大垣 冬季 Fuyuki OGAKI
風水力機械カンパニー システム事業部 社会システム技術部
新型換気用スプリッタ型サイレンサを開発した。従来型の換気用サイレンサは,軽量で低圧力損失であることに優れているが,多数の換気用サイレンサを並べて配置する大規模な設備では重機を使用して施工するため,設備によっては軽量であることを優先する必要がなくなった。新製品ではサイレンサの外板やパンチングメタルの材質をアルミニウム合金製から亜鉛めっき鋼板に変更することで材料コストを抑え,その結果,質量は増したが剛性がアップした。剛性がアップしたことでサイレンサ本体の大型化も可能になった。
本稿では,当社保有の特許技術を活かし,解析技術を利用して低周波音の減音量向上と低圧力損失の両立を可能にした低価格な新型換気用スプリッタ型サイレンサの詳細を紹介する。
Ebara Corporation has developed a new type of ventilation splitter silencer. Conventional ventilation silencers are lightweight and have excellent low pressure loss. However, in large-scale facilities in which many ventilation silencers are installed side by side, heavy machinery is used for installation. Thus, it is not necessary to prioritize light weight for such facilities. The material cost of the new silencer was reduced due to a change in the material of its outer plate and perforated metal from aluminum alloy to galvanized steel. As a result, its mass increased, but its rigidity improved. The improved rigidity also allows for a larger silencer body.
This paper introduces details of the new low-cost ventilation splitter silencer that achieves both low-frequency sound reduction and low pressure loss, using Ebara's patented technology, and fluid and acoustic analysis techniques.
Keywords:Silencer, Ventilation, Fluid analysis, Acoustic analysis, Low pressure loss, splitter
当社は,ポンプ機場やトンネル等の設備からの騒音を防止するために換気口に設置する換気用サイレンサを製作し納入している(図1)。
図1 トンネル換気設備のサイレンサ設置例
従来型の換気用サイレンサUAP型は,軽量で低圧力損失であることに優れている。多数の換気用サイレンサを並べて配置するような大規模なポンプ機場や道路トンネルの換気設備では,重機を使用して施工するので納入先によっては軽量であることを優先する必要がなくなった。
そこで,当社はUAP型に比べて送風機の音をバランスよく低減できるように改良し,低圧力損失で低価格を実現した新型換気用スプリッタ型サイレンサ(図2,図3)を開発した。次にその詳細を説明する。
図2 新型換気用スプリッタ型サイレンサ
図3 大規模設備での新型換気用スプリッタ型サイレンサ設置の例
従来の換気用サイレンサであるUAP型は,内部流路の周壁4面すべてに吸音材を配置したセル型だったが,新製品は流れ方向に対して2面にのみ吸音材を配置したスプリッタ型を採用した(図4)。スプリッタ型の方が同じ開口率でも吸音材を厚くすることが可能であり,低周波音の減音量向上と低圧力損失の両立を可能とした。
図4 UAP型と新型のサイレンサ断面
