山岡 康明* Yasuaki YAMAOKA
森田 健一* Kenichi MORITA
高橋 学* Manabu TAKAHASHI
宮先 敦** Atsushi MIYASAKI
宇田川 浩史*** Hiroshi UDAGAWA
大垣 冬季*** Fuyuki OGAKI
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風水力機械カンパニー システム事業部 社会システム建設部
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㈱荏原風力機械
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風水力機械カンパニー システム事業部 社会システム技術部
高速神奈川7号横浜北西線にある横浜北西トンネルは,路盤で上下2空間に仕切られた構造となっている。上部は車両が走行する車道空間であり,下部が避難通路として利用され,当社は,車道空間を換気する目的のトンネル換気設備と,非常時に避難通路を車道空間よりも加圧する目的の避難通路加圧設備を納入した。
本書では,トンネル換気設備および避難通路加圧設備の役割のほか,現地施工に取り入れた種々の工夫や,新規開発・導入したスプリッタ型換気用サイレンサなどについて紹介する。
The Yokohama Northwest Tunnel on the Kanagawa Route No. 7 Yokohama Northwest Line is divided into the upper and lower spaces by a roadbed. The upper space of the tunnel is the roadway for vehicles, and the lower space is used as an evacuation passage. Ebara Corporation delivered a tunnel ventilation system for the roadway space and an evacuation passage pressure system that pressurizes the evacuation passage higher than the roadway space in an emergency.
In addition to the roles of the tunnel ventilation system and evacuation passage pressure system, this paper introduces various innovations used at the installation site of the systems, most notably a newly developed ventilation splitter silencer.
Keywords:Tunnel ventilation, Yokohama Northwest Line, Axial fhow fan, Jet fan, Silencer, Ventilation control system, Centrifugal fan
神奈川県横浜市の北部を通り,東名高速道路と第三京浜道路を結ぶ高速神奈川7号横浜北西線は,総延長7.1 kmのうち4.1 kmの区間が横浜北西トンネルとなる路線である(図1)。
図1 路線図
当社は,高速横浜環状北西線トンネル換気設備工事を受注し,2017年2月~2020年3月の期間に機器製作と現地据付けを行った。以下で設備の概要を紹介する。
横浜北西トンネルは,円形断面形状のシールドトンネルであり,路盤で上下2空間に仕切られた構造となっている。図2にトンネル構造図を示す。上部は車両が走行する車道空間であり,下部が避難通路として利用される。トンネル付属設備として,車道空間を換気する目的のトンネル換気設備と,非常時に避難通路を車道空間よりも加圧する目的の避難通路加圧設備が設置されている。
図2 トンネル構造図
横浜北西トンネルのトンネル付属設備は,一般的な設備とは作用が異なり,特殊な空気の流れを形成していることが特徴である。以下,本設備と役割について説明する。
横浜北西トンネルは,上り,下りの2本のトンネル,および東方換気所と北八朔換気所の2換気所からなる。トンネル換気設備として,トンネル内に各16台のジェットファンと,換気所内に各2台の排風機が設置されている。
図3に換気概略図を示す。
図3 換気概要図
トンネル換気設備と言われると,多くの方が“トンネル内を換気するための設備”とイメージするかも知れない。もちろん,このような役割もあるが,稼働頻度という観点で言えば,横浜北西トンネルの換気設備は“トンネル外(トンネル出口側坑口部付近)の周辺環境を保全するための設備”としての役割が大きい。排風機が担う主要な役割は次の2つである。排風機の仕様を表1に示す。
東方換気所 | 北八朔換気所 | |
