松田 道昭* Michiaki MATSUDA
大垣 冬季* Fuyuki OGAKI
江藤 文宣* uminori ETO
安 炳 辰** Byungjin AN
*
風水力機械カンパニー システム事業部 社会システム技術部
**
技術・研究開発統括部 基盤技術研究部
トンネル延長の長い都市部や山岳部の道路トンネルの換気設備に使用される大型送風機に対しては,騒音規制法を遵守し周辺環境を保全するため機器の低騒音化と消音器設置などの対策が講じられてきた。本稿では大型軸流送風機を使用するトンネル換気設備の騒音低減技術について,消音器,防音壁などの騒音伝搬経路での対策を解説するとともに,送風機の低騒音化に音源可視化による騒音発生箇所の特定と非定常流体解析,空力音解析を用いた事例と,消音器の開発に流体解析と構造音響連成解析を活用した事例を紹介する。
In the case of large-scale axial fans for tunnel ventilating facilities used in long road tunnels in urban and mountainous areas, measures such as reducing the noise of such fans and installing silencers have been taken in order to comply with the Noise Regulation Act and protect the surrounding environment. Regarding noise reduction technology for tunnel ventilation facilities using large axial fans, this paper will describe noise reduction measures in noise propagation paths, such as silencers and soundproof walls. It will also introduce case studies of identification of the noise source by noise source visualization and the use of unsteady fluid analysis and aerodynamic sound analysis to reduce the noise of fans, and the use of fluid analysis and structural-acoustic coupled analysis to develop silencers.
Keywords: Large-scale axial fan, Tunnel ventilating facilities, Noise reduction, Jet fan, Silencer, Noise source visualization,Aerodynamic sound analysis, Unsteady flow analysis, Structural-acoustic coupled analysis, Lattice Boltzmann method
トンネル延長※1の長い都市部や山岳部の道路トンネルでは,自動車の排気ガスによる一酸化炭素中毒の防止,ばい煙による視認性の悪化抑制,火災発生時の安全性確保を目的とした換気設備が設置される。これらの換気設備に大型送風機が使用されるが,周辺環境を保全するため機器の低騒音化と消音器設置などの対策が講じられてきた。
本稿では大型軸流送風機を使用するトンネル換気設備の低騒音化について,近年の事例を交えて紹介する。
※1 延長とは道路法に定められた道路中心線上を測定した長さを示す。
トンネルの換気方式には,横流式,半横流式,縦流式があり,設備の用途や条件によって選択されるが,国内ではトンネル内を軸方向に通気する縦流式の採用が多い。換気所に大型軸流送風機を設置した集中換気方式(図1(a))とトンネル上部空間にジェットファン(図2)と呼ばれる大型軸流送風機を吊り下げる方式(図1(b))がある。
図1 Tunnel ventilation
図2 Jet fan
騒音規制値は住宅地の夜間で40〜50 dB程度と大型送風機の騒音に比べて小さいため,十分な対策が必要であるが,設備完成後の対策は困難なため,計画時に対策を選定して設備の一部として設計する。騒音対策手順を図3に示す。
図3 Countermeasure flow chart for fan noise <sup>1)</sup>
予測計算では,ダクトの曲がりなどの音響減衰,防鳥金網やガラリなどからの気流発生音,敷地境界線等の評価点までの距離減衰などを考慮して,設備の敷地境界線での騒音値を計算する。
(1)消音器
伝搬経路上で効果的な対策は消音器である。設備全体から見るとコンパクトで数mの区間に設置することで,大きな減音効果が得られる。
