黒澤 和重 Kazushige KUROSAWA
荏原環境プラント㈱
廃棄物処理施設の建設・運営の啓発業務は,地域住民や見学者にごみを適正に処理する仕組みや発生するエネルギーを有効活用していることを説明し,生活の中で必要不可欠な施設であることを認識いただくきっかけになるよう啓発設備やイベント等を設計・製作・企画・実行することである。なぜ廃棄物処理施設では啓発業務に取り組むのか,当社がどのような業務を実施しているかを本稿にまとめた。
The educational duties for the construction and operation of waste processing facilities include the design, production, planning, and execution of educational facilities and events to explain to local residents and visitors the proper waste treatment system and the effective use of energy generated, and to provide opportunities for people to recognize that these facilities are indispensable in their daily lives. This paper summarizes why waste processing facilities are involved in edification and what kind of work we do.
Keywords: Waste incineration facility, Environment, Edification, Study, Visit to facility, Application, Event
当社は,国内外で2023年1月現在,496件の廃棄物処理施設の建設・運営業務を行ってきた。近年,廃棄物処理施設では処理機能に加え,地域に新たな価値を創出することが求められている。脱炭素社会の実現を目指し,持続可能な循環型社会を形成していくためには,一人ひとりの住民が環境問題への意識を高めていく必要がある。当社では,ごみを適正に処理する仕組み,この処理に伴って発生するエネルギーの有効活用,地域にとって必要不可欠な施設であることを地域住民や施設見学者の方に理解を深めていただくための啓発設備※を充実させ,説明を行っている。
私の所属している啓発推進課は,廃棄物処理施設の啓発設備やイベント等の設計・製作・企画・実行を担当している。本稿では,環境啓発業務への取り組む意義,具体的な業務内容,啓発設備を紹介する。
※啓発設備とは,地域住民や見学者に廃棄物処理施設の役割,地域にとって重要な施設であることを理解いただくための環境学習設備である。
廃棄物処理施設は,ごみを安全・適正に処理するだけの時代から,ごみ発電を活用した地域エネルギーセンターや防災拠点へと変遷している。図1に廃棄物処理施設の役割の変遷を示す。昨今は,環境学習の場,地域住民の交流の場への多様な役割を担うようになってきた。
図1 一廃棄物処理施設の役割の変遷
廃棄物処理施設の運転管理・メンテナンスを民間に委託する自治体が増加し,その業務を包括的かつ長期的に委託されるケースが多い。民間委託によって,施設の長寿命化と,LCC(Life Cycle Cost)の低減を図ることができる。さらに最近では,委託範囲が運転管理・メンテナンス以外の周辺業務に拡大している。従来,自治体が実施していた啓発業務についても民間委託されている。図2に業務の拡大図を示す。
図2 業務の拡大図
持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)を達成するために,地球に住んでいる人が努力し,協力する必要がある。先進国,開発途上国を問わず,世界全体の経済,社会及び環境の三側面における持続可能な開発を統合的取組として推進するものであり,全国の各自治体も取り組む必要がある。
そこで当社の啓発業務は,地域から出たごみやエネルギーを地域で生かす循環システムの提供の中で,SDGsの17の目標のうちで,4:質の高い教育をみんなに,8:働きがいも経済成長も,11:住み続けられるまちづくりを,12:つくる責任つかう責任を達成すべく活動している。