型式 | 横型軸流 電動機内装式 |
横型軸流 電動機内装式 |
口径(mm) | φ2800 | φ2800 |
風量(m3/s) | 151 | 145 |
全風圧(Pa) | 2100 | 2100 |
電動機出力(kW) | 490 | 470 |
〔1〕トンネル出口側坑口部からの持出し抑制
一方通行のトンネル内では,車両の走行により,入口部から出口側坑口部に向かう空気の流れが生じる。そこで,トンネル出口側坑口部付近に設置した排風機を運転し,トンネル内の空気を換気所に引込むことで,出口側坑口部からトンネル内に向かう流れを作り出し,出口側坑口部から流出する空気量を規定量以下に抑制する。
〔2〕火災発生時の煙の排出
火災発生時には,トンネル内で発生した煙を速やかにトンネル外に排出するために排風機を運転する。
図4に排風機を示す。
図4 排風機外観
排風機とジェットファンは,換気設備として目的は同一であるが,その役割が微妙に違う。前述の排風機が,トンネル内の空気を換気所に引き込んでトンネル外に排出するために用いるのに対して,ジェットファンは,トンネル内の空気の流れ(=風速)をコントロールするために用いる。
さらに,横浜北西トンネルでのジェットファンの使用方法は,一般的な山岳トンネル等とは異なり,車両走行方向とは「逆方向」に運転することが多いことが特徴である。
一方通行トンネルでは,走行車両のピストン作用により,トンネル内の空気は走行車両と同一方向に流れる。このため,前述の排風機の役割でも述べたとおり,トンネル内の空気を出口側坑口部から排出させない様にするためには,出口側坑口部付近では走行車両と反対方向の空気の流れを作る必要がある。そのため,ジェットファンを走行車両方向とは逆方向,すなわちトンネル内の空気の流れに逆らう方向に運転することで,排風機が出口側坑口部付近からより多くの空気を引き込むように制御している。換気設備の運転なし・運転ありの模式図を図5に示す。
図5 模式図
また,横浜北西トンネルはジェットファンの配置にも特長がある。一般的なトンネルでは,経済性を考慮して,動力ケーブルが短くなるようにジェットファンは換気所に近い坑口付近に集中配置する。本トンネルでは,トンネル全長約4.1 kmの中にファンを分散配置している。これは,火災発生時を考慮しての意図的な配置である。この詳細は,後述のトンネル換気制御の風速低速化制御にて解説する。
図6にジェットファンを示す。ジェットファン本体設計では,空力騒音に関する数値解析技術を取り入れることで騒音低減を実現している。
図6 ジェットファン外観
〔1〕換気ダクト内
排風機の運転によりトンネル内から引き込んだ空気は,換気ダクト内に設置した次の装置を通過した後,換気塔から外に排出する。
・電気集じん機+脱硝装置(※別途工事にて設置)
空気中に含まれる浮遊粒子状物質(SPM),窒素酸化物(NOx)を除去する。
・サイレンサ
排風機直近で100 dB超(≒電車が通るときのガード下での音の大きさ)にもなる運転騒音を,換気所の敷地境界上で45 dB以下(≒閑静な住宅地での音の大きさ)となるように減音している。当社製の新規開発品を導入しており,詳細は後述する。
〔2〕トンネル内
トンネル内環境を監視するための計測機器として,煙霧透過率測定装置,一酸化炭素検出装置,風向風速計といった従来からの計測機器に加えて,温湿度計を設置している。温湿度計の設置目的は,トンネル内の温湿度の監視及びトンネル内の温度上昇抑制制御,結露抑制制御のためである。
〔3〕電気設備
排風機やジェットファンなどに動力を供給する動力設備,運転制御や状態監視を行う制御設備を設置している。排風機の風量制御方法として,回転速度制御を採用している。
横浜北西トンネルは円形断面形状のシールドトンネル構造であり,車道下の空間を避難通路としている。非常時は滑り台式の非常口より下部通路に避難するが,非常口の扉を開放した際の煙の流入が懸念される。そのため,避難通路加圧設備は,換気設備の火災時制御や非常口の扉の開閉と連動して,送風機により避難通路内を加圧する。図7に避難通路加圧用送風機(遠心式)を示す。
図7 避難通路加圧用送風機外観
本工事での取組事項として,「現地施工」と「機器製作」のそれぞれにおける特筆すべき事項を次に述べる。
安全作業を最優先とすることの他,確実な機能保証,工程遵守,円滑な現場管理を実現するため種々の工夫を取り入れた。
車道上部にジェットファン(重量物)を設置するにあたり,次の施工工夫を行った。
〔1〕金属拡底系あと施工アンカーボルトの採用
横浜北西トンネルでは,シールドセグメントに埋め込まれたインサートの他に,金属系のあと施工アンカーを併用している。一般的に使用される金属系あと施工アンカーは拡張タイプであり,母材側のコンクリート設計基準強度は~30 N/mm2で機能が保証されているが,横浜北西トンネルは30 N/mm2超の高強度コンクリートである。そこで,実際のセグメントと同一構造のセグメントを用いてあと施工アンカーの引抜試験を実施し,高強度コンクリートに対しても要求機能を発揮することを確認した拡底タイプのアンカーボルトを採用している。
