三浦 信二* Shinji MIURA
小林 精司** Seiji KOBAYASI
吉田 誠* Makoto YOSHIDA
渡邊 勤*** Tsutomu WATANABE
*
風水力機械カンパニー システム事業部 社会システム技術部
**
風水力機械カンパニー システム事業部 新事業開発部
***
風水力機械カンパニー システム事業部 社会システム建設部
横芝揚水機場の導水路ポンプ設備は,1977年に建設され房総半島の水需要に対する供給の一翼を担ってきた。改修工事では用水の安定供給機能を持続するため,導水路ポンプ設備,高圧受電設備,電気制御及び監視操作制御設備,補助機器設備の更新を行った。本工事の概要と取り組みを報告する。
The Yokoshiba pumping station’s water pipeline pumping system was constructed in 1977. It has played a role in supplying the water needs of the Boso Peninsula. In order to maintain a stable water supply, the water pipeline pump equipment, high-voltage power receiving equipment, electrical control and monitoring operation control equipment, and auxiliary equipment were renewed. An overview of this construction project and its efforts is reported.
Keywords: Double suction volute pump, High voltage inverter, Induction motor, Renewal construction
房総導水路は房総半島への水需要に応えるため,利根川の水を南房総にある大多喜町まで,約100 kmもの長い距離を送水する導水路である(図1,図2)。1977年から供給を開始した導水路設備は,運用開始から約半世紀を経過し経年による設備の老朽化が進んでいた。東日本大震災を契機に老朽化した設備の対策が急務となり,2014年に同施設を管理する独立行政法人水資源機構が房総導水路施設緊急改修事業を開始した。当社では2015年に水資源機構から,房総導水路の施設のひとつである横芝揚水機場において,老朽化したポンプ設備のシステム設計・製作・据付を含む改修工事を受注し,2020年に無事工事を完了した。以下に今回改修した導水路ポンプ設備について工事の概要を紹介する。
図1 房総導水路断面図 引用元:独立行政法人水資源機構 房総導水路管理事務所HP 房総導水路について_断面で見る <a href="https://www.water.go.jp/kanto/bouso/02dousuiro/danmen.html">https://www.water.go.jp/kanto/bouso/02dousuiro/danmen.html</a>
図2 房総導水路平面図
横芝揚水機場の導水路ポンプ設備は,栗山川から取水した水を大網揚水機場に揚水するポンプ設備である。近年の水需要から改修工事では,導水路ポンプ設備4台の内3台を改修,1台を休止としている。改修前後の主要機器仕様を表1に示す。また,改修後のポンプ室平面を図3及び導水路ポンプ設備の断面図を図4(図中に赤線は改修後の機器を示す)に示す。
機器・施設名 | 改修前 | 改修後 | 備考 |
導水路ポンプ | φ1 100 mm×1 000 mm 両吸込渦巻ポンプ×4台 3.25 m3/s×45 m×1 850 kW |
φ1 200 mm×800 mm 両吸込渦巻ポンプ×3台 3.25 m3/s×45 m×1 740 kW フライホイール装置付き |
4号は休止 |
吸込弁 | φ1 200 mm横置電動仕切弁×4台 | φ1 200 mm横置電動仕切弁×3台 φ1 200 mm横置手動仕切弁×1台 |
4号は手動 |
吐出 主弁 |
φ1 100 mm電動蝶型弁×4台 | φ1 100 mm電動蝶型弁×4台 | 1~3号整備 |
逆止弁 | - | φ1 100 mmスイング式×3台 | 1~3号新設 |
