内田 拓馬* Takuma UCHIDA
山田 泰雅* Yasumasa YAMADA
関口 孝志* Takashi SEKIGUCHI
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風水力機械カンパニー 事業開発統括部 製品開発部
近年,設備保全においてIoTセンサーを活用した可視化及び監視を行うことで,予防保全を取り組む動きがある。しかし,現状,市場においてこの技術の普及が進んでいない。その理由として,市販のセンサーや状態監視システムが高価であることや導入には専門的知識を要するためと考える。このような背景の下,当社は,誰もが簡単に扱うことのできる廉価な小型ワイヤレス振動センサー『QiDe(キーディ)』と状態監視システム『EBARAメンテナンスクラウド』を開発した。本システムは,ポンプに限らず送風機,空調機,冷却塔,その他の回転機器など様々な機器の状態監視を対象とし,さらにメーカーを問わず適用可能なシステムである。
In recent years, a movement has emerged to work on preventive maintenance by visualizing and monitoring using IoT sensors in equipment maintenance. At present, however, this technology is not widely used in the market. We believe that the reason is that expensive commercially available sensors and condition monitoring systems and the specialized knowledge required for their introduction has hindered their introduction into the market. Therefore, we have developed an inexpensive small sensor and condition monitoring system that anyone can easily handle. The target of condition monitoring of this system is not limited to pumps, but can also be applied to variety of equipment such as blowers, air conditioners, cooling towers, and other rotating equipment, regardless of the manufacturer.
Keywords: IoT, Wireless sensor, Condition monitoring system, CBM (condition based maintenance), Cloud system, Failure detection
状態監視システム『EBARAメンテナンスクラウド』は,各機器に取り付けるセンサーユニット,クラウドサービス上で稼働するクラウドシステム,スマートフォンアプリ『QiDe-LINK(キーディ-リンク)』から構成し,ユーザの設備状態を監視・管理する。
本システムを導入することで,事後保全による損失を軽減,省力化・巡回点検時間の最適化及び機器の状態に応じた整備・修理によるライフサイクルコストの最適化に貢献する。
『EBARAメンテナンスクラウド』イメージを図1に示す。
図1 EBARAメンテナンスクラウドイメージ
〔1〕傾向監視
振動センサーユニット『QiDe(キーディ)』から収集した振動及び温度のセンシングデータは,定周期毎にクラウドシステムにアップロードし,データを蓄積する。振動センサーユニット『QiDe』の取り付け時から振動や温度データの相対変化による傾向監視・設備保全を実現することができる。
〔2〕お知らせメール
正常・注意・警告の三段階にしきい値を設定し,設備状態を管理することができる。注意状態や警告状態に遷移した際,あらかじめ登録した宛先にお知らせメールを送信する機能である。しきい値の設定,及び設備状態が遷移した時に誰に発報するか,ユーザ側でカスタマイズ設定することができる。
〔3〕レポート発行
振動センサーユニット『QiDe』を設置した機器ごとに振動と温度の傾向監視状況を表すグラフなどの機器情報をレポート形式に発行することができ,ユーザの報告書作成を支援する機能である。
〔4〕スマートフォンアプリ『QiDe-LINK』の活用
