藤原 丈司
ドライ真空ポンプ生産主力工場であるV2棟は,1989年に藤沢事業所にて操業を開始した。以来,V2棟では,精密・電子事業の発展に伴い,増築や設備投資などのハード面のみならず,生産革新活動による作業改善などのソフト面も整備しながら生産能力増強を図ってきた。
そしてさらなる半導体市場の拡大に伴う旺盛な需要に応えるため,当社は生産効率を画期的に高めた自動化工場(以下,V7棟)の立ち上げと,この工場を核とした業務プロセスの刷新を決定した。建設地は,投資抑制と既存サプライチェーン活用の観点から,V2棟と同じ藤沢事業所へ建設することとした。2018年3月に具体的な構想検討に着手し,2019年1月に建設着工,同年12月に竣工,2020年3月から生産を開始した(図1)。
図1 V7棟全景
V7棟は,敷地面積約18 000 m2の広大なエリアに,部品受入,機械加工,組立・試験,出荷エリアを配し,EV-X型(図2)をはじめ,全シリーズのドライ真空ポンプを,部品から出荷まで一気通貫での生産が可能である。V7棟の建設により,ドライ真空ポンプの生産能力を2倍に増強した。加工,組立,物流のすべての生産工程において,数十台のロボットを始めとした多くの自動化設備を導入し,徹底的な省人化にこだわった。これらの設備の稼働効率向上のためのAIによる自動計画システムや,生産状況や稼働状況をリアルタイムで管理するシステム,自動化設備から得られた品質・稼働情報を活用するためのデータ収集システムの構築など,社内システムも全面的に刷新した。また,カーボンニュートラルへの取り組みとして,屋根上に太陽光発電パネルを設置できる構造とした。さらに,自動塗装工程の機器の最適化により塗料使用量を大幅に削減し,VOC(Volatile Organic Compounds)低減を図るなど,環境への配慮も行った。
図2 ドライ真空ポンプEV-X型
加工工程では加工機間の部材搬送の自動化を図り,素材を投入したら完成品が排出される一気通貫加工ラインを実現した。素材のハンドリングには,新たに導入したビジョンシステム*1を用い,素材の位置決め作業を無くした。すべての加工品にシリアル番号を自動で刻印し,トレーサビリティ管理を可能にした。
真空を作り出すユニットのポンプモジュールの自動組立を実現した(図3)。ロボットやナットランナー,ビジョンシステムといった最先端の自動化機器を最適に組み合わせることで,これまで人の技能に頼っていた組立作業についても自動化を行った。
図3 モジュール自動組立ライン
4万枚のRFID*2タグを用いて,受入から出荷までの情報と物との一致,工程間の同期を徹底的にこだわった。デジタル・ピッキングシステム,プロジェクション・ピッキングシステムといった最新の物流設備を導入し,出庫作業の効率化を図った。
自動化設備を効率よく稼働させるため,受注から出荷までの情報をシームレスに連携できるよう,社内システムを刷新した(図4)。
図4 自動化設備の効率を最大化する社内システム刷新
従来,CRM(Customer Relationship Management)システム*3,ERP(Enterprise Resource Planning)システム*4,PSI(Production Sales Inventory)システム*5までの連携は構築していたが,生産計画は知識と経験をもつ熟練者が立案し,生産指示は紙帳票によって行われていた。受注情報をERPシステム経由でPSIシステムに送り込み,AIが自動で生産計画を立案するシステムを構築した。これにより誰でも,納期と生産高を両立する計画を立てることを可能とした。自動化設備を稼働させるための各種指示情報と生産計画を,生産着手のタイミングに合わせて自動化設備に送るため,MES(Manufacturing Execution System)*6の刷新を図った。さらに,RFID・PLC(Programmable Logic Controller)*7・生産設備の着完情報や品質情報,設備稼働情報などの実績情報を自動で収集し,データベースに蓄積するIoTシステムも構築した。今後,蓄積した情報は,導入したBI(Business Intelligence)ツール*8で即座に分析し,PDCAサイクルを迅速に回すことによって,品質向上や生産性向上に活用していく計画である。
*1 ビジョンシステム:カメラを用いて撮影した画像を使った,位置検出や検査等を行うためのシステム
*2 RFID:電波を用いてデータを非接触で読み書きするシステム
*3 CRMシステム:受注や出荷など,顧客に関する情報を管理するためのシステム
*4 ERPシステム:企業の持つ資源情報を一か所に集めて管理し,有効活用するためのシステム
*5 PSI システム:生産,販売計画,在庫を同時に計画・管理し,在庫管理を最適化するシステム
*6 MES:製造工程の把握や管理,着手の指示や作業支援などを行う製造実行システム
*7 PLC:機器や設備などの制御に使われる制御装置
*8 BIツール:企業が蓄積するさまざまなデータを集約して可視化・分析することで,データにもとづいた意思決定や課題解決を支援するツール
V7棟の建設は,30年ぶりのドライ真空ポンプの新規生産工場建設であると同時に,加工,組立,物流といったすべての生産工程を自動化するという,前例のない取り組みであった。また,2009年より取り組んできた,生産革新活動の集大成でもあった。
V7棟稼働は自動化探究の旅の始まりに過ぎず,現在も新たな自動化に取り組み続けている。これからも飽くなき挑戦を続け,顧客の期待を超えるべく,さらなる高みを目指し続ける所存である。
計画着手からわずか2年という短期間で生産開始に至ったことは,神奈川県,藤沢市などの行政,自治体,および建設,設備,施工などの関係各位の多大なご指導・ご協力の賜物である。そして,「理想の工場をつくりあげる!」というプロジェクトメンバー全員の“熱と誠”により,最先端の自動化工場を建設することができた。社内外すべての関係者に対し,深く謝意を表する。
藤沢工場ものづくり50年の歴史
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