〔2〕インサートに設置するアンカーボルトの緩み止め性能確認試験の実施
シールドセグメントに埋め込まれたインサート(めねじ)を用いてジェットファンを固定する場合は,インサートに全ねじボルトを挿入する。この場合,全ねじボルト自体の緩み止め対策が重要となるため,本工事では,緩み止め用接着剤を採用した。使用の際は,予め機器設置には使用しないインサートを用いて,戻しトルク値確認による緩み止め性能確認試験を実施し,実際の現場条件下において要求機能を発揮することを確認している。
〔3〕固定ナット締付確認方法
固定ナットの締付確認は,通常のトルク管理に加えて,ボルトテスターによる打撃試験確認を行なった。これは,ハンマーでボルトを打撃し,その反力の時間波形を測定することでボルトの健全性やナットの緩みがないことを確認するものである。
図8に各アンカーボルトの模式図を示す。
図8 アンカーボルト模式図
ケーブル敷設工事手順の立案が,工程管理上で最も重要であると捉えた。
〔1〕ジェットファン動力ケーブルサイズの最適選定
ジェットファンは全長4.1 kmのトンネル内に計16台配置(※上り・下りの合計では32台)されるが,非常時の運用を考慮して全線にわたり分散配置しているため,トンネル中央付近に設置するジェットファンの動力ケーブル長は1.9 kmとなる。これは,過去の弊社ジェットファン工事には例のない延長であり,電圧降下の観点でケーブルサイズも大きくなる。そこで,経済性と施工性の観点から,ケーブルサイズの太くなる区間が最小限となるような最適設計を取り入れた。特に,換気所からトンネルへ繋がる区間は,限られたスペース内にケーブルが輻輳して施工性も悪いため,可能な限りケーブルサイズが小さくなるよう工夫した。
〔2〕ケーブル敷設作業の効率化
ジェットファン32台分の動力ケーブルだけで,総敷設延長は約32 kmにもなるため,ケーブル敷設作業が工程上のクリティカルパスとなった。そこで,延線工具とフォークリフトの組合せによる作業計画を立案した。ケーブルドラムを固定するジャッキと延線工具が一体となった治具を用い,治具ごとフォークリフトで運搬できるように工夫することで作業工数を削減し,工程短縮を達成した。
〔3〕ケーブル搬入時の配慮
搬入作業においては,大型ケーブルドラム専用スリングの活用,荷下ろし後のケーブルドラム転回作業用ドラムターン工具の活用,ストックヤードの確保など,作業の効率化と円滑な搬入作業を実現した。
現場管理において,工程遅延,品質低下の懸念がある要素は徹底的に対策を取った。
〔1〕設備関連工事の取り纏め
換気所内では複数の設備工事業者の作業が輻輳することから,北八朔換気所において,設備工事業者間の取り纏め役を担い,工程調整の円滑化を図った。
〔2〕警備員による巡回
夜間,休日(昼夜)など,現場スタッフが不在となる期間は,自主的に警備員を配置し,現場内の巡回を実施することで,現場内での盗難防止や安全管理を徹底した。
〔3〕搬入作業時の安全管理
換気所の周辺道路は交通量が多いことから,第三者災害の防止には特に配慮した。交通量の少ない夜間帯における大型トラックの搬入,交差点への誘導員配置の他,GPS機能を活用して搬入車両の位置情報を活用することで到着時刻の把握に努めた。
また,工事区画内に搬入車両を誘導した後も,特にトンネル内では事故防止の観点で様々なルールが定められていたことから,ただ単にルールを事前に周知するだけではなく,ルールを熟知した現場スタッフを車両に同乗させることで事故防止を徹底した。
その他,全500本のサイレンサユニットの搬入には,作業を効率よくかつ安全に実施できるよう,製作サイド・施工サイドが連携して搬入治具を検討するなど,工事全般にわたり関係者一丸となり,施工計画を立案した。この甲斐もあり,無事故での工事完了を実現した。
当社は周囲環境を保全する防音技術にも力を入れており,これまでも多くの換気所にサイレンサを納入してきた。横浜北西トンネル向けには新規開発したスプリッタ型換気用サイレンサを納入した。従来は汎用の換気用ユニットサイレンサ(UAP型)を採用していたが,今回,設置位置や搬入ルートなどの現地条件や音源である排風機の発生騒音に合わせた最適設計を実現した。納入したサイレンサの特長は次のとおりである。
〔1〕低圧力損失で低周波の減音量向上
一般的にサイレンサの低周波音の減音性能は圧力損失とトレードオフとなるが,当社保有の特許技術を改良して両立した。流体解析により内部流路形状を最適化(低圧力損失形状)することで,一般的なスプリッタ型サイレンサに対して同条件で圧力損失を1/2以下に低減した。圧力損失の低減は送風機の動力費の低減やサイレンサの設置台数削減の効果があり,機器費・工事費の低減に貢献することができた。
〔2〕低コスト
サイレンサ製品単体の内部形状を改良することによって,圧力損失はそのままで1本あたりの通過風量を増やすことが可能となった。その結果,設置個数を減らすことが可能となり製作費についても大幅なコストダウンを実現した。図9に東方換気所に設置の新型換気用サイレンサを示す。
