岡本 有弘* Arihiro OKAMOTO
上野 良次* Ryoji UENO
佐藤 浩一* Koichi SATO
*
荏原環境プラント㈱
三重県の桑名広域清掃事業組合に可燃ごみ処理施設を2019年12月末に納入した。本施設は,最新技術を導入したストーカ式焼却炉を採用し,安定したごみ焼却が行えると共に,蒸気常用圧力 6 MPa×常用温度 450 ℃クラスの高温高圧ボイラを採用することで高効率なエネルギー回収を可能とした。さらに,本施設の特徴として,啓発コンテンツを用意し,見学者が能動的に学び,環境行動への意識を高めることができる見学コースを充実させている。本書では本施設の施設概要・特徴と運転状況を報告する。
We installed an incineration plant for combustible wastes to the Kuwana Regional Waste Incineration Works Association in Mie Prefecture at the end of December 2019. This plant uses a grate-type incinerator with the latest technology to ensure stable waste incineration; the high-temperature / high-pressure boiler has a normal steam pressure of 6 MPa and a normal temperature of 450 °C to achieve highly efficient energy recovery. This plant also features educational contents including satisfactory tour courses to raise awareness of and encourage visitors to actively learn about environmental stewardship. This report describes the overview, features and operational status of the plant.
Keywords: Municipal Solid Waste Incineration, Low air-ratio combustion, High temperature high pressure boiler, Environmental enlightenment
桑名広域清掃事業組合(以下組合という)は三重ごみ固形燃料発電所の事業終了に伴い,新たなごみ処理施設の整備計画を策定し,174 t/d(87 t/24 h×2炉)の能力を有する可燃ごみ焼却施設を建設した(図1)。
図1 桑名広域清掃事業組合 可燃ごみ焼却施設
本施設は最新技術を導入したストーカ式焼却炉を有し,安定・安心なごみ処理を実現することはもとより,周辺住民の方々が本施設で3R(Reduce(リデュース),Reuse(リユース),Recycle(リサイクル))に代表される様々なリサイクルの取組への学習・啓発が楽しく行える施設の建設・運営を基本理念としている。
本報告では本施設の概要・特徴と運転状況について紹介する。
組合はこれまで,可燃ごみ処理施設としてRDF(Refuse Derived Fuel:廃棄物を固形燃料化したもの)化施設を保有し,製造したRDFを隣接する三重県企業庁の三重ごみ固形燃料発電所に移送していたが,同発電所の焼却・発電事業終了に伴い,可燃ごみ焼却施設を建設する運びとなった。本事業は可燃ごみ焼却施設の設計・建設及び他の組合施設(リサイクルプラザ,プラスチック圧縮梱包施設)を含めた運営を一括で発注するDBO(Design Build Operate)方式が採用された。なおこれらの施設全体を「リサイクルの森」と呼び,地域の廃棄物処理を一手に担っている。