吐出 補助弁 |
φ1 100 mm電動蝶型弁×4台 | φ1 100 mm電動蝶型弁×3台 φ1 100 mm手動蝶型弁×1台 |
4号は手動 |
主 原動機 |
巻線形三相誘導電動機×4台 3.3 kV×1 850 kW |
かご形三相誘導電動機×3台 3.3 kV×1 740 kW |
4号は休止 |
速度制御装置 | セルビウス装置×2組 始動用液体抵抗器×2組※ 主電動機二次切替装置×4面※ 液体抵抗器二次切替装置×1面※ 液体抵抗器現場盤×2面※ |
高圧インバータ盤×3台 | ※4号用に1組残置 |
補助機械設備 | 換気ファン,排気ファン×1式 | 換気ファン,排気ファン×1式 | 1式改修 |
電源 設備 |
高圧配電盤,引込盤,母線連絡盤×1式 | 高圧配電盤,引込盤,母線連絡盤×1式 | 1式改修 |
動力変圧器盤,商用・自家用発切替盤,動力配電盤,照明変圧器盤×1式 | 動力変圧器盤,商用・自家用発切替盤,動力配電盤,照明変圧器盤×1式 | 1式改修 | |
コントロールセンタ×1式 | コントロールセンタ×1式 | ||
状態監視装置 | ー | 観測センサ類,データ監視装置×1式 | 新設 |
図3 ポンプ室平面図
図4 ポンプ室断面図
導水路ポンプ設備の機械設備,電気設備及び補助機械設備について改修工事で取り組んだ内容と,改修に併せて導入した状態監視設備を以下に紹介する。
①導水路ポンプの効率
改修する導水路ポンプは既設と同一要項であるが,ポンプ効率の向上により電動機出力は1 850 kWから1 740 kWとなっている。本工事では,最新のハイドロモデルを適用し従来よりも大幅にポンプ効率を向上させている。工場のポンプ性能試験では,ポンプ,電動機,高圧インバータ装置を組み合わせた総合効率の確認も行った。総合効率は,既設ポンプ設備のセルビウス装置と巻線形電動機の組み合わせを上回る高い効率値(水動力/高圧インバータ装置入力電力)が得られた。
②導水路ポンプ設備の非常停止に対する対応
既設の導水路ポンプ設備は逆止弁がなく,停止時は水撃対策として吐出弁をインチングで閉じる操作が必要となっていた。改修する導水路ポンプ設備は,逆止弁とポンプのフライホイール装置で非常停止時の水撃対策を行っている。このため,既設ポンプ設備に比べて改修するポンプ設備は,フライホイール装置分だけ軸方向に長くなる。一方,既設集合管の位置は変わらないため,ポンプ号機間のスペースが狭くなる。改修するポンプ設備は板バネ式自在継手のスペーサ形状を工夫して,軸方向の長さを抑えることで号機間のスペースを確保している(図5 導水路ポンプ)。
図5 導水路ポンプ
③吸込管更新の工夫
導水路ポンプ設備の改修には,吸水槽の吸込管も含まれていた。吸込管の吸水槽側はフランジ接続箇所がなく,吸水槽外の吸込弁まで一本の管で施工されていた。既設の図面や事前の現地調査では吸込管に直管部の有無が確認できず,既設吸込管切断後の既設配管と更新配管の溶接方法が課題となった。そこで,既設配管と更新配管の現地溶接は突合せではなく,バンド(鋼帯)を巻いて行う溶接接続を検討した。既設吸込管に直管部を確保できれば配管の外側をバンド溶接,直管部が確保できなければ内側をバンド溶接とする計画だったが,実際の施工では外バンド溶接となった(図6 施工前,施工後)。
図6 吸込管
①特別高圧受電設備との調整
横芝揚水機場の改修工事期間中に,別途工事で横芝揚水機場の特別高圧受電設備の更新工事を行っている。横芝揚水機場は特別高圧の2回線受電を行っており,導水路ポンプ設備1台目更新時は,特別高圧受電設備の1号系の更新があった。1号系が休止となるため,2号系からポンプ設備の新・旧高圧引込盤に送電するための仮設配線を設けるなど,運用中設備の切り替えには機場管理者及び作業者間との調整を密に行い対応した。ポンプ設備更新ごとの電気設備切り替えの手順を図に示す(図7,図8,図9 電気設備切り替え手順)。
図7 電気設備 更新手順
図8 電気設備 更新手順
図9 電気設備 更新手順
②速度制御器の切替対応
