岡部 雅史* Masafumi OKABE
福本 敬** Takashi FUKUMOTO
枝 亮平** Ryohei EDA
池田 向志*** Hisashi IKEDA
*
風水力機械カンパニー システム事業部 社会システム技術部
**
風水力機械カンパニー システム事業部 社会システム建設部
***
風水力機械カンパニー システム事業部 社会システム営業部
当社は熊本県八代市の昭和地区にある昭和同仁排水機場設備を県営経営体育成基盤整備事業として新設工事を行った。新設するポンプ設備の概要を紹介するとともに,設備の特長,設計で工夫した維持管理負担の低減と施工に活用したデジタル技術について報告する。
The Showa Dojin drainage pump station facility in the Showa district of Yatsushiro City, Kumamoto Prefecture was newly constructed as part of a structural improvement project of prefecture entities. This report presents an overview of the new pumping system, the features of the system, and the digital technology used in the design to reduce the burden of maintenance and management and in the construction.
Keywords: Showa Dojin drainage pump station (Yatsushiro city, Kumamoto prefecture), Maintenance, In-pipe heat exchanger
熊本県八代市の昭和地区は,八代海に面しており,県営の干拓により造成された低平地であることから地下水位が高い。当地区には,現昭和同仁排水機場があるが,建設から40年以上経過しており,老朽化による機能低下がみられ,梅雨時期は度々湛水する状況にあり,水田の汎用化や畑作物の導入に支障をきたしていた。
県営昭和地区経営体育成基盤整備事業では,施設機能の維持向上を目的として,農道や排水路,排水機場の更新整備を行っている。当事業により湛水被害の軽減や地下水位の低下による農作物の品質向上,農地汎用化による新たな畑作物の導入拡大,農作業の水管理の効率化を推進し,水田農業経営の安定と発展を図るものである。
昭和地区の排水機場整備は,現昭和同仁排水機場の老朽化に伴い,隣接する場所に新たに昭和排水機場を新設(以下,「新昭和同仁排水機場」という)し,吸込水路,土木基礎,上屋建築,吐出樋管などが整備された。当社は,ポンプ設備に関わる機械,電気設備工事を受注し,2018年12月から2022年1月にわたり,機械製作,据付工事,試運転を行った。
(1)納入設備
当社が納入した主な設備(表1)と各種図面(図1~図3)と機場外観(図4)と内部(図5)を示す。
本機場は,表1に示す設備の他に別途工事にて受電設備,自家発電設備,燃料設備,除塵設備,ゲート設備を受注・施工した。
機器名 | 仕様 | |
主機設備 | No.1~4主ポンプ | φ1 200 mm横軸斜流ポンプ 3.0 m3/s×3.1 m |
No.1~4主原動機 | ディーゼル機関 147 kW×1 500 min-1 |
|
No.1~4歯車減速機 | 横軸平行軸2段減速機 | |
No.1~4逆流防止弁 | φ1 500 mmフラップ弁 | |
No.1~4吐出弁 | φ1 200 mm横軸短面間電動蝶形弁 AC 200 V 60 Hz×1.5 kW |
|
No.1~4管内クーラ | φ1 200 mm管内クーラ | |
補機設備 | 膨張タンク | 鋼板製角型貯水槽 2 000 L |
No.1,2真空ポンプ | φ50 mm水封式真空ポンプ | |
No.1,2空気圧縮機 | L型空冷2段圧縮機 | |
No.1~4始動空気槽 | 鋼板製高圧空気槽 100 L×2連 |
|
可搬式ポンプ | φ100 mm可搬式水中ポンプ | |
電気設備 | No.1~4主ポンプ盤 | 屋内鋼板製閉鎖自立盤 |
補機盤(1)(2) | 屋内鋼板製閉鎖自立盤 | |
No.1~4主ポンプ 機側操作盤 |
屋内鋼板製スタンド盤 | |
計装設備 | 吸込水路水位計 | 圧力式水位計 |
吸込水槽水位計 | 電極式3 P | |
吐出水槽水位計 | 電波式水位計 | |
付帯設備 | 天井クレーン | 手動式天井走行クレーン 5 t×12.9 m |
図1 全体平面図
図2 配置平面図
図3 配置断面図
図4 機場外観
図5 機場内部
(2)設備の特長
新昭和同仁排水機場は,吐出配管に設けられた管内クーラでエンジン冷却水および減速機冷却水を冷却することによって,冷却水系統の簡素化を図った。さらに無注水メカニカルシールを採用することでポンプ軸封水を無くし,設備の信頼性向上に繋げた。
管内クーラは,冷却水配管を内部に配置し,主ポンプ吐出水(排水)を利用して冷却水を冷やす構造となっている。臨海地域では腐食の進行が速くなる懸念があるが,本管内クーラは,重要な部位である冷却管を,側面から引き出し,点検や部品取替が可能な構造になっている。
