大川 裕也* Hironari OKAWA
藪田 健太郎** Kentaro YABUTA
川原 和之* Kazuyuki KAWAHARA
*
インフラカンパニー システム事業統括部 社会システム技術部
**
インフラカンパニー システム事業統括部 社会システム建設部
寝屋川市高宮ポンプ場は,寝屋川北部流域関連公共下水道事業計画に基づき,高宮ポンプ場整備事業として新設された雨水排水ポンプ場である。本ポンプ場は,日本下水道事業団より発注され当社は雨水排水ポンプ設備を納入した。本設備工事の概要と特徴,施工上の工夫と騒音対策等について紹介する。
Takamiya pump station in Neyagawa city is a newly constructed rainwater drainage pump station included in the Takamiya pump station maintenance project based on the Public Sewerage Project Plan Related to the Northern Neyagawa River Basin. We installed a new rainwater drainage pump system for Takamiya pump station, ordered by the Japan Sewage Works Agency. We will also introduce the overview and feature of this pump equipment construction, and the noise countermeasures devised in the design.
Keywords: Rainwater drainage pump, Standby-preceding type, Airlock water level, Torrential rainfall, Anti-vibration device, Noise consideration, Structure borne sound, 3D printer
寝屋川市は大雨時の浸水被害を防ぐことを目的とし,一般国道170号線旧道以東の丘陵地からの雨水を讃良(さんら)川へ円滑に排水させるために「高宮ポンプ場整備事業」を進め,低い地域に雨水が流れ込む前に雨水を取り込む雨水管の設置と本機場の建設を行った。
当社は,雨水排水の核となる雨水排水ポンプ設備の新設工事を請け負い,2020年10月から2022年12月にわたり機械製作,据付工事及び,試運転調整を行い無事寝屋川市への引き渡しを完了した。
ここに当社が納入した雨水排水ポンプ設備の概要を紹介する。
ポンプ場は,地上3階,地下2階で構成された建築物である(図1~図8)。
図1 ポンプ場外観
図2 全体平面図
図3 減速機・原動機外観
図4 雨水排水ポンプ外観
図5 地下2階平面図
図6 1階平面図
図7 No.1ポンプ据付断面図
図8 No.2,3ポンプ据付断面図
排水能力は,大小のポンプ3台を設置し,総排水量が600m3/minの雨水を排水する能力を備えている。
雨水排水ポンプは,集中豪雨時等における雨水の急激な流入量の変化に対応できるよう先行待機形ポンプが採用された。先行待機形ポンプはポンプ井に雨水が流入する前にあらかじめポンプを始動し,水位上昇にしたがって直ちに排水を始め,水位が低下してもポンプを停止させずに運転継続が可能である。雨の降り始め,徐々に強まる降雨,または強弱を繰り返す降雨等の状況下においても安定的に排水ができる。
また,機場周辺は市街地であることから環境影響を十分考慮する必要があり,雨水排水ポンプ施設では振動,騒音をできるだけ低減するよう配慮している。
雨水排水ポンプ設備は,排水ポンプ,減速機,原動機,換気設備等で構成されている。その他関連付帯設備を含めた基本仕様は次の通りである(表1)。
No. | 機器名 | 型式 | 数量 | 仕 様 |
1 | No.1雨水ポンプ | 先行待機形立軸斜流ポンプ | 1台 | φ900mm×114m3/min×15.1m |
2 | No.1雨水ポンプ用吐出弁 | 電動蝶形弁(3床式) | 1基 | φ900mm,出力1.5kW |
3 | No.1雨水ポンプ用逆流防止弁 | フラップ弁 | 1基 | φ1 200mm |
4 | No.1雨水ポンプ用減速機 | 直行軸傘歯車減速機(油圧クラッチ付) | 1台 | 減速比1:1.615 |
