大澤 博之* Hiroyuki OSAWA
神田 薫平* Kumpei KANDA
白井 和彦** Kazuhiko SHIRAI
西田 晃大* Kota NISHIDA
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風水力機械カンパニー システム事業部 社会システム技術部
**
風水力機械カンパニー システム事業部 社会システム建設部
新潟市西蒲原地区に建設された新川河口排水機場は,口径4 200mm横軸軸流チューブラポンプを6台有する国内最大級排水機場の一つである。同機場のポンプ設備は汽水域にあるため建設から40年を経過して腐食が進行し,2007年から2015年にかけ更新工事が行われた。更新から約10年が経過した6号主ポンプ設備の初回整備を行った。更新時に導入した技術(例えば,犠牲陽極)の運用状況について確認したので報告する。また,予備電源設備建設工事において構築した予備電源システムを紹介する。
The Shinkawa-kako drainage pump station, constructed in the Nishikanbara district of Niigata City, is one of the largest drainage pump stations in Japan. The station has six tubular type horizontal axial flow pumps with a bore size of 4 200 mm. The pumping facilities at the station are located in brackish water. This environment has corroded the facilities in the 40 years since their construction. Renewal work was carried out from 2007 to 2015. The No. 6 main pumping system received maintenance for the first time, approximately 10 years after its renewal. The operation status of technologies introduced at the time of renewal (such as sacrificial anodes) is confirmed and reported. The reserve power supply system constructed during the construction of the reserve power supply facility is also presented.
Keywords: Drainage pump station, Tubular type horizontal axial flow pump, Seawater, Sacrificial anode, Super thick film coating, Backup power supply system, Power supply vehicle
新川河口排水機場が位置する西蒲原地域は,新潟平野の中央に位置し,東南方は中ノ口川,大河津分水路及び信濃川,北西方は新潟砂丘,弥彦・角田の小山脈で挟まれた350km2(35 000 ha)の平地かつ広大な輪中地帯である。地域の3分の1は標高マイナス1.5mからプラス1mまでの低平地にあり,戦後の土地改良事業により排水改良が進み日本有数の穀倉地帯となっている。国営新川二期農業水利事業で新川の河口部に建設された新川河口排水機場は,1970年から運用され同地区の排水制御の中心的な役割を担ってきた(図1)。西蒲原地区の排水機場は,建設から年数が経過し老朽化が進んだため国営新川流域農業水利事業にて機場の再生が進められている。日本海に近接する新川河口排水機場も海水による腐食進行が著しく,同事業により2007年から2015年にかけて更新工事が行われた。新川河口排水機場の更新工事内容については,エバラ時報3),4)で2回に分けて報告している。ここでは更新から約10年が経過した6号主ポンプ設備の整備を行ったのでその概要を報告する。また商用電源停電時にポンプ運転を可能とするため,新川河口排水機場に納入した予備電源システムについて紹介する。
