本田 知己
福井大学 学術研究院 工学系部門
工学領域 機械工学講座 教授
時に,「先生はなぜ大学の先生になる道を選んだのですか?」と,質問されることがある。そのたびに人との出会いの不思議さに思いを巡らせる。大学の先生になる道を自分で選んだのかどうかさえ自信がない。博士論文の提出が迫った中,福井大学で助手の公募が出ていることを知り,恩師の岩渕先生(当時岩手大学)から勧められて受けてみた。それだけだった。そもそも,博士後期課程に進学したのもたまたまだった。就活を控えたM1の終わりに,「助手にならないか」という岩渕先生の誘いにのったことに始まりがあった。すっかり助手として残るつもりでいたが,その数ヶ月後,「どうせなら,ドクターをとった方が良いよな。」の一言で,加藤先生(当時東北大学)に師事することになった。加藤研で出会った当時M2の足立先生,助手の梅原先生,講師の堀切川先生には,その後この道に進む大きなきっかけをもらうことになり,また常に背中を追いかけるべき目標となった。では,なぜ岩渕研を選んだのか?それは,岩渕先生の人間的な魅力にあった。つまり,卒研の配属時点でトライボロジーには特に興味は無かった。それにもかかわらず,そこから37年間,トライボロジーの研究に携わっている。人との出会いとはかくも不思議なものである。ただ一つだけ,37年前の大学生の自分に褒めるところがあるとすれば,「岩渕先生の魅力に気がついて研究室を選んだこと」である。今の自分に置き換えると,研究室の学生の将来に影響を及ぼすような関わり方ができているか?学生の心に響く生き方を見せられているか?また,いろいろな質の高いきっかけ(出会い)を用意しているか?と,問わずにはいられない。人との偶然の出会いが将来の方向性を決めることもあり,また一つ一つの出会いが人間の幅と奥行き,知識の幅と奥行きを広げてくれていると思っている。むしろ偶然の出会いにこそ,その効果があると考えている。まさに本屋さんに行ってたまたま手に取った本との出会いのごとく。
トライボロジーは研究面からみると学際領域の分野であり,教育面からみると機械のトラブルという実際問題から出発する技術誘導型の総合科目である。言うまでもなくトライボロジーは実際問題の科学技術であることから,他の研究分野と比べて企業との共同研究の機会も多く得られる。企業との共同研究を行う中で,共同研究の機会を得られなかった学生に比べてその機会を得た学生のほうが成長していることを実感してきた。とりわけ,「課題解決力」と「人間力」が醸成されたと感じることが多い。それ故,可能な限り研究テーマを共同研究のテーマや研究プロジェクトのテーマとできるように努めている。共同研究も人との偶然の出会いがきっかけになることがある。今から約9年前,2013年12月9日に御社のNさんが,私が講師を務める講習会に参加された。専門分野が違うにもかかわらず,何かを期待してたまたま受講することを選んでくれたのだと思う。講習会終了後,様々な質問を頂戴し,それに答えている中で共同研究へと話が展開していった。そこから9年間,お陰様で興味深い研究テーマでお仕事をご一緒させていただいている。やはり,人との出会いとはかくも不思議なものである。
共同研究にはいくつもの「効用」があることを実感している。研究費はもちろんのこと,前述の通り,学生教育,人材育成に大きな効果を発揮する。さて,なぜ共同研究を通して学生の課題解決力と人間力は醸成されるのか。共同研究では社会の課題と関連の深い研究テーマが設定される。実際に誰かの役に立つことは,学生のみならず人間がやる気を持って取り組むための重要な動機付けとなる。また,実験・解析結果をその都度議論し,ある結論を導き出すまでの課題解決プロセスにおいて,教員とは異なる視点で企業の研究者と思考を深く掘り下げる議論を行えることも共同研究の大きな特徴と言える。得られた結果を自ら解釈し他者に話すことで,全く違う視点からの返答がもらえればそれ自体が能動的な学びにもなる。このように,共同研究での進捗・成果発表の機会を通じて様々な経験が得られる。一つのことを深く掘り下げること,発表や議論の経験を増やすことで次第に自信が醸成され自己肯定感も高まる。このように,共同研究は多様で質の高い「学びの機会」を提供してくれている。つまり,将来の研究者・技術者育成の一翼を担っていただいている。では,当方は御社にどのように貢献できているのか。甚だ自信がなくなるところではある。研究成果が企業活動に役立つことに加え,研究により得られた知見や物事の考え方が将来の事業化の一助になることを期待している。華やかとは言えないまでも,学術論文や特許の形で研究成果を形にでき,運良く学会の賞にも繋がった。これからさらにもう一歩先を目指して,いい研究で御社に貢献していきたい。
共同研究の機会をいただいていることにも,今この原稿を書く機会をいただいていることにも心から感謝申し上げる。その始まりは,やはり出会いに溯る。人との出会いとはかくも不思議なものである。
藤沢工場ものづくり50年の歴史
1966年頃の藤沢工場
縁の下の力持ち 高圧ポンプ -活躍場所編ー
100万kW火力発電所内で活躍する50%容量ボイラ給水ポンプ
RO方式海水淡水化用大容量、超高効率高圧ポンプの納入
長段間流路内の流線と後段羽根車入口の流速分布
縁の下の力持ち ドライ真空ポンプ -真空と真空技術の利用ー
真空の領域と用途例
座談会 エバラの研究体制
座談会(檜山さん、曽布川さん、後藤さん)
縁の下の力持ち 標準ポンプ -暮らしを支えるポンプー
標準ポンプの製品例
座談会 未来に向け変貌する環境事業カンパニー
座談会(三好さん、佐藤さん、石宇さん、足立さん)
世界市場向け片吸込単段渦巻ポンプGSO型
GSO型カットモデル
エバラ時報に掲載の記事に関する不明点やご相談は、下記窓口よりお問い合わせください。
お問い合わせフォーム