5 | No.1雨水ポンプ用原動機 | ディーゼルエンジン | 1台 | 定格出力460kW 定格回転速度1 000min-1 |
6 | No.2,3雨水ポンプ | 立先行待機形立軸斜流ポンプ | 2台 | φ1 350mm×243m3/min×15.1m |
7 | No.2,3雨水ポンプ用吐出弁 | 電動蝶形弁(3床式) | 2基 | φ1 350mm,出力2.2kW |
8 | No.2,3雨水ポンプ用逆流防止弁 | フラップ弁 | 2基 | φ1 650mm |
9 | No.2,3雨水ポンプ用減速機 | 直行軸傘歯車減速機(油圧クラッチ付) | 2台 | 減速比1:2.385 |
10 | No.2,3雨水ポンプ用原動機 | ディーゼルエンジン | 2台 | 定格出力940kW 定格回転速度1 000min-1 |
11 | 冷却水ポンプ | 横軸渦巻ポンプ | 2台 | φ150mm×2.6m3/min×21m |
12 | 高架水槽 | 組立式樹脂製立形タンク | 1槽 | 最大貯留容量:56m3 |
13 | 温水揚水ポンプ | 横軸渦巻ポンプ | 2台 | φ150mm×2.6m3/min×21m |
14 | 冷却塔 | クーリングタワー(開放式) | 1基 | 容量9 795 600kJ/h |
15 | 給水ユニット | 圧力タンク式給水ユニット | 1基 | ポンプ要項:0.06m3/min×26m×2.2kW |
16 | 起動装置 | 原動機始動用空気圧縮機 | 2台 | 12.5m3/h×2.94MPa×3.7kW |
17 | 燃料移送ポンプ | 横軸歯車ポンプ | 2台 | φ20mm×33L/min×0.08MPa×0.75kW |
18 | 燃料小出槽 | 鋼板製角形タンク | 1槽 | 容量1 950L,有効容量1 700L |
19 | 燃料貯油槽 | 鋼板製円筒形タンク(地下式) | 1槽 | 容量10 000L,有効容量9 000L 寸法φ1 600mm×長さ5 724mm |
20 | No.1給気ファン | 軸流ファン | 1台 | φ560×295m3/min×154Pa×5.5kW |
21 | No.2,3給気ファン | 軸流ファン | 2台 | φ800×532m3/min×178Pa×7.5kW |
22 | No.1排気ファン | 軸流ファン | 1台 | φ560×232m3/min×136Pa×3.7kW |
23 | No.2,3排気ファン | 軸流ファン | 2台 | φ700×413m3/min×231Pa×7.5kW |
24 | 天井走行クレーン | 電動式天井走行クレーン | 1基 | 20t(補巻5t),揚程16.5m×スパン6.77m |
25 | No.1雨水ポンプ用原動機吊上装置 | 手動式チェンブロック | 1基 | 定格荷重1.0t,揚程6.8m |
26 | No.2,3ポンプ用原動機吊上装置 | 手動式チェンブロック | 2基 | 定格荷重1.0t,揚程6.8m |
27 | 床排水ポンプ | 水中汚水ポンプ | 2台 | φ80mm×0.3m3/min×14m×3.7kW |
28 | 床排水ポンプ吊上装置 | 手動式チェンブロック | 1基 | 定格荷重0.5t,揚程2.0m |
先行待機形ポンプの特徴及び本工事で検討した事項を以下に示す。
全速全水位先行待機型の雨水排水ポンプであり,水中軸受にゴム軸受(注水),軸封部にメカニカルシールを使用している。
雨水排水ポンプは気中を含め吸込み水位に関係なく全速で運転することが可能である。通常の最低水位(LWL)以下では,吸い込みベルマウスに設けられた空気管から排水量と水位に応じて自然に空気が流入し排水量がゆるやかに変化する。さらに空気管の開口部付近の水位になると羽根車入口側に空気溜りが生じて,排水が一時停止(エアロック運転)する。
先行待機形ポンプにおける水位の説明を図9に示す。
図9 ポンプ運転状態図
雨水排水ポンプ施設のポンプ設備から発生する騒音は機器の運転音が空気中を伝わる空気伝搬音と,機器の運転に伴う振動が機器の基礎や建屋の床を介し,建屋の壁面に伝搬して2次的に発生する固体伝搬音がある。空気伝搬音は建物での遮音や吸音で対策できるが,固体伝搬音の対策としては主要因である機械の振動を低減もしくは防振することが効果的である。
