長谷川 雄人* Yuto HASEGAWA
梶本 哲弘* Tetsuhiro KAJIMOTO
菅野 拓也* Takuya KANNO
*
インフラカンパニー システム事業統括部
国土交通省北海道開発局札幌開発建設部空知川河川事務所管内の赤平排水機場の設備更新工事を行った。施設の「無水化」と「簡素化」を目的とした本工事は,エンジン駆動の立軸ポンプをコラム形水中ポンプへ更新するなど,課題の多い工事であった。そこでレーザースキャン計測や3Dデータを活用し,様々な設計検討や施工シミュレーションを行うことで機器搬入やレイアウトに対する課題を解決し無事に竣工することが出来た。
We carried out equipment renewal work at the Akabira drainage pump station within the jurisdiction of the Ministry of Land, Infrastructure, Transport and Tourism Hokkaido Regional Development Bureau Sapporo Development and Construction Department Sorachi River Office. This work, which had the purpose of "waterless" and "simplification" of the plant, involved many challenges, such as replacing the engine-driven vertical-shaft pumps with submersible column pumps. Therefore, by utilizing laser scan measurement and 3D data, various design studies and construction simulations were conducted to solve problems related to equipment installation and layout, and construction was successfully completed.
Keywords: Hokkaido, Akabira, Simplification, Submersible column pumps, ICT, 3D Scan, Point cloud data, 3D Model, Prefabrication
赤平排水機場は北海道の中ほどにある赤平市(図1)に位置する,国土交通省北海道開発局札幌開発建設部空知川河川事務所管内の排水ポンプ施設である。本機場は空知川流域が大雨により増水した際に,赤平市内の内水を排水ポンプにて空知川へ排水し地域を浸水から守る目的で設置されている。
図1 赤平市
冬期の寒さが厳しい北海道では,出水期を終えると凍結防止のため排水機場の機器や配管の「水抜き」を行い,出水期前には「水張り」が必要となる。そのため,設備稼働までには大きな労力を必要とし,維持管理の負担となることが課題であった。
それらを解決するため,今回行われたのが設備の「無水化」と「簡素化」である。施工例が多いのは水冷エンジンをラジエータ方式にするなど基本的な機器構成を変えず系統機器の無水化工事であり,機器数の低減,操作手順の簡略化,点検項目の削減等により簡素化を図っている。しかし,本工事では既設エンジン駆動の立軸ポンプをコラム形水中ポンプとする無水化・簡素化であり,機器構成の大幅な変更が伴った。そのため,機器レイアウトの検討や搬入計画の立案は本工事の課題であった。そこで効果を発揮したのがICT技術である。レーザースキャン計測や3Dデータの活用で,設計・施工はスムーズに進行し,工期が2021年6月から翌年3月という短納期であったが,工期内に無事に竣工することが出来た。
ここに,コラム形水中ポンプへ変更したことで生じた課題と,それらの解決のために用いたICT活用について紹介する。
更新工事前後の各種機器の仕様を表1に示す。また,機場の外観(図2)と更新工事前後の内部の写真(図3~図6),場内平面図及び断面図(図7~図9)を以下に示す。
図2 機場外観写真
設備名 | 更新工事前設備 | 更新工事後設備 |
