梅田 裕介* Yusuke UMEDA
柴山 輝* Hikaru SHIBAYAMA
*
中部リサイクル㈱
再資源化回収プロセスにおいて溶融処理のエネルギー使用量が多い。そこで,当社は,前処理によって焼却残渣中の鉄分を取り除くこと,溶融炉内の電気抵抗を焼却残渣配合調整だけでなく,溶融炉の電極操作などの操業方法を見直すことで溶融炉の電力消費量を削減した。さらに,焼却残渣の乾燥作業の最適化によって都市ガス使用量を削減することができた。本稿では,当社の資源回収プロセスの有用性と課題について言及した上で,当社が取り組んだ省エネルギー活動,その成果についてLCCO2評価を実施したので紹介する。
The melting process exhibits high energy consumption in the recycling and recovery process. We therefore reduced electricity consumption by removing iron from incineration residue through pretreatment and by reviewing operational methods such as electrode operation as well as adjusting the incineration residue mixture in the melting furnace to reduce fluctuations in electrical resistance. Also, the city gas consumption could be reduced by optimizing the drying process of the incineration residues. In this report, we introduce the LCCO2 evaluation of our energy conservation activities and their results, while mentioning the usefulness and challenges of our resource recovery process.
Keywords: Incineration residue, Molten slag, Molten metal, Melting furnace, LCCO2, Urban mine, GHG, Zero emissions, Carbon neutral, Energy Conservation
荏原グループの荏原環境プラント子会社である中部リサイクル㈱は1999年に創業し,「Zero Emission Factory」の実現を企業理念に掲げ,廃棄物処理施設から発生した焼却灰を溶融処理によって無害化し,再製品化する事業展開を行っている。
当社の還元製錬方式によって,一般廃棄物・産業廃棄物の焼却施設から発生する焼却残渣を溶融処理し,重金属類を還元分離している。この処理方式は100%再資源化することができ,貴金属資源が濃縮された溶融メタル,重金属類が濃縮された溶融飛灰(粗酸化亜鉛),そして有害金属の含有量・溶出量がJIS基準値をはるかに下回る数値のスラグを生成することができる。
再資源化プロセスで得られた溶融メタルは精錬会社で貴金属回収を行い,溶融飛灰(粗酸化亜鉛)は非鉄精錬会社において山元還元することで金属資源の回収を行っている。スラグは建築資材等として販売している。
本再資源化技術は,焼却残渣の最終処分量の削減に貢献している。さらに,わが国における枯渇性資源の確保と資源循環活用の観点から,持続可能な社会実現に資するものであるが,電力消費量の大きい処理プロセスである。これは荏原グループが2030年のありたい姿を示した「E-Vision2030」での「CO2約1億トン削減」や国の施策である2050年カーボンニュートラル実現に向けて改善が要求される当社の課題の1つである。
本稿では,溶融処理の有用性と課題について言及した上で,当社が取り組んだ省エネルギー活動について紹介する。
一般廃棄物焼却施設から発生する焼却残渣は,主に埋め立てによる最終処分の他,溶融処理やセメント原料化及び焙焼等の技術によって一部再資源化されている。
一般廃棄物排出量は年間4 811万t(2008年)から4 167万t(2020年)に漸減し,直接焼却量も同様に減少している(図1)。焼却残渣量は,直接焼却量の約10%1