図1 新川河口排水機場
新川河口排水機場の機器の概要は次のとおりである(図2,図3)。
1)主ポンプ設備
口径4 200mm横軸軸流チューブラポンプ 40m3/s×2.6m×6台
2)動力伝達装置
横軸2段遊星歯車減速機 ×6台
3)弁類
主ポンプ用吐出側ゲート(電動ラック式ローラゲート)×12門(主ポンプ1台につき2門)
主ポンプ用逆流防止弁(W4 300×H4 200角形)×12基(主ポンプ1台につき2門)
4)原動機
横軸かご形三相誘導電動機 3. 3kV-1 400kW×6台
5)補助機械設備
<給水系統設備>
給水ポンプ(φ50片吸込渦巻ポンプ) ×4台
<諸排水ポンプ設備>
主ポンプ排水ポンプ(φ65水中モータポンプ) ×6台
所内排水ポンプ(φ80水中モータポンプ) ×2台
<その他設備>
原水ポンプ(φ80片吸込渦巻ポンプ) ×2台
オートストレーナ(自動逆洗式) ×2式
井戸用ポンプ(φ50深井戸用水中モータポンプ) ×1台
6)付帯設備
二次スクリーン ×12基(主ポンプ1台につき2基)
2 t×2天井クレーン設備 ×1基
25 t/7.5 t橋形走行クレーン ×1基
7)高低圧電気設備 ×1式
8)監視制御設備 ×1式
図2 機場平面図(地下部分)
図3 機場断面図
6号主ポンプ設備は1台目の更新として2008年の非灌漑期に工事を行い,2009年6月から新潟県が運転管理を行ってきた。整備後の運用から11年経過した2020年にポンプ設備の整備工事を行った。6号主ポンプ設備は,整備までの期間に5 179時間運転している。更新後最初のポンプ整備であることから,更新設備に取り入れた技術の運用状況と整備工事での取り組みを以下に示す。
新川河口排水機場は汽水域にあることから海水によるポンプケーシングの腐食を防止するため,更新ポンプには犠牲陽極(材料Zn合金)を設けている。140個の犠牲陽極をポンプケーシングにほぼ均等に配置している。整備工事で犠牲陽極の消耗状況を調査した。その結果は,羽根車(材料SCS13),インペラケーシング(材料SUS304L)周りと塩分濃度が濃くなるケーシング底部の犠牲陽極で消耗が進んでいた(図4,図5)。ポンプケーシング内には運用による塗装の剥離があったが,犠牲陽極によりポンプケーシング本体(材料SS400)の腐食進行を防止出来ていることが確認出来た。
図4 犠牲陽極の設置位置とその消耗状況
図5 犠牲陽極(左 整備前 右 交換後)
既設ポンプでは河川水に含まれる砂泥でガイドケーシングの案内羽根先端部で壊食が進行していた(図6)。更新ポンプは,壊食対策として案内羽根先端部に特殊ライニングを施工している。今回の整備時点では,案内羽根先端部に壊食は見られず,特殊ライニングが機能していることを確認できた(図7)。
図6 案内羽根(既設ポンプ)
図7 案内羽根(更新ポンプ・整備分解時)
ポンプケーシング内の接液部塗装は,既設ポンプではタールエポキシ塗装を施工しており,ポンプケーシングの現地整備時はケーシングに付着した貝などの海洋生物を除去することに苦労していた(図8)。更新ポンプの接液部塗装は,海洋構造物にも用いられている超厚膜塗装を使用した。本塗装は海洋生物が付着しにくい特性があり,ポンプケーシングの現地整備で前作業が省力化できる副次効果があった。超厚膜塗装の運用状況は,塵芥の衝突や犠牲陽極を取り付ける角部が弱点となって一部塗装剥離した箇所が発生した。塗装剥離箇所は,前述の犠牲陽極により腐食の進行が抑えられており,容易に現地補修を行うことができた(図9)。
図8 ポンプケーシングの貝付着(既設)
図9 塗装面の施工管理状況
今回行った6号主ポンプ設備の整備は,減速機とポンプ回転体の工場整備とポンプケーシングの現地整備であった。更新工事と同様に整備工事も非灌漑期に行うため,現地工事は10月から翌年3月中旬までの6.5ヶ月で機器の撤去・再据え付けおよび運転調整を行うので厳しい工程となる。更新工事では維持管理性の改善に着目し現地据付工程の改善を行っており,今回の整備工事でも効果を発揮し,安全で正確な組み立てと高い施工管理に寄与することが出来た。具体的な改善項目としては,潤滑油系統の改善,回転体の一体組み込みや減速機,電動機の機器配置の工夫などである。6号主ポンプの整備工事は更新工事後最初の分解となるので更新工事での改善点が撤去時に再現できるか懸念もあったが,工場の指導員や更新工事時の工事関係者の助力を得て,無事に回転体を搬出することが出来た(図10)。整備工事の取り組みとして今後も続く新川河口排水機場の主ポンプ設備の整備のために,準備から撤去,搬出,搬入,再据付,犠牲陽極の取り付け,超厚膜塗装の現地補修といった一連の作業要領を手順書に取りまとめ技術の継承に努めた。また厳しい工程を考慮してケーシングの分割治具の検討や減速機の輸送用通函治具の製作,ポンプケーシング組立時に大口径フランジ部の止水施工を検討するなど整備工事での改善工夫も行っている(図11)。