また,内部流路形状は当社保有の特許技術を活かし,入口側と出口側の内部流路形状に角度をつけて低圧力損失とした。実際の形状決定にあたっては流体解析で形状の最適化設計を行い,さらに圧力損失の少ない形状を採用した。面風速10 m/sの状態を流体解析した例を図5のコンタ図に示す。図5は,一般的なスプリッタ型サイレンサの形状(以下,「一般的な形状」)と「当社新型スプリッタの形状」の流体速度分布を示している。流路形状が変化する箇所や壁面付近で流体速度が大きいほど,圧力損失は大きくなるが,「当社新型スプリッタの形状」の方が流れの乱れがなく流体速度が全体に小さくなっており,流れが均一化されていることが読み取れる。
図5 スプリッタ型サイレンサの流体解析の例
減音量性能については,吸音材の仕様,パンチングメタル孔径,内部流路形状等を変えて音響解析ソフト(ACTRAN)を使用して音響解析を実施するとともに流体解析を行い,最適な仕様を決定した。
以上のような流体解析並びに音響解析に加え,実機における実験結果から最適な形状を導き出し,減音性能と低圧力損失を両立した新型サイレンサを開発した。
圧力損失の低減は送風機の動力費削減になる。また,サイレンサ1本あたりの通過風流を増やして,風路断面当たりの設置台数を削減することが可能なため,設備費・工事費の低減に貢献することができる。
また,サイレンサの外板やパンチングメタルの材質を従来品(UAP型)においては,軽量化を実現するためにアルミニウム合金製としていたが,新型サイレンサでは亜鉛めっき鋼板を採用した。新型サイレンサの外板やパンチングメタルの材質を亜鉛めっき鋼板に変更することにより,質量は増したが剛性がアップし,サイレンサ本体の大型化が可能になった。その結果,必要な設置数量を減らすことでトータルの機器費を削減し,材料費の削減とあわせて大幅な低価格化を実現した。
従来品(UAP型)は,軽量化を図るため外板やパンチングメタルの材質をアルミニウム合金としていたが,新製品は亜鉛めっき鋼板を採用している。
各部材の材質を表1に示す。
表1 材質
使用先の必要減音量や圧力損失に応じて最適な製品を選択できるように「減音量重視」や「低圧力損失」,そのバランス型等,表2に示す新型ラインナップを用意した。
表2 新型ラインナップ
この新型ラインナップには,トンネル換気設備の使用先の代表的な必要減音量や圧力損失に合わせてTYPE毎に必要なサイレンサの数量を算出し,トータルの機器費のケーススタディを行い,コストメリットが比較的大きくなる仕様を採用した。
尚,この新型ラインナップをベースに流体解析と音響解析技術を用いて使用先の仕様にあわせたカスタマイズをすることも可能である。
表3に各TYPEの減音量を示す。
表3 減音量
道路トンネルで用いられる大型換気ファンの騒音には250 Hz以下の低い周波数成分が含まれる。新型のような吸音型サイレンサ(UAP型や新型のような吸音材で音のエネルギーを吸収する吸音型サイレンサ)は,低い周波数の減音量性能が比較的低いので,十分に低騒音化するためにサイレンサを直列に2段,3段と設置する場合がある。一方で吸音型サイレンサは高周波の減音性能は比較的高く,サイレンサを2段,3段と直列に設置した場合,高周波の減音性能が過剰になっているケースが多いので,周波数特性のバランスを改善することが課題であった。
低周波音の減音性能を上げるためには吸音材を厚くするのが一般的だが,この方法だとサイレンサの風路が狭くなり開口率が下がるため圧力損失が大きくなる。そのため以下の工夫を行い低圧力損失で低周波音の減音性能が良い低周波音オプションのサイレンサを用意した。
吸音型サイレンサでは風路と吸音材の間はほぼ全長がパンチングメタルで仕切られ,吸音材に音波が伝わる構造になっている。新型換気用スプリッタ型サイレンサの新型ラインナップ品は,図6の上図に示す一般的な吸音型サイレンサ構造である。低周波音オプション品を図6の下図に示す。低周波音オプション品は,出口側のパンチングメタルの一部をあえて遮蔽板にすることで,高周波の減音性能は低下するが,遮蔽板の板振動による減音効果とサイレンサ出口の開口端反射による減音効果を高めることにより,低周波音の減音量を大きくしている。
図6 低周波音オプションの形状
以上のように,低周波音オプション品は標準ラインナップの風路形状を変更せず,低圧力損失を維持しながら,高周波音と低周波音の減音性能の最適化を実現した大型サイレンサを提供することが可能となった。このオプションを採用することで,63 Hz~125 Hzでは,TYPEにもよるが減音量が平均2~5 dBアップすることを確認している。
新型換気用スプリッタ型サイレンサは,市場の要求に応えるべく,当社の経験と保有する特許技術,解析技術を用いて
・「低圧力損失」
・「低周波音での減音量向上」
・「低価格」
を実現した製品である。
当社は長年の研究開発を通じて培われた音響解析技術を用いて今後もサイレンサを改良・開発するとともに,これからも設備需要に適した快適“音”空間を創造,提供し続けていく所存である。