田中 亮* Akira TANAKA
重山 圭* Kei SHIGEYAMA
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風水力機械カンパニー システム事業部 社会システム技術部
国土交通省 四国地方整備局のポンプ設備更新工事において,機械設備CIMの導入に向けた試行・検証業務を行った。本業務はBIM/CIM活用ガイドライン(案)第6編 機械設備編に準拠したものであり,設計成果物の電子納品まで実施した。BIM/CIMの活用は,施工段階,維持管理段階での効率化・高度化・品質向上を目的としており,今後の適用拡大が期待される。
Trial and verification work for the introduction of CIM for machinery and equipment was conducted for the Shikoku Regional Development Bureau of the Ministry of Land, Infrastructure, Transport and Tourism's pump equipment renewal construction. This work was conducted in accordance with the BIM/CIM Utilization Guidelines (Draft), Volume 6, Machinery and Equipment, and was completed up to the electronic delivery system of the design deliverables. The utilization of BIM/CIM is intended to improve efficiency, sophistication, and quality in the construction and maintenance phases, and its application is expected to expand in the future.
Keywords: Pump, Renewal, Reconstruction, Pump station, Ministry of Land, Infrastructure, Transport and Tourism, CIM, Guidelines, Three dimensional, CAD, Construction, Maintenance, Electronic delivery system
BIM/CIM(Building/Construction Information Modeling, Management)とは,調査・計画・設計段階から3次元モデルを導入し,その後の施工,維持管理の各段階においても,情報を充実させながらこれを活用するものである。併せて事業全体にわたる関係者間で情報を共有することにより,一連の建設生産・管理システムにおける品質確保とともに受発注者双方の業務効率化・高度化を図ることが期待できる(図1)。
図1 BIM/CIMの概要 Fig. 1 Overview of BIM/CIM
近年,国土交通省の推進するBIM/CIMは土木建築分野が先行して普及が進んできたが,機械設備分野においてもガイドラインやマニュアルが整備され導入が始まっている(図2)。
図2 揚排水ポンプ設備のモデル統合 Fig. 2 Model integration of pumping and drainage pump equipment
設計段階で作成されたBIM/CIMモデルを施工実施段階における「設計図書」の一部として,あるいは従来の「積算参考資料」の一部(仮設や施工方法に限定したBIM/CIMであり,かつ任意施工の範囲である場合)として示すことによって,工事受注者が当該内容の精査を行える。加えて,現場における据付工程に制約がある場合あるいは設計段階に対して条件変更が発生した場合等の仮設方法や施工手順の見直しなどに活用できる。
また,BIM/CIMモデルを工事関係者に対する各種の説明資料作成に活用することで,従前の紙ベースの資料に比べ理解しやすさが増し,意思決定の迅速化,据付工程の信頼性向上,安全確保に寄与できる(図3)。
図3 施工段階での活用事例 Fig. 3 Example of use at the construction stage
本工事は,正法寺川排水機場の機能向上を目的として施設全体の無水化を図るため,機器の更新を行った。無水化のため,1,2号主ポンプは無注水メカニカルシールに,主原動機は機付ラジエータ冷却方式に,減速機はポンプ揚水による自己冷却式とした。3号機については,原動機,減速機は撤去したが,ポンプは存置とした(図4,表1,図5,図6)。
図4 更新後の機場内 Fig. 4 View of pump station after reconstruction
設備名 Equipment |
更新後設備 Equipment after reconstruction |
既設設備 Equipment before reconstruction |
主ポンプ設備 Main pump |
φ1 200 mm立軸斜流ポンプ×2台 Vertical axis mixed flow pump 要項 Specifications 4.0 m3/s×4.6 m×320 kW |
φ1 200 mm横軸斜流ポンプ×2台 φ1 000 mm横軸斜流ポンプ×1台 Horizontal axis mixed flow pump 要項 Specifications φ1 200 mm 3.0 m3/s×3.5 m×162 kW φ1 000 mm 2.0 m3/s×3.7 m×110 kW |
主原動機設備 Driver |
機付ラジエータ式ディーゼル機関(セルモータ始動) Diesel engine with radiator (Starting method with using a starter motor) |
水冷式ディーゼル機関(空気始動) Water-cooled diesel engine (Starting method with compressed air) |
動力伝達設備 Power transmission equipment |
直交軸傘歯車,ポンプ搭載型減速機 Orthogonal axis bevel gear speed reducer pump mounted type |
遊星歯車減速機 Planetary gear speed reducer |
補機類 Auxiliary equipment |
燃料小出槽×1基,容量700 L Fuel tank, capacity 700 L |
燃料小出槽×1基,容量490 L Fuel tank, capacity 490 L |