)と仮定した場合,年間357万t(2008年)から319万t(2020年)で推移していると予測される2)。
図1 一般廃棄物焼却残渣の市場規模<sup>2)</sup> Fig. 1 Market size of municipal garbage incineration<sup>2)</sup>
一般廃棄物焼却事業では,焼却により発生する焼却残渣の処理や資源化が円滑に遂行されることで事業の継続性が担保される。具体的には,事業者毎の事業継続リスクを分散する観点から,単純な埋め立て処分だけでなく,焼却残渣の再資源化を勘案した溶融処理・セメント原料化・焙焼設備を保有する再資源化事業者を処理委託先とし,地域特性や再生される資源の特長を考慮した焼却残渣資源化計画が推奨される。なお同資源化費用低減やCO2排出量削減を達成するため,一般廃棄物焼却施設から資源化事業者までの輸送距離・輸送手段への配慮や地域住民の負担とならないよう,事業者の立地条件が重要となる。
また近年自然災害が多発しており,被災地で発生する廃棄物の再資源化や焼却が困難な災害廃棄物の仮置き又は埋め立て用地の確保が問題となっている3)。災害廃棄物を最終処分場へ一時的に仮置きし,焼却施設の復旧に従い焼却処理する傾向が見られる。このような状況から,最終処分場の残余容量を残すため,焼却残渣の減容化・資源化を志向する自治体が増えつつある。
溶融処理は廃棄物を高温で加熱し,溶融スラグ化する技術であり,焼却残渣を減容化・無害化できることが特長である4)。図2に再資源化プロセスを示す。自治体や民間の焼却施設から発生する焼却残渣には鉄分が含まれている。このため,磁力選別により鉄分を除去し乾燥工程を経て溶融炉内へ装入される。塩濃度が高い灰は水で洗い流す脱塩工程を経た後に,造粒,乾燥を行い炉内へ送られる。溶融後は溶融スラグ,溶融メタル,及び溶融飛灰を生成する。溶融メタルは鉄が主成分であるが,金・銀・銅などの有用金属を含有し,これら金属の精錬原料(合金)として販売される。溶融飛灰には亜鉛・鉛や塩類が濃縮されており,これも原料用製品として販売される。
図2 再資源化プロセス Fig. 2 Recycling process
3-1節でも述べたように溶融飛灰や焼却飛灰は高濃度の塩類を含んでいるため,水とともに攪拌して塩類を溶解し,圧搾型脱水機で塩類と水分を除去してケーキ化する(図3)。溶融飛灰は脱塩後,亜鉛が所定の濃度にまで濃縮されたケーキを精錬会社で山元還元している5)。
図3 脱塩プロセス Fig. 3 Dechlorination process
焼却残渣中に鉄分(特に大きな塊)が含まれたまま溶融炉に装入すると,原料供給系のトラブル発生の可能性や電力消費量が増加する。磁選機(図4)により鉄分を可能な限り取り除く必要がある。
図4 磁選プロセス Fig. 4 Magnetic separation process
焼却残渣は,輸送時に飛散しないようにするため,加湿して運搬している。しかし,水分が含まれたままの焼却残渣を溶融炉に装入すると,この水分を蒸発させるために余分な電力消費が必要になる。溶融炉に装入する前に都市ガスを燃料としたロータリーキルン乾燥機(図5)で焼却残渣の水分を乾燥する。
図5 ロータリーキルン乾燥機 Fig. 5 Rotary kiln dryer
脱塩プロセス,磁選プロセス,乾燥プロセスを経た焼却残渣を溶融炉(図6)に装入し,溶融処理を実施する。溶融炉では溶融メタル,溶融還元石を製造する。
図6 溶融炉 Fig. 6 Melting furnace
当社の溶融メタル(図7)は合金鉄として製造され,貴金属成分として金,銀,銅が含まれる。この合金鉄を精錬会社に販売し,動脈産業に還元している。
図7 溶融メタル Fig. 7 Molten metals
自治体が設置する一般廃棄物処理施設では設備費や処理の容易さから,焼却灰を溶融し,水砕スラグを生産しているケースが多い。水砕スラグは細骨材相当の粒度となっており,一般的には天然砂の代替材として利用される。それに対し,当社の溶融還元石(図8)は徐冷スラグ6),7)であり,天然の石材の硬石相当の品質を有している。
図8 溶融還元石 Fig. 8 Molten reduction stone
当社の溶融還元石は有害金属の含有量・溶出量がJIS基準値をはるかに下回る数値となり,環境安全性に優れている。さらに,溶融還元石の割ぐり石は愛知県のリサイクル資材認定制度である通称「あいくる」の認定を受けており,河川・港湾工事や軟弱地盤対策の盛土材,擁壁材などに同石を用いた施工事例も増えてきている8),9),10)。