巡回点検作業の省力化・時短の支援,現場環境によっては中継機の導入や設置が難しい場合も考慮し,ユーザに最適なサービスを提供するためスマートフォンアプリ『QiDe-LINK』を開発した。スマートフォンアプリ『QiDe-LINK』を活用した状態監視は,難しい操作は必要とせず,簡単に機器状態を診断できることが可能である。
機器の詳細は2-3,2-4,2-5節にて説明する。
ワイヤレスによるリアルタイムセンシングを実現するため,当社はBluetooth Low Energy※1に対応した,操作が容易で廉価な小型ワイヤレス振動センサー『QiDe』及びセンサー電源供給用バッテリーユニットを独自に開発した。QiDeはQuick Detectorの略である。ロゴを図2に示す。
図2 QiDeロゴ
振動センサーユニット『QiDe』の開発コンセプトは,以下の通りである。
・ ポンプ以外にも送風機,空調機,冷却塔,その他の回転機器などの様々な機器に適用でき,メーカーを問わず取り付け可能。
・ ボトルキャップ並みの小さなサイズを実現することで,市販のセンサーが入らない狭あいな箇所でも対応可能。
・ ポンプ等の回転機器は屋外設置される場合もあることから,センサー部及びバッテリーユニットの両方に防水加工を施すことで屋外使用も可能。
・ 振動センサーユニット『QiDe』の機器への標準取り付け方法を磁石とすることで,専門的な知識が無くても容易に取り付けが可能。
・ 通信を無線化することで通信用の配線を無くし,取扱いを簡単にすることを実現。
・ バッテリーユニットに内蔵している電池は,ユーザでも調達及び簡単に交換が出来るように市販品を採用。
・ バッテリーユニットとセンサー部を分離型にすることで,センサー部の小型化,さらに機器運転中でもセンサー部に触れずに容易に電池交換を実現。
振動センサーユニット『QiDe』のセンサー部外観を図3,仕様を表1に示す。
図3 センサー部 外観
振動センサーユニット『QiDe』 | |
用途 | 振動,温度を検出 測定:3軸(X,Y,Z)最大2 kHz 振動値:4 G |
通信 | Bluetooth Low Energy※ |
使用温度 | -10~50 ℃ |
設置場所 | 屋内・屋外(IP55) |
外観サイズ | センサー部: 28×24×18 mm(突起部除く) バッテリーとのケーブル長:1 m |
バッテリーユニット: 37×74×45 mm(突起部除く) |
|
質量 | 約100 g(バッテリーユニット含む) |
固定方法 | 磁石(標準),接着剤 |
クラウドシステムは,振動センサーユニット『QiDe』と中継機から構成されている(図4)。
図4 クラウドシステム構成
クラウドシステムの機能は,以下の通りである。
・ ユーザ認証機能:予め登録されたユーザのみアクセスできる。悪意のある不正アクセスを遮断する仕組みを実装し,セキュリティを強化している。
・ 機器一覧表示機能(図5):クラウドシステムに登録されたユーザの機器状態を一覧で確認することが可能。
・ ダッシュボード機能(図6):振動と温度の最新データを確認することができる。
・ トレンドグラフ機能(図7):クラウドシステムに蓄積された振動と温度のセンシングデータをグラフ表示することができる。
・ 警報メールの発報機能:振動センサーユニット『QiDe』に設定したしきい値判定により,正常・注意・警告の三段階で設備状態を管理して,注意状態や警告状態に遷移した際,登録した宛先に警報メールを送信する機能である。
・ 警報履歴機能(図8※):振動センサーユニット『QiDe』が検出した警報情報をクラウドシステムで蓄積し,一覧表示できる機能である。過去の警報から現在発生中の警報を絞り込み表示することも可能。
・ レポート機能:機器情報を含む振動センサーユニット『QiDe』毎のレポーティング機能。
※ システムの画面表示内容は,今後の製品改良によって一部変更する場合がある。
図5 機器一覧表示画面
図6 ダッシュボード画面
図7 振動を傾向監視したトレンドグラフ画面
図8 警報履歴画面
本クラウドシステムは,定期的に中継機を介して振動センサーユニット『QiDe』から振動と温度のセンシングデータを取得し,クラウドシステムにアップロードしている。中継機単体の仕様を表2に示す。
中継機 | |
概略構成 | 中継機,ACアダプタ |
用途 | データ収集及びアップロード |
センサー通信 | Bluetooth Low Energy センサー最大接続数:10個 |
クラウド通信 | 暗号化LTE※2 |
通信周期 | 60分(標準) 最短5分,1分単位で設定可能 |
使用温度 | 周囲:-10~50 ℃ |
設置場所 | 屋内※ |
外観サイズ | 140×60×31 mm (突起部,アンテナを除く) |