大型送風機の騒音は,低域の翼通過周波数成分とその高調波,および,高域の気流音から成る。そのため消音器は広い帯域で減音性能が求められ,図4に示す吸音型が適している。ジェットファンでは,翼の前後の消音筒を延長する方法もあるが,機器が大型化するため採用は困難である。
図4 Absorption silencer and transmission loss <sup>2)</sup>
(2)防音壁
防音壁は送風機の騒音低減に特化した技術ではないが,道路や鉄道で良く用いられる。遮音効果は,壁が高いほど,周波数が高いほど大きいが,大型送風機の卓越周波数は100〜300 Hzと低いため大きな効果は期待できない。ジェットファンの騒音も,トンネル開口の上部からも放射されるため,高い防音壁が必要である。
防音壁が高くなると,電波受信,日照,景観,走行安全性等に弊害を招く恐れがある。対策として先端改良型防音壁がある。防音壁背後に到達する音波は,防音壁の上端からの回折音が支配的であるため,それを上端部で減衰させることで,防音壁を高くしないで済む。
先端改良型のうち吸音型は,上端部に吸音材を配置して吸音するもので,音波と吸音材の接触が多くなる形状としている(図5)。これに対し干渉型は,先端部の形状や経路差によって上端で音波を干渉させて低減する(図6)。そのほか,先端部を越える音を打ち消す音をスピーカから放射する能動制御型も実用化されている5)。さらに近年,実用化されたものに,エッジ効果抑制型遮音壁がある。防音壁上端で空気の粒子速度が周囲より大きくなるエッジ効果が生じる箇所に,上部に向かってインピーダンスが小さくなる音響的な抵抗部材を取り付けて回折音を低減する(図7)。
図5 Edge-modified noise barriers (sound absorption type) <sup>3)</sup>
図6 Edge-modified noise barriers (sound Interference type)<sup>4)</sup>
図7 Acoustic intensity at 125 Hz <sup>6)</sup>
送風機の発生音を低減するための事例として,音源可視化と流体音解析について紹介する。
(1)音源可視化手法の特徴
騒音対策や機器騒音を低減する場合,音の発生箇所を正確に把握することは非常に重要であるが,騒音計では,測定箇所の音圧しか分からない。そのため音を可視化して分布を確認するのは有効な手段である。近年,高速信号処理が可能になり,様々な音の可視化手法が実用化され,比較的手軽に計測することができるようになってきた。
音源可視化手法には,大きく分けてマイクロフォンアレイを使って同時に多点計測するものと,1本のマイクロフォンで移動計測するものの2種類がある。前者はリアルタイムで音源の変化まで計測可能なため,変動音の計測にも有効である。後者の場合はマイクロフォンを移動しながら計測するため,定常音の計測向きである。
代表的なマイクロフォンアレイ手法にビームフォーミングと音響ホログラフィがある。ビームフォーミングは円形・球形のアレイで,マイクロフォン間の位相差から到達方向別に音の振幅を予想することにより,離れた位置にある音源を探査し,音響ホログラフィは,格子状のアレイを用いて,計測した複数の音圧から音源面での点音源を計算することでそれぞれマッピングする方式である。
移動計測には,音響インテンシティと音圧マップがある。音響インテンシティとは音圧と粒子速度の積の時間平均であり,2つのマイクロフォンを向き合わせたインテンシティプローブで移動計測し,音圧マッピングは,マイクロフォンを使用して多数の点で音圧を測定し,その結果をそのままマッピングする方式である(図8)。
図8 Noise Source visualization method
(2)ジェットファンの音源可視化
ジェットファンの騒音値低減を目的とした騒音源の特定に音源可視化した例を紹介する。
対象としたジェットファンの卓越音は,125 Hz,250 Hzと比較的低周波である(図9)。低周波の解像度が高い方式には音響ホログラフィがあるが,音源近傍にマイクロフォンアレイを設置する必要があり風切り音が発生してしまう。また,ジェットファンは翼の前後に消音筒がついており,マイクロフォンを音源の近くに設置できない。低周波の解像度は低いが離れて計測できるビームフォーミング方式を採用した。
図9 Noise spectrum of Jet-fan
ジェットファン運転中にビームフォーミングで計測した結果を図10,図11を示す。ビームフォーミングでは不得意な低周波域なのでぼやけているが,図10ではファンの中心部より下側に音圧の大きな部分があり,125 Hzはモーターベース付近から発生していることがわかった。
図10 Noise map of Jet-fan (125 Hz)
図11 Noise map of Jet-fan (250 Hz)