機器振動の主要因であるディーゼルエンジンは,防振装置を設置して対策することが一般的になってきているが,減速機の防振は実施例が少ない。減速機は動力を伝達するため入力軸側にエンジン,出力軸側にポンプが接続されているので,防振が難しいことが理由である。さらに,先行待機形ポンプは気中運転や排水開始から気水混合,通常排水,エアロックと運転状態が大きく変化し,減速機が受ける負荷状態も変化する。そのため,減速機防振装置の設計においては,減速機の歯車がかみ合うときに発生するかみ合い周波数の防振設計のほか,その周波数よりも低い振動周波数成分(ポンプ回転,脈動,エンジン回転など)との共振回避,負荷による架台変位及び地震時の揺れに対するストッパー類の設置などの配慮が必要であることも設計を困難にしている一因である。
本設備では騒音規制値を厳守するために,ディーゼルエンジンだけではなく減速機架台にも防振装置を設置した(図10,図11)。
図10 エンジン,減速機据付図
図11 減速機架台防振装置模型(3Dプリンター模型)
1)防振装置の構造
防振装置は,減速機架台の上下2枚のソールプレート(台板)の間に防振材を配置した構造となっている(図12)。
図12 防振装置構造
防振材には,幅広い荷重条件に適用が可能で汎用性があることから,丸形防振ゴムを採用し,荷重条件とばね定数からかみ合い周波数に対する振動伝達率を算定し選定している。
水平方向のストッパーは,負荷状態によって変化する架台変位を抑える役割があり,必要な防振性能を持ちながらストッパー形状に合わせた設計が可能な発泡ポリウレタン防振材を挟み込んだ構造となっている。
鉛直方向のストッパーは,地震時の転倒防止用に設置しているが,通しボルトとナットで構成しているため,施工時には防振材の上下にあるソールプレート1とソールプレート2の固定に利用することができる。これにより,架台の据付作業や減速機の芯出し作業を容易に行うことが可能となっている(特許取得済み*1)。
2)防振装置の効果
減速機防振装置の防振材の上部(減速機架台側のソールプレート1)と下部(躯体側のソールプレート2)の振動測定結果の一例を図13に示す。防振材上部の振動は,減速機のかみ合い周波数が他の周波数成分の振動よりも大きく卓越している。防振材下部の振動は,防振材上部の振動と比較してかみ合い周波数の卓越が約50dB低減され防振装置の効果が確認できる。
図13 防振装置の振動測定結果の一例
*1
特許第5670766号
令和2年度関東地方発明表彰「発明奨励賞」受賞
ポンプ場周辺の騒音規制値は夜間55dB(A)の準工業地域であることから,環境騒音予測ソフトウエアを使用しシミュレーションを行い確認した。
騒音検討は固体伝搬音も考慮して,対象機器はディーゼルエンジン,減速機及び自家発電機とした。ディーゼルエンジン及び減速機は,防振架台による固体伝搬音低減効果を加味した。
検討の結果,一部の敷地境界で騒音規制値55dBを超えていた。給気換気口,排気換気口からの騒音が要因であった。建築設備の換気口のルーバーの仕様を防音ルーバーへ変更し,再検討した結果,規制値以下となることが確認できた(図14)。
図14 騒音検討結果例
減速機架台は大型で重く,防振装置の据付方法は通常の減速機架台と異なるため,3Dプリンターで減速機架台防振装置の模型(図11)を作成して,減速機架台防振装置の施工前に据付及び組立作業の施工シミュレーションを実施した。作業員が施工手順,注意事項を具体的に理解することができ,安全作業,品質管理向上につながった。
雨水ポンプ,エンジンは大型であり,一体での輸送はできないので分割搬入とならざるを得ない。また,場内搬入道路が狭く,輸送上の制限や搬入口の大きさ,クレーンの吊り代から分割形状を検討した。
現場ではクレーンの場所,ポンプ,エンジンの搬入荷姿,搬入順序等,綿密な仮設計画を行い,適切な重機や資材を配置し搬入した。
屋上機器の設置にあたっては,建築設備の防水塗装が機器据付面も施工する設計となっており,対策が必要であった。アンカーボルトの施工が建築工事完了後では取付け時に防水塗膜を破ってしまうので建築工事の工程に合わせ,テンプレートを用いてアンカーボルトを設置し,防水塗膜を破らないようにした。
2022年10月から試運転を開始し,その後総合点検,総合試運転,完成検査を終了し運用を開始している。設備の製作,搬入,据付,保管,試運転について種々現地工事上の制約,課題に対しご協力いただいた協力会社各位,及び工事全体に対し多大なるご協力とご指導をいただいた日本下水道事業団と寝屋川市の関係各位に謝意を表する。
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