脱塩プロセスによって得られる亜鉛・鉛原料(図9)は精錬会社に売却している。通常,精錬会社は,鉱山から採掘された鉱石を選鉱して得られる精鉱から亜鉛を精錬しているが,当社が製造した亜鉛・鉛原料はその精鉱の品位レベルに相当し,天然の資源と同様に精錬することができる。
図9 亜鉛・鉛原料 Fig. 9 Zinc・Lead materials
中部リサイクルの溶融処理は,焼却残渣を「都市鉱山」と位置づけ,焼却残渣から有用金属資源の回収,土木資材としての石材(溶融還元石)を製造することで100%再資源化が可能である。また,一般廃棄物焼却事業の事業継続性に関わる課題解決において,当社は安全かつ安定的な委託先としての役割を果すことができると考えられる。
しかしながら,溶融処理はエネルギー使用量が多く国の施策の2050年カーボンニュートラル実現に向け,当社ではエネルギー使用量削減を課題とした。省エネルギーを全社目標として掲げ,設置した省エネルギー委員会が中心となり全社員での省エネ活動を取り組んできた。
これまでの省エネ活動では,毎年設備改修などを実施してきた。2016年度は省エネに関わる設備改修の項目が無く,省エネルギー委員会の活動は事務局が取りまとめたエネルギー使用量の報告のみ行われていた。事務局が委員会メンバーに質問しなければ議論もされない状態であった。事務局だけが省エネ活動を行っている状況となり,2016年度の工場全体エネルギー原単位は昨年度に比べ増加してしまった。今後継続して省エネ活動を行うには,委員会メンバーが自発的に省エネ活動に取り組むことが必要であった。
また,省エネ活動は委員会メンバーだけではなく各部の連携,全社員で取り組む事例も発生すると考え,省エネルギー委員会の組織変更と全社員の省エネ意識向上を目的とした勉強会を実施した。
全社教育の勉強会題材に「事業者クラス分け評価制度」※を取り上げ,実施した。全社目標として工場全体エネルギー原単位を昨年度比-1%達成することを設定し,この目標達成に関わる成果を各自の人事考課にも反映するようにした。
従前の省エネルギー委員会では営業部門が参加していなかったため,焼却残渣入荷や製品出荷においての省エネ議論がなされていなかったが,同部門が参加(図10)することで工場全体の作業フローについて,全体最適の視点で議論することが可能となった。
図10 省エネルギー委員会組織図 Fig. 10 Energy saving committee organization chart
※事業者クラス分け評価制度は,総合資源エネルギー調査会省エネルギー小委員会の取りまとめ(平成27年8月28日)に沿って,省エネ優良事業者を公表することで事業者に自らの省エネ取組状況の客観的な認識を促すことを目的として実施している制度。
焼却残渣中に鉄分が含まれたまま溶融炉に装入すると,鉄分を溶かす余分な電力消費が発生する。このため焼却灰から鉄分を取り除いている。
当社はこの鉄分を鉄スクラップ資源としてスクラップ業者に販売し,鉄鋼メーカーへと納入されている。しかし,焼却灰が付着した鉄スクラップは製鋼上の不純物として問題となるため,焼却灰を除去し納入する鉄スクラップの品質を維持する必要がある。
そこで,営業部門がスクラップ業者毎の出荷基準をヒアリング等で明確にし,省エネルギー委員会で製造部門と情報共有を行った。製造部門は,鉄分から焼却灰を除去する手法を,トライアル・アンド・エラーによって確立した。
2016年度は焼却残渣から取り出された鉄分の販売量は1,400 t程度だったが,2019年度は1,900 tと増加した。確立した手法を用いることで,溶融炉での電力消費を削減することに成功した。
溶融炉の電気抵抗は装入物(原料)によって変動する。焼却残渣は複数の地方自治体,様々な業種の企業から受け入れたものであるため,成分が一定ではなく,溶融炉の電気抵抗は常に変動している。
電気抵抗が低すぎると過電流が頻発し,熱を発生させることができない。電気抵抗が高すぎると電流が流れず熱が発生しない。電気抵抗が大きく変動しないように焼却残渣の配合を調整している。
従来は焼却残渣の配合調整のみで電気抵抗を調整していたが,溶融炉の電極操作などの操業方法を見直し,更に電気抵抗の変動を抑制することで,溶融炉での電力消費量を削減した。また,電流が安定して流れることで,溶融炉内の沈降分離が促進され,溶融物から取り出される溶融メタルの量増加に成功した。