図11ではファン中心部が最も大きな音圧になっている。ファンの中心部分に音源となるものは無いので,円周上にある羽根で発生した騒音の計測結果が合成されていると推測できる。ビームフォーミングでは複数の音源が分離しきれずに合成されて表示される特性がある。
このように,ジェットファン騒音の可視化にビームフォーミングを使用する場合,低周波音は分離しきれない特性を考慮する必要がある。
(1)格子ボルツマン法
格子ボルツマン法(Lattice Boltzmann Method,以下LBMと称)は統計熱力学に基づいており,図12のように,流体を衝突と並進(移動)を繰り返す粒子の集合体として扱うメゾスコピックスケールの流体の運動により,流体を連続体として扱うマクロスケールの流体の運動を再現する手法である。流体を連続体として扱い,Navier-Stokes方程式の偏微分方程式を解く必要がある従来の数値解析法と比べると,計算アルゴリズムが単純なことから,計算負荷が小さく高速に計算が行えるとともに,並列計算に適している8)。また,直交格子を使うため,格子生成プロセスが短時間で済む。さらに,圧縮性を考慮した低マッハ数の流れを高精度に計算できると知られており9),音場と流れ場の連成解析による音の反射や反響,散乱など分離解法(図13)では考慮できない物理現象による影響を調べることができる。したがって,複雑形状における大規模流れや動的構造を持つ対象を扱う場合,また,全ての音響情報を計算する直接解法による流体騒音解析が必要な場合には,従来のソルバーが持つ限界を克服できる有力な代案の一つとして挙げられている。
図12 Techniques of simulations on different scales <sup>7)</sup>
図13 Schematic diagram of acoustic splitting method
以上のことから,LBMは設計者の数値解析活用度の向上や空力騒音の評価による製品競争力強化が必要な産業界を中心として,多くの可能性をもつ数値解析法として注目されている。
(2)適用事例と効果
道路トンネル換気設備の重要機器の一つであるジェットファンに対する客先要求も時代の変化に合わせて変わってきている。従来は軽量化が重要課題の一つであったが,最近では,騒音レベルが加わり,要件はより厳しくなった。一方,全長の縮小やファン回転速度の高速化など軽量化の取組みは空力騒音を増すため,軽量化と騒音要件を同時に満たす効果的な騒音低減の手段を講じる必要がある。
ここでは,ジェットファンの軽量化に伴い空力騒音が問題となった当社製品の騒音低減の取組みにLBMを用いた事例を紹介する。ジェットファンの仕様は表のようであり,市販のLBMソルバーであるXFlowを用いて数値解析を行った。乱流モデルはWALE modelを使用した。計算空間と境界条件は図14に示しており,格子数は空力解析の場合に約7千万,音響解析の場合には音速を考慮した時間刻みによる総計算時間を考慮し,約1千万に減らして計算を行った。
口径 | 1250 mm |
全長 | 2500 mm |
回転数 | 987 min-1 |
風量 | 43 m3/s |
図14 Computational domain and boundary conditions
まず,非定常な渦運動が空力音になることから10),流れ場の渦度を詳細に調べた結果を紹介する。図15はジェットファンの流れ場における瞬時の渦度を3次元で可視化した結果であり,この結果からジェットファン周辺の広い領域にかけて騒音源になりそうな複数の場所を一目で推定することができる。推定した騒音源における渦の非定常的な特徴を詳細に調べるため,モータ電源ケーブル管を含んだ断面における渦度を調べた。図16はその瞬時の結果である。全長の縮小に伴って曲率を大きくした入口ベルマウスから剥離渦が生じ,それが羽根車に流れ込んでいる。また,モータ電源ケーブル管からカルマン渦が発生し,発生した渦は後流側の羽根車に入り込んでいる。
図15 Three-dimensional vorticity contour of jet fan model
図16 Instantaneous vortex contour in cross-section including power cable tube
次に,空力騒音の定量的な評価のために行った音の伝播を考慮した直接解法による空力騒音解析について紹介する。図17は各レシーバーにおける音圧レベルのスペクトラムの結果を示している。結果から,電源ケーブル管付近のカルマン渦と入口ベルマウス付近の剥離によるある特定周波数が支配的な騒音源になることが音響モデルを使用せず,推定することができた。
図17 Sound Pressure Level (A-weighted)
以上の数値解析結果に基づき,ベルマウスの曲率,モータ電源ケーブル管とモータ支持台などを改善した結果,客先の要件を満たすことができた。幾何学的に複雑で,動的な振る舞いによる強い非定常な流れを伴う製品の空力・騒音特性を考慮した製品開発において,LBMは今後有力な設計ツールの一つになると期待する。