燃料移送ポンプ×2台,0.75 kW,歯車ポンプ Fuel transfer pump, Gear pump |
燃料移送ポンプ×2台,0.4 kW,歯車ポンプ Fuel transfer pump, Gear pump |
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給気ファン×4台 Air supply fan |
真空ポンプ×2台 Vacuum pump |
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排気ファン×2台 Air exhaust fan |
補水槽×1基,容量140 L Supply water tank, capacity 140 L |
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- | 膨張タンク×1基,容量1 000 L Expansion water tank, capacity 1 000 L |
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- | 高架水槽×1基,容量1 000 L Elevated water tank, capacity 1 000 L |
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監視操作制御設備 Monitoring operation control equipment |
主ポンプ盤×1面 Main pump operation panel |
主ポンプ盤(1),(2)×2面 Main pump operation panel |
系統機器盤×1面 Auxiliary equipment operation panel |
補機盤(1),(2)×2面 Auxiliary equipment operation panel |
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電源設備 Power supply equipment |
引込開閉器盤×1面 Retractable switch panel |
引込開閉器盤×1面 Retractable switch panel |
低圧受電盤×1面 Low voltage power receiving panel |
低圧主幹盤×1面 Low voltage power receiving panel |
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直流電源盤×2面,主原動機始動用 DC power supply panel,for starting a diesel engine |
直流電源盤×2面,発電機始動用 DC power supply panel,for starting the generator |
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キュービクル形ディーゼル発電機×1台 Cubicle type diesel generator |
オープン形ディーゼル機関×2台 Open type diesel generator |
図5 更新工事後の機場平面図 Fig. 5 Layout plan of pump station after reconstruction
図6 更新工事後の機場断面図 Fig. 6 Cross-sectional view of pump station after reconstruction
設計段階でのCIMモデルとして既設建屋及び設備の3次元点群スキャンデータに更新計画設備の3次元CADデータの統合されたモデルを顧客から引き継いだ(図7)。
図7 受注時のCIMモデル Fig. 7 CIM model at the time of order
なお,CIMモデルでは機器の形状などを表現する「詳細度」が国土交通省BIM/CIM活用ガイドライン(案)により工種別に定められている(図8)。
図8 CIMモデル詳細度 Fig. 8 CIM Model Detail
モデル作成の労力や機器メーカーのノウハウ漏洩防止の観点なども踏まえ,顧客と以下のような事前協議を行った。
ポンプ設備としての前例のないCIMの実施サイクルを実現するために必要なモデル内容を検討の上,モデル詳細度を300(一部400)とする。また,施工後の維持管理段階のための属性情報の作成及び付与方法の確立,完成データ格納方法などの様々な詳細仕様を協議し,決定事項を実施計画書として提出した。
入手したCIMモデルから必要な範囲の建屋形状を点群データからサーフェスモデルへ変換するために,最適なCADツールを選定し3次元CADデータとして作成した。そのCAD空間に更新対象の機器の3次元CADモデルを統合して,配置の検討や既設構造物との干渉確認や搬入出など施工計画の検討を空間設計として活用した(図9)。水冷式から空冷ラジエータ方式のエンジンへの更新に伴う給排気ダクト追加や燃料タンク位置の変更,消音器および排気管ルートの検討に大きく役に立った。
図9 3次元CADモデルでの空間配置検討 Fig. 9 Space layout study with 3D CAD model
竣工時の状態に合わせて機器モデル形状や配置などの細かな差異を整合し,3次元モデルの仕上げを行った。機器モデルには維持管理段階にて活用するための属性情報を,モデル名称を表現するテキストに表計算ソフトへハイパーリンクで外部参照した。外部参照したファイルは機器の外形図,計算書や仕様書,検査成績書及び取扱説明書などである。従来の完成図書の目次を3次元モデルにより視覚的に活用できる方法を採用した(図10)。
図10 竣工CIMモデルと属性情報 Fig. 10 Completion CIM model and attribute information
3次元モデルのビューワソフトの選定では,一般的に普及する表計算ソフトと各種資料への外部参照機能が活用できるソフトを検討した。使用ソフトを含めて顧客と協議の上,属性情報を有したポンプ設備としての竣工CIMモデルの作成方法を確立した。完成したCIMデータはガイドラインに定められた電子納品様式に従い,メディアに格納して顧客へ納品となった。
国土交通省の受注工事におけるBIM/CIM導入事例について紹介した。大規模構造物の詳細設計業務への推進から始まったBIM/CIM導入であるが,機械設備についてもガイドラインが整備されたため,今後適用が広がっていくものと考える。結びに,本工事のBIM/CIM導入にあたりご指導・ご協力をいただいた国土交通省 徳島河川国道事務所の監督員をはじめ関係者の皆様に,心から感謝の意を表す。