3-4節にて述べたように,焼却残渣に水分が含まれていると溶融炉で水分乾燥のために余分な電力を消費する必要があり,溶融炉の熱効率を低下させる。当社では,焼却残渣は都市ガスを燃料とするロータリーキルン乾燥機にて乾燥後,炉上ビンとサイロに貯留保管している。
焼却残渣の乾燥作業は夜間に実施している。溶融処理によって焼却残渣の貯留量が減少する度にロータリーキルン乾燥機による乾燥作業を行っていたため,本乾燥機は1日に3回程度起動・停止運転が行われていた。ロータリーキルン乾燥機は,起動時は一気に大気温度から乾燥温度まで上昇させる必要があり,都市ガスを多く使用する必要があった。都市ガス使用量を削減するためロータリーキルン乾燥機の起動回数を減らすことを検討した。
操業状態によって乾燥作業の開始時間を調整することで,1日の起動回数を1回に削減し,ロータリーキルン乾燥機の連続運転を実現した。
山口11)らによるLCCO2の解析手法は,焼却残渣処理方法ごとに発生するCO2排出量と,回収できない資源については,天然資源から採掘するのに必要なCO2排出量を計上することでLCCO2評価をしている。当社の省エネ活動成果を評価するにあたり本LCCO2評価手法を参考することにした。
表1に焼却灰処理ごとの再生資源を示す。当社の焼却残渣処理の強みは金属回収である。この3つの焼却灰処理についてLCCO2評価を実施した。
回収できる 再生資源 |
中部 リサイクル |
セメント 原料化 |
埋立処分 |
粘土 | × | 〇 | × |
石灰石 | × | 〇 | × |
貴金属 | 〇 | × | × |
LCCO2評価より,2016年度時点では,当社の再資源化プロセスからのCO2排出量はセメント原料化よりもCO2排出量が多かった。当社が取り組んできた省エネ活動の結果,工場でのエネルギー使用量の削減,貴金属回収量の増加などによって,LCCO2が削減され,2019年度では焼却残渣処理方法の中でCO2排出量が最も少ない処理方法となった(図11)。
図11 焼却残渣処理方法別 LCCO<sub>2</sub>評価 Fig. 11 LCCO<sub>2</sub> Analysis results
以上の省エネ活動の成果が評価され,2020年度省エネ大賞,中小企業庁長官賞12)を受賞(図12)した。
図12 中小企業庁長官賞 Fig. 12 Director General Prize of The Small and Medium Enterprise Agency
当社ではさらに工場で使用するエネルギーを再生可能エネルギーに代替していくことを検討している。今後一層の省エネ・省資源化社会の到来に向け,ゼロエミッションを継続して達成しつつ,カーボンニュートラル社会実現に貢献していく所存である。
1) 東京二十三区清掃一部事務組合,一般廃棄物処理基本計画, p43,(2010).
2) 環境省,一般廃棄物処理事業実態調査の結果(令和2年度)についてP1,3(2022).
3) 環境省,災害廃棄物対策指針(改訂版),p2-14,(2018).
4) エバラ時報 第258号 都市ごみ焼却事業における残渣処理の課題-中部リサイクル㈱の還元製錬方式が果たす役割-(2019) P33.
5) 荏原製作所.丸山眞策,内田隆治,津田精一.灰の処理方法. 特許第3627923号. 2004-12-17.
6) 震災がれきと産業副産物のアロケーション最適化コンソーシアム~未利用資源有効利用の産学連携拠点の形成~ 適用事例集 溶融還元石の河川護岸材料(捨石)への適用事例 P97.
7) 中部リサイクル.松岡庄五,石田忠雄,加藤正登.結晶質溶融スラグの製造方法,特許番号4712611.2007-12-6.
8) 産業機械 No.801 溶融還元石(割ぐり石)を金網かごの中詰め材に用いた擁壁の施工 P17-19.
9) 産業機械 No.813 溶融還元石(徐冷スラグ)を用いた路体盛土実施時の軟弱地盤対策 P13-15.
10)エコスラグ有効利用の現状とデータ集 2.溶融スラグ(徐冷)の港湾・護岸材料(裏込石)への適用事例 p70-72(2022).
11)山口直久ほか:集約型還元溶融施設による焼却残渣再資源化事業のマテリアルフロー解析による資源代替性及びLCCO2評価,廃棄物資源循環学会論文誌 Vol29 pp191-205,2018.
12)2020年度省エネ大賞 全応募事例集 P221-224.
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