操作運用や制御に必要な計測機器についても,耐希釈海水を考慮した防食を実施し,故障リスクの低減を行っている。
新昭和同仁排水機場のポンプ設備は,維持管理の負担低減を考慮して,以下の工夫を実施して製作および施工した。
(1)主ポンプ軸封装置
本機場の軸封装置の計画は,無注水軸封装置であった。軸封装置は,大別すると接触型と非接触型の2種類あり,今回は吸い上げの横軸斜流ポンプのため,運転中に軸封部から空気を吸込まないよう接触型の無注水メカニカルシールとした。消耗部品であるシールリング(固定環)及び交換時に分解する部品は,2つ割り構造を採用することで,主ポンプを分解することなく,軸封装置の消耗品交換を可能とした。
(2)主ポンプ水中軸受
横軸斜流ポンプの水中軸受は,従来,自動グリースポンプを使用して水中軸受へグリース供給する構造が多い。グリースは主ポンプの運転時間に応じて減るため,適宜,グリースタンクへグリースを補給する必要がある。この作業は維持管理上,大変な労力一つとなっている。また,グリース切れは軸受異常や主ポンプの重大故障に至る恐れがあるため,本工事では無給油型水中軸受を採用した。これにより水中軸受の維持管理負担の低減と信頼性の向上を図った。
(3)主ポンプ満水検知器
通常の満水検知器は,電極棒に泥が付着することによって誤動作をすることがある。本工事では,耐泥型満水検知器を選定し,満水検知の誤動作を防止するようにした。
(4)空気槽ドレン
空気槽ドレン分離器は圧縮空気に含まれる水分を分離するものだが,定期的に手動弁を開きドレン抜きをする必要がある。定期的なドレン抜きを行わない場合,配管内に錆が発生し,故障の原因となる。本工事ではドレン弁を手動弁から電磁弁にし,空気圧縮機による自動充気のたびに電磁弁を開いてドレン抜きするようにした。
(5)吸込水路水位計(投込式水位計)
本機場の吸込側はゲートを介して海とつながっているため,耐食性を考慮して海水用水位計を採用することにより,故障リスク軽減を図った。
(6)吸込水槽水位計(電極棒)
前述のとおり,本機場は臨海地域に建設されていることから,一般的に使用されるSUS304からチタンに変更し耐食性を向上させている。
図6 3次元データによる完成予想図
(1)エンジン工場検査
エンジン工場立会検査は令和2年2月に行った。この時期は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大が始まった時期であり,感染防止対策として遠隔臨場検査で対応した。エンジン検査は騒音が大きいため,社内検査時に撮影した動画データを用いて検査を進めた。感染対策を優先とした取り組みとして,遠隔臨場検査がまだ一般的ではない中での検査実施は顧客に高い評価を得た。
(2)3次元による完成予想図
従来の施工は,2次元の図面(平面図と断面図)から得た情報で完成形を想像するため,干渉物などの影響を見落とす恐れがあった。本工事では3次元データを作成し,視覚的にわかりやすく示した。3次元データはパソコン上で回転させることができ,あらゆる角度から完成予想図確認することができる。小配管や配線検討で修正変更のロスを減らすことができた。
(3)デジタル水平器
従来の施工は,気泡の入ったアナログ水平器を用いていたが,本工事ではデジタル水平器を用いた。デジタルにすることで読み間違えによる測定誤差を無くし,確実な品質管理を行った。
(4)主ポンプ吸込管フランジ
吸込管は吸込水槽にあるため,一部の配管は常に希釈海水に没水する。吸込管は,塗装による防食を施しているが,塗装が剥がれた場合,腐食する懸念がある。また配管はフランジ部が腐食すると取り外し及び再取り付けができなくなる恐れがあるため,管割を工夫して吸込管フランジ部はHWL(High Water Level:計画高水)以上に設置し,希釈海水の影響を受けにくくした。
現昭和同仁排水機場老朽化に伴い,新昭和同仁排水機場を新しく建設する工事で,本事業にて土木建築設備,機械設備,電気設備が一新された。40年以上前に建設された現昭和同仁排水機場は,機側で単独操作をしていたが,新昭和同仁排水機場は,配電盤で連動操作,単独操作ができ,水位も盤面で見られるようになり,運転操作は,格段に容易になった。また,維持管理の負担低減や施工の工夫に対し,顧客から高い評価をいただいた。当社が昭和地区の経営体育成基盤整備事業の一役を担うことができたことを誇りに思う。本工事の施工に際し,熊本県農林水産部をはじめ,大変多くの方々にご指導ご協力をいただいた。関係各位に深く感謝の意を表する。
藤沢工場ものづくり50年の歴史
1966年頃の藤沢工場
縁の下の力持ち 高圧ポンプ -活躍場所編ー
100万kW火力発電所内で活躍する50%容量ボイラ給水ポンプ
RO方式海水淡水化用大容量、超高効率高圧ポンプの納入
長段間流路内の流線と後段羽根車入口の流速分布
縁の下の力持ち ドライ真空ポンプ -真空と真空技術の利用ー
真空の領域と用途例
座談会 エバラの研究体制
座談会(檜山さん、曽布川さん、後藤さん)
縁の下の力持ち 標準ポンプ -暮らしを支えるポンプー
標準ポンプの製品例
座談会 未来に向け変貌する環境事業カンパニー
座談会(三好さん、佐藤さん、石宇さん、足立さん)
世界市場向け片吸込単段渦巻ポンプGSO型
GSO型カットモデル
エバラ時報に掲載の記事に関する不明点やご相談は、下記窓口よりお問い合わせください。
お問い合わせフォーム