図9 東方換気所に設置の新型換気用サイレンサ
都市部の長大トンネルである横浜北西トンネルの換気設備には次の特長があるので紹介する。
〔1〕出口側坑口部からの排出量制御
通常時における換気設備の運用のベースとなる制御機能である。換気設備は高速横浜環状北西線/環境影響評価書に基づき運用しており,トンネル内の空気が出口側坑口部から排出される量を一定量以下に抑制する。交通量の多い日中の時間帯など,換気設備の稼働頻度は非常に高くなるが,換気制御システムでは,排風機とジェットファンを組み合わせた電力が最小となる最適運転制御を行っている。
〔2〕温度上昇抑制制御
トンネル入口側坑口部から出口側坑口部に向かって空気が流れている場合,空気温度は入口側坑口部よりも出口側坑口部が高くなる傾向にある。そこで,トンネル内の空気温度を監視し,空気温度が過度に上昇しないように換気設備を運用する。換気設備は,トンネル内の空気温度が設定温度以上に上昇すると,一定風速以上となるように換気機を制御する。
〔3〕結露防止制御
暖かく湿った空気が冷やされると結露が発生する。寒暖差と湿度に起因する現象であるが,トンネル入口側坑口部も寒暖差が大きく変化する場所となり得る。トンネル内の空気温度は外気よりも高く保たれる傾向にあり,特に冬場は,外気で冷やされた車両がトンネルに進入すると,車両やミラー表面でトンネル内の空気が冷やされ結露する場合がある。そこで,トンネル内外の温度差およびトンネル内湿度を監視し,トンネル内での結露の発生抑制を目的に換気設備を運用する。
〔4〕火災時の低風化制御
火災発生時は,トンネル内で発生した煙が周囲に拡散して避難者の避難行動の妨げとならないように,トンネル内の風速を10秒周期で監視・コントロールする。風速のコントロールは,運転指令により速やかに起動可能なジェットファンの正転運転および逆転運転により実施する。但し,ジェットファン近傍は風速が乱れるため,火災発生位置から一定距離以上離れたジェットファンを運転する。そこで,全長4.1 kmのトンネル内にジェットファンを分散配置させ,21区画に分割することで,区画ごとに使用するジェットファンを設定し,トンネル内のどこで火災が発生しても必要なジェットファン台数を確保している。
現地では,排風機,ジェットファンなど,各機器の単体試験で運転動作に異常のないことを確認した後,各機器を組み合わせて,換気設備としての機能を検証するための総合試験を実施する。ここでは,総合試験の中でも,特に非常時の設備機能を検証した2つの試験について紹介する。
火災発生時は,低風化制御によりトンネル内で発生した煙を火点近傍に留めることで,避難者の避難行動の妨げとならないようにする。そこで,火災制御動作試験では,トンネル内風速を目標風速に安定してコントロールできるかを確認することで,換気設備の火災運転制御が正常に行われることを検証する。本試験は,換気制御装置に火災信号を模擬入力することで換気設備を火災制御状態に移行させて,換気制御装置からの制御指令に基づき換気機を動作させる。そして,火災発生場所(全21区画)や試験条件(火災制御直前のトンネル内風速)を変えながら,上り・下りトンネル合わせて全84パターンの試験を実施し,全てのパターンにおいて,次の確認を行った。
・目標時間以内に目標風速に到達すること
・目標風速にて一定時間以上安定すること
・目標風速の切換えにより変更後の目標風速に変化すること試験結果の一例を図10,図11に示す。
図10 火災制御動作試験結果(上りトンネル)
図11 火災制御動作試験結果(下りトンネル)
火災発生時などに非常口扉を開放した際は,避難通路内に煙などを含んだ車道内の空気が流入しないように避難通路内を加圧する。そこで,避難通路加圧試験では,非常口扉開放時に車道内に向かって空気が流れることを確認することで,避難通路加圧設備が正常に機能することを検証する。本試験は,換気設備を火災制御状態に移行させて,非常口扉の開信号に基づき避難通路用加圧送風機を動作させる。そして,火災発生場所や非常口扉(上り・下りトンネルとも各28枚)の開放枚数・開放位置を変えながら,次の確認を行った。
・避難通路内にくまなく必要風量が行き渡ること
・開放した全ての非常口扉から車道内に向かって空気が吹出すこと
横浜北西トンネルの供用開始後は,実際の交通状況やトンネル内の環境変化に対して,トンネル換気制御システムの効果を継続的にモニタリングしている。運用状況は長期的なスパンでのモニタリングが必要である。換気設備の運用データの一例を図12に示す。
図12 換気設備運用状況
日々関係各所との調整や現場管理に追われる中で,次々に出てくる課題に対応しながら無事故で工事を完了できたのは,本工事に携わった多くの現場スタッフのおかげであり,ひとえに感謝する。
その甲斐もあり,工事を円滑に完成させ,高速横浜環状北西線の工事進捗に大きく貢献したことを認められ,首都高速道路株式会社/神奈川建設局長より感謝状を頂いた。
最後に,本工事の施工に際しては,首都高速道路株式会社をはじめ,多くの社外関係者の方々にご指導・ご協力を頂いた。関係各位に深く感謝の意を表する。