主ポンプ設備 | ・立軸斜流ポンプ×2台 φ800mm×1.5m3/s×4.4m×245min-1 |
・コラム形水中モータ-ポンプ×2台 φ800mm×1.5m3/s×4.4m |
・吐出弁×2基 φ800電動バタフライ弁 | ・更新(仕様同左) | |
・可とう管×2基 ゴム伸縮継手,φ800mm×100mm沈下 |
・可とう管×2基 ゴム伸縮継手,φ800mm×110mm沈下 |
|
・逆流防止弁×2基 φ1 000mmフラップ弁 | ・逆流防止弁×2基 φ1 000mmフラップ弁(既設流用) | |
主原動機設備 | ・ディーゼル機関×2台 6気筒×140 PS×1 000min-1,水冷(二次冷却) |
・水中モータ×2台 110kW |
動力伝達設備 | ・直行軸かさ歯車減速機 | ・撤去 |
系統機器設備 | ・燃料貯油槽 地下タンク式,容量7 000L | ・燃料貯油槽 地下タンク式,容量7 000L(既設流用) |
・燃料移送ポンプ×2台 | ・燃料移送ポンプ×2台(既設流用) | |
・燃料小出槽×1基,容量300L | ・燃料小出槽×1基,容量540L(自家発電機用) | |
・一次冷却水ポンプ | ・撤去 | |
・二次冷却水ポンプ | ・撤去 | |
・オートストレーナ | ・撤去 | |
・膨張タンク | ・撤去 | |
・空気圧縮機 | ・撤去 | |
・始動空気槽 | ・撤去 | |
・給気ファン×1台,定格出力0.19kW | ・給気ファン×4台,定格出力3.7kW | |
・排気ファン×1台,定格出力0.3kW | ・排気ファン×2台,定格出力1.5kW | |
・所内排水ポンプ×2台 | ・所内排水ポンプ×2台(既設流用) | |
監視操作制御設備 | ・監視操作卓 | ・撤去 |
・補助継電器盤 | ・更新(監視操作用タッチパネル付) | |
・主ポンプ機側操作盤 | ・更新(ポンプ動力回路含む) | |
・一次冷却水ポンプ機側操作盤 | ・撤去 | |
・二次冷却水ポンプ機側操作盤 | ・撤去 | |
・オートストレーナ機側操作盤 | ・撤去 | |
・空気圧縮機機側操作盤 | ・撤去 | |
・燃料移送ポンプ機側操作盤 | ・更新 | |
・コントロールセンタ | ・撤去(補機動力盤) | |
・所内排水ポンプ機側操作盤 | ・更新 | |
電源設備 | ・直流電源盤 | ・撤去 |
・低圧受電盤 | ・更新 | |
- | ・補機変圧器盤(新設) | |
・自家発電機×2台,定格出力50kVA | ・自家発電機×2台,定格出力500kVA | |
クレーン設備 | ・天井クレーン 手動8t | ・天井クレーン 手動8t(既設流用) ・手動チェーンブロック7.5t無負荷高速型(増設) |
図3 機場内ポンプ室外観写真(更新前)
図4 機場内ポンプ室外観写真(更新後)
図5 機場内発電機室外観写真(更新前)
図6 機場内発電機室外観写真(更新後)
図7 配置平面図(更新後)
図8 配置断面図(更新前)
図9 配置断面図(更新後)
立軸斜流ポンプからコラム形水中ポンプへ機器構成を変更することに伴い,次の課題検討が必要となった。
当初計画では,既設のφ1 400mmポンプ据付部床開口をφ1 850mmへ拡幅し,コラムを据え付ける設計であった。短納期案件につき作業工数を削減するために最大外径を1 400mm以下としてコラムの設計を行い,床開口を流用することとした。
主ポンプの水中ポンプ化及び自家発電機の大型化に伴い,機器全体の質量が大きく増加した。そのため,機器荷重を分散させるために,2台の自家発電機をそれぞれポンプ室と発電機室に設置することとした。
冬季には吸水槽内が凍結するため,毎年,コラムからポンプを引き揚げる作業が必要となる。そのため,引き揚げ時の作業向上を図った。
①
荷重がかかっていないときは減速比が小さくなる無負荷高速型チェーンブロックを追加することで作業効率を改善した。
②
コラム内のポンプに自動でフックがかかる吊り上げ装置を製作した。また,それにより,既設天井クレーンで不足していた揚程も解消した。
③
ポンプ動力・制御ケーブルともにコネクタ接続とし,且つ,ポンプ近くに接続盤を設けて安全性・作業性を向上させた。
据付及びメンテナンス性など様々な制約がある中で,本工事で更新の機器について,据付位置の検討を実施した。本工事では効率的な詳細検討のためにICT技術を活用した。その事例を次章に記載する。
