掲載号: No. 266

水素を「つくる」
−廃棄物から水素製造−

執筆者

藤原 孝
Takashi FUJIWARA

荏原環境プラント㈱

1.荏原でケミカルリサイクル技術が誕生することになった背景

荏原の環境カンパニーでは廃棄物処理施設の設計・建設や運転・維持管理に取り組んでいます。私たちが排出する廃棄物は,衛生的に安定化処理できるといった利点から主に焼却処理されていますが,その反面,廃棄物中の炭素は全てCO2として排出されます。こうした状況を改善すべく,当社は廃棄物を熱分解・ガス化処理して水素ガスやその他の可燃ガス,オイル等の炭素資源を回収するケミカルリサイクル技術を実用化することにより,廃棄物処理におけるCO2発生を削減し,カーボンニュートラル社会の構築に貢献することを目指しています。

当社では2000年代初頭から,現状焼却されている様々な廃棄物を化学製品の原料などにリサイクルすることを目的として,焼却炉の技術を応用してケミカルリサイクル技術の開発に取り組んできました。

2.荏原のケミカルリサイクル技術

当社が保有するケミカルリサイクル技術には,廃プラスチック(以下,廃プラ)を合成ガス等の化学原料に変換することを特徴とするEUP®加圧二段ガス化システムと,廃棄物全般をガスやオイル等の化学原料にすることを特徴とするICFG®内部循環流動床ガス化システムがあります(図1)。

図1 荏原のケミカルリサイクル技術

2-1 EUP 加圧二段ガス化システム

EUPは世界で唯一の長期商業運転実績をもつガス化ケミカルリサイクル技術です。EUPは廃プラなどの高カロリーな廃棄物を高温高圧でガス化する技術です。流動床式の低温ガス化炉と旋回溶融式の高温ガス化炉を組合せた加圧式のガス化技術であり,一酸化炭素と水素が主成分の合成ガスを製造します(図2)。

図2 EUP概念図

2-2 ICFG 内部循環流動床ガス化システム

ICFGは廃プラ以外にも一般廃棄物や下水汚泥,バイオマス等様々な廃棄物を受け入れることが可能なガス化炉として開発され,2000年代に複数の実証施設で実証試験を行っていた経緯があります。ICFGは1つの炉の中に還元雰囲気で原料の熱分解・ガス化を行う熱分解室と,酸化雰囲気で残渣を燃焼する媒体再生室を持ち,廃棄物やバイオマス等の低発熱量原料の活用を可能とするガス化炉です(図3)。熱分解室に供給された原料は分解されガスや油分となり,熱分解しにくい成分は残渣として,両室を循環する砂とともに媒体再生室に搬送され燃焼されます。燃焼し高温になった砂が熱分解室に搬送され熱分解の熱源として利用されます。反応条件にもよりますがオイルや化学原料ガス,水素等が得られます。

図3 ICFG概念図

3.水素の主な用途

EUPにて得られた合成ガスは,廃プラ由来の水素ガスとしてアンモニア製造の原料として活用されています。従来アンモニアはナフサ,LNG,石炭等の化石燃料を原料として製造されていましたが,廃プラ由来の水素を活用することで化石資源の使用量削減に貢献しています。

4.今後の展開

廃プラや廃棄物から水素を「つくる」技術は,脱炭素社会へ貢献する有益な技術です。既に実用化されているEUPは技術供与を通じて国内外への展開を目指しています。今後,ICFGは,多種多様な廃棄物から様々な化学物質を得られることを強みとして,2030年迄の実用化を目指しています。

※EUPはUBE㈱及び荏原環境プラント㈱の日本における登録商標です。
※ICFGは荏原環境プラント㈱の日本における登録商標です。

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