:最適解と快適を掛け合わせた造語
1) エバラ時報 No.245(2014-10)「トップランナーモータ搭載 省エネルギー形給水ユニット新フレッシャー3100型」.
2) エバラ時報 No.256(2018-10)「NFC通信機能付き 新型増圧給水ユニット」.
F3100 NEO BN-MG型製品ページ
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