図2に建設工事の工程概要を,図3に全体配置図を示す。本事業は契約後31箇月での竣工と短納期であること,既存施設との運営と並行した施工,RDF化施設の閉所を見据えた上での他の既存施設との電源切替工事等,留意するべき点が多い事業であったが,組合及び建設工事のJVパートナーである大成建設との綿密な調整を行い,予定通りに竣工に至った。
図2 建設工事工程
図3 全体配置図(リサイクルの森)
表1に可燃ごみ焼却施設の主要な設備概要を示す。また図4に可燃ごみ焼却施設の設備フローを示す。
受入供給設備 | |
ごみクレーン | 全自動クレーン×2基 |
燃焼設備 | |
焼却炉 | 全連続燃焼式ストーカ炉 |
処理量:87 t/d×2炉 | |
燃焼ガス冷却設備 | |
ボイラ | 自然循環式水管ボイラ |
蒸発量:11.7 t/h×2缶 | |
蒸気条件:6.0 MPa×450 ℃ | |
排ガス処理設備 | |
排ガス減温方式 | 水噴射式 |
集じん方式 | ろ過式集じん器 |
脱硝方式 | 無触媒脱硝 |
HCl・SOx除去方式 | 乾式(消石灰噴霧) |
ダイオキシン類及び水銀対策 | 活性炭吹込式 |
余熱利用設備 | |
蒸気タービン | 1段抽気復水式 |
発電機 | 三相交流同期発電機 3080 kW |
灰出し設備 | |
焼却灰 | 加湿水冷後磁選処理 |
ピット&クレーンによる搬出 | |
焼却飛灰 | ジェットパッカー車への乾灰積込 |
排水処理設備 | |
プラント排水 | 無機系:凝集沈殿・砂ろ過処理後, 場内再利用 |
有機系:生物処理後無機系で処理 | |
生活排水 | 合併浄化槽処理後河川放流 |
図4 可燃ごみ焼却施設 設備フロー
施設に搬入されたごみは,プラットホームからごみピットへ投入される。ごみピットは受入部と貯留部の
2部構成となっており,受入部で受け入れたごみは貯留部と移動され,貯留部の中で撹拌された後,ごみクレーンで焼却炉に投入される。焼却炉内で850 ℃以上の高温で焼却処理され,焼却灰は灰冷却装置で加湿冷却され,その後磁性物を分離し,灰ピットにて貯留される。
焼却炉から排出される排ガスはボイラ,エコノマイザ,排ガス減温塔で160 ℃まで冷却された後,活性炭及び消石灰を噴霧し,集じん装置ではばいじんを捕集,酸性ガスを中和処理,水銀及びダイオキシン類を吸着除去する。窒素酸化物は炉出口部に尿素水を噴霧することで除去している。
集じん装置を出た排ガスを一部分岐させ,炉内に撹拌空気として吹き込む排ガス再循環方式を採用することで,低空気比でも安定した燃焼を維持している。
ボイラは蒸気常用圧力6 MPa×常用温度450 ℃を導入し,高効率エネルギー回収を実現している。
また,ボイラ付着灰の除去手段として,従来広く使われている蒸気噴射式に代わり,圧力波で除去するショックパルス方式を採用している。この方式は,従来ではダスト除去に使用していた蒸気を発電に利用することができるため,発電効率の向上や発電・送電の安定性の向上,ボイラ内部温度の安定化等がメリットとして挙げられる。なお,本施設で発電した電力は場内利用の他,リサイクルプラザ,プラスチック圧縮梱包施設,管理棟へ供給し,余剰電力は電力会社に売却している。
性能試験時の各排ガス測定値を表2に示す。いずれの値も保証値を下回り性能を十分に有していることを証明した。
規制物質 | 保証値 | 性能試験結果 | ||
1号 | 2号 | |||
ばいじん | g/m3(NTP)※1 | 0.01 | <0.001 | <0.001 |
塩化水素 | ppm※1 | 30 | 8 | 19 |
硫黄酸化物 | ppm※1 | 20 | 3 | 3 |
窒素酸化物 | ppm※1 | 50 | 36 | 32 |
一酸化炭素 | ppm※1※2 | 30 | 4 | 4 |
ダイオキシン類 | ng-TEQ/m3(NTP)※1 | 0.1 | 0.00008 | 0.00016 |
水銀 | mg/m3(NTP)※1 | 0.03 | 0.003 | 0.001 |
図5に性能試験時のトレンド例を示す。試運転時のごみ発熱量は高質ごみ並みの高い値であり,燃焼調整に際しては短期的な変動もあったものの,酸素濃度は低めで安定しており,窒素酸化物も無触媒脱硝による制御もあいまって低値で安定しつつ,一酸化炭素のピークも抑制できている。