更新工事前の機場内外を3Dスキャナを使用して,点群データ化(図10)し,本工事で更新するポンプ等の機器を3Dモデル化して組み合わせた(図11)。このデータを既設の建屋と新規製作機器の干渉有無の確認,メンテナンススペースの確認,施工時の機器搬入の確認など様々な検討に使用した。さらに,点群データはそれぞれがXYZ座標情報を有するため,機場内の様々な箇所の寸法を計測することが可能である。点群データと3Dモデルを組み合わせた空間の中で,狭小スペースや高所への機器の配置検討を行った。
図10 更新工事前の機場内点群データ
図11 点群データと3Dモデルの組み合わせ
点群データの中にポンプ室自家発電機の3Dモデルを設置し,原動機の排気口から建屋貫通部までの排気管ルート及びその位置を検討した。
図12に示す白色の3Dモデルが自家発電機であり,その奥には既設建屋の壁や,柱,筋交い,照明等がある。従来のやり方では,建築図面,機械工事図面,機器図面等といった複数の図面を見ながら干渉検討を実施する。それに対し,現地でレーザースキャンした機場の点群データによるルート検討では,現場の状況をそのまま仮想空間で再現した検討ができる。そのため,当初決定したルートから手戻りを発生させることなく,スムーズに施工することが可能となった。
図12 ポンプ室自家発電機の配管ルート検討
本工事では換気設備についても大型の換気ファンへの更新となった。
大型化のため既設のファンの開口を流用することができず,台数も4台となり,据付位置の検討には苦労を要した。図13のように既設建屋の筋交いを避けるようなダクト形状を点群データと3Dモデルを活用して設計することで,干渉なく据え付けることが出来た。
図13 点群データと3Dモデルを活用したダクト形状設計
ポンプ電動化に伴い,自家発電機が50kVAから500kVAへ大型化したため,小型の自家発電機用に作られた発電機室に大型の自家発電機を設置することが検討課題となった。そこで,更新後の自家発電機の3Dモデルを発電機室内に設置し,梁との干渉チェック,及びメンテナンススペースの検討を行った(図14)。
図14 発電機室(点群)内の自家発電機3Dモデル
当初考えていた設置高さでは,室内の梁に操作盤の扉が干渉した。高さ方向の確認作業は従来の2D図面では難しいところであり,3Dモデルを用いて検討できたことは大いに役立った。
また,発電機室搬入口から据付位置までの搬入可否についても,3Dモデルを使用して機器の取り回しや干渉チェックを実施(図15)し,搬入可能であることを確認した。
図15 自家発電機の搬入シミュレーション
本工事では吐出管の一部を更新して吐出水槽側の既設管と取り合うことになるため,3Dモデルから取り合い寸法を割出して配管を製作した。更新機器と既設流用部を区分したものを図16に示す。
図16 更新機器と既設流用部
既設取り合い位置は,地盤沈下等の影響を受け建設当初の位置から変化していることが予想された。従来の現合管による方法では現地に一度配管を持ち込み,取り合いフランジの仮溶接を行った後に,工場に持ち帰り本溶接を行い,耐圧試験,塗装を経て現地にて本据付という工程を経て位置を合わせる。今回は3Dデータ(図17)を活用して配管をプレハブ製作することで,現地据付作業が1回となり,約1か月間の工期短縮と20人工ほどの省人化を実現し,生産性向上につながった。なお,測定誤差や配管製作公差への対応は,更新する可とう管を所定の偏心量以上の裕度で製作することで吸収した。
図17 吐出配管の3D設計
赤平排水機場の無水化及び簡素化を目的とした更新工事において,レーザースキャンやICT技術を活用することで,設計検討や施工計画に大きな成果を得られた。
また,機場の維持管理者等への機場概要説明において3Dモデル空間を使用したところ,「従来の2D図面よりも理解がしやすく,更新後をイメージしやすい」といった前向きな意見をいただいた。
維持管理においても事前にメンテナンススペースや動線確保などの課題を明らかにし,解決できたことで維持管理性の向上につながった。
本工事の施工に際し,北海道開発局札幌開発建設部の監督職員をはじめ,大変多くの方々にご指導ご協力をいただいた。関係各位に深く感謝の意を表する。
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