改修工事の施工中においても導水路ポンプ設備の運用を継続するため,工事期間中も導水路ポンプ3台の運用維持が必要となっていた。既設導水路ポンプの速度制御を行うセルビウス装置は,セルビウス装置1台で導水路ポンプ2台の速度制御を行う構成であった。改修工事では更新する導水路ポンプ設備にあわせて高圧インバータ盤を設置する必要がある。一方,既設ポンプを運用するためにセルビウス装置は段階的な撤去となる。このため,既設電気室の配置スペースを考慮した盤の切り替え手順を検討する必要があった。具体的にはポンプ設備更新ごとの電気設備切り替え手順に示す図において,以下のような順序で行った。
・1期工事(導水路ポンプ1号改修時):既設No.1セルビウス装置を撤去し,更新する高圧受変電設備と1号高圧インバータ盤を設置。運用時の速度制御は1号が高圧インバータ盤,3,4号がセルビウス装置。
・2期工事(導水路ポンプ2号改修時):既設母線コンデンサ盤を撤去・移設し,2号高圧インバータ盤を設置。運用時の速度制御は1,2号が高圧インバータ盤,3,4号がセルビウス装置。
・3期工事(導水路ポンプ3号更新時):既設No.2セルビウス装置を撤去し,3号高圧インバータ盤を設置。運用時の速度制御は1~3号が高圧インバータ盤。
・4期工事(導水路ポンプ改修完了時):既設母線コンデンサ盤を撤去し,撤去部に低圧ロードセンタを設置
③高圧インバータ盤設置時の検討
既設電気室に設置する高圧インバータ盤は,変圧器を内蔵するため質量が約10 000 kgとなる。建設当時の建築図で電気室床の梁構造を確認し,盤の荷重に電気室の床強度が満足することを確認した。
①電気室換気設備の対応
電気室に配置する速度制御器は,既設がセルビウス装置2台に対して,改修では高圧インバータ盤が3台となる。電気室換気設備の吸気・排気ファンは,既設速度制御器の台数に合わせて各2台となっていた。既設換気室に換気設備台数を増やす設置余地がないため,改修工事では吸気・排気ファンを低圧インバータで回転速度制御を行い,高圧インバータ盤運転台数と換気風量の適正化を図っている。また,高圧インバータ盤の防じん対策として,吸気ファン室の吸気口にはロールフィルタを設置し,フィルタ差圧でロールフィルタの状態を制御している。
状態監視装置は,点検業務の省力化,状態監視の強化及び劣化診断への準備を目的として,改修工事で新たに導入した。システム構成を図10に示す。
図10 状態監視装置システム構成図 引用元:草野明彦,ポンプ設備のリアルタイム状態監視について,JAGREE,No.98(2020・5)の図4を加工して作成
本工事で納入した状態監視装置の主な特徴を以下に示す。
①データ収集機能
主ポンプ:監視操作卓で収集しているデータ(水位,流量,回転速度,電流,電圧等)に加え,圧力や振動センサなどを追加し,本データを全てデータロガに取り込み主ポンプの状態を一元管理。
補機設備:換気ファンの電流,電圧や所内排水ポンプの漏洩電流測定など電気特性を管理。制御機器:制御機器は環境影響を受けやすいので,温度,湿度を管理。
上記データを状態監視することでポンプ設備全体のデータ管理を可能としている。
②データ表示機能
データロガで収集したデータは,横芝揚水機場や大網揚水機場操作室に設置した各PC端末と巡視点検時に手元で確認できるようにタブレット端末での監視を可能としている。監視可能な機能は以下となる。
・リアルタイムトレンド機能 収集中のリアルタイムデータをトレンドグラフで表示する機能
・イベント表示機能 ポンプ運転・停止等のステータスが変化したときの状態を表示する機能
・状態表示機能 アナログ,デジタル入力,デジタル出力ごとにデータ表示する機能
③データ保存機能
データロガは短期間データしか保存できないため,データ収集装置にデータを転送する機能を有している。本機能により長期間のデータを蓄積することで劣化診断分析に活用できる。
約5年に渡る長い工事で,課題に対応しながら無事故で工事を完了できたのは,本工事に携わった多くの関係者のおかげであり,ひとえに感謝する。工事を円滑に完了し房総導水路の緊急改築工事に大きく貢献したことが評価され,水資源機構本社より優良工事表彰,優秀工事技術表彰及び安全管理優良工事表彰を頂いた。最後に,長きにわたり貴重なご指導・ご協力を頂いた水資源機構本社ならびに千葉用水総合管理所の関係各位に深く感謝の意を表する。
1) 独立行政法人水資源機構 房総導水路管理事務所HP房総導水路について_断面で見るより.
2) 草野明彦,ポンプ設備のリアルタイム状態監視について,JAGREE,No.98(2020・5).
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