青山 淳 Jun AOYAMA
建築・産業カンパニー 開発統括部 製品開発部
荏原冷熱システム㈱の製品に吸収冷温水機があります。オフィスビル,工場,空港,商業施設や地域冷暖房施設などで快適な空調空間を提供するための熱源機です。図1に示すように,①蒸発器,②吸収器,③再生器,④凝縮器から構成され,冷媒の蒸発を利用して冷水や温水を作り出す装置です。冷温水機のエネルギーはガスや油などの燃料で,燃料の燃焼熱を利用して,間接的に水を冷やしているのです。冷たい水を作り出すのに高温の火を使う面白い装置です。
図1 吸収冷温水機の原理
吸収液という水蒸気を吸収する性質の液体と,冷媒として水を使用した吸収冷凍サイクルによって,冷水と温水を作ることから,吸収冷温水機と呼ばれています。(参考:エバラ時報254号 縁の下の力持ち 冷凍機-冷温熱を生み出す隠れた主役-)
この度,建築・産業カンパニー 荏原冷熱システム㈱は,最新のガス焚吸収冷温水機であるRHDG型をベースとして,燃料に水素を使用する水素焚吸収冷温水機(図2 外観,表1 冷温水機仕様)を開発しました。
図2 水素焚吸収冷温水機 RHDH型外観
型式 | RHDHL008 | |
定格冷凍能力 | kW | 281※1 |
定格加熱能力 | kW | 236 |
冷水温度 | ℃ | 12→7 |
流量 | L/min | 806 |
冷却水温度 | ℃ | 32→37.1 |
流量 | L/min | 1 333 |
水素消費量 | m3 N /h | 68.5/81.7 |
消費電力 | kW | 2.8 |
期間成績係数 | - | 1.56 |
※1 冷凍能力:281kWという冷凍能力は,家庭用エアコンの約100倍の能力で,約2 800m2の床面積の冷房を行うことができます。
吸収冷温水機の燃料として都市ガスなどのガスを使用するものをガス焚吸収冷温水機,灯油などの油を使用するものを油焚吸収冷温水機と呼んでおり,燃料に水素を使用するのが水素焚吸収冷温水機です。水素焚吸収冷温水機は,水素を動力や電気に変換することなく,燃焼させて「つかう」装置です。
水素は使用時にCO2を排出しないため,従来の燃料と比較した場合,年間で灯油に比べて95%,都市ガスに比べて94%ものCO2排出量を削減することができます(図3)。
図3 各燃料における年間CO<sub>2</sub>排出量(灯油を100%とした場合)<sup>※6</sup>
ただし,燃料を水素に置き換えるためには,水素の特性にあわせて設計を変更する必要があります。水素は都市ガスに比べて燃焼速度※2が速く,燃焼範囲※3が広いため,特に安全性の対策としての設計が変わってきます。都市ガス用の安全装置に加え,水素配管への逆火防止装置を標準装備するとともに,停止中にガス管内が水素と空気の可燃性混合気にならないように,不活性ガスを注入する機能を追加するなど,水素用の安全設計がなされています。
また,水素は火炎温度が高く,排ガス中の窒素酸化物(NOx)が高くなる傾向がありますが,分割火炎※4,内部EGR※5といった低NOx化技術を導入した水素用低NOxバーナを開発し,全燃焼領域において都市ガス相当の低NOx化を達成しました。
※2
燃焼速度:炎が燃え広がる速度。都市ガスの燃焼速度(約0.4 m/s)に対して水素の燃焼速度(約2.7m/s)は約7倍も速い。そのため,ガスの噴出速度が火炎の燃焼速度より遅くなった際に,ガス配管中に炎が侵入する逆火現象が生じやすい。
※3
燃焼範囲:燃焼が可能なガスと空気の混合割合の範囲。都市ガス(13A)の燃焼範囲5%~15%に対して,水素の燃焼範囲は4%~75%と,広範囲で燃焼するため,危険性が高い。
※4
分割火炎:燃料と空気の吹出形状を工夫することで,複数の独立小火炎を形成し,濃淡燃焼を行う燃焼方法。火炎温度が下がるため,NOxの発生量が抑制されます。
※5
内部EGR:バーナと再生器の形状を工夫することで,外部配管を用いずに再生器内部で排ガス再循環(EGR:Exaust Gas Recircuration)を行う技術。吸気に排ガスを混ぜて燃焼することで,燃焼温度が下がり,NOxの発生量が抑制されます。
※6
試算データ:空気調和・衛生工学会の空調負荷データ(病院)を使用し,表1の吸収冷温水機本体の燃料消費量と消費電力から算出した結果。水素を使用した場合,燃料由来のCO2排出量はゼロになります。吸収冷温水機のポンプ類,バーナファン等に電気を使用するため,電気由来のCO2排出量が残りますが,再生エネルギー由来の電気を使用すればCO2排出量はゼロになります。
今回紹介した水素焚吸収冷温水機は,弊社最新機種に搭載している冷却水や冷温水の変流量制御,省エネ運転モード,始動時間短縮制御といった各種省エネ技術を標準で搭載しているため,水素利用によるCO2排出量の削減だけでなく,消費エネルギーの削減にもつながります。
水素焚吸収冷温水機は,燃料の燃焼時にCO2を排出せず,冷媒には自然冷媒である水を使用しているため,環境にやさしく,カーボンニュートラル時代に適した製品と言えます。来るべき水素社会の実現に向けて,今後はラインナップの拡充を行い,水素エネルギーを直接「つかう」製品として提案を進めていく予定です。
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