近久 武美
北海道職業能力開発大学校・校長
北海道大学名誉教授
私は数年前まで北海道大学でエンジン燃焼,水素燃料電池,将来エネルギーシステム解析に関して研究を行っており,環境やエネルギー関連技術で活躍されている荏原製作所から時報原稿の依頼をいただいたことを嬉しく思っている。本巻頭言では将来の主要なエネルギー構造と経済影響に関する持論を述べさせていただこうと思う。
今年は我が国において例年になく暑い夏が続いたほか,世界各地で異常乾燥や集中豪雨による災害が頻発した。これは明らかに化石燃料消費に起因する地球環境の変化によるものであり,対応の遅い人類に対して2050年までのゼロカーボン達成の重要性を天がまさに突きつけている兆候と思う。現状から将来を見ると様々な難しさからなかなか明確な方向性が見えないが,将来からバックキャスティングすると選択肢はわずかしかないことは明らかである。それは風力や太陽を源とする再生可能エネルギーが主体とならざるを得ない。原子力や地熱も候補になるが,ウラン燃料資源の有限性と温泉施設影響等から制限される地熱資源量を考えると,主要なエネルギー源にはなり得ない。
再生可能エネルギーには風車や太陽電池からの電力やバイオマス燃料があり,特に主力となる風車や太陽電池からは時間や季節によって変動する電力の形で提供されることになる。したがって,できるだけリアルタイムで電力消費するような社会構成とするほか,電池や水素の形でエネルギーを貯蔵し,利用する構造を目指さなければならない。水素は貯蔵の関係から液体水素が主体となると思うが,長く化石燃料の利用に慣れた視点から見ると抵抗が大きいようである。そのため,大気中のCO2と水素から合成するe-Fuelやアンモニアに大きな期待が寄せられたりしている。しかし,e-Fuelの総合製造効率は極めて低く,一方,アンモニアは毒性があるために大規模で計画的な運転がなされる設備に限定せざるを得ない。ただし,このような施設ではわざわざアンモニアに変換するプロセスを経なくても容易に液体水素を利用可能である。したがって,大規模な電力施設は変動の大きな再生可能エネルギー由来の電力を極力リアルタイムで利用する一方,余剰電力から製造した液体水素を主として運輸部門や産業部門で利用するエネルギー社会になるものと考えられる。この認識は極めて重要であり,将来社会を考える上で基本となるものである。
次に,こうした社会エネルギー構造の変換は炭酸ガスばかりでなく,我が国の経済にとっても非常に有利になることを論じたい。現在の日本の貿易収支を大雑把に見ると,自動車や一般機器を輸出し,燃料や食料を輸入する構造となっている。特にエネルギーの輸入量は膨大である。ここで再生可能エネルギーを国内で生産するようになると,エネルギー単価が仮に今より高くなったとしてもその大部分が国内の雇用に回ることになる。しかも,こうした技術が普及するとその単価が安くなることは西欧の例から明らかであり,将来的には今よりもエネルギー単価が安く,しかも国内の雇用が活性化し,さらに環境的にも持続可能になるのである。この点,現在行われている議論はエネルギー単価の比較のみからエネルギーを輸入しようとする議論が多く,国内雇用の視点が欠落していると言わざるを得ない。ここで,風車や太陽電池は海外製であり,国内経済の発展には寄与しないのではないかと思うかもしれない。しかし,これらがたとえ海外製であったとしても,年間の設備維持を含めた国内/海外の経費比率は石炭火力発電設備並みに大きく,石油火力や天然ガス火力よりも遥かに大きな国内循環経済効果を持っているのである。
次に再生可能エネルギー社会を形成する際に考えるべき重要な2点について論じよう。一つは地方自治体における都市計画立案の必要性である。近年,多くの市町村がゼロカーボン都市宣言をしているが,風車や太陽電池の設置は申請の許認可を行うのみである。土地所有者によるさまざまな反発を気にせずに,民有地を含めた都市計画をまず立案すべきである。もう一つは再生可能エネルギー立地近隣住民の参加の仕組みである。例えば近隣住民に対して有利な条件で出資者になってもらうなどして,再生可能エネルギー社会づくりが近隣住民にとっても喜んでもらえるようなものにしなければならない。そうすると,これらの設備の一部分は近隣住民のものと同等であり,稼働率が上がるほど喜んでくれることになる。
以上をまとめると,将来は再生可能エネルギーが主体となる社会であり,変動の大きな電力を極力利用するほか,水素エネルギーの形で貯蔵し,運輸部門や産業部門で利用していく社会になるものと思う。また,そうした社会の形成は国内の雇用創出・経済活性に対しても大きな効果がある。ただし,都市計画や近隣住民の資本参加等について,新たな考慮が重要となる。
こうした変化を求められている時代において,環境エネルギーや水素エネルギーで高度な技術を持つ荏原製作所の貢献ならびにリーダーシップを期待している。
近久 武美,幸せになるためのエネルギー論,22世紀アート(2022),電子書籍
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