図10 回転体 搬出時
図11 減速機輸送用の通函治具
西蒲原地区は,海抜0m以下の土地が約2割を占める輪中地帯であることから,国営土地改良事業等で多くの常時排水ポンプ機場を建設してきた。これらの排水機場は電動機駆動ポンプであるので,自然災害による長時間停電で排水が停止すると,地域の農業産業や生活に多大な影響を与える恐れがある。新川河口排水機場では,過去に2005年の大寒波に伴う暴風雪による停電で8時間,2012年の発達した低気圧の影響による停電で12時間の稼働停止があった。近年大規模な自然災害が増えており,長時間の停電時に対する常時排水を確保するシステムが求められるようになった。
新川流域農業水利事業の新川河口排水機場予備電源設備建設工事において,停電時にポンプ1台を12時間稼働できる予備電源システムを構築した。予備電源設備建設工事は2017年7月から2019年3月の期間で行っている。予備電源システムの構成を図12に示す。これにより停電時は電源系統の切り替えで予備電源からの給電が可能となった。
・固定式発電機(951kWディーゼル機関)1 000kVA×3.3kV×50Hz ×1台
・移動式発電機(430kWディーゼル機関)500kVA×6.6kV/3.3kV×50Hz ×2台
・燃料貯留設備 4 000L屋外燃料貯油槽 ×1基
940L屋内燃料小出槽 ×1基
・給排気設備 給気・排気ファン ×1式
・電気設備 ×1式
図12 新川河口排水機場 予備電源システム
予備電源システムは,固定式発電機と移動式発電機2台の合計3台を同期運転することで合計2 000 kVAの発電能力を有している。移動式発電機は電源車として電力会社に多く納入されているものであるが,排水機場用としては初の設備である。予備電源システムの電気設備は,予備発電システムの制御盤に加えて,既設電気設備に予備電源システムから給電する電源切替盤,運転対象とする5号主ポンプの始動方式を直入れ始動から特殊コンドルファ始動に変更する始動盤などで構成されている。特殊コンドルファ盤は,5号主ポンプの整備中は6号主ポンプを運転対象にするための切替盤も設けている。
同地区内には新川右岸排水機場,旧木山川排水機場や小新排水機場など地域の排水を担う多くの電動機駆動ポンプの排水機場がある。西蒲原地区では,これらの機場の予備電源供給を移動式発電機(図13)で行う画期的な取り組みを行っている。新川河口排水機場は6.6 kVで受電しているが,既設設備との接続を検討し電源切替設備は変圧後の3.3 kVに接続している。排水機場を立地する場所の給電電源事情やコスト比較により,機場の受電電圧は6.6 kVや3.3 kVが混在している。このため,他機場の予備電源にも対応する移動式発電機は6.6 kVと3.3 kVの電源切替器を車載している。地区内機場への予備電源システムの導入では,機場毎に電源切替の手順が異なることや使用頻度が少ないことから,移動式発電機の運転操作方法の周知が課題であった。そこで機場毎に運転操作説明の動画を作成し,維持管理者が確実に操作できるように工夫している。
図13 新川右岸排水機場 移動式発電機
1970年の建設当時東洋一とうたわれた新川河口排水機場の関連工事や整備工事に関わることは,超大型ポンプの建設に関わった方々の工夫や苦労に機器を通して触れることができ貴重な経験となった。新川河口排水機場は,河口という腐食しやすい環境下でも丁寧に維持管理が行われたことで建設から40年という間,地域の灌漑に活躍してきた。今後も地域の安心に寄与していくため,ポンプ設備の整備や予備電源の導入のような新たな取り組みに貢献していきたい。最後に,現在も貴重なご指導・ご協力をいただいている,新川流域農業水利事業所,新潟県並びに西蒲原土地改良区の関係各位に心から感謝の意を表する。
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