伝搬経路に設置される消音器は,限られたスペースに収めながら,大きな減音量と小さな圧力損失という,技術的にトレードオフの関係となる性能を満たすことが求められる。以下,音響解析を利用した消音器の高性能化について述べる。
道路トンネル換気用には図18に示す吸音型のセル型サイレンサが多く用いられており,換気風量に合わせ断面本数を決定,図19に示すように換気ダクト内に組み合わせて設置される。前述のようにコスト面や設置スペースを考慮すると少ないサイレンサ本数で必要な減音量・換気風量を実現することが求められる。
図18 Structure of cellular silencer
図19 Silencer for ventilation in site
ここで減音量を大きくしようとして吸音材の量・厚みを増やすとその分流路は狭まり圧力損失が増大するため,換気ファンの容量を大きくしなければならず,気流発生音も増大する恐れがあるため,セル型サイレンサの設計では減音量と圧力損失のバランスに十分配慮する必要がある。
従来セル型サイレンサの設計では多くの試作品で試験を行い,減音量特性,圧力損失とも良好な形状を選定してきたが,近年では市販の流体解析・音響解析ソルバーを活用する例が増えている。図20(a),(b)は流路形状の異なる2つのサイレンサ(TYPE A,TYPE B)の圧力損失,減音量特性について実測結果と解析結果を比較したものである。ここで流体解析には市販の汎用熱流体解析ソフトウェアSTAR-CCM+,音響解析には市販の有限要素法をベースとする音響解析ソフトウェアActranを用いた。圧力損失について実測結果と若干乖離は見られるものの流路形状の違いによる傾向は解析で十分とらえられており,減音量特性についても解析と実測でほぼ近い結果が得られ,流路形状の違いによる減音量特性の傾向が十分解析で再現されている。
図20 Comparison of measured and analytical result
またActranは構造解析ソルバーを内蔵しており,構造―音響の強連成解析を直接法で実施できる。図21はサイレンサTYPE Bの300 Hzにおける空気のダクト中心断面音圧分布,サイレンサ構造の変位分布を示す。サイレンサは薄板構造となるため,共鳴周波数付近での薄板振動や音響透過の影響が減音量特性に表れることがあるが,音圧や振動変位を可視化することで現象を把握でき,効果的な対策の検討が十分可能である。
図21 Distribution of sound pressure and structure displacement (TYPE B, 300 Hz)
本検討例は流体解析と音響解析を別個に実施したが,今後最適化技術を適用し,例えば圧力損失を極力小さくした上で減音量が最大となる構造の探索,あるいは特定の周波数領域の減音に特化するなど,案件ごとにサイレンサをカスタマイズする設計も十分可能になると期待される。
トンネル換気設備を例に大型送風機の騒音低減技術について述べた。将来,低騒音のEVやFCVが主流となれば,換気設備も一層の低騒音化が要求される可能性もある。コンピュータの高速化と解析技術の発展により,送風機の発生騒音,伝搬経路の気流発生音と音響減衰が正確に予測され,設備全体での一括した騒音予測計算の実現も近いと思われる。静穏であることの価値は今後も高まり,低騒音化技術の一層の高度化が期待されるだろう。
1) 鈴木・他3名:機械音響工学,p.121,コロナ社,(2004).
2) 産業環境管理協会,新・公害防止の技術と法規2008[騒音・振動編],p.231,丸善,(2008-1).
3) 大久保:先端改良型遮音壁,騒音制御,28巻5号,p.317,(2004).
4) 山本:沿道対策による低騒音化への取り組み,騒音制御,27巻6号,p.423,(2003-12).
5) 大西・齋藤:ANC技術を応用したアクティブソフトエッジ遮音壁,騒音制御27巻4号,p.252,(2003).
6) 河井:エッジ効果抑制型遮音壁,音響学会,70巻2号,p.79,(2014).
7) Mohamad, A. A., Lattice Boltzmann Method, 3, Springer-Verlag London, (2011).
8) 山田・他3名:格子ボルツマン法を用いたファンの空力騒音の直接解析,先駆的科学計算に関するフォーラム2015,(2015).
9) 蔦原・他2名:有限体積格子ボルツマン法による空力音の直接計算,日本機械学会論文集 B編,72-724,(2006).
10) 吉川・和田:音源の流体音響学,p.1,コロナ社,(2008).
本原稿は「ターボ機械第48巻第11号 2020年11月(ターボ機械)」に掲載した内容を転載した。
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