図5 酸素濃度とNOx,COの経時変化
今回採用した6 MPa×450 ℃ボイラにより高効率エネルギー回収が可能となった。竣工から約半年間の発電量と発電効率の相関グラフを図6に示す。本施設は計画ごみ質が,低い発熱量であったことから低質ごみ(設計低位発熱量=4160 kJ/kg)への対応も考慮した設計としていたこと,基準質ごみ(同7270 kJ/kg)時に最高効率とする設計としていたが,結果的に受入ごみの発熱量は高質(同10370 kJ/kg)並みであったため,2炉運転時には送電量上限で発電量が頭打ちとなり,余剰蒸気が発生し,発電効率が低下する傾向となっている。一方,1炉運転時には20 %程度の高い発電効率を確認できた。
図6 発電量と発電効率の相関
竣工から約半年間の主蒸気温度と過熱器出口排ガス温度の推移を図7に示す。竣工当初から安定して蒸気温度450 ℃を実現しており,約4箇月の連続運転期間を通じて過熱器出口排ガス温度の上昇も見られなかった。
図7 主蒸気温度と過熱器出口排ガス温度の推移
従来の蒸気式スートブロワでは排ガス温度の上昇や年1,2回の大規模なボイラ清掃が必要となる事例もあったが,今回の桑名においてはショックパルススートブロワによるボイラ伝面への灰付着の適切な制御の成果が確認されたと考えている。今後長期的に過熱器腐食の影響を確認していく所存である。
本施設の建設・運営の方針として,地域のみなさまに親しまれる文化,歴史を大切にした施設づくりを基本理念としている。当社は,持続可能な循環型社会の創成を目指したコミュニケーションを学べる場を見学者に提供することを目標として施設建設を行ってきた。
特に環境啓発に関しては,大人も子供も楽しみながら学ぶ,体験・体感型の見学コースとし,「驚きと感動の体験」を通して,見学者が能動的に学び,環境行動への意識を高めることができるコンテンツを積極的に採用した。
図8に見学者ルート図を示す。管理棟からの見学で総長約800 mの行程であり,見学者が飽きることなく,長い時間をかけて環境学習を行えるような工夫を施している。
図8 見学者ルート図
①管理棟での施設紹介ビデオから始まる施設内見学を一貫して絵本の世界の中のキャラクター(「リサイクルの森」に棲む妖精たち)が語り掛ける,絵本の中の物語に入り込んだような形で3Rの大切さなどの環境啓発を行っている。
②管理棟から可燃ごみ焼却施設まで移動する途中の渡り廊下の往路においては星空を模擬した空間演出を行い環境共生のメッセージを訴求している(図9)。また,復路では壁面に地元の地図やリサイクル品を展示,間接照明により余韻を残せる構成としている(図10)。
図9 渡り廊下(往路:星空を模擬した空間演出)
図10 渡り廊下(復路:地元地図と展示スペース)
③渡り廊下を渡った2Fはウェルカムホール(図11)を,6Fには天空シアター(図12)を設け,大画面での映像によって施設内部の紹介や環境啓発を行っている。
図11 ウェルカムホール(2F)
図12 天空シアター(6F)
④これらの取り組みは国際加盟193か国が2016年から2030年の15年間で達成するために掲げた目標であるSDGsの達成に大きく貢献し,17の目標の中から特に「4.質の高い教育をみんなに」,「7.エネルギーをみんなに,そしてクリーンに」,「8.働きがいも経済成長も」,「9.産業と技術革新の基盤をつくろう」,「11.住み続けられるまちづくり」計5つの目標の貢献に寄与している。
本施設は2019年12月に竣工し,現在順調に運転を続けている。本施設はDBO方式の事業で建設されたものであり,竣工後の20年間の長期に渡る運営を継続実施していく。安心安全かつ経済的なごみの焼却処理に加え,環境啓発活動を通して,地域の文化・歴史に根付いた地域に愛される施設を目指して努力していく所存である。
最後に本施設の建設において多大なご指導を頂いた桑名広域清掃事業組合の関係各位,及びご協力頂いた関係各位に厚く御礼申し上げる。
荏原環境プラント㈱
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