質量 | 約400 g |
入力電源 | 1φAC100 V(ACアダプタ接続) |
固定方法 | 磁石,ねじ止め,バンド止め |
簡単な操作で設備状態を可視化でき,機器の異常検知のためのしきい値を設定出来るツールとして,スマートフォンアプリ『QiDe-LINK』を開発した(Android※3 OS及びiOS※4に対応)。
スマートフォンアプリQiDe-LINKの機能は,以下の通りである。
・ 認証機能:契約者のみログイン可能(図9)。スマートフォンとセンサーが近接した場合に通信可能とすることで,QiDe-LINKのセキュリティ性を強化している。
・ 振動センサーユニット『QiDe』初期設定機能(図10):設置箇所や振動センサーユニット『QiDe』の向きを設定できる機能。
・ 周辺デバイス一覧表示機能(図11):周辺にある振動センサーユニット『QiDe』を自動で検出・表示できる機能。一覧にはセンサーの名称や機名が表示されて,画面上でどのセンサーなのかを判別可能。
・ 一括しきい値設定機能:しきい値を自動で設定できる機能。複数あるセンシングデータも一回の操作で各振動センサーユニット『QiDe』のしきい値設定が可能。しきい値は中継機を介してクラウドシステムと連携される。
・ 機器状態確認機能(図12):センシングデータをリアルタイムで確認できる機能。設定されたしきい値からセンサー状態を正常・注意・警告の3段階で簡易診断することが可能である。
図9 ログイン画面
図10 初期設定画面
図11 周辺デバイス一覧表示画面
図12 機器状態確認画面
ユーザへのヒアリング結果から,突発故障は大変困るため,故障する前に異常を把握して何かしら対策を講じたい,という要望が多いことがわかった。振動センサーユニット『QiDe』及びクラウドシステムをユーザに導入いただくことによって,このような課題に対して適切にユーザを支援することが可能と考える。
ユーザ機器をモニタリングし,振動増加を検知して適切に対応することができた振動監視状況の一例を紹介する(図13)。
図13 故障検知時の振動監視状況
図13の青線はセンシングした振動測定値である。注意状態のしきい値を超えた段階と警告状態のしきい値を超えた段階で警報メールが発報され,ユーザと当社は機器の異常を警報メールにて確認することができた。本事例では,クラウドシステムの警報メールの発報機能によって,ユーザは,機器が故障する前に該当設備を安全に停止させて,適切な対処を行うことが出来た。『EBARAメンテナンスクラウド』導入により,従来であればユーザが実施している定期巡回点検において,実際の機器を視認して初めて気付くことが出来る異常状態や故障を,致命的な状況に至る前の段階で,振動増加を検知し,警報メールにて機器異常を確認することができた。本事例を通じ,ユーザから高評価をいただき,信頼を獲得し,修理提案も実施している。ユーザとつながる効果を確認できた事例である。
状態監視システム『EBARAメンテナンスクラウド』は,ポンプや送風機だけなく,給水装置及びマンホールポンプ等,さまざまな機器につながり,今後はさらに故障診断や省エネ診断が提供可能な基幹システム『EBARA CLOUD』へ展開していく予定である。
『EBARA CLOUD』実現のために,まずは陸上ポンプや送風機等に対して振動センサーユニット『QiDe』を活用した状態監視システム『EBARAメンテナンスクラウド』を普及させていくとともに,既存の制御・監視機能を強化・進化させた様々な状態監視サービスを展開していく予定である。
振動センサーユニット『QiDe』の更なる開発を進め,振動・温度以外のセンシング技術を確立していく。機能のバージョンアップによるサービスメニューの拡充・拡大を図るとともに,クラウドシステムに蓄積されたビッグデータの解析を進めることで,故障予知技術を確立させていく予定である。
今後もユーザの様々なご要望に対して,『EBARAメンテナンスクラウド』を活用した当社ならではのソリューションを提供し,ユーザ満足度向上に取り組んでいく所存である。そして,ユーザと当社がつながりさらなる新しい価値を提供し続けていきたい。
※1
「Bluetooth®」「Bluetooth Low Energy」は,Bluetooth SIG, Inc.の商標または登録商標です。
※2
「LTE」は,欧州電気通信標準協会(ETSI)の登録商標です。
※3
「Android」は,Google LLC の商標または登録商標です。
※4
「iOS」は, Apple Inc.のOS名称です。IOSは,Cisco Systems, Inc.またはその関連会社の米国およびその他の国における登録商標または商標であり,ライセンスに基づき使用している。