主な取り組みとして,地域に親しまれ,環境意識向上に繋がるサービスの提供を行い,住民が集う施設の提供と環境啓発活動の充実により,ごみ減量や資源化意識の向上を図っている。
近年,廃棄物処理施設の整備,運営において合理化と効率化が求められており,自治体からの廃棄物処理施設の発注は,DBO(Design-Build-Operate)方式が採用されることが多い。
DBO方式では,価格だけでなく非価格要素も評価され,審査において非価格要素の配点が5割以上と重視される案件も少なくない。非価格要素とは,施設の安全性,地域環境への配慮,啓発などが含まれる。その非価格提案の啓発項目の一例を表1に示す。
地域に親しまれる施設 | ||
環境学習拠点としての機能 | 啓発・情報発信 | |
地域との関連性 | 地域貢献 |
啓発項目を具体化するためには,まず啓発設備のコンセプトを決め,それに基づき,見学者ルートの設計,配置図への展開,各見学スポットでの説明パネルや体験設備を考える。啓発設備の詳細は,建設時の業務の項で説明する。図3に計画時点での見学ルートの一例を示す。
図3 計画時の見学ルート一例
計画時のコンセプトに基づき,啓発設備の基本設計書を客先との打合せも行いながら作成する。その後,詳細設計を開始し,実施設計書を客先と合意を得る。製作した啓発設備は,試運転後に引き渡しとなる。図4に実施時の全体スケジュールを示す。
図4 実施時の全体スケジュール
施設の啓発において,一番重要である見学の流れについて説明する。来場者は主に団体見学が多く,まず初めに見学者説明室で施設紹介ビデオを視聴後,実際の見学ルートを見学することになる。図3に示す見学ルートは,各見学スポットに設備の内部が見える広い見学窓を設け,焼却施設の臨場感と迫力ある作業風景を見学できるようにしている。全面バリアフリーのルート設計とし,多様な来場者に配慮する。団体見学では,2班または3班に分かれて見学するため,すれ違いができるよう十分な通路幅を確保する。以下に見学ルート上に納入している設備等を紹介する。
図5 見学者説明用パネル
設備を見ているだけではなく体験を通じて,楽しみながら設備を学習できるように見学ルート上のスペースに体験設備を設置している施設が多い。体験設備としては,ごみ重さ体験,プラットホームのエアカーテン体験,手回しやペダル踏みの発電体験等を設けている。図6に手回し発電機の例を示す。
図6 体験設備(手回し発電機)
K施設では,図7に示すように焼却炉室上部の空間を利用して,幅約22 mの大型マルチスクリーンを導入し,没入感のある映像体験により施設の役割や資源循環について楽しみながら学べる設備とした。
図7 天空シアター
IT技術の進歩により,スマートフォンやタブレットを利用した案内も多く提案できるようになった。当社で開発した見学アプリもそのひとつである。見学者が持参したスマートフォンにアプリをダウンロードして,見学ルートを進み,各所に設置した位置情報機器(ビーコン※1)をもとにマップを見ながら移動する。見学スポットに近づくとアプリに表示されるメッセージに従い,アプリ上で説明文を読んだり,音声案内を聞いたり,動画を見ることができる。そのほかの機能として,環境クイズ・パンフレット閲覧機能・アンケート機能等がある。図8に見学アプリのトップメニューを示す。
図8 見学アプリ トップメニュー
パンフレットは,一般的に大人用と子ども用の2種類を作成することが多い。ボリュームはA3見開きで4ページ程度であり,施設の特徴・概要,排ガス基準値,施設の処理フロー,主要機器の説明を写真やイラストを使って,わかりやすく作成する。子ども向けは,小学4年生の社会科見学で来場した際に配られるため,見学後の授業で役立つように一部をワークシート式にする等子どもたちの知識の習得のために工夫している。
※1 ビーコンとは,Bluetooth※2の電波を発信する端末のことです。
※2 Bluetoothは,Bluetooth SIG, Inc.の商標または登録商標です。
従来,各廃棄物処理施設では,施設の所長や副所長が環境啓発活動を担っていた。啓発活動を充実させる傾向にある中で,専任の環境啓発担当者を選任するようになってきている。以下に運営時の啓発業務を紹介する。
