西谷 要介
工学院大学工学部機械工学科 教授
プラスチックやゴムなどの高分子材料は軽量で,比強度が高く,また化学的にも安定であり,かつ成形加工性にも優れる特徴を有する。そのため,日常用品から工業製品,さらには航空・宇宙分野などに幅広く利用されており,現代社会にとって重要な役割を担っている材料の一つである。それにも関わらず,工学系の大学において,機械工学科に所属する材料系の研究室として高分子材料系は稀であり,そのほとんどは金属材料系の研究室が多い。一方,高分子材料の研究室を有する学科としては材料工学科や応用化学科などに多いのが実状である。実際の製品を設計するためには,もちろん機械工学だけでは不十分であるものの,四力学をはじめとして,設計,製図,材料,加工などの機械工学に関する素養が必要不可欠であることは言うまでもない。手前味噌となるが,筆者の研究室は機械工学科に所属する高分子材料研究室である。本研究室は,故山口章三郎先生によって1952年に設立(1949年新制大学設立,卒論指導開始が1952年)され,故大柳康先生や関口勇先生らによって更なる発展がされてきた歴史ある研究室である。設立当時から「機械材料としての高分子材料および成形加工法の開発」をモットーとし,機械工学ならではのアプローチにより実際に機械材料として利用できる高性能・高機能な高分子材料の創製を行ってきた。現在は,摩擦・摩耗などのトライボロジー的性質に優れた材料創製,それを実現するためのポリマーアロイ・ブレンド・複合材料技術の深化,さらには成形加工技術の構築などを中心に検討している。同時に産学官共同研究などを通して社会への還元,さらには最新の研究成果を授業に反映するように進めている。
閑話休題。高分子材料の多くは,原材料として石油や石炭などの化石資源を利用しているため,その化石資源の枯渇につながること,また,燃焼時に発生する温室効果ガスにより地球温暖化の原因の一つとされていること,さらには廃棄物が海洋に流出し汚染していること(海洋汚染問題)などの環境問題が叫ばれて久しい。現在,国際的な資源循環の仕組みも変化している中,可能な限り資源の価値を維持しつつ,効率的に利用して付加価値を生み出す,いわゆる循環型経済(サーキュラーエコノミー)への移行が重要となっている。したがって,今後,持続可能な社会を形成していくためにも,環境負荷低減と性能・機能などを両立した環境にやさしいプラスチックの開発や,また3R(リデュース,リユース,リサイクル)技術に加えて再生可能材料への代替(リニューアブル)などを検討していかなければならない。
2019年6月のG20大阪サミットにおいて,「2050年までに海洋プラスチックごみによる追加的な汚染をゼロにまで削減することを目指す」が各国首脳間で共通のビジョンとして共有された。これを実現するために環境省はプラスチック海洋汚染に対する取り組みとして「プラスチック・スマート」を提唱,また政府も「プラスチック資源循環戦略」を策定している。同戦略の内,3R+リニューアブルを基本原則とした資源循環においては6つのマイルストーンが設定されており,それらの実現を通して世界全体の資源・環境問題の解決のみならず,経済成長や雇用創出に貢献することが期待されている。また,マイルストーンの中でもリニューアブルとしては,「2030年までに再生利用を倍増」や「2030年までにバイオマスプラスチックを約200万トン導入」があり,喫緊な問題として取り組む必要がある。なお,2022年4月には「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」も施行された。プラスチックの資源循環に向けて,事業者,消費者,国などのすべての関係者が相互に連携しながら環境整備を進めていくことが強く求められている。
筆者の研究室においても,容器包装リサイクル系プラスチックを用いた高付加価値製品の開発やバイオマスプラスチックの高性能化などに取り組んでいる。特に総植物由来原料を用いたエンジニアリングプラスチック(エンプラ)系バイオマス複合材料の創製,具体的には,非可食植物であるトウゴマ由来のひまし油を原料から重合したポリアミドをベース材料とし,強化繊維として天然繊維の一種である麻繊維を用いて複合化することにより,天然繊維強化植物由来エンプラ系バイオマス複合材料の創製を検討している。実際の機械材料や部品へ応用するためには,耐熱性や機械的性質だけでなく,摩擦や摩耗などのトライボロジー的性質や,流動成形が可能な成形加工性,さらには環境性能もバランス良く高性能化する必要がある。これらの問題を解決するために,(1)材料配合設計技術,(2)成形加工技術,および(3)形状設計(表面構造付与)技術の3つを組み合わせて検討しているところである。
高分子材料の資源循環や環境問題の解決は,まだまだ道半ばであるが,今後も研究室の学生らと共に,機械工学ならではのアプローチを用いて検討していき,その成果が持続可能社会の発展の一助となれば幸いである。最後に,執筆機会を与えて頂いた荏原製作所の関係者の皆様に深く感謝申し上げます。
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