身近にある廃材等を活用した工作イベントなどを行い,楽しみながら3R(Reduce,Reuse,Recycle)を実践するイベントを行っている。工作などによりごみから新たな利用価値を生み出せることを体験し,日常生活においても資源分別の重要性,ごみの減量に積極的に取り組んでいくきっかけづくりの場となることを目的としている。図9に体験プログラムの風景を示す。また,廃材等を利用して,手を加えて付加価値を高めるアップサイクルを行い,作品を商品として販売等をすることも行っている。
図9 体験プログラムの風景
住民への環境啓発情報発信の手段は,数多くあるが,ここではK施設で行っている内容を紹介する。発信手段としては,ホームページ・運営ニュース・Facebook※3・企画展・インフォメーションボード・地元ケーブルテレビ局を活用している(表2参照)。ホームページ(https://www.kwes-ebara.com)では,施設運営の状況やイベント情報の発信に加え,360度映像を用いた「バーチャル施設見学」などを公開している。また,小学生向けの環境学習ツールやエコ工作の紹介等を行う「キッズページ」を充実させている。
手段 | 対象 | 内容 |
ホームページ | ・閲覧者 | ・持ち込みごみの搬入方法 ・施設の運転情報 ・バーチャル施設見学 ・学習ツールのダウンロード等 |
運営ニュース(年4回発行) | ・構成市町の公共施設 ・近隣の自治会へ回覧 |
・各号でテーマに沿った啓発情報 ・施設運転情報,イベント情報等 |
・閲覧者 | ・体験プログラムの案内・報告 ・モノ・コトショップ開催日情報 |
|
企画展 | ・来場者 | ・環境に関する内容を年2回開催 |
インフォメーションボード | ・来場者 | ・施設の運転情報 ・工場見学案内 ・地域の情報 等 |
地元ケーブルテレビ広告 | ・視聴者 | ・モノ・コトショップ開催日情報 ・イベント情報 等 |
※3 Facebookは,Meta Platforms, Inc. の商標または登録商標です。
子どもたちが楽しみながら,環境学習が継続的にできることを目標に,当社が開発した妖怪と施設内の設備や環境学習の用語等をリンクさせるスマートフォン用環境学習アプリを紹介する。図10にスタート画面を示す。どこの施設にも簡単に導入でき,利用可能である。アプリの利用は無料とし,App Store※4やGoogle Play※5から誰でもダウンロード可能である。子どもたちがこれを利用し,廃棄物処理施設の設備や環境に関する知識を少しでも覚えてもらい,友だち同士で話す機会になり,興味を持つことを期待している。
図10 スタート画面
※4 App Storeは,Apple Inc.のサービスマークです。
※5 Google Playは,Google LLCの商標です。
再生リサイクル品(タンスや自転車など)の販売,不要品交換,おもちゃのかえっこ,こども向け本の交換等ができるショップを設けている施設もある。これらを利用することでリユースを実践でき,モノの交換だけでなく人の交流や情報交換の場が生まれ,親子で資源の大切さを学びあい,体験ができる仕組みである。図11にK施設で定期的に開催している不用品交換の「モノ・コトショップ」の写真を示す。
図11 モノ・コトショップ
廃棄物処理施設の啓発業務は,時代の流れに沿った形で行う必要があり,常日頃から情報収集を行い,最適・最新なものをウォッチする必要がある。環境学習は,廃棄物を適正処理し,循環型社会をつくるためにごみの発生抑制,再利用,再資源化の重要性を理解して取り組むことを学ぶことが目的である。よりわかりやすいプログラム(設備を含む)を企画し,実践していくことで,見学者や住民への理解が進んで行くと考える。多くの人が,身近なごみについて考え行動するきっかけになることを期待し,今後も環境啓発活動に貢献していく。また,脱炭素社会の実現を目指して,持続可能な循環型社会を形成するために,廃棄物処理施設の新たな価値を創出していきたい。
1) 黒澤和重,廃棄物処理施設における環境学習・普及啓発に力を入れた桑名広域清掃事業組合の取り組み,都市清掃(Vol.75,No.369,2022-9).
2) 黒澤和重,No.37 環境学習アプリ「見つけて妖怪~クリーンセンター大作戦~」の開発,第44回全国都市清掃研究・事例発表会(2022).
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